災害性の原因によらない腰痛(非災害性腰痛)の労災事例

 災害性の原因によらない腰痛(非災害性腰痛)の労災決定が3例あったので報告する。1例目は、港湾荷役労働者で「相当長期間の業務による非災害性腰痛」として労災認定された。2例目は、配達のトラック運転手で「比較的短期間の業務による非災害性腰痛」が争点(不支給決定)。3例目は、青果店の女性パート労働者で「被災労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)」が考慮されずに不支給決定された。

 安全センター情報17年9月号によれば、15年度の全国の非災害性腰痛の労災認定の件数はわずか39件。同年度の災害性腰痛は2,950件、単純比較はできないが振動障害276件、頚肩腕障害787件に比べても圧倒的に少ない。非災害性腰痛という疾病自体が整形外科医に認知されておらず、そもそも労災請求がほとんどされない事、また請求しても認定基準の硬直した運用により不支給決定される(認定率約40%)事が、要因であると思われる。非災害性腰痛39件の都道府県別では、千葉10件、滋賀6件に比較し、東京4件、愛知・京都・兵庫が各3件、北海道・神奈川が各2件、他局は0~1件と、偏りが激しい。この偏りも非災害性腰痛の認知度が反映していると考えられる。また、認定基準が76年の通達から40年以上改訂されておらず、時代に即した認定基準の改訂・運用が求められている。(鈴木江郎)

典型的港湾荷役労働者の腰痛

 Aさんのケースは典型的な港湾荷役作業であり、「災害性の原因によらない腰痛」の認定基準「(二)重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(概ね10年以上)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛」に該当するとして労災認定された(横浜北労働基準労基署)。

 Aさんは85年~17年の30年以上にわたり港湾荷役に従事し、主な取扱い物とその重さは、大豆(30~60㎏)、澱粉(50㎏)、輸入米(30~50㎏)、天津甘栗(80㎏)、カカオ豆(60㎏)、胡麻(70㎏)、牧草(30~60㎏)、プラズマテレビ(30~70㎏)、エアコン(室内機・室外機約10~45㎏)など。基本的に手鉤やゴム手袋を使った人力作業で、袋詰め、スラシ(上階から滑り台で降りてきた荷物をパレットに積む)、パレット積み、バン出し、本船揚げ、艀揚げ、解袋切込みなどの作業に従事し、現場による相違はあるが概ね1日約40㌧(約2000袋)の作業量であった。

 作業態様としては抱き抱えたり肩に担いで運搬する、中腰、腰をひねるなど、腰部、背部、上腕、下肢に過度の負担がかかる作業で、これらの作業が1日中続く密度の高い重筋労働であった。

骨の変形による腰痛

 「災害性の原因によらない腰痛(二)相当長期間にわたる作業」の認定基準では、医学的な判断材料として「胸腰椎に著しく病的な変性が認められ、かつ通常の加齢による骨変化を明らかに超えるもの」が求められる。Aさんもこの基準を満たす腰椎の変化を認めた。Aさんは腰や肩の痛みは以前からあったが、17年の繁忙期の作業によってこれまでに無い、眠れなくなるほどの痛みに苦しみ、休業を余儀なくされ、労災請求に至った。そして請求から4カ月程度で労災認定されたのであった。

 「災害性の原因によらない腰痛(二)相当長期間にわたる作業」で労災認定された事例のほとんどはAさんの様な港湾荷役労働者であると推測する。しかし、港湾荷役作業以外にも、例えば建築大工の木材の取扱い作業など重量物を取り扱う職業は他にもあるが、ほとんど労災認定につながっていない。骨変形による腰痛で苦しみ、仕事で重量物を取り扱っていた方はぜひ相談して欲しい。

ルート配送のトラック運転手の腰痛

 2例目のBさんの職種はトラックの配達ドライバーで、ルート配送業務を行っていた。業務内容は、まず配送センターの倉庫から自分のトラックへ商品を積み込み、積み込んだ商品を1日約8時間かけて県内各地20ヶ所以上にルート配送し、各地で商品を積み下ろし、同時に不要な商品を回収して配送センターに戻り、回収した商品を倉庫に戻す。

 積荷の重さは軽重あるが、複数をまとめて持ち運ぶので、通常1回30㎏にもなる重量物の取扱り作業であった。この積荷を時期によって50回~100回近くトラックに積み込み、そして各地で積み下ろす作業を毎日行っており、腰部に過度の負担がかかっていた。

