職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書(平成30年3月)

職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書(平成30年3月)

1.はじめに
 職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである。こうした問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる場合があり、職場のパワーハラスメントはなくしていかなければならない。

 また、企業にとっても、職場のパワーハラスメントは職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながるものである。

 こうした前提で、職場のパワーハラスメントの防止については、これまで、平成23年度の職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議(以下「円卓会議」という)により提言がされて以降、企業や労働組合等はそれぞれの立場から取り組むとともに、厚生労働省においては、周知広報や労使の具体的な取組の促進等のための企業向けのセミナーの開催やマニュアルの作成等を行う「働きやすい職場環境形成事業」を実施してきた。

 しかしながら、都道府県労働局における職場の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は年々増加しており、「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」(平成29年3月13日)も踏まえて策定された「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)においても、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」とされた。

 これらを踏まえ、本検討会は、平成29年5月から10回開催され、職場のパワーハラスメントの定義や実効性のある職場のパワーハラスメント防止対策について、検討を行い、その結果について以下のようにとりまとめを行うものである。

2.現状
⑴パワーハラスメントの現状

①パワーハラスメントの発生状況
 都道府県労働局における職場のいじめ・嫌がらせに関する相談(必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案も含む)は増加傾向にあり、平成24年度以降、全ての相談の中でトップとなった(平成28年度は70917 件と全体の相談件数の 22・8%)。また、嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことによる精神障害の労災認定件数も増加傾向にあり、平成28年度においては、74 件に上っている。

 厚生労働省が平成24年度に引き続き実施した「平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査」(以下「実態調査」という)の結果によれば、従業員向け相談窓口で従業員から相談されたテーマのうちパワーハラスメントが32・4%で最多。過去3年間に1件以上パワーハラスメントに該当する相談を受けたと回答した企業は36・3%、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32・5%である。

②パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組状況
 実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組を実施している企業は52・2%。従業員1000人以上の企業の実施率が88・4%である一方、従業員99人以下の企業の実施率が26%と、企業規模が小さくなると実施率は相対的に低くなるものの、平成24年度に行われた調査結果と比較すると全ての従業員規模の企業で割合が高くなっている。

 また、パワーハラスメントに限らず、従業員向け相談窓口を設置している企業は73・4%。企業規模が小さくなると設置率は相対的に低くなるものの、平成24年度に行われた調査結果と比較すると全ての従業員規模の企業で割合が高くなっている。

③職場のパワーハラスメント発生の要因
 職場のパワーハラスメントの発生の要因については、本検討会ではパワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示された。

 労働者個人の問題としては、パワーハラスメントの行為者については、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足、精神論偏重や完璧主義等の固定的な価値観、世代間ギャップ等の多様性への理解の欠如等があるとの意見が示された。また、パワーハラスメントの受け手となる労働者についても、社会的ルールやマナーを欠いた言動が一部には見られることもあるのではないかとの意見が示された。

 また、職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化やパワーハラスメントの行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスをかける業績偏重の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境等が要因であるとの意見が示された。特に、労働者同士のコミュニケーションについて、例えば、非常に困難な業務を与えたとしても、その際、当該業務をやり遂げることの意義について十分な説明をすればパワーハラスメントであると受け止められずにすむなど、パワーハラスメントの発生に関わる重要な要素であるという意見が多数示された。職場のパワーハラスメントを防止するためには、これらの要因を解消することも重要である。

④職場のパワハラの予防・解決に向けた取組の難しさ・課題
 実態調査の結果からは、パワーハラスメントを受けた従業員は、相談しても解決にならない又は相談することにより職務上不利益が生じると考え、「何もしない」という選択をしがちであるということが挙げられる。実際、具体的には、パワーハラスメントを受けたと感じた者が、「何もしなかった」と回答した割合は40・9%であり、その理由として「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」と回答した割合が高い。企業がパワーハラスメント対策を行う上で、従業員がこのような意識を持たないようにする取組も必要であると考えられる。

 また、企業規模が小さくなるにしたがい、相談窓口の設置率が低くなり、パワーハラスメントを受けた場合に被害者が家族や社外の友人等の企業とは関係のないところに相談する割合が高くなることから、パワーハラスメントの実態が相対的に把握されにくくなるということも考えられる。

 さらに、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組について、企業が実施していても、従業員に十分に認知されていないということもある。実態調査の結果によれば、例えば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組のうち相談窓口の設置については、企業が実施していると回答した割合は、82・9%であるにもかかわらず、従業員が把握していると回答した割合は45・5%であった。企業は従業員に対して取組の周知を行うことが求められる。本検討会においては、職場でパワーハラスメントが発生した場合の企業の対応の困難さについて、多くの意見が示された。具体的には、相談に来た被害者が一方的な主張をしており、被害者にも非があるのではないかと思われるケースや、調査の結果、被害を主張していた労働者が反対にパワーハラスメントの行為者であったことが発覚したケース、また、客観的にはパワーハラスメントではなかったにもかかわらず行為者とされて退職した者が、企業に責任を追及したケース等、様々な事案について示された。また、企業内の相談窓口に寄せられた相談のほとんどが、何らかの感情の動きをパワーハラスメントという言葉に置き換えた相談であり、本当にパワーハラスメントに該当すると思われる相談は全体の1割弱であったという意見も示された。こうした状況を含め、パワーハラスメントの被害が訴えられた際の事実関係の確認が難しく、被害者がメンタルヘルスに不調を来している場合や同僚等の第三者が行為者との関係性から萎縮してしまう場合等になかなか必要な証言が得られないことや、噂の流布等の場合には行為者を特定できないことが課題として示された。行為者と被害を訴える相談者の人間関係、地位、業務の状況等が千差万別であることから、パワーハラスメントに該当するか否かの判断が難しいとの意見も示された。

 さらに、紛争に発展し、第三者が関わる場合においても、行為者がパワーハラスメントを認めるケースが少なく、実態調査の結果でも労働者からの相談が最も多かった「精神的な攻撃」は、特にその傾向があるのではないかとの意見も示されており、こういった側面からも事実関係の確認の難しさがうかがえる。このように、パワーハラスメントについては、事実関係の確認が難しく、相談窓口の対応力が求められるところ、相談対応を担当する人材の育成が不十分であること、特に被害者がメンタルヘルスに不調を来している場合に対応することも想定される産業医や産業保健専門職等の産業保健スタッフについて、パワーハラスメントへの対応という枠組みにおけるその役割や育成方法が十分に整理されていないことも課題として示された。

 さらに、中小企業においては、相談窓口の担当者が行為者とも被害者とも面識がある場合等は被害者が相談しにくいと考えられることや、十分に人員を割けないために事実関係を適切に確認することが難しいと考えられることから、社外の相談窓口等第三者の関与が重要であるという意見も示された。

