介護福祉士の特発性大腿骨内顆骨壊死の不支給事案

「体重増加が原因」など、根拠ない意見を述べる岡崎地方労災医員

 介護福祉士として介護老人保健施設で働いていた横山さん(仮名)は、全介助の利用者を正面から抱え、左足を軸にベッドの方へ向きを変えたときに、軸足(左足)に激痛が走り負傷。「左変形性膝関節症」「左脛骨骨挫傷」「左膝内側半月板損傷」「左大腿骨骨挫傷」などの傷病名で療養、休業している。主治医から左膝内側半月板損傷に続発する「特発性大腿骨内顆骨壊死」の診断を受け手術を行い、労災請求したところ、「特発性大腿骨内顆骨壊死」に係る療養及び休業に関して横浜北労働基準監督署から不支給決定を受ける。
 しかしながら横山さんの主治医であるG医師は関東労災病院のスポーツ整形外科医で膝関節の専門医であり、その医師が左膝内側半月板損傷に続発する特発性大腿骨内顆骨壊死と診断し手術をしたのであり、またG医師を紹介した川崎市立井田病院の主治医であるT医師も、G医師と同様の意見で因果関係を認めている。
 両主治医が因果関係を認めているにも関わらず、不支給とされてしまった横山さんは到底納得できず審査請求を決意し、神奈川労災職業病センターに相談が入る。森田洋郎社会保険労務士と一緒に審査請求を取り組むことにした。【鈴木江郎】

看過しがたい岡崎地方労災医員の意見

 早速、労災保険給付実施調査復命書を取り寄せ不支給決定の理由を確認したところ、岡崎地方労災医員の看過しがたい意見が判明した。岡崎医師によれば「症状・他覚的所見」として「MRI 左半月板は水平断裂で加齢によるもの→災害性-。骨壊死は体重増加によるもの、災害性なし」とし、「休業は大甘な判断で致し方なく認める。以降は既往症に対する手術にて災害性は認めない。外傷性変形性膝関節症ではない。加齢による変化」という意見を述べていた。
 また、横浜北労基署は上記の岡崎医師の意見だけでは心もとないと判断したのか、もう一人の三原地方労災医員にも意見を求めている。三原医師は「特発性という接頭語は原因がはっきりしないう意味であり、因果関係が不明であると判断して本傷病名を採用したと解釈できる」「本症は60歳台の女性に好発することが指摘されており、変形性膝関節症が関与することも広く知られている。よって、加齢を含む様々な背景因子の関与が考えられる」と意見を述べている。

2人の主治医による改めての意見書を提出

 そこで審査請求において改めて主治医のG医師とT医師に「意見書」を作成してもらい、山田労災保険審査官に提出する。G医師は意見書において「内側半月板後根損傷は確かに半月板の変性が背景にあるものではあるが、深屈曲動作の繰り返しにより軽微な外力ではあるものの外傷性に生じることが知られている。職務内容との関連性は非常に高いと考えられる」とし、「半月板と軟骨を治すための最新知見『内側半月板後根損傷の病態・診断・保存治療』(2024年)」を資料として添付し、内側半月板後根損傷と軟骨下骨脆弱性骨折(SIFK)、突発性大腿骨内顆骨壊死との高い関連性を指摘した。
 そして「後根損傷の診断は膝関節専門家でないと難しく、一般の整形外科医から見逃されることも少なくなく、地方労災医員より提出されている意見書内の『半月板は水平断裂で…』という読影結果に基づく解釈は的外れなものである」とまで踏み込んで意見を述べた。

「特発性」という接頭語について

 三原労災医員が言う「特発性」という接頭語については、「突発性と言う病名ではあるものの、突発性と冠した時代に、現在の病態が未解明であった時代背景を考慮すべきである」とし、現在は未解明ではなく名前が残っているにすぎない。つまり診断したG医師は三原労災医員が言う「原因がはっきりとしない」という意味で「突発性」という用語を使用してはいないのである。そして「原因がはっきりとしない」と結論付けてしまうことは「専門家として看過しがたい」とまで述べている。
 そして岡崎労災医員が「骨壊死は体重増加によるもの、災害性なし」と意見しているが、横山さんの体重は30歳代から現在まで増加していない。岡崎労災医員は何の根拠も示さず、おそらく思い込みの決めつけで「体重増加」が原因であると意見してしまうのであるから、これは看過しがたい。この「体重増加」については横山さんの過去の健康診断結果表を提出するとともに、口頭意見陳述において反論を行った。

100%の因果関係を求める審査官

 上記の通り、医学的因果関係を合理的に説明している両主治医の意見が認められてしかるべきだが、山田審査官はなんと「棄却」決定を行う。山田審査官は、新たに牧田地方労災医員に意見を求め、「主治医の意見のとおり内側半月板損傷が原因で大腿骨内顆骨壊死が発生した可能性は否定できないが、今回のケースの骨壊死の原因が100%半月板損傷であったとは言い切れない」という牧田労災医員の意見を採用した。
 本件の争点は、「左膝内側半月板損傷」と「特発性大腿骨内顆骨壊死」の「相当因果関係」があるか否かにつきるが、牧田労災医員の「100%半月板損傷であったとは言い切れない」から認めないという意見は暴論甚だしい。これは本来の労災保険の考え方「社会通念上、相当とみられる因果関係(相当因果関係)」を超えた100%の因果関係を求める意見であり、通常の労災認定業務において100%の因果関係など要求されない。100%の因果関係を証明すること自体が不可能であるから、「社会通念上、相当とみられる因果関係(相当因果関係)」があれば労災認定してきたのである。にも拘わらず、山田審査官は牧田労災医員の100%因果関係の暴論を採用して棄却した。 何を考えて山田審査官がこの判断をしたのかよく分からないが、「取消決定」だけはしたくないという強い意志を感じる。本件は当然ながら納得のできる内容ではないので、再審査請求を行う。進展があれば改めて報告する。

