清掃工場の放射能汚染に対する安全確保の取り組み
川崎市職員労働組合政策部 玉川雅之
2011年5月、下水道焼却汚泥からの放射線物質の検出が大きく報道された。次いでごみ焼却灰についても、地域によっては高濃度の数値が計測され、コンクリート材料としてのリサイクルや、埋立処分ができない状況となり、現在もその状況が続いている。当初、下水汚泥・ごみ焼却灰ともに「どのように処分できるのか」「できないならば、どのように管理すべきか」に対応が焦点化され、後に国からは「8000ベクレル/㎏以下であれば埋立処分できる」という基準が明らかにされたが、それらを管理する労働者の被ばく防止について、大きく取り上げられることはなかった。
2011年10月21日から、厚生労働省労働基準局に設置された「除染作業等に従事する労働者の放射線障害防止に関する専門家検討会」において、放射性物質が検出された下水汚泥・ごみ焼却灰を取り扱う労働者の安全衛生管理について議論が開始され、12月13日に最終報告の中で、「管理される線源」として電離放射線障害防止規則(電離則)を適用することが明らかにされた。一定の「ものさし」が明らかになったことから、安全衛生管理の議論も進むことが期待されるが、これまで体験したことがない労働環境を強いられてきた現場労働者からすれば、「将来にわたる健康障害リスクを推し量ることができない」という放射線に対する不安を抱え、さらに低線量被ばくに関する専門的な知見も不明確である中、ぬぐい去れない健康への不安感を持ったまま作業にあたっていることに変わりはない。また、安全作業を確保するための基礎である「放射線量の計測」「適切な記録」「作業手順の確立」という前提が、まったく確立されない中、手探りでの作業を現場で構築してきた経過や、現場作業当事者以外の対応の遅さから「作業者の安全・健康が真剣に考慮されていない」と感じざるを得ない状況が生まれてきた。
一方で、労働者側から明確な作業を確立するための指標が示すことができたかと言われれば、そもそも想定していない放射性廃棄物の取り扱いについて、対応が遅れてきたことは率直に反省すべき点だ。東京23区清掃一部事務組合が2011年10月1日に出した「放射線障害防止実施細則」を参考に、川崎市の焼却工場においても労使共同で、具体的な取組につながるよう遅ればせながら検討をしてきた。
1 川崎市の焼却工場を対象とした取組み
川崎市には4つの焼却工場がある。各施設でどのように実際の作業にあたっているのか、計測や記録がどうなっているのか、アンケート調査を実施した。
アンケート結果から、①保護具は、ダイオキシンやアスベスト対策を進めてきた経過から対応できている(内部被ばく防止に寄与している)、②作業手順について概ねどこの焼却場でも同じように行われているが、明確に統一されておらず、各施設間の情報交換によって同じような作業手順になっている、③作業環境における空間放射線量率の測定は、簡易的に行ったことはあるが「定期」「詳細」には行われていない、④記録書式が整備されていないことから、当日の作業者、空間放射線量、被ばく積算量記録の記録が残っていない、等の問題が明らかになった。
焼却工場を所管する環境局では、2011年4月からすでに産業医による放射線に関する学習会を複数回、職員向けに開催し、基礎的な知識を共有化する取り組みは行われていたが、職員の不安を取り除くには至っていなかった。あらためて、実地での作業状況を確認する必要を感じたことから労職センターの協力も得て、焼却灰保管作業の実地検証を実施した。
2 実地検証
実地検証では環境局担当者と現場職員、産業医、労働組合代表者などを交えて意見交換、空間放射線量率の測定、作業状況の確認などを行ってきた。保護具等については、ダイオキシン対策、アスベスト対策によって確保され、内部被ばくを防止できる体制が整っていた。問題となる外部被ばくに関しては、①焼却灰をいれたフレコンバックと作業者が密着する作業がある、②クレーンバケットから灰を落とすときの飛散状況から、灰の湿潤化の必要性、③肌の露出(ゴーグル、マスクで覆いきれない顔、首部)等が指摘され、必要となる測定のあり方についても議論が行われた。
また、雨どい等の局所的に空間放射線量率が高くなる場所の調査と掲示によって、線源からの距離をとる、接触時間を短縮するなど、労働者が自ら外部被ばく低減行動がとれる環境整備の必要性が提案されるなど、具体的な作業管理、作業内容と施設改善のヒントとなる議論ができたことは大きな収穫となった。
問題となる空間放射線量率については、当局側の計測値報告を待つ段階であるが、焼却灰の入ったフレコンバックから0cmでも1μSV/hに満たない数値であり、2m以上離れると、川崎市内で計測される一般的な空間放射線量率(0・05~0・08μSV/h)と差がなくなる状況や、作業時間が概ね1時間程度であることから、想定したよりも人体への影響は軽微ではないかとの印象である。しかし、前述したように当該の作業にあたる労働者の不安を数値的な根拠だけでなくすことはできないことから、引き続き労使による議論が必要であると同時に、できる限り早期に環境局全体としての作業管理手法の確立(ガイドライン化)が求められている。
また、実地検証では産業医から放射線に関する基礎知識のミニ学習会、現場からの放射線に関する疑問に答える時間も確保されるなど、リスクコミュニケーションを進めようという取り組みも行われている。
3 今後の取り組み
ごみ焼却施設でのフレコンバックへの焼却灰詰込作業を各場で検証しながら意見交換し、専門的な立場からの助言を参考にしつつ、より現場労働者の意見を取り入れた作業手順の確立に向け、今後も労使が一体となって作業者の安全確保が最優先される方針の確立に向けて取組を進めていきたい。また、保管や埋立に携わる職員、ごみ収集や焼却、輸送や中間処理に携わる公共サービスに携わる民間労働者の安全衛生確保に向けた取り組みも検証を進め、少しでも被ばくが低減される具体的な取り組みへとつなげていきたい。
4 補足
この間、現場職員からの要望や、当該の清掃支部の働き掛けもあり、ごみ焼却工場と埋立事業所に各1つであるが、個人積算線量計が配置され、環境局でも独自にシンチレーション式サーベイメーターを購入し、必要となる計測が行える体制が整えられてきている。