患者さんから労働相談を受けた場合の対応ポイント:鈴木剛(東京管理職ユニオン執行委員長/全国ユニオン会長)

2020年2月13日(木)
【MSWのための労災職業病講座】
講師:鈴木剛さん(東京管理職ユニオン執行委員長・全国ユニオン会長)
主催:神奈川労災職業病センター
共催:神奈川県医療ソーシャルワーカー協会

病気の背景としての職場の労働環境

社内の労働組合と社外のユニオン

 ご紹介頂きました東京管理職ユニオンという労働組合の委員長を務めています鈴木です。みなさんの病院にも労働組合があると思います。医労連とかヘルスケア労協とかですね。日赤病院とか済生会にも労働組合があり、職場の中にある労働組合のことを社内労組と言うのですが、私が関わっているユニオンは、会社あるいは病院の外にある労働組合のことを言います。東京管理職ユニオンには120社ぐらいの会社の従業員が組合員として入っています。会社の中に組合が無くてやむを得ず駆け込んでくる方もいれば、会社の中に組合はあるけれど、個人的なパワハラのことやセクハラのことは取り扱ってくれない、全体の賃金のことはやるけれども、個人のことはちょっとわからないと言われて来る方もいます。あと、職場の労働組合が、ちょっと言葉は悪いのですが、御用組合といって、経営者の方と一体になっていて、相談したら密告されて酷い目に遭ったとか、そういうケースもありますので、会社の外に独立して、誰でも入ることができる労働組合です。
 日本では法律上、社内の労働組合であっても、社外のユニオンであっても、権利、権限は変わりません。逆に言うと、その会社に縛られないので、今流の言葉で言いますと忖度をする必要がありませんので、その人のために交渉することができるので非常に数が増えています。会社の中の組合は組合員数がどんどん減っていて、日本全体では今、組合に入っている方はわずか16%から17%ぐらいです。つまり、100人に16~17人の方しか組合に入っていない状態なのです。一方で、1人でも入ることができるユニオンはどんどん増えています。これは今の時代に需要が合っているということになります。

全国各地にある1人でも入れる労働組合(ユニオン)

 実は、私どものユニオンに相談に来る方の多くの方がメンタル疾患、精神疾患になっておられます。つまり、労働問題について会社と交渉すればすべて解決するわけではなく、その方に適切な医療を提供することや、他にも借金しているとか夫婦仲が悪いとか、いわゆる不倫とか隠れてギャンブルをやっていて借金だらけになっている、あるいは父母の介護で参っているとか、お子さんが引きこもりで暴れているとか背景事情が結構あったりして複雑骨折のような状態になっていることが多いのです。だから労働組合の相談員にも、何でも万能で全部、労働で語ったり聞いたり解決しようとしないで、専門家と連携しなければならないということを常に私は言っています。私もできる限り、こういう機会があれば勉強のために出てきたいと思っています。
 事前に松田さん(神奈川県MSW協会)や鈴木さん(神奈川労災職業病センター)から伺ったところによりますと、やはり患者さんからの相談で、どうも背景に会社でのトラブル、職場でのトラブルを抱えていたというケースも多いようです。労働のトラブルで病状が悪化することは間違いなく多いと思います。その場合、ぜひ今日を機会に、私どもユニオンに遠慮なくご連絡いただければと思います。あるいは地域に、横浜ですと私たちの仲間の「よこはまシティユニオン」のような1人でも入れるユニオンが全国各地にあります。私は「全国ユニオン」というユニオンの連合体の代表も兼ねていますが、これよりもっと広い「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」というものがあり、約80組合が加盟して、2万人ぐらい組合員がいます。ドクターや皆さんのような有資格者と違って、労働組合には免許があるわけではないので、ものすごい実力差もあったりします。結構ハズレもありますので申し訳ないのですが、相談を受ける方の力量もあるのですが、継続して活動を頑張っているところを訪ねていただくと良いです。それから、私どもの上部団体は連合というところで、全国のホットラインを作っています。電話番号は0120-154-052(行こうよ連合に)で、沖縄から北海道まで、その都道府県の連合の個人相談を受けるホットラインにつながるようになっています。これも相談員の力の差は結構あります。こういう機会ですので私は何でも仲介しますので、松田さんや鈴木さん経由でも直でも結構ですのでご連絡いただければと思います。

