産業保健の目 作業姿勢チェックから職場改善へ

産業保健の目
センター所長・医師 天明 佳臣

■作業姿勢チェックから職場改善へ
私が産業医として作業現場を訪れるときは、騒音や照明に問題がなさそうであれば、まず働いている人たちの作業姿勢、とくに作業面の高さを観察します。すぐ目に留まるからではなく、「作業面の高さの適正化」は低コストで実施可能な改善点だからです。そして、その改善は働く人たちにとって直ちに仕事のしやすさに結びつき、さらには働く人たちを「改善志向型」に誘う可能性さえあるからです。

■作業面の高さをめぐって

イ、ロ、ハを見てください。いずれも給食調理員の調理中の姿勢です。

イ、(やや高い)食品の品質の点検
ロ、(肘高付近)フライに衣をつける
ハ、(やや低い)ジャガイモを切る

細かな作業では作業面を肘の高さよりもやや高めに設定し、一般的な作業では作業面を肘高に合わせ、強い力を必要とする作業は作業面を少し低くするのが原則です。
作業台の高さは一般には背丈の高い人に合わせ、低い人は足台に乗るようにします。足台を置くのに十分なスペースがない作業場では、背の高い人が作業台の上にまな板を2~3枚重ねたりします。テーブルに座った事務作業でも、パソコン作業なら、作業者は肘高で肘関節90度。それで作業者の靴が床面にぴったり着いているのがあるべき作業姿勢です。そのために椅子は高さが調節可能で、背もたれと肘かけ(アームレスト)があると作業疲労を軽減できます。
また、もっぱら同じ場所で立ってする作業の場合、お尻を乗せるだけの支持椅子(プロップ・スツール、「コダック社の人間工学デザイン」から、図2)が有用です。5~6年前に平塚市にある文具製造メーカーのライン労働者が支持椅子を使っているのを見たことがあります。お話しを聞くと、その木製の支持椅子は、自分で作ったとのことでした。その頃、川崎の東急ハンズで支持椅子を販売しているのを見ました。お尻を乗せる部分を含めて全体が大き過ぎるのではないかと私は思いましたが、いつの間にか見あたらなくなりました。

■作業条件の改善へ

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(06年3月)では、職場のメンタルヘルスケアの具体的進め方として次の4段階のケアを示しています。

①セルフケア/労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施すること

②ラインによるケア/管理監督者が部下である労働者の状況を日常的に把握し、個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図る。労働者からの相談対応を行うこと

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア/産業医、衛生管理者、保健師や人事労務管理スタッフ等によるケア

④事業場外資源によるケア

以上の改善のための具体的進め方のステップは、作業姿勢の改善の場合も同じです。さらに私が日頃から提言しているのは、「セルフケアのグループ化」です。同じ職場で働く人たちが、ストレス(この場合は作業姿勢ストレス)への気づきを互いに話し合う事によって、ラインの問題にしてゆくのです。次いで管理監督署を取り込んでいくのです。その点において、低コスト改善という問題提起が生きてきます。当然ながら、事業場内の産業保健スタッフ等も容易に参加が期待できるはずです。
作業姿勢の改善となると必ずしもスムーズに運ばないこともあるでしょう。その時は事業場外資源としての、私たち労災職業病センターを活用してください。適切な支援ができる用意をしております。