神奈川12労働基準監督署&神奈川労働局交渉

 今年も7月22日から8月1日にかけて神奈川の全12労働基準監督署と、8月6日には神奈川労働局と交渉を行った。署に共通する普遍的な課題と、各署や局で印象に残ったやりとりを報告する。 【川本】

労災職業病の増加の原因は?

 6月1日、児屋野文男神奈川労働局長が「死亡労働災害の撲滅に向けて」とするメッセージを発表した。今年に入り死亡災害は17人と、昨年同時期の9人をはるかに上回ることを受けたもの。各署とも同傾向であり、その原因や理由を尋ねたが、原因の分析や法違反の有無等は調査中とのことで、どの署でも明確な回答はなかった。
 長期的にみれば労災は減少してきたと言われるが、実は事故による死亡災害が減少しただけで、とりわけ近年は精神疾患の請求件数がどの署でも大きく増加。死傷者数でみると、09年に過去最少の6215人になってからは10年程度6500人前後で推移してきたが、18年以降は増加に転じ、8231人に上る。企業規模や年代を問わない精神疾患の増加、高齢労働者の増加による転倒災害の発生と重症化、熱中症の増加など、課題は山積している。

労働基準法違反申告の増加と個別労働紛争等の相談内容の発表の遅れ

 倒産による賃金未払の申告が増加している。コロナ禍で何とか事業を継続してきたが、いよいよ資金繰りがつかなくなった事例も多いとのこと。署としては、労働者から申告があれば最優先で対応する。法違反の有無をチェックし、計画していた監督業務を延期せざるを得ない場合もある。
 署などに寄せられた労働相談は、局の雇用環環境均等部指導課がとりまとめ、毎年7月末に「*年度の個別労働紛争解決制度の施行状況等」として報道発表される。それでも昨年まではある程度数字を各署が集計し、議論できたが、今年はどの署でも、「局でまとめて回答する」と言うのみ。しかも8月6日の局交渉でも何の資料も提供されず、何の議論もできなかった。大変残念である。

石綿事前調査結果報告にごまかしはないか?

 石綿事前調査結果報告システムは、一定規模以上の工事の際、レベル1(石綿含有吹付け材)、レベル2(石綿含有耐火被覆材)、レベル3(その他石綿含有成形版)、レベル4(石綿なし)に分けて届けるものだ。「レベル4」と報告されているが、実は石綿含有建材等の解体ではないか、そのチェックが不十分だというのが要求の趣旨。
 局によると、全数67582件のうち「レベル1」162件(0・4%)、「レベル2」770件(1・1%)、「レベル3」30948件(45・7%)、「石綿なし」35702件(52・8%)。実は、署によってばらつきがある。川崎北署は全数7019件のうち「レベル3」3477件(49・5%)、「レベル4」3549件(50・5%)。鶴見署は全数2203件のうち「レベル3」981件(44・5%)、「石綿なし」1205件(54・6%)。ところが、小田原署は全数2771件のうち「レベル3」698件(25・1%)、「石綿なし」2044件(73%)。平塚署も全数2414件のうち「レベル3」424件(17・5%)、「石綿なし」1955件(80%)に上る。
 そういう意味でも川崎市が所有するアナライザー(石綿の有無がその場でわかる分析機)を持って、「石綿なし」と届けがあった現場に赴くことが必要である。アナライザーは局にもあるがあまり使われてないようだ。

各署交渉で話題になった事など

【相模原】 労災発生件数が増えている。製造業、とりわけ管内に多い食料品製造業での事故が多い。建設業では足場の法規制が強化されてきたが、一方で、脚立や梯子からの転落事故もある。その使用を禁止している現場もある。
 賃金未払の申告も多く、残業未払もあるが倒産によるものも増えている。年次有給休暇の法改正を認識していない事業所も多い。残業をさせているのに時間外労働の労使協定を作成していない事業所も多い。
 建設ユニオンからの参加もあり、特別加入に加えて上乗せ保険に加入する組合員がいる一方で、元請けに言われて仕方なく低い金額でしか加入しない例もあるということだった。監督署からも、そもそも一人親方のみなさんは、自分は事故を起こさない、労災に遭わないと考えて働いているからですねとの発言があり、それは労働者も同じで、安全衛生活動に積極的に取り組むことの難しさを改めて認識した。

【平塚】 申告件数が急増。精神疾患の労災請求も倍増。社会福祉施設での労災が増加。「6月30日は労災ゼロの日」と銘打って積極的な取り組みを促す。

【鶴見】 鶴見署は以前から「グラフで見る労働災害の現状」と題したまとめを作成し、交渉でも配布。カラーで、グラフが多く、わかりやすい。今後も続けてほしい。キャラクターの「つる美ちゃん」も転倒災害防止のページで活躍。以前、JR鶴見駅で転倒災害防止の構内放送があったが、今は転倒災害防止ポスターがJR鶴見駅と京急鶴見駅に張られている。