⑵職場のパワーハラスメント対策に取り組む意義

 職場のパワーハラスメントは、先に述べたとおり、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである。こうした問題を放置すれば、メンタルヘルス不調につながり得るほか、当該労働者が休職や退職に至ることもあり、最悪の場合、人命に関わることもある重大な問題である。また、パワーハラスメントを受けた労働者の生産性や意欲の低下を招くなど職場環境の悪化をもたらす。また、企業にとっても、職場全体の生産性や意欲の低下、企業イメージの悪化、人材確保の阻害要因となり得ることや、訴訟によって損害賠償責任を追及されることも考えられ、経営的にも大きな損失となる。

 職場のパワーハラスメント対策を講ずることは、コミュニケーションの円滑化や管理職のマネジメント能力の向上による職場環境の改善、労働者の生産性や意欲の向上、グローバル化への対応等に資するものである。職場においてパワーハラスメントの予防・解決に取り組むことの効果は、実態調査の結果からもうかがえる。具体的には、パワーハラスメントの予防・解決に取り組むことで、労働者がパワーハラスメントを受けたと感じることやパワーハラスメントにより心身への影響があったと感じることが相対的に少なくなることが分かっている。

 また、職場においてパワーハラスメントの予防・解決の取組が進むと、労働者は企業に対して、パワーハラスメントに関する相談をしやすくなる。実態調査の結果によれば、効果が高い取組として相談窓口の設置や従業員向けの研修が挙げられており、さらに、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組が複数実施されることにより、労働者が職場環境の改善などの効果をより感じやすくなることも分かった。

 さらに、パワーハラスメントを受けると、たとえその経験が一度であっても、怒りや不満、仕事に対する意欲の低下などの心身への影響が多く見られ、パワーハラスメントを受けた頻度が高くなるほど、不眠、休み、通院、服薬などのより深刻な心身への影響が大きくなる傾向がある。パワーハラスメントを発生させないことが何よりも重要だが、パワーハラスメントが発生してしまった場合も、早期の対応により心身への影響を最小限に抑えることが重要である。

 実態調査の結果からも、職場のパワーハラスメントの予防・解決に取り組むことは企業にとっても意義があることが分かる。例えば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組により、職場環境が変わる、コミュニケーションが活性化するほか、「休職者・離職者の減少」、「メンタルヘルス不調者の減少」などの付随効果も見られる。

 また、労働者が企業に対して、相談をしやすくなり、企業がパワーハラスメントの実態を把握しやすくなることから、企業の信頼を揺るがすような問題に発展することを未然に防ぐことができることもあると考えられる。

 なお、実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組を考えていない企業は、取り組んでいる企業に比べて、「職場の生産性が低下する」、「企業イメージが悪化する」などの認識が特に低く、パワーハラスメントが企業にとって大きな損失をもたらすという認識が相対的に低いと言える。
このため、パワーハラスメントの予防・解決に取り組むことは労働者にとっても企業にとっても意義や効果があるということについて、労働者や企業に広く理解を求め、対策を促していくことが非常に重要である。

⑶現在の対応

① 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議の提言に基づく周知・啓発円卓会議の提言と、円卓会議の下に設置されたワーキング・グループの報告においては、職場のパワーハラスメントの概念、行為類型及び労使の取組について次のとおり整理した上で、企業や労働組合は、当該ワーキング・グループの報告が示した取組例を参考に取り組んでいくとともに、組織の取組が形だけのものにならないよう、職場の一人ひとりにも、それぞれの立場から取り組むことを促している。

【職場のパワーハラスメントの概念】職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※1)を背景に、業務の適正な範囲(※2)を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
 ※1 上司から部下に行われるものだけでなく先輩・後輩間や同僚間など様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。
 ※2 個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントには当たらない。

【職場のパワーハラスメントの6つの行為類型】ワーキング・グループの報告では、「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為すべてを網羅するものではなく、これ以外の行為は問題ないということではない」と留保した上で、職場のパワーハラスメントの行為類型として以下の6つの類型を挙げている。
 ⅰ暴行・傷害(身体的な攻撃)
 ⅱ脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
 ⅲ隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
 ⅳ業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、
  仕事の妨害(過大な要求)
 ⅴ業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い
  仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
 ⅵ私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 あわせて、ⅰについては業務の遂行に関係するものであっても「業務の適正な範囲」に含まれるとすることはできないこと、ⅱとⅲについては業務の遂行に必要な行為であるとは通常想定できないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるものと考えられること、ⅳからⅵまでについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられるとされている。その上で、こうした行為について何が「業務の適正な範囲を超える」かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましいとされている。

【予防・解決に向けた労使の7つの取組】
ワーキング・グループの報告では、考えられる労使の取組について既に対策に取り組んでいる企業・労働組合の主な取組の例を7つ紹介している。

○職場のパワーハラスメントを予防するために
ⅰトップのメッセージ、ⅱ ルールを決める、 ⅲ実態を把握する、 ⅳ教育する、ⅴ周知する
○職場のパワーハラスメントを解決するために
ⅵ相談や解決の場を設置する、 ⅶ再発を防止する

 これまで、厚生労働省においては、これを踏まえた各企業等における予防のための措置(トップのメッセージ発信、教育等)や解決のための措置(相談・解決の場の設置、再発防止等)を促すため、啓発用ポータルサイト「あかるい職場応援団」(https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/)を運営し、動画・裁判事例・企業事例等コンテンツ充実を図るとともに、スマートフォン用サイトやツイッターアカウントを開設する等の周知に取り組んでいる。また、企業の取組の好事例を収集した「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」や企業の中でパワーハラスメント対策に取り組む参考となる「パワーハラスメント対策導入マニュアル」を作成し、周知徹底を図っている。さらに、企業の労務管理担当者向けのパワーハラスメント対策の研修や労務管理やメンタルヘルス対策の専門家を対象とした、企業にパワーハラスメント対策の取組を指導できる人材を養成するための研修を実施している。

②現行制度において適用され得る措置
 こうした取組のほか、現行制度において職場のパワーハラスメント等に適用され得る措置、対策等として、行為者に対する刑事上の制裁としては、その行為が刑法(明治40年法律第45号)に基づく傷害罪等の犯罪の構成要件を満たした場合はそれらの犯罪に応じた処罰が科され得ることとなる。また、パワーハラスメントの行為者や事業主の民事責任としては、パワーハラスメントが民法(明治29年法律第89号)に基づく不法行為(同法第709条)に該当することとされた場合には、行為者については不法行為による損害賠償責任を、事業主については労働契約法(平成19年法律第128号)上の安全配慮義務(同法第5条)違反による債務不履行責任(民法第415条)又は使用者責任(同法第715条)による損害賠償責任を負うこととなる。

 さらに、パワーハラスメントに関する紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号。以下「個別労働紛争解決促進法」という)に基づく労働者、事業主等に対する情報提供等(同法第3条)、都道府県労働局長による助言・指導(同法第4条)及び紛争調整委員会によるあっせん(同法第5条)からなる個別労働紛争解決制度のほか、地方公共団体、民間団体及び裁判所における紛争解決手続により解決が図られることとなる。

 パワーハラスメントを含め、職場におけるいじめ・嫌がらせによる心理的負荷により発病した精神障害に関しては、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく保険給付(同法第2条の2)の対象となる場合がある。

