悪性中皮腫の障害年金申請について

森田洋郎(神奈川労災職業病センター理事/社会保険労務士)

初診日について

 悪性中皮腫は「静かな時限爆弾」と言われ、アスベストばく露から相当な月日が経ってから発症します。例えば、仕事でアスベストを使用している時は会社員だから厚生年金に加入されていても、その後、独立開業され国民年金加入に変わり、暫くしてから息苦しくなって受診されるというケースが多くあります。その場合の障害年金は、国民年金加入時に初診日があるので、国民年金の障害基礎年金を請求することとなります。すると、国民基礎年金の障害年金は1級か2級の区分しかありません。初診日が会社員時代であれば、厚生障害年金で3級まであります(当然、金額は少なくなりますが)。このようにばく露した時と発症した時が大きくずれるため、障害年金2級に該当しない程度の症状の方は沢山居られます。従って、障害年金では初診日が非常に重要になりますので、中皮腫やガンと言われなくて、息苦しくなったり、咳が続く風邪の様な症状時に単に受診しただけでも初診日と認められる場合もありますので、日頃から医療機関受診の記録は手帳に書いておくなどされると良いと思います。

保険料納付について

 独立開業されている個人営業の方にとって、国民年金の支払いは面倒で負担が大きいものですが、うっかり支払っていない期間が続いてしまうと、いざ障害になった時に障害年金が貰えないことがあります。
 障害年金の給付要件の一つに「初診日の前日において、初診日がある月の2ヶ月前までの被保険者期間について、保険料納付済期間・保険料免除期間が合わせて3分の2以上あること、または、初診日の前日において、初診日がある2ヶ月前までの直近1年間に保険料の未払期間がないこと」とあり、ある程度キチンと保険料を支払っていることが求められます。
 では、最初の初診日の前に保険料を払っていなければ絶対に諦めるしかないのかというとそうでもなく、一旦病気が治癒した場合は再発時の受診を初診日に変えることもあります。治癒とは社会的な治癒で、医学的には治癒していない場合に本人救済のために考え出された社会保険法上に特有の概念です。社会的治癒について法令上の明確な定義はありませんが、傷病について医療を行う必要がなくなり、相当の期間、通常の勤務に服している場合等がこれに該当すると言われています。従って、中皮腫や肺がんで手術等をして日常生活に戻った場合などはこれに該当する可能性もあります。諦めずに、年金の支払いについては、病気で働けない場合の全額猶予等の手続きもあるので、手続きをしっかりとされることが重要です。

65歳ちょっと前の障害年金について

 中皮腫や肺がんの発症が60歳前後の時期で、もう少ししたら「老齢年金」が貰えるから、途中で障害年金を貰ったら金額が少なくなると思われている方がいらっしゃいます。障害年金の申請をして受給権を得ても、「老齢年金」の受給権は何ら変わりません。65歳になった時にどちらかを選択すれば良いのです。では、65歳から貰える「老齢年金」が65歳まで働き続けて20万円だとして、61歳で障害年金2級であれば18万円だったとします。その場合、65歳になって20万円の「老齢年金」に切り替えることは出来ます。
 どちらを選択するかですが、「老齢年金」は所得税がかかる年金(雑所得)です。240万円の方は雑所得として控除金額があり、税金を計算すると所得税と住民税の合計は約13万円となります。20万円の年金から毎月約1万円の税金を支払うことになりますが、障害年金は非課税ですのでこれが掛かりません。他の所得がある方は合計所得に大きく影響します。また、国民健康保険料にも関係してきますので結果に大きな差は無いと思います。なので、ご自身の身体が障害の状態であるならば、貰える障害年金は検討されるのが良いと思います。
 障害年金についてご相談がございましたら、労災職業病センターに何なりとご相談ください。