藤沢労働基準監督署の不支給決定

 Bさんの作業と腰痛発症について時系列で見ていくと、05年12月に入社し08年9月まで右記の業務に従事する。その間の08年3月に「腰椎椎間板ヘルニア」と診断され、同年10月からは腰部への負担が減る業務に変更される。しかし11年頃から再び腰部に過度の負担のかかる同様の作業に従事させられ、16年11月に「腰痛症」を発症する。

 腰痛の既往歴もなく、これは長年にわたる業務が原因であるとして、Bさんは17年4月に藤沢労働基準労基署に労災請求を行った。藤沢労基署は本人聴取や事業所や同僚聴取、主治医や専門医の意見依頼など時間をかけて調査実施したが、結局17年10月に不支給決定された(現在は審査請求中)。

相当長期間(概ね10年以上)にわたる作業による腰痛

 しかし、保険給付実地調査復命書を取り寄せたところ、Bさんの腰痛は、Aさんと同じ「災害性の原因によらない腰痛(二)相当長期間にわたる作業(概ね10年以上)」の観点からしか検討していない事が判明した。確かにBさんは10年以上にわたり30㎏以上の重量物を取り扱ってきたので、労基署の調査では重量物を取り扱う「時間」に重きを置いた調査であった。つまり「災害性の原因によらない腰痛(二)相当長期間」の認定基準では、「概ね30㎏以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上取り扱う業務、及び、概ね20㎏以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務」を「重量物を取り扱う業務」としている。

 つまりBさんの職種はトラック運転手であるから、運転している時間は「重量物を取り扱う業務」とはみなさないので、労働時間のうち重量物を取り扱う労働時間とそれ以外の労働時間に分けて、重量物を取り扱う労働時間の割合を計算するのである。運転手の運転業務も腰部に過度の負担のかかる業務であるのだが、藤沢労基署は考慮せず、配達する積荷の取り扱い時間を単純に合計した結果、基準に満たないと決定したのだ。しかし、Bさんの作業日報から細かく計算すると、運転業務を除いた積荷の取り扱い時間だけでも労働時間の3分の1以上を費やしており、労基署の調査には誤りがある。

 そして、そもそもBさんには「災害性の原因によらない腰痛(二)相当長期間」の医学的根拠となる「胸腰椎の著しく病的な変性」は認められないので、この「(二)相当長期間」のみで判断する事自体が誤りなのである。

比較的短期間(概ね3ヶ月から数年以内)の作業による腰痛

 Bさんは、「災害性の原因によらない腰痛(一)比較的短期間(概ね3ヶ月から数年以内)従事する労働者に発症した腰痛」の認定基準を適用するべきである。先に書いたとおり、Bさんは入社後の重量物取扱業務を始めてから2年数ヶ月で「腰椎椎間板ヘルニア」と診断されており、これは「比較的短期間」に合致する。そして、「(一)比較的短期間」の医学的根拠「腰部の筋・筋膜・靭帯等の軟部組織の労作の不均衡による局所の疲労現象が原因で起こる」という認定基準とも矛盾しない。

 また、Bさんの業務は「(一)比較的短期間」の認定基準の「(イ)概ね20㎏程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」、またトラック運転手として「(ハ)長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務」に該当するのであるから、この「(一)比較的短期間」の認定基準において労災認定するべきであった。現在は審査請求中であり、以上に述べたことなどを主張している。

青果店の女性パート労働者の腰痛

 3例目のCさんは女性で青果店(デパートのテナント)のパート従業員。17年9月の入社直後から、青果店から出る生ゴミを段ボールに詰め込み、その段ボールを台車に積み重ね、デパートの共同ゴミ捨て場に運ぶ作業を行った。生ゴミが詰め込まれた段ボールは3~5㎏あり、これを6~8個台車に積み込み、共同ゴミ捨て場に積み下ろす。Cさんはこの作業を午前中いっぱい黙々と行い、午後には青果物の台車での運搬作業の他、ラップ掛け作業や袋詰め作業を立って行っていた。

 Cさんはこれらの作業を続ける中、翌10月に腰痛を発症。しばらくは我慢しながら仕事を続けたが、腰痛が続くので10月下旬に治療を開始。しかし腰痛は治まらず、18年年1月から休業したところ、事業主から急きょ18年2月末日までの有期雇用契約書にサインするよう求められ、同日をもって契約期間終了として雇い止めされた(この問題については労働組合に加入し対応中)。