⑷ 類似の制度等

 職場のパワーハラスメント以外で、職場における言動により労働者の就業環境の悪化等が見られる場合への対応として、セクシュアルハラスメント等については法律に基づき事業主に対する雇用管理上の措置義務が講じられている。

①セクシュアルハラスメントに関する制度
 セクシュアルハラスメントについては、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」という)により、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)や当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(環境型セクシュアルハラスメント)のないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けている。その上で、次のような措置義務の具体的な内容について、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第 615号。以下「セクハラ指針」という。)で規定している。

ⅰ 事業主の方針等の明確化、周知・啓発
 ・ハラスメントの内容・方針の明確化、周知・啓発
 ・行為者への対処方針・対処内容の就業規則等への規定、
  周知・啓発
ⅱ 相談等に適切に対応するために必要な体制の整備
 ・相談窓口の設置
 ・相談窓口の担当者による適切な相談対応の確保
 ・他のハラスメントと一体的に対応できる体制の整備
  (実施することが望ましい措置)
ⅲ 事後の迅速・適切な対応
 ・事実関係の迅速・正確な確認
 ・被害者に対する配慮のための措置の適正な実施
 ・行為者に対する措置の適正な実施
 ・再発防止に向けた措置の実施
ⅳ ⅰからⅲまでの措置と併せて講ずべき措置
 ・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために
  必要な措置、周知
 ・ハラスメントの相談・事実確認への協力等を理由とした
  不利益取扱いの禁止、周知・啓発

②妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに関する制度
 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、均等法及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)により、妊娠又は出産に関する事由に関する言動や、育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する制度等の利用に関する言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けている。その上で、次のような措置義務の具体的な内容については、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成28年厚生労働省告示第312号)及び「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)で規定している。

ⅰ 事業主の方針等の明確化、周知・啓発
 ・ハラスメントの内容・方針の明確化、周知・啓発
 ・行為者への対処方針・対処内容の就業規則等への規定、
  周知・啓発
ⅱ 相談等に適切に対応するために必要な体制の整備
 ・相談窓口の設置
 ・相談窓口の担当者による適切な相談対応の確保
 ・他のハラスメントと一体的に対応できる体制の整備
  (実施することが望ましい措置)
ⅲ 事後の迅速・適切な対応
 ・事実関係の迅速・正確な確認
 ・被害者に対する配慮のための措置の適正な実施
 ・行為者に対する措置の適正な実施
 ・再発防止に向けた措置の実施
ⅳ ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
 ・業務体制の整備等
 ・被害者になり得る労働者に対する周知・啓発
  (実施することが望ましい措置)
ⅴ ⅰからⅳまでの措置と併せて講ずべき措置
 ・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために
  必要な措置、周知
 ・ハラスメントの相談・事実確認への協力等を理由とした
  不利益取扱いの禁止、周知・啓発

⑸ 職場のパワーハラスメントに当たる行為の防止に関する
諸外国の取組
 職場のパワーハラスメントに当たる行為の防止について、諸外国の対応は様々である。例えば、ドイツにおいては、職場のパワーハラスメントに当たる行為に関する特別の法律がない。また、イギリスにおいては、労働分野に特化した特別の法律はないものの、差別禁止法、ハラスメント保護法、コモン・ロー等により被害者が職場のパワーハラスメントに当たる行為について不服申立を行うことを可能としている。他方で、フランス、スウェーデン、ベルギーにおいては、以下のように、職場のパワーハラスメントに当たる行為の防止について使用者に何らかの措置義務を課す形で制度が整備されている。

 ⅰフランスにおいては、労働法典により、使用者に対して、モラルハラスメ ント(労働者の権利及び尊厳を侵害し身体的若しくは精神的健康を損なわし め、又はその職業的将来を危うくさせるおそれのある、労働条件の毀損を目的とし、又はそのような結果をもたらす精神的ハラスメントの反復した行為)の防止策を講じる義務を課している。

 ⅱスウェーデンにおいては、雇用環境規則により、使用者に対して、職場いじめ(個別の被用者に対し、攻撃的な方法により直接的に、繰り返し行われる、非難されるべき、又は明らかに敵対的な行為であり、それらの被用者を職場の共同体から排除する結果を生じさせる行為)を予防するための活動を計画し、組織する義務を課している。

 ⅲベルギーにおいては、労働における暴力、モラルハラスメント又はセクシュアルハラスメントに対する保護に関する法律により、使用者に対して、労働におけるモラルハラスメント(企業や施設の外部あるいは内部において、とりわけ行動、言辞、脅迫、行為、身振り及び一方的な書き付けによって表現され、労働の遂行の際に、労働者の人格、尊厳あるいは肉体的あるいは心理的な統合性を損なうことを目的とするあるいはそのような効果をもたらし、その雇用を危険にさらし若しくは威嚇的な、敵対的な、品位を貶める、屈辱的なあるいは攻撃的な環境をもたらすあらゆる性質の、一定の時間生じている、類似のあるいは種々の濫用的な複数の行為)の防止のための適切な職場配置等の措置義務を課している。

3.職場のパワーハラスメントの概念
⑴ 総論
 職場のパワーハラスメントの概念について、本検討会においては、社会機運 の醸成を図るという目的であればパワーハラスメントについて広範囲に定義 することが可能である一方、法的強制力が伴うような措置を講ずるという目的 であれば限定的に定義せざるを得ない等、防止対策の内容に応じて定義も異な ってくるという意見が多く示された。また、先に述べたように、どのような行 為がパワーハラスメントに当たるかの判断が難しく、従業員にパワーハラスメ ントの被害を訴えられた場合の事実関係の認定が難しいため、企業の担当者が 対応に苦慮しているという意見も多く示された。さらに、業務上合理的な理由 のあるセクシュアルハラスメントはあり得ないが、パワーハラスメントと言わ れる行為の中には、業務上合理的な理由のあるものがあり得るというところに、パワーハラスメント特有の困難さがあるという意見も示された。

 また、外国で例のあるように、防止対象とする行為の範囲を可能な限り広く設定するという意見も示されたが、ある程度対象が限定的に定まらなければ、企業における事実関係の確認や対策を進めることが難しいという意見や、パワーハラスメントに該当すると思えないような訴えや相談が増えるのではないかという懸念も示された。

 このため、企業の現場において、労使等関係者により、実効性のあるパワーハラスメントの予防等の対策が進むようにするためには、まずは、優先的に防止すべき具体的な行為を念頭に置いて、対象を定めることが望ましいと考えられる。

 具体的な対象を検討するための参考となる円卓会議のワーキング・グループ で整理された職場のパワーハラスメントの概念は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範 囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と 示されており、これに当てはまる典型例として6つの行為類型が示されている。現状ではこれらの概念や行為類型を念頭に取り組んでいる企業も多いことか ら、本検討会においては、この概念や行為類型を踏まえて、実効性のある対策 を取るためにはどうすれば良いかを検討すべきという意見が多く示された。こ のため、円卓会議のワーキング・グループで整理された概念を参考にしつつ、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理することとした。さらに、それぞれの要素の具体的な内容については、⑵のとおり整理を行った。