横山さんの口頭意見陳述

 私は介護職で、勤務中に私よりも体の大きい男性で全く体が動かせない方を車椅子からベッドへ移乗しました。かなり体に負荷がかかる業務でしたが、いつものようにその方を抱えてベッドに移乗しました。そのときに足にパキッと音がして、その方を無事にベッドに移乗した後に、足に力が入らなくなってその場にしゃがみ込み、しばらく立てなくなりました。それでも足を引きずりながら業務に当たり、その日は大変な思いをして帰りました。歩くのもままなりませんでしたが、次の日も仕事に向かおうとしたのですが、とうとう駅で全く立てなくなりました。その後、どうしても痛みが普通じゃないので受診してMRIを撮ったところ、大腿骨内骨折ということが分かりました。どうしても膝に力が入らないので、今度は、整形外科の専門医がいる井田病院を紹介して頂き、CTを撮ったところ、半月板の損傷が分かり、同時に傷めたと診断されました。主治医の先生には業務や事故当日のこと、全てお伝えし、どれほど足に負荷がかかっていたかも御理解いただき、これは労災だということに至りました。

 井田病院に通院して半年位たっても、膝、足が改善しない、治らないので、より専門的な膝のエキスパートのいらっしゃる関東労災病院を御紹介いただき、手術しないと、ケガによる足の変形もしているので、半月板が元に戻らないといわれ、そちらにかかりました。
 関東労災病院ではCT検査、レントゲン全て見て頂き、やはり手術が必要だし、足が不自由になってつえの生活になり、日常生活も歩くこともままならなかったので運動量が不足しているのと、栄養が回らなくなってしまっている。そして、膝近くの大腿骨内の一部に骨壊死が始まっていて、それを取り除かないと骨壊死が進み、足はもう使えなくなる、それから、足を痛めたことによる変形で半月板がどんどんずれてしまい、元には戻らないので手術が必要と診断されました。私は、また元のように歩きたいし、仕事にも復帰したい旨を伝え、人工関節ではなく、自分の骨で直したいということで、非常に痛いのですが、骨を切って人工骨を入れる骨切り術という手術を受けました。そこからリハビリが始まって、足も倍ぐらい腫れてむくみますし、痛みは激しいので、とても苦しい思いをしました。そんな中でも、利用者さんに怪我をさせることなく、私が怪我をしたことで済んだのなら良かったのかなとさえ思いながら、また復帰できるようにリハビりにも励みました。関東労災の先生にも、仕事の内容や怪我の当日の状況についてもお伝えして、しっかり御理解していただいたので、やはり主治医も労災とおっしゃっていましたので、今回の意見書でG医師もT医師もきちんと医学的に証明できると書いてくださいました。

 私は一生懸命に日々お役に立てるよう業務をしてきました。以前は全然違う仕事をしていたのですが、ある時に高齢者の方のお役に立ちたいと思って全く違う世界に入り、実際に仕事をしてみると、世の中で言う3Kで、本当にきついです。おしもの世話もありますしお風呂の介助も軽い人ばかりではありません。認知症で手の出る方もいて、引っかかれたり、たたかれたり、つねられたりは日常茶飯事です。それでも、ご病気だからと思って、私を含め介護士は一生懸命に仕事をしています。今もそうです。私がここにいる間も皆さん、たくさんの業務をしています。そうやって一生懸命仕事をしてきたのに、たった1回の怪我で仕事ができない期間があって、元の足には戻っていませんし、労災は不支給で補償してもらえないことに本当に私は債りを感じます。真面白に一生懸命やってきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないのか。


 ただでさえ介護現場は入手不足です。当日も入手不足で2人で介助することが出来ませんした。2人で介助したら怪我が防げたかもしれません。なり手が欲しいんです。私が仕事ができたのも、何かあったらちゃんと補償してくれると聞いてましたから、一生懸命、業務に専念しました。ところが不支給となってしまった今、補償してもらえないんだ。私が何かあっても助けてもらえないんだ。これは私一人の問題ではなく、今、介護の仕事についている方、今後、介護の仕事に就かれる方は不安ですよ。何かあったときに助けてくれないのであれば、「じゃ、やりません」となります。これは私一人の問題ではないと思っています。だからこそ今回、審査請求をさせていただき、正しい判断を求めています。どうかこれから正しい判断をして頂いて、補償して頂けるように切に願います。よろしくお願いいたします。

 意見書にある左特発性大腿骨内頼骨壊死、これが体重増加、加齢を含むとありますが、私は30代から体重は増えていません。怪我した当日は前年より体重が減っています。というのは、この仕事をするには体力が大事で、日々家で筋トレをして、怪我のないよう食事管理もきちんとして、体重コントロールもし、中性脂肪も少し上がったりすると良くないので、体重を下げたり、食べ物でコントロールして、この年の健康診断はBという結果です。前年度のCからBに上がりました。そういう努力もしています。また、加齢とあり、確かに60歳前ですが、筋トレもしてますし、特段病気も持っていないし、本当に納得いたしかねます。こういういい加減なことは書かないで頂きたいです。国の機関ならもう少し正しい判断をしてほしいと思っています。