被災住宅の公費解体時のアスベスト対策強化を求め長野市に要請書を提出
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長野県アスベスト対策センター事務局長 喜多英之
台風19号被災現場のアスベスト対策については本誌2月号で取り上げたが、その後、長野県と市から少し前進したという報告があった。3月10日には大気汚染防止法改正が閣議決定されたばかりだ。災害時の家屋解体作業でアスベスト被害を起こさないために私たちに何ができるのか、長野の現場から再度、寄稿していただいた。【池田】
長野県アスベスト対策センター(代表=鵜飼照喜・信州大学名誉教授)は、2月10日、台風19号によって被災した住宅の公費解体が始まることを見据え、家屋の建材等に含まれるアスベスト対策の強化を長野市に要請。テレビや新聞などマスコミでも取り上げられ、アスベストの危険性と飛散防止策の重要性についての認識が広がりました。
同センターは昨年12月23日に、被災地やがれき仮置場などの現地調査を行い、長野市の担当部局との意見交換を行ってきています。
意見交換受け、注意喚起と防塵マスクの配布を開始
長野市では、県アスベスト対策センターとの12月の意見交換の場での要望・提案を受け止め、今年2月に入って、被災住民・ボランティア・解体事業者向けそれぞれに、注意喚起と法令順守を周知するチラシを作成・配布するとともに、ボランティアセンターでは解体作業等に従事する場合にアスベスト対策用の防塵マスク(DS2)の無償配布を始めています。『広報ながの』4月号でも市民向けに注意喚起を促すと回答しました。
技術者団体と連携し石綿対策8項目を要請
今回の要請では、市のこうした取り組みを評価し踏まえつつも被災住民やボランティア、解体業などで働く労働者の命と健康を守るため改めてアスベストの飛散・ばく露防止の徹底、対策の強化を求めました。市からは、環境部長をはじめ環境保全温暖化対策課、公費解体対策室、ボランティアセンターを運営する市社会福祉協議会が出席しました。
要請事項は、①ボランティアに対する注意喚起の徹底と防塵マスクのつけ方の説明会の開催などさらに対策を徹底すること、②自費解体・公費解体が始まる中、解体業者に対し、特にレベル3とされる床や壁・天井などの建材に含まれるアスベストの取り扱いに関し、厚生労働省の「石綿障害予防規則」や「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」などの指針に沿って指導を徹底すること、③安全対策を怠る悪質業者を排除するためアスベスト対策を事業者選定条件に盛り込むこと、④専門的な技術者団体と連携し、被災家屋の解体前にアスベスト含有建材等の現地調査・チェックをすること、⑤がれき仮置場でアスベスト含有が懸念される「波型スレート」や建材などの「スレート板」などの分別、飛散防止策を徹底することなど8項目です。
公費解体の全家屋を市が調査
長野市の環境部長は、「要請事項や提案をしっかりと受け止め、アスベストによる健康被害が起きないよう法令順守と啓発を進めていきたい」との基本姿勢を示すとともに、公費解体では解体工事業協会と請負契約を締結し、仕様書にアスベスト対策を盛り込むとともに、専門的な調査者の同席のもとで対象となる全家屋を調査し、工事中においても適宜立ち入り調査を実施する考えを明らかにしました。しかしながら、自費解体では「民間対民間の契約」となることから調査対象から除外するとし、監視・チェックが行き届かないことも明らかになりました。自費解体においてもレベル1・レベル2のアスベスト事前調査及び飛散防止策は法的に義務化されていますから、民間事業者の工事を監督・監視する責任は長野市にあるはずです。回答の趣旨を確認・吟味することが必要です。
ボランティアによる解体作業を想定せず
災害ボランティアを受け入れてきたボランティアセンターは、ボランティア作業として「壁や床の除去などの解体作業を想定していなかった。アスベストに触れることはないものと考えていた」とする一方、事業者から寄付された防塵マスクを10月末から必要に応じ配布したとしました。しかし、実際は壁や床の建材の除去作業は行われています。ガレキの仮置場となっている長野市真島の「アクアパル千曲」(県の下水道最終処理場)に危険なスレート材が保管されていることからも明らかです。
アスベスト調査履歴を残す台帳作成を提案
センター側は、熊本地震の際、熊本市が公費解体でアスベストがしっかり分別されているか抜き打ち調査した事例を紹介し、抜き打ち検査の実施を提案。また、ボランティアや事業者の労働者に健康被害が生じた場合、いつどこでばく露したかなど追跡できるよう活動状況を把握できる台帳作成の必要性も指摘しました。
中央環境審議会の答申を上回る対策を
本年1月末にまとめられた中央環境審議会の「今後の石綿飛散防止の在り方について」の答申では、レベル3建材も特定剣突材料に追加し、作業基準の策定、事前調査の実施等、法の規制対象とすること、事前調査の方法を定め、一定の知見を有する者が調査を行うことなどを打ち出しました。災害時における自費解体・公費解体が始まる中、中央環境審議会の答申を踏まえた先見性ある取り組みが求められています。
今回の要請により長野市のアスベスト対策は前進しましたが、より十分な監視の下で公費解体や被災地でのボランティア作業が実施されるよう引き続き取り組みを進めたいと思います。災害時の家屋解体作業で、アスベストによる健康被害を一人も出さないために!