放射線管理手帳制度 放管手帳は法的根拠なし、線量管理は原子力事業者にお任せ
今年に入り、福島第一原発事故の緊急作業および原子力発電所以外の除染作業にあたる方々の放射線被ばく線量管理をしている「放射線管理手帳制度」に関して、政府、東京電力、ゼネコン、放射線影響協会(労働者の被ばく線量管理を一元的に管理する機関)の呆れるほどの杜撰な管理実態が次々と明らかにされつつある。
報道によれば、まず福島第一原発事故後の収束作業にあたった作業員2万人もの被ばく線量のデータを、東京電力は「放射線影響協会」にいまだに未提出である。また、事故の収束作業にあたった作業員の「放射線管理手帳」に記録されている数値よりも、実際に被ばくした線量の数値が高いことが厚労省の調査で判明した。
そして除染作業にいたっては、作業員へ「放射線管理手帳」が渡されてもいない。併せて、除染作業における被ばく線量の一元的な管理が全くできていなかった事などが、明らかにされた。
私たち全国労働安全衛生センター他団体が行って来た原発作業ならびに除染作業に関する省庁交渉(厚労省・経産省・文科省他)でも、この「放射線管理手帳制度」に関して問題視してきた。今回は、この「放射線管理手帳」の問題に関して振り返る。【鈴木江郎】
そもそも「放射線管理手帳制度」とは何か?
電力会社など原子力事業者と、ゼネコンなど元請事業者が、放射線影響協会(公益財団)を作り、そこで原子力発電所の定期点検作業などで働く一人ひとりの労働者の放射線被ばく線量を一元管理する仕組みが「放射線管理手帳制度」である。
作業員は、原子力発電所で働くにあたり「放射線管理手帳」を発行されるが、この放管手帳の管理は本人ではなく、事業者の手元で管理される。そして作業員が事業所を退職する際、放管手帳は本人に返却され、本人が次に働く事業所へ提出する。放管手帳には、従事した原子力施設名や本人の放射線被ばくの履歴などが記載される。記録された本人の被ばく線量などはまた、放射線影響協会によって中央で一元的に管理され、一人ひとりの放射線被ばく線量の累計値なども把握する仕組みとなっている。
今回の原発事故を受け、緊急作業はもとより除染作業にあたる作業員の被ばく管理も、放射線影響協会による「放管手帳制度」の一元管理下に置かれる事となった。
私たちは、この民間の原子力事業者にすべてお任せである現行の「放射線管理手帳制度」そのものが、法的根拠のない無責任な仕組みであり、従って線量管理が適切に行われないとして問題視してきた。
「放射線管理手帳」に法的根拠なし被ばく線量管理は原子力事業者任せ
-現行の放射線管理手帳制度を改善し、責任のあいまいな財団法人や事業主だけではなく、労働者本人が退職時のみならず常に被ばく線量記録を確認、保持できるようにすること。放射線管理手帳を法的な根拠をもった制度に改めること。
厚労省 放射線管理手帳については、放射線業務従事者の中央登録センターに管理を行うところがあります。福島第一原発の収束作業で被ばく作業をされる方は、電離則の適応対象にすると位置づけましたので、当然、原発労働者とかX線業務に従事する労働者と同様の管理が必要になります。それは同じレベルのものが必要ですので、焼却処理施設だから脱水処理の汚泥施設だからこれはやらなくて良いということはないと考えています。
一方で、放射線業務従事者の中央登録センターに管理を行うべきかどうかは、放射線管理手帳を発行するかどうかの話にもなりますし、ひいては被ばく線量の一元管理の話にも繋がるのかと思います。いずれにしても所管を超えてしまっているので難しいとお答えをさせてもらいます。
文科省 量子放射線研究推進室の岩岡です。まず、放射線管理手帳について簡単にご説明して、現在の法律との関係を説明させて頂きます。
放射線管理手帳は、原子力施設、特に原子力事業者の中における放射線業務従事者がそれぞれいろんな事業所を渡り歩いても放射線量を一元的に管理できるよう、放射線影響協会という財団法人が参画する事業者からお金を募って運営しています。全国共通の中央登録番号が放射線業務従事者に付番をされ、どこに行ってもこれまでの放射線記録がわかるよう手帳という形で発行されているというのが現在の制度です。