私の経歴・自己紹介

 私は元々はテレビの人なんですね。昔の「ニュースステーション」の久米宏さん、「ザ・スクープ」の鳥越俊太郎さんのところでADという、まあ3日ぐらい徹夜をして地獄のような仕事をする、本当に酷いパワハラ職場にいた人です。その後ちょっと縁があって、協同組合という世界にいました。懐かしいですね。門司労災病院とか済生会病院、鎌倉の聖テレジア病院とかのメンテナンスをやっていました。協同組合は、働いている人が皆で出資し合って仕事を興すという、営利目的ではなく、生協の労働版みたいなところで、各地で仕事興しなどをしていました。ヘルパーステーションやデイサービスなどの運営もやって、私の相方はケアマネで、子ども食堂などをやっている人なので結構、病院とはご縁のあることを各地でやっていました。そして、たまたま派遣切りなどの問題があった頃に非正規の組合を作りました。そのうちいろんな縁があり最終的に、1人でも加入できる労働組合で日々相談を受けて、交渉して解決をするという仕事をしています。
 「管理職ユニオン」というのは、管理職でも入ることができるということで、一般の正社員でも非正規の方でも入れます。同じ事務所に「派遣ユニオン」という派遣に特化した組合や、水商売のお姉さん方の「キャバクラユニオン」などもあり、いろいろな方が相談に来れるようになっています。最近は、背中にしょって配達している、あのUber EATSの組合を立ち上げました。あの方たちは従業員、労働者じゃなく自営業者、要するに経営者扱いになので、労災にも加入できない、社会保険にも入れない状態です。トラブルや事故が相次いでいて、自費で治療しなくてはいけない状態で、そういった相談対応もやっています。
 私たちも、労働のことだけで会社と交渉しても解決しない、いろいろな専門家と連携することがとても大事だということ、それから一方的に断定をしない、相手の方のお話をしっかり聞いた上で対応することが重要だと思っています。

日本の労働法は非常に恵まれた法律

 相談に来た方には、このような「カルテ」を書いて頂きます。1時間位かかってもご自身に書いて頂いています。ご本人が書くので、どの程度整理できているかということや、逆にどれぐらい調子が悪いかという感じもわかります。その後、20~30分お話を聞いて問題を少し整理していくやり方をとっています。内容によってご本人が希望すれば労働組合に加入していただく。そのときに加入金と組合費を支払っていただいて、加入に必要な項目を読んでいただいて、労働組合の活動の際の注意ポイントなどについてご了解をいただいて、最短であればその日に会社に団体交渉を申し込みます。
 たった1人でも「団体交渉」という言い方になります。これが日本の法律上の特徴です。アメリカではタフト・ハートレー法という法律があり、職場の労働者の51%が組合にいないと交渉に応じる義務がないのです。日本の労働法は戦後GHQまさにアメリカが作った法律です。非常に変わった法律で、たった1人でも10万人の大企業でも、その交渉を拒否したら違法になります。非常に恵まれた法律です。なのでユニオンというものが発達してきたのです。ユニオンが無い時代も「合同労組」という形で、1人で入ることができる組合がありました。
 ということで直ちに交渉して、場合によっては団体交渉だけではなく、組合が一番強いのは、記者会見をしたり、会社にプレッシャーをかけることができる。私はテレビマンだったので記者会見は得意です。3月3日にアマゾンでメンタル疾患になって懲戒処分された男性の件で記者会見を持ちますのでご注目下さい。プレッシャーをかけたり抗議行動だとかは、個人でやると威力業務妨害や名誉毀損など違法になりますが、日本の場合、労働組合が正当な手続きをとれば合法です。ただ、会社の中の組合だと、お互い同僚だし、去年は部長が組合の委員長だったとかいうことも多いので忖度して、なかなかできない。その点、社外のユニオンの場合は、無理に空気を読まなくていいので、やる場合はやります。これはユニオンの特徴です。ただし、ご本人がやりたくないと言っているのに無理矢理やることは絶対しません。かえって体調が悪化することもありますので気をつけています。
 また、休職している人をなかなか復職させない会社は多いです。特にメンタル疾患は難しい。寛解ということで、要するに完治ではないわけで、働いていたらまた調子が悪くなってしまう。さらに会社内の人間関係がこじれた場合、特に規模が小さい職場だと逃げ道が無く、結局うまくいかない。こういうときに会社と交渉したり、協約といって契約書を取ったりしても、必ずしも解決しない場合があります。その点では、しっかりと適切な医療機関にかかる必要がある。ちゃんとしろよと会社に言っているだけでは問題は解決しないということは、僕らも感じているところです。