【職場のパワーハラスメントの要素】
① 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
② 業務の適正な範囲を超えて行われること
③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、
 又は就業環境を害すること

⑵ 職場のパワーハラスメントの要素の具体的内容

①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
 円卓会議のワーキング・グループで整理された概念では、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に」という要素が示されているが、これは、職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識など様々な優位性が含まれる趣旨とされ、結果、上司から部下という職位の上位者から行われるものに限らず、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対して行われるものも含まれるとしている。

 また、実態調査の結果によれば、パワーハラスメントについては、上司から部下に対する行為の割合が73・5%と圧倒的に高く、次いで、先輩からの行為(17・1%)や、正社員から正社員以外に対する行為(12・4%)が高くなっているなど、職場における職責や経験年数が勝る者等からの行為を見聞きした割合が高くなっている。また、割合としては低いが、部下や同僚からの行為を見聞きした例が確認された。

 さらに、いじめ、嫌がらせに関する裁判例においては、上司、先輩等からの行為についての訴えが多いが、多数の同僚等から受けた行為に関する事案も確認された。

 検討会においては、こうした職場の状況に対して有効な対策を検討するためには、あらゆる人間関係のトラブルを対象に考えるのではなく、職位の上下など客観的に明確な優位性を背景にした職場の問題に焦点を当てることが有効であるとの意見が示された。一方で、その優位性の範囲については、職位上の上下関係のみにとどまらず、経験や知識など職場の人間関係において優位に立つことができる様々な要素が含まれることが必要であるとの意見が多く示された。

 以上を踏まえれば、パワーハラスメントに該当するか否かを判断するための一つ目の要素については、「当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること」を意味する「優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること」とすることが考えられる。また、この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。

 ・職務上の地位が上位の者による行為
 ・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必
  要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得な
  ければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
 ・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒
  絶することが困難であるもの

②業務の適正な範囲を超えて行われること
 円卓会議のワーキング・グループで整理された概念では、「業務の適正な範囲を超えて」という要素が示されているが、これは、職場のパワーハラスメントについては、「業務上の指導との線引きが難しい」との意見もあることから、労使が予防・解決に取り組むべき行為を明らかにするため整理したものである。また、個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントには当たらないと整理している。

 職場のパワーハラスメントには、業務方針をめぐる意見衝突や指導監督・業務命令との間に連続性がある場合も多いと解されるために最終的には総合的判断にならざるをえない部分があるものの、「業務の適正な範囲」に関しては、特に、企業の現場で労使等が判断を行う場合に基準になり得る要素を示すことが重要である。

 いじめ、嫌がらせに関する裁判例においては、明らかに業務との関連が認められない暴力等の身体的な攻撃や、言動の内容、目的、方法、程度等から人格権の否定となるような精神的な攻撃については、不法行為に該当するとされているものが多い。また、問題となった指導や注意が、業務内容や問題発生に至るまでの経緯等に照らして社会通念上許容される範囲を超えているかどうかを評価することで、違法性を判断している例がある。さらに、加害者の動機・目的、受け手との関係、属性、加害者の数、行為の継続性・回数などを考慮して、総合的に違法性の判断を行っている例がある。

 以上も踏まえつつ、二つ目の要素について「社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること」を意味する「業務の適正な範囲を超えて行われること」とすることが考えられる。また、この要素に当てはまる主な例として次のような行為が考えられる。
 ・業務上明らかに必要性のない行為
 ・業務の目的を大きく逸脱した行為
 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為
 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為

 ただし、業種、業態、職務、当該事案に至る経緯や状況等によって業務の適正な範囲が異なるとの意見が示された。具体的には、業務上の指導や注意について、職務内容が危険を伴う業務であるか通常のオフィスワークであるか、また注意の対象となる労働者が新人かベテランかによって業務の適正な範囲に含まれるかどうかが変わることが考えられることから、労使が判断するに当たっては、更なる事例の収集が必要ではないかとの意見が示された。

③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は
 就業環境を害すること
 円卓会議のワーキング・グループで整理された概念には、「精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる」という要素が示されている。また、いじめ、嫌がらせに関する裁判例においては、パワーハラスメントの概念に関して「有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じる」ことを要素の一つとして挙げている例がある。

 また、「身体的若しくは精神的な苦痛を与える又は就業環境を悪化させる」の判断に当たっては、一定の客観性が必要であると考えられる。本検討会においては、被害者と称する人が加害者になっているケースもあり、一律に判断することが難しいという意見や、本人の意に沿わないことが全てハラスメントに当たるようなことになれば、上司が萎縮して通常の指導を躊躇することや無用の紛争が生じるおそれがあるという意見が示された。また、いじめ、嫌がらせに関する裁判例においても、「社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超え」ることをパワーハラスメントの要素の一つとして挙げている例がある。

 さらに、現在のセクシュアルハラスメント対策においては、環境型セクシュアルハラスメントについては、セクハラ指針において、「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」であると示している。また、同法に関する通達「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10 月11日雇児発1011002号)において、このことは、就業環境が害されることの内容であり、単に性的言動のみでは就業環境が害されたことにはならず、一定の客観的要件が必要であることを示している。

 さらに、同通達においては、「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境が害される」の判断に当たっては、一定の客観性が必要であると示している。具体的には、セクシュアルハラスメントが、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であると示している。

 以上を踏まえ、三つ目の要素について、「当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」を意味する「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること」とすることが考えられる。また、この時の「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」又は「就業環境を害する」の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが考えられる。この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・暴力により傷害を負わせる行為
 ・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
 ・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等によ
  り、恐怖を感じさせる行為
 ・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、
  就業意欲を低下させる行為

 ただし、「平均的な労働者の感じ方」について業種、業態等によって異なることが考えられることから、まだ共通認識が十分に形成されているとはいえない状況であり、更なる事例の収集が必要ではないかとの意見が示された。

⑶ 職場のパワーハラスメントに該当する行為例

 円卓会議のワーキング・グループの報告では、「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてを網羅するものではなく、これ以外の行為は問題ないということではない」と留保した上で、職場のパワーハラスメントの行為類型として、以下の6つの行為類型が示されている。

 本検討会においては、既にパワーハラスメント対策に取り組んでいる企業のこれまでの取組が意味のないものにならないようにするため、これらの6つの行為類型については大きく変えない方が良いという意見が示され、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられなかった。一方で、今回新たに整理した職場のパワーハラスメントの①から③の要素と、これまでの6つの行為類型の関係性を明確にすべきとの意見も示された。

 また、裁判例を見ても、パワーハラスメントの態様は多様であり、その判断に当たっては、個別の状況を総合的に勘案し、総合的な判断をする必要がある。一方で、企業の現場において不要な懸念や混乱が生じることなくパワーハラスメントの予防対策が進むようにするためには、パワーハラスメントに当たるものとそうでないものの典型例を具体的に示すべきとの意見が多数示された。

