地方公務員災害補償基金本部との交渉

 7月10日、全国安全センター(公務災害対策局)と地方公務員災害補償基金本部との交渉が行われた。要請内容は下記の通り。3月に要請するが、本部の人事異動などの関係で6月に日程調整をして7月に面談することになっている。要請内容は多岐にわたるが、主に民間と異なる点についての是正を求めている。そもそも公務災害は民間のように国が判断するのではなくて、「地方公共団体等が主体となって業務運営を行う、いわゆる地方共同法人首長らの集まり」である。いわば社長が集まって労災かどうかを決めているようなものだ。そして本部職員の半分は総務省からの出向者らしい。支部では被災者や遺族の聴取をしないし、医師への意見聴取も労基署と比べてあまりにも簡単に済ませている。疾病の公務上外で重要な役割を果たす専門医も非公開である。
 裁判でようやく公務上と認められた宮本さんも参加し、基金に謝罪を求めるなどした。全体のまとめを関西労働者安全センターの酒井さんに寄稿してもらった。なお本部の専門医の専門科ごとの数は後日明らかになった。内科2人、循環器科1人、呼吸科1人、脳神経科3人、整形2人、精神7人とのこと。アスベストは全国すべてのケースを、氏名を明らかにしない1人が決めていることになる。申請が多いとはいえ、精神が7人もいることは注目すべきであろう。【川本】

要請事項

⑴ 基金各支部の事務を、民間企業における総務人事部署である職員厚生課の職員などが担っており、申請者が不信感を抱くことが少なくないので、「オンブズパーソン」的な独立した部署が担うようにすること。

⑵ 精神疾患等の原因が複雑な疾病や、災害であっても請求人と関係者、医師等の見解が異なることを把握した場合は、被災者や家族等からの面談による聴取を必ず行うように通達すること。

⑶ 基金本部や支部の専門医の氏名を明らかにしない理由を説明すること。少なくとも専門科ごとの人数を明らかにすること。

⑷ 公務災害申請に上司が協力しない場合には直接基金支部が対応できるということが職員に十分周知されていないので、入職時に全職員に周知することを通達すること。

⑸ 基金本部審査会における口頭意見陳述について、発言しない代理人の出席を認めないことは明らかに不合理であるので運用を改めること。

⑹ 公務災害認定事例集を作成して公表すること(とくに公務上疾病)。

⑺ 石綿疾患について、厚生労働省『石綿ばくろ歴把握のための手引』に示された「石綿に関する作業・類型20 吹きつけ石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業(教員 その他)」や実際の認定事例件数を踏まえ、教員の中皮腫などを積極的に公務災害認定すること。

⑻ 新型コロナウイルスワクチン接種による疾病を発症した職員について、事実上接種が強く勧奨されていた状況をふまえて、原則、公務上認定すること。

⑼ 公務上疾病の調査にあまりにも時間を要している現状を踏まえて、具体的な改善策を明らかにすること。

⑽ 公務災害の認定基準改正等を議論する専門家のメンバーや議論の内容を開示すること(労災保険であれば通達改正時に必ず『専門検討会』が公開で開かれ、その報告書が出されることも多い)。

*個別係争事例に則した要請
 (茨城県支部宮本さん)
1 支部審査会や本部審査会が「医学経験則上」判断すると言いながら宮本さんの事案に関して支部審査会が照会した専門医の「不整脈原性心筋症であったため、体力錬成、訓練により致死性不整脈を誘発した」、「『本人の素因』よりも5年にわたる『訓練』(環境因子)の要因が十分大きいと言える」という意見を全く無視して、公務外決定とした理由を明らかにすること。

2 「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上の災害の認定について」(令和3年9月15日地基補第260号)を、宮本さんが裁判によって初めて公務上となったことを受けて、改正すること。具体的には最新の医学的知見に基づく意見を尊重することを明記すること。

*追加要求(5月28日)
⑴ 障害特別援護金と遺族特別援護金の金額の根拠を明らかにするとともに、その引き上げを検討すること。

交渉報告(酒井恭輔/関西労働者安全センター)

 7月10日、昨年に引き続き地方公務員災害補償基金本部(以下、基金本部)との交渉が行われた。予め3月22日付で全国労働安全衛生センター連絡会議議長名で要請書を基金に送付し、それに対する回答を当日受ける形で1時間半程度の意見交換を行った。基金本部からは昨年に引き続き、総務課の平本次長、企画課の佐藤課長、補償課から今回はじめて土橋次長と梅本係長が出席した。

 基金本部の役割は補償の実施であることから主体的に法改正を行うことはできないが、実施のうえで問題があることを認識してもらうため⑴、⑵の要請を行った。公務災害補償法の条文に従い、それぞれ運用されている旨の回答がされた。

 ⑶、⑼、⑽については、公務災害調査上の問題点を指摘した。迅速な救済が求められるところ、「公正な審査」の確保に主眼を置いた回答であった。時間がかかっても適正な審査に専心しているというのである。しかし問題は⑶のように、専門医を公開しないで公正性が担保されるのかを検証することなくこれまで運営されてきたことである。昨年も「基金本部専門医の名簿ならびに選任基準を開示すること」を要請したが、今年は「少なくとも専門科ごとの人数を明らかにすること」を加えた。それでも基金本部は、念仏を唱えるかのように「公正な審査の確保」と回答してくる。人数と公正性にどんな関係があるのか改めて尋ねたところ、後日、各科の人数について回答を得るに至った。