「労働者」なのかどうか問題

 職場のトラブルはどんな問題があるのかポイントを申し上げたいと思います。今日の資料にある、神奈川県が出している「労働手帳」は良くできています。困ったときのハンドブックで、コンパクトだけど詳しい。職場のトラブルって何があるでしょうか。ものすごくいっぱいあるわけですが、自分が若い時に入社してから、いろいろなライフステージの局面を経て最後に辞めるまで。あるいは途中で辞めて転職する。その時系列で考えて頂くと、なんとなくわかるのではと思います。
 最初は、その人が「労働者」なのかという問題。これは今大問題になっている、さっき言ったUber EATSの配達員。それから去年話題になったコンビニの店主。コンビニの経営者は社長と言っても実際は何の権限も無い。棚割といって、ヨーカ堂などだと入れる商品は決められていて経営者の裁量などは無いし、さらにすごく縛られた契約です。シフトが壊れないようにシフトには必ず家族を入れろとか。だから一家でやらなくてはいけない。ロイヤリティという上納金もものすごく高くて途中で辞めることができない。自らの命を絶たれる方が本当にたくさんいます。彼らは、社長といっても「名ばかり社長」「名ばかり経営者」で、自分の裁量は全然無いので、労働者じゃないかということで、コンビニの経営者、店主のユニオンを結成しました。これは今、論議が別れています。Uber EATSの配達員が配達中に怪我をした場合、労災保険が適用されない。若い人だと国民健康保険に未加入の人もいて、治療費の支払いもままならないことがあります。これは交渉を通して、社会保険に加入させることはいくつも成し遂げてきました。やっぱり入り口の問題は大事だと思います。逆に、無保険なので医療にかかれないと思っている若い人もものすごく多いです。

お相撲さん、芸能人、プロ野球選手

 このような労働者か否かについては三大判決があります。ひとつが国立劇場のオペラ歌手。もうひとつはINAXなどトイレ等の水回りのメンテナンスマン。そしてバイク便。この3つは、雇っている側は「労働者ではない、自営だ」と言いました。ところが、この3つはいずれも最高裁まで争って「労働者である」となりました。ポイントは「拘束」です。どこまで拘束されているかということです。それから報酬や時間。つまり、自営や請負であった場合のポイントは、自由に、納期までに、与えられたミッションを納品するということであり、家でやろうがスターバックスで仕事しようが自由なのが請負です。ところが事実上、場所が拘束されているとか、バイク便のように自分の裁量は無い場合は、事実上、拘束され、指揮命令下にあるわけだから労働者であるという考え方です。
 他にも重大なものがあります。去年、一昨年にあったのがお相撲さんです。これは労働者です。それから話題になったのはAKBグループや芸能人。山口真帆さんが被害に遭って結局辞めさせられるというので、彼女たちは委託や自営の扱いですが、これは労働者だろうと。それから吉本興業の芸人がよく「先月の給料5千円でした」とギャグで言っていますが、これは酷い話ですね。でも世論では、そういう夢を追う芸人は成功したらすごいからちょっと違うのではと思われていますが、アメリカは芸人や歌手、俳優はみんな労働組合員です。全米アクターズギルドという強力な労働組合があって、ジョージ・クルーニーやロバート・レッドフォードが委員長だったこともありました。きちんと組合に入ってメンバーシップをとらないとハリウッドや映画に出られない仕組みです。逆に言うと、小さい事務所でも大手でも、誰がマネージャーでも、制作費の何%以上のギャラは保障するというシステムで、売れなくても食べられるようにするのが組合の役割です。これは大事で、だからその産業が発展するわけです。僕はこれを目指したい。ぜひAKBに組合を、大相撲に組合を、プロレスに組合を。
 ご承知のように、プロ野球は組合があります。プロ野球選手会という労働組合で、若い方は知らないかもしれませんが、昔、ストライキをやりました。近鉄とオリックスが合併する話があって、当時はパ・リーグが人気無くて、合併して1球団減るとリストラが起きると。当時はヤクルトの古田さんが委員長で、12球団の2軍の選手を含め全員を説得してストライキに入った。素晴らしい取り組みで、これでリストラを防いだ。蛇足ですが、小栗旬が組合を作りたいと言っています。ファッション雑誌で、インタビュアーが聞いていないのに言っています。ぜひ会いたいのですが、ブロック固いですね。僕は娘がいるんですが、娘は、小栗旬くん組合だったらパパ死んでもいいって言ってます(笑)。