放射線管理手帳に法的根拠はあるんですか、無いんですか。まずそれを答えてください。
-文科省はもっとやらんといかんわけですよ。今の状況をみれば。それを言うてるんです。安全衛生法、原子炉等規正法なんか散々わかってます。放射線管理手帳に法的な根拠はあるんですか、無いんですか。まずそれを答えてください。
文科省 法的根拠はありません。
-無いでしょう。無いからあるようにしろという要求に対して、ちょっとだけかすっているような事をいちいち説明して、それが回答ですか。根拠を持った制度でやらないと意味がないでしょうと言ってるんですよ。
分かりやすく言えば、根拠が無いから管轄する役所がなくて、誰も答えられないのが今の現状なんですよ。確かに皆さん行政の人ですから法律があって始めてそれに沿って動く仕事ですよね。根拠が無いから管轄が無いんですよ。だからこの問題に対して誰も答えが無い。誰に言えばいいんですか。
さっき言った法律のところの部署が集まって対策チームでも作ってやるしかないですよ。あるいは総理大臣がやるのか、内閣がやるのか。皆さんプロなんだから、法的根拠を持たせなければいけないという認識にまず立ってもらいたいんです。
事業主団体任せじゃまずいでしょう、どう考えたって。ぜひ積極的にやって下さい。文科省がとりあえず。厚労省にも同じことは言ってます。法的根拠を持たすためにどうすれば良いのか、具体的に皆さん方も考えてください。それが仕事でしょう。お願いします。
-中央登録センターに電話で問い合わせしたが、放管手帳は遅れるが必ず発行する、すべての東電敷地内のデータは把握すると言っていた。
-これは30年前の放射線管理手帳です。当時は通産省が管轄していました。この中に除染作業もみなきっちり書いてあります。いま現場で働いている人や福島の除染作業をしてる人も放射線管理手帳を持っているんですか? この中にきっちり記録してあげないと、なんぼ線量が少ないからといってもこれを皆さんに渡すべきではないかと思います。
文科省 ご要望がありましたので、どうするかという事だと思いますけれども。関係省庁がまたありますので。いずれにしても要望は承りました。
下水処理施設内での被ばく作業と「放射線管理手帳」について
-原子力発電所で働く際の規則である「電離放射線障害防止規則」を、例えば東京における下水処理施設においても適用するということですか。
厚労省 そうです。職業被ばく限度ということになるので、基準としては一つしかありません。
-すると、放射線管理手帳等を用いた管理を同じく実施するのですか。
厚労省 東京都庁から聞いた話によると、職員に被ばくさせるのは難しいので、1ミリシーベルトを越えないレベルで管理をして、公衆被ばくの一般限度を越えないようにする形で管理したいと言っています。そういう意味では、電離則上の厳しい線量管理は、しなきゃいけないようなレベルにはしないと聞いています。
-手帳等を用いた管理をするのか、しないのか。
厚労省 放射線管理手帳は原子力施設、電力業者が行っている民間の制度で法令上の制度ではありません。適用するとかしないとかはございません。
緊急作業者の長期的健康管理の問題点と、石綿手帳なみの健康管理手帳の必要性について、次号で振り返る
以上の交渉で明らかなように、「放射線管理手帳制度」は、手帳そのものに法的根拠がなく、原子力事業者にお任せの、責任の所在があいまいな制度であった。また原子力発電所以外にも広がってしまった、除染作業などにおける放射線被ばく労働にも手帳管理の側面では法的な対応が出来ていないことも明らかになった。私たちが懸念していた、作業員のしっかりとした被ばく管理が出来ていないという事態が現実に起こっている。
私たちは冒頭に述べた「放射線管理手帳」に関する一連のずさんな管理実態をうけ、この問題を引き続き交渉していく。
次号では、今回の原発事故の緊急作業に従事した作業員の「長期的健康管理」を打ち出した政府方針の基準の高さ(50ミリシーベルト以上の被ばく)の問題点について、また長期的健康管理と言うのであれば、現行の「石綿健康管理手帳」のような石綿ばく露の職歴があれば全員がうけられる「被ばく健康管理手帳制度」を作り、被ばく労働者の健康管理をしっかりやっていくべきだという内容について振り返る。