 ⑷、⑸、⑺、⑻は審査プロセスにおいて公務災害補償制度が労災補償制度に劣る点を指摘した。 ⑷は、例えば所属長がハラスメントの加害者である場合、所属長の確認がなくても請求できる原則を徹底するよう求めた。

 ⑺の石綿ばく露については、ばく露が推認できるものは救済対象となるべきところ、⑶とも関わるが、専門医が石綿ばく露の判断まで行うような歪んだ判断がなされてきている点を指摘した。

 ⑻の新型コロナワクチン接種被害については、昨年同様「医療従事者等以外の職員にかかる新型コロナワクチン接種の公務遂行性について」(令和4年3月7日事務連絡)中の「該当職種は、警察・消防等の公務独自のものであること」の拡大解釈である。基金は、労災認定基準に等しく判断している旨の回答をした。

 ⑸は審査会の運営について要請。少し方向性が違うが、本来幅を持たせて実施すべきところ、頑なに手引の文言にこだわっている実態を指摘した。基金本部には改めて全支部への周知徹底を行ってもらいたい。

 ⑹は、どのような疾病が公務上と認められるか収集されたいという主旨だが「迅速な審査を優先」との回答であった。
 以上、 昨年に引き続き、基金には、体制強化、事案の迅速処理や情報開示を要請した。

 先日、宮本さんの事案が7年以上かけ、訴訟で公務上と認められた。認定プロセスを素直になぞれば、審査請求時に公務上認定されるべき事案であったと思う。これだけ時間がかかったのは基金に問題があったと言える。 今回の交渉で、基金として宮本さんに対し謝罪すべきとの意見が出たが、これは単に謝罪させて留飲を下げるためではない。謝った以上責任を取れと言うつもりもない。宮本さんの件を今後どのように活かすのか基金に考えてほしいため謝罪をするよう申し入れたのである。

 認定事例集の作成と公表を要請したのも、ある基金支部で認定された疾病と公務との因果関係の判断について具体的な事例があれば、他の基金支部で発生した事案に関し、迅速な公務上外の判断に資すると考えるからだ。それすらできないのであれば、敗訴事案からフィードバックを得るようなことも到底できないだろう。
 全国の自治体労働者が安心して働ける環境を作るため、基金本部は、その処理能力や運営方法を改善して欲しい。そのためにも来年もぜひ全国センターとの交渉に臨んでもらいたい。
 

宮本藤子さんの要請と感想

 私は、2017年11月、勤務中の訓練により倒れ、殉職した息子・宮本竜徳(享年26歳)の母です。
 竜徳は、「一生、現場で人命救助に携わりたい」との強い信念のもと厳しい訓練に真摯に取り組んでおりました。その彼が、公務中の激しい体力錬成により突発的に致死性不整脈を引き起こして死亡したにも関わらず、当初、地方公務員災害補償基金は「基礎疾患による自然死」と判断し、公務災害と認定しませんでした。
 しかし、訓練の再現映像や医学的知見をもとに審査請求を続けた結果、2025年2月17日、東京地方裁判所は基金の判断を取り消し、息子の死を公務災害と認定する判決を下しました。この判決においては、訓練の強度が「アスリート並み」であることや、基金側が依頼した医師の「公務に起因した発症」との意見も重視されました。
 しかし、認定までに要した長期の時間、遺族が負った精神的・経済的負担は極めて大きく、公務災害補償制度の運用の在り方に大きな疑問を抱いております。
 つきましては以下の事項を強く要請いたします。
1、 東京地方裁判所の判決を真摯に受け止め、速やかに正式な謝罪と補償を実施してください。

2、 脳・心臓疾患の認定基準において、「訓練中の負荷」や現場の実態、医学的知見を正確に反映させ、形式的な判断を見直してください。

3、 同様の事案について、過去の不認定事例を再検証し、適切な補償がなされているかをご確認ください。

4、 判決が出てなお、補償が遅れることは遺族にとって耐えがたい苦しみとなります。公務災害と認定された以上、誠意ある対応を一日も早く実施してください。
 私の願いは、竜徳の死を無駄にせず、同じような悲劇を二度と繰り返さない社会にすることです。全国の若き消防士たちが安全に職務を全うできるよう公務災害補償制度の見直しと運用改善を心よりお願い申し上げます。

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 要請行動を通して改めて強く感じたのは、公務災害補償基金には謝罪と検証をセットで行い、制度の改善に本気で取り組んでもらわなければならないと思いました。
 遺族が声を上げなければ変わらないという現実はあまりに過酷であり、同じ思いを誰にもさせたくありません。公務災害補償制度が「被災者と遺族の生活と尊厳の回復」をきちんと果たせる制度になるよう、私は今後も声をあげ続けます。
 また、川本さんが基金に対し25年3月22日に正式な要請書を書面で提出しているのにもかかわらず、書面による正式な回答をしてくれないのはどうしてかなと思いました。公的な制度である以上、提出された文書に対しては正式な書面での回答がなされるべきです。誠実の対話の第一歩として、要請書に対する書面回答を強く求めたいです。「去年も同じような要請がありましたが・・・」なんて「よく言えるなぁ」と思いました。