【小田原】 23年度の非災害性腰痛の請求件数が8件と、非常に多い。局全体の請求が22件だから3分の1以上を占める。一事業所から複数請求があったわけでもなく、特定の医療機関からの請求でもないということで理由は不明。ちなみに、業務上2件、業務外3件、繰越(調査中)4件である。

【川崎北】 既存アスベスト対策については川崎市が非常に積極的で、アナライザーを持って毎月パトロールしている(川崎南署と交互で2ヶ月1回)。
 社会福祉施設の事業所数も労災事故も増加。川崎市と連携して転倒災害や腰痛防止に向けた集団指導、啓発活動を行っている。
 足場倒壊事例とその対策についての国土交通省の資料や、わかりやすい他局(香川労働局)の死亡災害の資料を活用することもある。飲食業での倒産による未払が増えている。


【横浜西】 保健衛生業、とりわけ社会福祉施設での労災が増加。地域的には横浜市の花博関連工事も始まっている。感電による死亡災害のチラシを紹介。賃金未払の申告が増えている。

【横須賀】 「転倒・腰痛等の労働災害防止のための取組事例」を配布。企業が実名で載っていて具体的で非常にわかりやすい。局のホームページ(各署からのお知らせ)から、カラー写真付き解説が入手できる。
 倒産による不払いなど申告が増加。建設業の死亡災害も多い。原因としては高齢化もあるが、そもそも経験が浅いことも。ユニオンヨコスカからは外国人労働者のマタニティーハラスメント(妊娠を理由とした解雇など)の相談が多いなどの報告がなされた。

【川崎南】 6月1日に神奈川労働局長が「死亡労働災害の撲滅に向けて」というメッセージを発表したが、偶然、署も災害防止団体あてに「職場における死亡災害撲滅に向けた緊急要請」を出した。
 小売業の労災が増えているが、「転倒」や腰痛をはじめとする「動作の反動・無理な動作」が半数以上を占める。飲食店では転倒災害が4割近くを占めており、30日以上の休業を要したものが半分。アスベスト労災も大規模署と同じぐらい増えている。


【藤沢】 23年の休業4日以上の熱中症が前年の6件から11件と倍近く増加。時間帯では午前中に発生しているのが特徴的で、前日の疲労度を考慮した業務や朝食の摂取などが必要。23年は死亡災害が発生していない(22年は5件)が、自治体など発注者も入った安全パトロールに効果があったと推測される。

【横浜北】 申告が増えたこともあり、労働基準関係法令説明会を開催した。労使双方からの相談内容に基づき労働時間の把握・管理、端数処理、割増賃金の算定方法、脳・心臓疾患の労災認定基準、フリーランス新法、最低賃金と各種助成金、年次有給休暇、変形労働時間などを解説。上肢障害の請求が14件(業務上13件)。管内に派遣会社があり、現場は他県を含む他署管内のことも多い。

【横浜南】 少し前の安全衛生課長が独自で安全衛生に関する動画を作成、ユーチューブにアップしたとのこと。今も視聴できるか聞いたところ、この動画は安全衛生の説明会のため作成し、説明会参加者のみに限定して公開したので今は視聴できないとのこと。それはとてももったいないので、一般公開して欲しいと重ねて要請した。

【厚木】 独自に外国人労働者の業種別労働災害(休業4日以上)発生状況のグラフを作成。外国人労働者の労働災害は増加傾向で、対策のため独自に集計・分析したのは画期的。それによると外国人労働者の労働災害は全体59件で、57%が製造業、17%が建設業、10%が商業、7%が貨物取扱業で発生している。
 また、中皮腫で請求中のご本人も参加し、石綿ばく露状況について訴えた。

神奈川労働局とのやり取りから

 以前から、交渉に審査官が出席しない。他部署からは参加しており、全員が都合がつかないとは考えにくい。精神疾患の審査請求が54件決定されたが、取消(業務上)はわずかに1件。石綿関連疾患8件のうち2件取り消されていることと比べても、あまりにも低い。何が原因なのか議論もできず、非常に残念である。
 各署で「局でまとめて回答する」とされた労働相談のことは4頁で述べた通り。来年は局交渉をもう少し遅く開催することも検討したい。

労働基準監督署・労働局交渉の参加者の感想

向笠眞弘さん(中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 神奈川支部)