 これらの議論を踏まえ、本検討会においては、6つ行為類型のうち、先に①から③までとして示した職場のパワーハラスメントの要素を満たすものは、職 場のパワーハラスメントに当たる行為として整理することとするのはどうか と考える。裏返せば、行為の態様が、一見6つの行為類型に該当しそうな行為 であっても、①から③までの要素のいずれかを欠く場合であれば、職場のパワ ーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要がある。ただし、このような場合であっても、何らの対応も必要ないということではなく、事案に応じて適切な対応が講じられることが職場環境の改善に必要なことがあるとの意見も示された。裁判例等を参考に、6つ行為類型のうち、①から③までに示した要素を満た すと考えられるものとそうでないものの例は、以下のようになると考えられる。

ⅰ 暴行・傷害(身体的な攻撃)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩
  (①、②に該当しないため)

ⅱ 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・
  行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に
  対して上司が強く注意をする(②、③に該当しないため)

ⅲ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間に
  わたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の
  教育を実施する(②に該当しないため)

ⅳ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う
  過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を
  任せる(②に該当しないため)

ⅴ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可
  能な業務を行わせる
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な
  業務に就かせる(②に該当しないため)

ⅵ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
《①から③までの要素を満たすと考えられる例》
 ・思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内
  外で継続的に監視したり、他の社員接触しないよう働きか
  けたり、私物の写真撮影をしたりする
《①から③までの要素を満たさないと考えられる例》
 ・社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等について
  ヒアリングを行う(②、③に該当しないため)

4.職場のパワーハラスメント防止対策の強化
⑴総論
 職場のパワーハラスメントの防止対策については現在、円卓会議の提言を周知・情報提供することにより企業等における自主的な取組を促しているが、現状よりも実効性の高い取組を進めるため本検討会においては次の①から⑤のような規定の創設や施策の実施が示された。それぞれの具体的内容は⑵に示す。

 ①行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)、②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)、③事業主に対する措置義務、④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示、⑤社会機運の醸成。

 また、これらの取組について、理念的には並立し得るという意見や複合的に取組み得るものがあるという意見が示された。特に、③の取組を実施すれば④⑤の取組を複合的に実施し得るという意見や、④の取組を実施すれば⑤の取組を複合的に実施し得るという意見が示された。更に、これらの選択肢も含めセクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントも含めた総合的ハラスメント防止法を創設することも将来的には検討に値するのではないかとの意見も示された。

⑵ 対応策の選択肢

①行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)
 パワーハラスメントが違法であることを法律上で明確化し、これを行った者に対して、刑事罰による制裁や、被害者による加害者に対する損害賠償請求の対象とすることが対応策案として示された。この対応策案については、パワーハラスメントの発生が強力に抑制されることやパワーハラスメントが不法行為として損害賠償請求の対象になることが明確になることで、民事上の救済や事業主による防止対策が進むというメリットが指摘された。しかしながら、パワーハラスメントは業務上の適正な指導との境界線が明確ではないため構成要件の明確化が難しく、構成要件を明確にしようとすると制裁の対象となる行為の範囲が限定されてしまうことや行為者の制裁だけでは職場風土の改善など根本的な解決にはつながらない可能性があること等のデメリットが指摘された。また、暴行等の悪質な行為については、既存の刑法違反に該当する可能性が高く、あえてパワーハラスメントと定義して対応することへの疑問も呈された。一方、中長期的には検討に値するという意見も示され た。

 以上のとおり、この対応策案については、メリットに比してデメリットが大きいことから、本検討会においては、足下の対策としてすぐに実現すべきという意見は示されなかった。

②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)
 事業主は職場のパワーハラスメントを防止するよう配慮する旨を法律に規定し、その不作為が民事訴訟、労働審判の対象になることを明確化することで、パワーハラスメントを受けた者の救済を図ることが対応策案として示された。この対応策案については、パワーハラスメントが民事上の不法行為に当たり得ることをより明確にできることが期待できることや民事訴訟や労働審判による損害賠償請求などの民事上の救済手段の活用が促進されることがメリットとして示された。また、パワーハラスメントの違法性を明確にできることにより、企業風土そのものが改善されることも期待できるため、将来的にはこの対応策案を目指すべきという意見も示された。

 しかしながら、最高裁判例などにより定着した規範がない中で、法律要件を明確化し、労使等の関係者に理解が得られる規定を設けることは困難であること、また、仮に規定を設けた場合であっても、訴訟には時間と費用を要すること、既に民法上の不法行為等による救済が行われる例がある中で、防止対策としての効果、実効性が不明瞭であるというデメリットについても指摘された。

③事業主に対する措置義務
 セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策の例を参考に、事業主に対し、職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、違反があった場合の行政機関による指導等について法律に規定することで、個々の職場において職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図ることが対応策案として示された(この場合、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの例に倣えば、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、指針において明確化することとなる)。

 この対応策案については、職場風土の改善も含め、防止対策が促進されることや、講ずべき措置とは別に、規定の仕方を工夫することにより、先進的な取組や特定の業態向けの取組も含めた幅広い取組を推奨できるのではないかとの意見や、違反があった場合に行政が指導できること、また、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて既に課されている措置義務と複合的・総合的に取り組み得ることがメリットとして挙げられる一方、先に示した①や②の対応策案に比べると行為者に対する防止のための効果が弱いことがデメリットとして意見された。

 これらを踏まえれば、①や②の対応策案に比べると現実的であり、セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策の例にかんがみても、一定程度の効果が期待できるということや法律に基づく義務となった上で指針により実施すべき措置が示されることで中小企業 を含めた事業主による取組が進むことが考えられることから、この対応策案 を支持する意見が多く示された。また、パワーハラスメントによって実際に メンタルヘルスに深刻な不調を来す者やその結果自ら命を絶つ者もいる中で、速やかにこの対策を取るべきであるという意見もあった。さらに、もし仮に、 この対応策案を取ることとした場合には、労使関係者を交えた検討の場で指 針の具体的内容について十分に論議をし、できるだけ現場に混乱のないよう な形で実効的かつ円滑に取り組みを進めていくことが必要であるという意見 も示された。

 一方で、業種や職種により「平均的な労働者」の感じ方は異なり、どのような場合がパワーハラスメントに該当するのかの具体例の集積が不十分であり、必ずしもパワーハラスメントに関する共通認識が形成されているとは言えない状況であることや、中小企業における取組が難しいことから、この対応策案を取ることに対する反対意見も示された。

④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 事業主に対し、職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけることで、個々の職場において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図ることが対応策案として示された。

 この対応策案については、職場風土の改善も含め、実情を踏まえた自主的な防止対策が推進されることや、③の場合と比べてより幅広く先進的な取組や特定の業態向けの取組も含めた幅広い取組を推奨できること、また、幅広い取組の中から効果の高い取組を収集・啓発することで、現場の実質的な対応が進むこと、さらに、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて既に課されている措置義務と複合的・総合的に取り組み得ることがメリットとして示された。また、まずこの案で示すようなガイドラインを策定・周知し、将来的に、事業主に定着してきたところで③の法定化を目指すべきという意見も示された。