横浜北労働基準監督署の不支給決定

 Cさんに腰痛既往歴はなく、青果店での業務が腰痛の原因であるとして18年2月に労災請求したが、4月に業務外の不支給決定を受けた(横浜北労働基準労基署)。その後、当センターに相談があり、現在は審査請求を行っているところである。

 Cさんの不支給の理由を確認すると、「災害性の原因によらない腰痛(一)比較的短期間(概ね3ヶ月から数年以内)従事する労働者に発症した腰痛」の認定基準に合致しないので不支給とされている。具体的には「段ボール1個あたりの重量は20㎏に及ばず、6~8個台車に乗せた状態であれば20㎏程度は超えるが、業務時間の大半を台車の運搬に費やしているとは言えないので基準に該当しない」という理由であった。しかしながら以下の点において横浜北署の判断には明らかに誤りがある。

極めて不自然ないしは非生理的な姿勢による腰痛

 まず、「災害性の原因によらない腰痛(一)比較的短期間」の認定基準のうち「(イ)概ね20㎏程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」にあるように、これは「業務時間」に言及するものではない。しかし横浜北署は、「業務時間の大半を台車の運搬に費やしているものとは言えず」と「業務時間」を不支給の根拠とした。これは認定基準を逸脱しており明らかに誤りである。Cさんの業務は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務である。

 また、「災害性の原因によらない腰痛(一)比較的短期間」の認定基準のうち「(ロ)腰部にとって極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務」にも該当しないとするが、これも労基署の調査で見落とされた作業実態があった。 つまり、生ゴミを段ボールに詰め込む作業、また段ボールを台車に積み込む作業は非常に狭い通路での作業だった。しかも通路の半分は台車で占められ、作業スペースは幅50㎝程度しかない。Cさんはこの狭い通路内で極めて不自然な姿勢で作業を強いられたのである。

店長から「次やったらクビ」と言われ

 更に、台車に段ボールを積み重ねてフロア内を運搬する際、荷崩れしないための処置として事務用セロハンテープ(幅1.5㎝程度)で上段の段ボールを止めるだけであった。時には目線の高さ位になる台車を、客が混んでいるフロア内を荷崩れしないよう前後左右に気を配りながら慎重に手押しする作業は腰部にとって極めて不自然な姿勢となり、精神的にも相当な緊張を強いるものだった。実際、入社当初に台車が荷崩れした事があった。他店舗のお客さんの前で台車から段ボールが床に崩れ落ちてしまい、店長から「次やったらクビ」と言われ、より緊張感が強いられる中で慎重に台車を手押しして腰部に過度の負担がかかっていた。

 これらの作業は認定基準「(ロ)腰部にとって極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務」に該当するであろう。

被災労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)

 そしてより重要な要素として、横浜北署はCさんの身体的条件を全く考慮していない。身長155㎝、体重55㎏の小柄で筋力の弱い女性が毎日3~5㎏の段ボールを台車へ積む作業24~48回(6~8個×4~6往復)、下ろす作業24~48回(同)等は、通常の一般男性にとってより以上の負荷を腰部に与える事は明らかであろう。現に、腰痛の認定基準においても「業務上外の認定に当たっての一般的な留意事項」として、「当該労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)の把握に努める」とあるが、横浜北署がCさんの身体的条件を検討した形跡はない。

 小柄で筋力の弱い女性であるCさんの身体的条件を十分に顧慮すれば、これまで挙げてきた腰部に負担のかかる作業内容が腰痛の原因である事はより明確であるので、審査請求での原処分取消(=労災認定)につなげたい。

時代に即した認定基準の改訂・運用を

 以上、最近の非災害性腰痛の3事例を紹介した。うち2事例は不支給決定を受け、現在は審査請求中であり、継続中の事案である。冒頭に述べたように、非災害性腰痛について労災認定の件数がまだまだ少ないし、これまで見てきた業務上腰痛の労災認定基準は76年の通達であり、40年以上変更されていない。

 この間、産業構造の変化や作業の機械化にともなう重筋労働の減少、また新しく介護職という職業も発生し、社会福祉職場の腰痛対策が課題となっている。腰痛の認定基準や実務の運用についても新しい腰痛職場の現状を踏まえるなどして、時代に即した改訂・運用が求められている。