 神奈川支部の世話人として、要求項目2⑹にあるように、被災者団体などを積極的に広報するよう全ての労基署で強く訴えました。また、要求項目4⑸のKさんの件について意見してきました。Kさんは、私の父が勤めていた会社と取引があり、父と顔見知りでした。そこで私は横浜北署に行った際、Kさんは私の父と同じく業務中にアスベストを吸って石綿肺がんを発症したので、父と同じく労災認定するよう強く訴えました。
 今回初めて労基署を回らせていただきましたが、同じ神奈川の労基署でもそれぞれ個性と言うか雰囲気が違っていたのが興味深かったですね。我々の要望や質問や疑問に対して、基本的には紋切型の回答がほとんどですが、労基署によって責任者の性格が署内全体に影響を与えているように思われました。毎年、神奈川県内の全ての労基署を訪れ、要望書を提出し実施を迫る活動の意義を初めて体験して感じることが出来ました。皆さま、本当にお疲れ様でした。

前田璃佳さん(中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 神奈川支部)

 県内の労働基準監督署との交渉に同行しました。担当者の方々と対話できた貴重な経験でした。アスベスト疾患の患者や家族にとって、個人で労災申請を行うのはハードルが高いです。支援団体のサポートを受けられるよう神奈川労災職業病センターや患者会の紹介を労基署から当事者に促してほしいと要望しました。労基署側からは、「特定の団体を紹介するには労働局の判断が必要」との回答がありました。
 アスベスト疾患は発症までに数十年かかることが多く、場合によっては退職から相当時間を経過していることや既に事業所が存在しないケースも珍しくないため事業主証明を得るのも難しいです。そのような状況で、支援団体の存在はとても心強いものです。患者会は補償制度の情報だけでなく、治療法やピアサポートを含めた支援を提供しており、当事者にとってかけがえのない存在です。困っている方々が支援団体の力を借りられるチャンスが広がることを望みます。
 担当者の対応は丁寧に感じましたが、アスベストに対する危機感や中皮腫という病の深刻さを実感していない印象も受けました。身近に患者がいなければ無理のないことかもしれませんが、だからこそ当事者の声を直接届け続けることが重要だと改めて感じました。

森田洋郎さん(社会保険労務士、センター理事)

 3ヶ所の労基署交渉に参加し、それぞれの署の特徴がある様に感じました。それは地域特性から来るものだと思います。労基署が労働現場にきちんと目が向いているとも言えるのではないか、少なくとも現場を預かる第一線の担当者は、そういう気概を持っている様に感じました。ですが、近年、精神疾患の増大など新たな問題に対応できるまでの人手は足りておらず、日常業務に追われているのが実態なのだろうとも感じました。
 少し驚いたのは、どの労基署も自己紹介された職員さんが、8割方「今年4月に着任しました」という挨拶をされていた事です。これは人材が豊富で様々なポストが用意されているからなのか、局の方針として課長さんクラスは3年程度の人事異動で横滑りして署が変わるだけなのか分かりません。私は横須賀市保健所で、医療機関を監査する仕事を15年程していましたが、それでも指導する内容は日々勉強の中で培っていたもので、15年やっても新たな発見がいくつもありました。労基署現場も様々な多くの会社を相手にされ、指導する根拠の法律も少なくない訳で、ベテラン職員と若手職員のベストミックスで組織が運営され、日々労働者に向けた改善がされることを期待します。

Aさん(介護職・被災者)

 大阪局も東京局も口頭意見陳述の際の録音が認められているのに、神奈川労働局は認めていないとは、何か聞かれては困るような不都合でもあるのか、不信感を抱きました。また、交渉で出席を求めたにもかかわらず審査官が出席しないことに対しては、被災者の声に耳を傾けない、真実を聞こうとも受け止めようともしない態度に誠意が感じられず、憤りを感じました。労災となってしまい、心身共に辛い気持ちである人々に共感し、寄り添う気持ちすらない人間性は審査官としての職務に相応しくないと思います。
 今回、怪我を負った足を診察し、最新の知識と技術を持って手術をし治療してくださった現場の担当医の意見を全く無視して、最新の医療知識もない労災医の昔ながらの知識で労災不支給となってしまったことに対して、納得がいきませんでした。会社側も労災を認め、担当医も労災であることは明白だと述べています。最新の医療知識の無い労災医を認定の判断理由として起用するのはおかしいと思います。介護の現場は一般企業と異なり、閉ざされた職場とも言われています。利用者様の個人情報やプライバシー保護のためにも公にはできないからでしょう。しかしながら体の不自由な方や認知症の方の介助がどれほど大変な仕事であるかを、この度は労働局の職員の方々に知って頂く良い機会でした。また、私のようなケガ以外にも熱中症や精神疾患、アスベストを含めた建設現場の労災も増加しているとのことを知りました。企業側の安全管理の甘さが引き金になっているわけで、労働局はそれを正す立場故に、しっかり労災の補償をしていく役目があるのでは無いかと強く思いました。