 一方、行為者に対する制裁としての効力が弱く、行政等による強制力も弱いことから取組が進まない懸念があることがデメリットとして指摘された。これらを踏まえれば、どのような対応を進めるにせよ、職場のパワーハラ スメントの予防等のために、少なくとも企業の現場において具体的に取り組むにあたり参照すべき事項をガイドラインのような形でとりまとめることの重要性そのものに反対する指摘は示されなかった。

⑤社会機運の醸成
 職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調や人命にも関わる重大な問題であることや、職場全体の生産性や意欲の低下やグローバル人材確保の阻害となりかねず経営的にも大きな損失であることについて、広く事業主に理解してもらい、防止対策に対する社会全体の機運の醸成を図ることが対応策案として示された。また、そもそも暴行等の悪質な行為は刑法違反となることやパワーハラス メントが民法上の不法行為になり得ることを周知すべきとの意見も示された。さらに、実態を引き続き把握し、職場のパワーハラスメント防止対策の効果を分析すべきとの意見も示された。この対応策案については、先に示した①から④までのいずれの対策を実施することとした場合も、それらと複合的・総合的に取り組み得ることや、既にある程度取組が行われていることから、事業主も取り組みやすいことがメリットとして指摘された。一方、現行の対策の内容に比べてパワーハラスメント防止対策を強化したということにならないこと等がデメリットとして指摘された。

 これらを踏まえて、この対応策案は独立して取り組むのではなく他の対応策と組み合わせて取り組むべきであるという意見が示された。

⑶事業主が講ずる対応策として考えられるもの

 ⑵の③や④の対応策案のように事業主が一定の措置を講じていく場合に、職場のパワーハラスメントの防止のために事業主が講じる対応として考えられる具体的な内容については、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が雇用管理上講ずべき措置を参考にすべきとの意見が示された。

 実際、企業においては、職場のパワーハラスメントも含めた総合的なハラス メント対策として、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が雇用管理上講ずべき措置と同様 の取組を行っている例もある。一方で、職場のパワーハラスメントの特色を踏 まえた独自の取組を行っている例も見られる。これらを踏まえると、事業主が 講ずる対応策として考えられる事項を網羅した場合、以下のものが考えられる。また、企業におけるこうした事項についての取組が実効性を伴って広まるためには、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するための措置と一体的に取り組むことができるようにすることが重要であるとの意見が示された。

①事業主の方針等の明確化、周知・啓発
 事業主は、職場のパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、例えば次の取組を行うことが考えられる。なお、周知・啓発をするに当たっては、職場のパワーハラスメントを防止する効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。このため、2の⑴の③も参照の上、企業ごとにパワーハラスメントの発生の状況等を分析することが必要であると考えられる。その際、労働者にアンケート調査やヒアリングを実施すること等により職場のパワーハラスメントの実態を把握することが効果的と考えられるとの意見が示された。

ⅰ パワーハラスメントの内容・方針の明確化、周知・啓発
 職場のパワーハラスメントの内容、パワーハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する。具体的には、社内報、パンフレット、社内ホームページ等にパワーハラ スメントの内容、パワーハラスメントの背景やパワーハラスメントがあってはならない旨の方針を記載し、配布することや周知・啓発のための研修、講習等を実施すること等が想定される。

 ⅱ行為者への対処方針・対処内容の就業規則等への規定、周知・啓発
 職場のパワーハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する。具体的には、就業規則等において、パワーハラスメントを行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発することやパワーハラスメントを行った者は、現行の就業規則等において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、労働者に周知・啓発すること等が想定される。

②相談等に適切に対応するために必要な体制の整備
 事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、例えば次の取組を行うことが考えられる。

ⅰ相談窓口の設置
 労働者からの相談への対応窓口(以下「相談窓口」という)をあらかじめ定める。具体的には、相談に対応する担当者をあらかじめ定めることや相談に対応するための制度を設けること、外部の機関に相談への対応を委託すること等が想定される。

ⅱ相談窓口の担当者による適切な相談対応の確保
 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。また、相談窓口においては、職場のパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、パワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにする。具体的には、相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすることや相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること等が想定される。また、労働安全衛生法に基づく医師による面接指導や健康相談の中で、労働者からパワーハラスメントに関する相談がなされることも想定される。そのため、事業主は相談窓口の担当者と産業医や産業保健専門職等の産業保健スタッフの役割を明らかにするとともに、相談窓口や人事部門、産 業保健スタッフなど関係する内部組織が連携して、職場環境の実態把握や 相談対応を行うことが想定される。さらに、産業保健スタッフに、相談対応する際に留意すべきこと等を周知することも想定される。

ⅲ他のハラスメントと一体的に対応できる体制の整備
 職場のパワーハラスメントは、セクシュアルハラスメント、妊娠、出産・育児休業等に関するハラスメント等の他のハラスメントと複合的に生じることも想定されることから、セクシュアルハラスメント等の相談窓口と一体的に、パワーハラスメントの相談窓口を設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備する。
 具体的には、相談窓口で受け付けることのできる相談として、パワーハラスメントのみならず、セクシュアルハラスメント等も明示することやパワーハラスメントの相談窓口がセクシュアルハラスメント等の相談窓口を兼ねること等が想定される。

③ 事後の迅速・適切な対応
 事業主は、職場のパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、例えば次の取組を行うことが考えられる。

ⅰ 事実関係の迅速・正確な確認
 相談の申出があった場合には、その事案に関する事実関係を迅速かつ正確に確認する。具体的には、相談窓口の担当者、人事部門、専門の委員会等が、相談者や行為者の双方から事実関係を確認することや、相談者と行為者との間で 事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできない場合 には、第三者からも事実関係を聴取する等の取組が想定される。

ⅱ 被害者に対する配慮のための対応の適正な実施
 ⅰにより、職場のパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための取組を適正に行う。具体的には、事案の内容や状況に応じた、被害者と行為者の間の関係改善に向けた援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、被害者に対する中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置の実施等が想定される。

ⅲ 行為者に対する対応の適正な実施
 ⅰにより、職場のパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う。具体的には、就業規則等におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な処分等の措置を講ずるとともに、事案の内容や状況に応じ、ⅱと同様、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者やその関係者に対する報復を目的とした行為をしてはならない旨の行為者への伝達、行為者の意識や行動の改善、行為者に対する中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置等を行為者の人権にも配慮しつつ実施することが想定される。

ⅳ 再発防止に向けた対応の実施
 改めて職場のパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずる。具体的には、パワーハラスメントがあってはならない旨の方針やパワーハラスメントの行為者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布することや意識啓発のための研修、講習等を改めて実施すること等が想定される。

④ ①から③までの対応と併せて行う対応
 事業主は、①から③までの取組を行う際には、併せて次の取組を行うことが考えられる。

ⅰ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な対応、周知
 職場のパワーハラスメントに関する相談者・行為者等の情報は各々のプライバシーに属するものを含み得ることから、相談への対応やパワーハラスメントに関する事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な取組を行うとともに、その旨を労働者に対して周知する。

 具体的には、相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに基づき対応するものとすること、相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと、相談窓口では相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な取組を行っていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等に掲載し、配布すること等が想定される。

