労災保険:事業主の不服申し立てを許さない!厚生労働省は、メリット制を見直せ!
労災支給決定について事業主は争えなかった
腰痛、精神疾患、職業ガンなどの職業病について、会社が労災と認めようとせず、仮に労働基準監督署が労災と認めても、あくまでも会社としては認めないということは珍しくない。そもそも請求の主体は労働者であり、支給されるのも労働者である。会社からどうのこうの言われる筋合いはない。制度としても、労災保険の支給決定そのものを事業主が争うことはできないとされてた。
メリット制は百害あって一利なし
労災保険料を支払うのは会社である。雇用保険や健康保険のように労働者の保険料負担はない。それもあって関心が薄いのであるが、労災保険制度ができた1947年の6年後である1951年から、一定の規模を有する事業主(100人以上の労働者を使用する事業などで「特定事業主」という)については、労災受給者が増えると保険料が上がり、減ると保険料が下がるメリット制が適用されてきた。厚生労働省は、メリット制が少なくとも当初は労災事故防止のインセンティブ(やる気)になったというのであるが、その証拠はない。厚労省も、自ら作成した当時の文書に「そうした記述がある」というだけである。自画自賛もいいかげんにしてもらいたい。
むしろ労災保険料が高くなることなどから、労災事故を隠したり(例えば、一定の補償はするが労働基準監督署には届けない)や、労災保険請求に協力しようとしないなどの弊害の方がはるかに大きい。そのことはすでに1980年代から指摘されてきた。
保険料アップを理由に認定取消を求める事業主
ところが近年、労災保険給付自体の取り消しを求める訴訟を起こす事業主が増え始めた。そして裁判所も、保険料が上がるという不利益を被るのに異議申し立てができないのはおかしいという判決を言い渡すようになった。昨年12月にも、そうした高裁判決が出ており、厚生労働省は最高裁に上告している。
一方で通達が今年1月31日に出された。つまり、事業主は不服申し立ての裁判で業務上外を争うことができるし、その結果、業務上支給決定を取り消すという判決が出て、労災保険料に反映することになる。ただし、被災者に対する労災支給処分を取り消すことはしないという。
これから業務上決定の取り消しを求める訴訟を起こす会社が増えることは間違いない。また、裁判まで起こさなくても、労災認定を無視する会社が増えるだろう。具体的には、就業規則にある労災上乗せ補償をしない、あるいは労災休業期間中は解雇できないという労働基準法を無視して、解雇を強行してくるだろう。
メリット制は、労災保険の立法趣旨に反する
そもそも労災保険は、労災補償ができないような中小零細企業であろうが、労災保険がなくても補償が可能な大企業であろうが、被災労働者が同じように補償を受けられるように作られたものである。だからこそ強制適用で、仮に会社が未加入で保険料を払っていなくても、会社が倒産しても、労働者が退職してからも支給されるのである。そもそも一般の保険というのは事故や病気になる人や団体ばかりが加入していては成立しないのであり、事故や病気にならない人や団体からもきちんと保険料を集める必要がある。だからリスクが小さな人は、そもそも加入しないだろうし、重たい病気になるリスクのある人は入れてもらえない。つまりメリット制は、労災保険の「迅速かつ公正な保護」、「労働者の福祉の増進」(労災保険法第1条)といった趣旨に反するのである。
おそらく労災保険給付の取り消しまで求める企業が出てきた理由は、近年、脳心臓疾患や精神疾患の労災が増加しており、メリット制が適用されるような企業でも多くの被災者が生まれ、労災保険料が上がったからである。過労死を防ぐために、働き方改革を進める企業は労災保険料が安くなることが動機になるのか。二度と過労死をおこさないという決意から、あるいは優秀な人材を集めるため、働きやすい職場を作ったり賃金を引き上げるのである。必然的に労災保険料も高くなる。労災保険料をケチるために訴訟を起こしたり被災労働者を解雇するような会社が増える社会に未来はない。
センターは、メリット制をなくす取り組みに、まい進する決意である。【川本】