ⅱ パワーハラスメントの相談・事実確認への協力等を理由とした不利益取扱いの禁止、周知・啓発
 労働者が職場のパワーハラスメントに関し相談をしたことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発する。

 具体的には、就業規則等において、労働者がパワーハラスメントに関し相談をしたことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として、その労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすることや社内報、パンフレット、社内ホームページ等に同様の内容を記載し、労働者に配布すること等が想定される。

⑷パワーハラスメント発生要因解消のため望ましい取組の例

 職場のパワーハラスメントの発生の要因として、パワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものそれぞれが示された。これらは、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは異なる、パワーハラスメント特有の問題であり、実効性のあるパワーハラスメント対策を実施するためには、これらに留意した取組が講じられることも重要である。

 しかしながら、これらのパワーハラスメントの発生の要因となる問題の解消については、パワーハラスメント防止のためだけに行われるべきものではなく、また、個別の企業の事情によって有効な方法が様々であると考えられるが、次のような事項が考えられる。
①コミュニケーション活性化やその円滑化のための研修等実施

 職場のパワーハラスメントの発生の要因のうち、職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化がパワーハラスメント発生の要因になっているという意見も示されたことから、日常的な会話を心がけることや定期的に面談やミーティングを行うことにより、風通しの良い職場環境や労働者同士の信頼関係を築き、コミュニケーションの活性化を図ることも重要である。

 また、パワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の要因としては、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足等があることが指摘されたことから、感情をコントロールする手法についての研修、コミュニケーションスキルアップについての研修、マネジメントや指導についての研修等の実施や資料の配布等により、労働者の感情をコントロールする能力、コミュニケーションを円滑に進める能力等の向上を図ることも有効であると考えられる。

②適正な業務目標の設定、長時間労働の是正等の職場環境改善
 職場のパワーハラスメントの発生の要因については業績偏重の評価制度や長時間労働等の、パワーハラスメントの行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスがかかる職場環境もあることが指摘された。このため、職場のパワーハラスメントの予防のためには、適正な業務目標の設定や業績偏重の評価制度の見直し、適正な業務体制の整備や業務の効率化による長時間労働の是正等を通じて、労働者に肉体的・精神的負荷を強いる職場環境や組織風土を改善することも有効であると考えられる。

⑸ 中小企業に対する支援

 実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組の実施率は企業規模が小さくなると相対的に低くなることが分かった。また、本検討会においても、中小企業においては、相談等に適切に対応する ための必要な体制の十分な整備が困難であることや、そうした限られた体制の中で業務内容と関係する事案に対応する場合に、パワーハラスメントであるか否かをどう判断し、どう対応すべきかのノウハウや専門知識が必要であることから事実関係の確認や認定等を適切に行うことが難しいという意見や、相談窓口の担当者が行為者とも被害者とも面識がある場合等は被害者が相談しにくいと考えられるという意見が示された。さらに、パワーハラスメントについては、実態把握や事後対応に難しさがあり、中小企業が単独で行うことは難しいのではないかという意見が示された。

 こうした状況を踏まえれば、中小企業における取組を支援していくことが必要と考えられるが、具体的には、既に行政が実施している取組も含めれば、以下のような対応が考えられる。

ⅰパワーハラスメント対策支援コンサルティングの実施
 パワーハラスメント対策の支援を希望する企業に対し、個別に、対策の具体的手法や、個別事案への対応の相談支援・研修等を実施する。

ⅱ個別労働紛争解決促進法に基づくあっせん等の周知
 中小企業においては前述のとおり、相談等に適切に対応するために必要な体制を十分に整備することが困難な場合も多いと考えられることから、都道府県労働局において個別労働紛争解決促進法に基づき労使双方からの相談に応じていることや、都道府県労働局長による助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせんのほか、都道府県労働委員会等におけるあっせん等中立な第三者機関に紛争処理を委ねることができる制度があることを周知し、利用を促す。

ⅲ研修の実施
 企業の労務管理担当者向けのパワーハラスメント対策の研修や労務管理やメンタルヘルス対策の専門家を対象とした、企業にパワーハラスメント対策の取組を指導できる人材を養成するための研修を実施する。

ⅳコミュニケーションの円滑化のための研修資料の作成
 中小企業においてはコミュニケーションの円滑化のための研修を独自に実施することが困難であると考えられることから、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の向上を図るための研修で用いる資料の作成、配布を行い、一定程度以上の質を備えた研修の実施が可能となるよう支援する。

5.顧客や取引先からの著しい迷惑行為
 本検討会において、流通業界や介護業界、鉄道業界では、顧客や取引先からの 暴力や悪質なクレームなどの著しい迷惑行為については、労働者に大きなストレ スを与える悪質なものがあり、無視できない状況にあるという問題が提起された。このことを踏まえ、本検討会においては顧客や取引先からの著しい迷惑行為への 対応と職場のパワーハラスメントへの対応との関係についても議論を行った。こ れについては、顧客や取引先からの著しい迷惑行為については社会全体にとって 重要な問題であり、何らかの対応を考えるべきという意見が示された一方で、こ の問題は消費者問題や経営上の問題として対応すべき性格のものであり、労働問 題としてとらえるべきなのか疑問であるため、職場のパワーハラスメントについ ては職場内の人間関係において発生するものに限るべきとの意見が示された。

 この問題については、そもそも、使用者には労働契約に伴って安全配慮義務があり、その具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となるその具体的状況によって異なるものの、一般的には、顧客や取引先など外部の者から著しい迷惑行為があった場合にも、事業者は労働者の心身の健康も含めた生命、身体等の安全に配慮する必要がある場合があることを考えることが重要である。

 このことを踏まえれば、事業主が労働者の安全に配慮するために対応が求められる点においては、顧客や取引先からの著しい迷惑行為は職場のパワーハラスメントと類似性があるものとして整理することが考えられる。しかしながら、顧客や取引先からの悪質な著しい迷惑行為への対応は、職場のパワーハラスメントへの対応と次の点で異なる。

①職場のパワーハラスメントと比べて実効性のある予防策を講
 じることは一般的には困難な面がある。
②顧客には就業規則など事業主がつかさどる規範の影響が及ば
 ないため、対応に実効性が伴わない場合がある。
③顧客の要求に応じないことや、顧客に対して対応を要求する
 ことが事業の妨げになる場合がある。
④問題が取引先との商慣行に由来する場合には、事業主ができ
 る範囲での対応では解決につながらない場合がある。
⑤接客や営業、苦情相談窓口など顧客等への対応業務には、そ
 れ自体に顧客等からの一定程度の注文やクレームへの対応が
 内在している。

 こうした議論を経た上で、顧客や取引先からの著しい迷惑行為を受けた労働者に対して、事業主が配置転換や相談を受け付けることなど何らかの対応に取り組むことが必要とされているのではないかという意見が示された。一方で、相違点を踏まえれば、事前に行為者が予見できない場合には予防が難しいと考えられることや事業主が自社の労働者に対して講じるのと同様の措置を講じることは難 しいという意見も示された。こうした議論を踏まえれば、例えば、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに対して事業主が雇用管理上講ずべきとされている措置の内容と照らした場合には、「行為者への 対処方針・対処内容の就業規則等への規定」、「周知・啓発や、事実関係の迅速・正確な確認」、「行為者に対する対応の適正な実施、再発防止に向けた対応の実施」などの措置について、顧客や取引先からの著しい迷惑行為への対応として事業主が取り組むことに一定の限界があると考えられる。

 また、顧客や取引先からの著しい迷惑行為への対応については、事業主が顧客に対してあらかじめ著しい迷惑行為をしないよう直接働きかけることは難しくとも、雇用する労働者に対して取引先の労働者等に対して著しい迷惑行為をしな いよう周知・啓発することは可能であり、まずはそうした取組から進めるべきで はないかとの意見が示された。加えて、顧客や取引先からの著しい迷惑行為が社 会的な問題になっている状況を踏まえれば、顧客や取引先からの著しい迷惑行為 の問題に対応するためには、事業主に対応を求めるのみならず、周知・啓発を行 うことで、社会全体で機運を醸成してくことが必要であるという意見が示された。その際に、例えば「カスタマーハラスメント」や「クレーマーハラスメント」など特定の名前やその内容を浸透させることが有効ではないかとの意見が示された。

 さらに、顧客や取引先から過剰な要求があった場合に、そのことが企業にとって強い圧力となり、その結果労働者への負荷が大きくなることが、職場のパワーハラスメントの背景にもなり得るとの意見が示された。このため、一人一人が顧客や取引先の立場となる場合も含め、職場の内外を問わず、他者に対して著しい迷惑行為をしてはいけないという社会認識を形成していくことも重要であるという意見も示された。こうした意見を踏まえれば、個別の労使のみならず業種や職種別の団体や労働組合、関係省庁(厚生労働省、経済産業省、国土交通省、消費者庁等)が連携して周知、啓発などを行っていくことが重要であると考えられる。

 ただし、顧客や取引先からの著しい迷惑行為については、業種や職種ごとに態様や状況に個別性が高いことも事実であることから、今後本格的な対応を進めていくためには、関係者の協力の下、更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要であると考えられる。

6.まとめ
 本検討会においては、職場のパワーハラスメント防止対策を今よりも進めていくという認識の下、職場のパワーハラスメントに関する現状や概念、防止対策の強化について幅広く議論を行った。この中で、円卓会議の提言に基づいた企業、労働組合、労働者一人ひとりによる自主的な取組や厚生労働省の予算事業(働きやすい職場環境形成事業)による取組など現状の取組よりも職場のパワーハラスメント防止対策を前に進めるべきということで一致した。また、業務上の指導との線引きが難しいことから職場のパワーハラスメントに該当するか否かの判断が難しいため、現場で労使が対応すべき職場のパワーハラスメントの内容や取り組む事項を明確化するためのものが必要であることについて異論はなかった。

 職場のパワーハラスメントを防止するための具体的な対応策については、4の⑵の①から⑤までに示したとおり、それぞれの案について、メリットとデメリットが議論された。議論においては、これらの取組については、それぞれ並立し得ることから複合的に取り組み得るものがあるという意見や、まず足下の対策、次に中長期的な対策というように段階的に取組を進めていくべきとの意見も示された。まずは4の⑵の③に示す事業主に対する措置義務(事業主に対して職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、違反があった場合の行政機関による指導等について法律に規定する)を中心に検討を進めることが望ましいという意見が多く見られた。

 具体的には、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに対する取組と複合的・総合的に取り組むことによる防止促進効果への期待等に加え、職場のパワーハラスメント防止対策が喫緊の課題であることにかんがみ、事業主として行うべき具体的措置の明確化が図られるとともに、当該措置を講じることにより、事業主は、実際に紛争が生じた場合の責任につき予見可能性を確保でき、積極的な経営・人事政策を展開することも可能となること、また、労働者は措置義務が実行されている職場で就労することにより安心感と仕事へのモチベーションを維持することが可能となることなどのメリットが示された。

 しかしながら、紛争が生じた場合の責任という観点よりも、まずは紛争にならないように取り組み、紛争が起きた場合は企業内での解決を目指すことを第一義とするべきという意見や、事業主に対する措置義務に対する懸念として、パワーハラスメントに該当する行為についてなお不明確さが残っており、そのような企業の現場の労使が判断できない中で措置義務を課すと、上司による部下への指示や指導が躊躇されることや、上司と部下とのパワーハラスメントに対する認識のずれにより必要以上の摩擦が生じること等、事業の円滑な運営が妨げられるおそれがあるとの意見も示された。また、労使で対応すべき職場のパワーハラスメントの内容について、現場における浸透が十分ではなく混乱を生じかねない等の意見が示され、少なくとも以下のⅰ及びⅱのような論点については、共通認識を持つ必要があるという意見が示された。

ⅰ業種、業態、職務、当該事案に至る経緯や状況などによって「業務の適正な範囲」や「平均的な労働者」の感じ方が異なることが考えられることから、どのような場合が「業務の適正な範囲」に該当するのか、また「平均的な労働者」の感じ方とはどのようなものか。

ⅱ中小企業は、大企業に比べて、配置転換や業務体制の見直しにより対応することが難しく、適切な対応のためにノウハウや専門知識が必要と考えられることから、中小企業でも可能な職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた対応や更なる支援のあり方はどのようになるか。

 このため、まずは4の⑵の④に示すとおり、事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示することで今よりも一歩進んだ取組を推進することが望ましいという意見が示された。しかしながら、ガイドラインの明示のみの対応にとどまった場合は、行政等による強制力が弱いことから取組が進まない懸念があるという意見も示された。

 以上によると、職場におけるパワーハラスメントが減少していない現状と、本検討会において職場のパワーハラスメント防止対策を前に進めるべきということで意見が一致したことを踏まえて、今後は、労働政策審議会において、本検討会で議論された対応案や、現場で労使が対応すべき職場のパワーハラスメントの内容や取り組む事項を明確化するためのものの具体的内容について、議論、検討が進められ、厚生労働省において所要の措置が講じられることが適当である。 ただし、検討を進めるためには、懸念として示されている上記 i 及びⅱに示す論点について、厚生労働省において、関係者の協力の下で具体例の収集、分析を鋭意行うことが求められる。

 加えて、本検討会においては、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの著しい迷惑行為については、労働者に大きなストレスを与える悪質なものがあり、無視できない状況にあるという問題が明らかになった。

 こうした著しい迷惑行為については、事業主が労働者の安全に配慮するために何らかの対応に取り組むことが必要とされているのではないかという意見が示された。一方で、職場のパワーハラスメントへの対応との相違点を踏まえれば、事前に行為者が予見できない場合には予防が難しいと考えられることや、事業主が自社の労働者に対して講じるのと同様の措置を講じることは難しいという意見も示されるなど、業種や職種ごとに態様や状況に個別性が高いことも事実である。

 このため、顧客や取引先からの著しい迷惑行為について事業主に取組を求めることや社会全体の気運の醸成などの対応を進めるためには、職場のパワーハラスメントへの対応との相違点も踏まえつつ、関係者の協力の下で更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要である。