入社時の問題

 2番目が契約です。入社時の労働契約トラブルはめちゃくちゃ多い。内定取り消しとか拒否など若い人に多いですね。一時、氷河期に内定取り消し問題が表面化しましたが、闘って100万ぐらい払わせた大学生は結構います。内定したら労働契約は成立していますから、内定取り消しは解雇に準ずる状態です。内定はメールでも口頭でもある程度、黙示の契約で成り立ちます。「あなたは正式に採用です」と言ったりメールで送っていたらそうです。他社に行くのを打ち切ったり、決まっているのを断ったりしたら死活問題ですから、こういう相談は多いです。求人広告詐欺みたいなのもありますが、残念ながら、求人広告の段階では契約はまだ成立しないのです。求人広告の段階で多少違っていても、問題はあるけれども労働法上の問題は薄い。つまり、入社するときの雇い入れ通知書、雇用契約書がポイントです。求人広告の嘘は広告上とか職業斡旋法上の問題ですが、それで賠償かというと、そこは難しい。やっぱり入社時に契約書をしっかり確認しないといけない。でも、若い人だったら言えないですよね、雇ってもらいたいから。条件が違うじゃないですかと僕みたいに言ったら、絶対嫌われますからね。でも、このトラブルは死活問題であります。
 それから、試用期間もよくトラブルになります。試用期間というといつでも切っていいみたいなイメージがありますが、労働法上はただの解雇で、かなりアウトに近い。ただ、お試し期間上、留保権という、入社面談時のアピールとあまりにも違うとか、学歴や資格が違うとか、売り込みに比べてめちゃくちゃ動きが悪いとかだと一定、経営者側が、普通の完全採用よりは大目に見られるところがありますが、基本的には解雇と同様の扱いです。だから、会社は、試用期間と言えども自由に首が切れるわけではありません。

日本は解雇はしにくいけれど、解雇しまくっている

 これらを概括して、「日本は解雇はしにくいけれど、解雇しまくっている」と覚えておいて下さい。よくニュースなどで、竹中平蔵とかが「日本は首が切れない社会です」などと適当なことを言っていますが、それは半分合っていて半分間違っています。つまり、ご本人が腹をくくって裁判とか、あるいは組合に入って争ったらまず勝ちます。勝つのですが、自分の生活もあるし家族もいたりして、わざわざ時間とコストをかけて争う人が少ないのです。それと、どうやって争っていいかが分からない。学校では教えてくれない。弁護士に相談しようとしても、どの弁護士に頼んでいいのか分からない。労働基準監督署はあまり解雇のことは扱ってくれません。でも、いざ腹をくくったら、その解雇は有効か無効かといったら、だいたい無効になります。わかりやすいエピソードで2つの事件があります。「高知ラジオ放送事件」と「セガ・エンタープライゼス事件」。この2つで日本の解雇の水準が分かります。
 高知ラジオ放送事件は、昭和の頃、ラジオ放送のアナウンサーが2回寝坊して自分の番組に穴を開けました。なんとなくアウトっぽく感じますね。アナウンサーが1回ならず2回寝坊ということで解雇になりました。でも争った結果、解雇無効になりました。理由は、本人が反省していて、悪気があったわけじゃないと。普通の労働者と違って、マネージャーやプロデューサーがいて起こすことができるだろうと。損害も出ていない。ここが大事ですね。その日、その人は穴を開けたけれど、別のアナウンサーが番組をやっているから会社に損害が出ていない。従って、解雇するほどのことではないと。
 もうひとつは、有名なゲーム会社のセガ・エンタープライゼス事件。ある時期、営業マンについては成績表をつけて、成績の下から10%の人は解雇するという就業規則を作っていました。すごいですね。若い営業マンが、自分は下から10%ということは認めているけれど、争った結果、解雇無効になりました。就業規則にはそう書いてあるが、本人なりに努力しているし、悪意をもって会社を妨害したり足を引っ張ったりしたわけではないし、会社に損害は出ていないと。必ず下位10%の人がでるシステムはあまりに過酷だから就業規則も違法という判断になり、今はそういう就業規則になっていません。
 つまり、会社でルールで決めたからといって解雇は有効にならない。この2つの事件を見れば、だいたい普通に働いていれば解雇はまずあり得ないと考えていただいて結構です。

長時間労働の問題

 賃金の相談はいっぱいあります。給料が安い。給料が下がった。これは最低賃金を割っていたらアウトですね。非常に多いのは未払残業の問題で、これは非常に難しい。皆さんの医療機関も労働時間が長いですね。労働基準法では基本1日8時間週40時間です。組合もしくは過半数代表と36協定を結んだ場合はそれを超えて働かせることができ、例外としてフレックスや裁量労働制、「みなし」制度がある。さらに新しい「高度プロフェッショナル」という謎の制度も出てきましたが、労働時間はとにかく面倒くさくて難しいです。ただ、病院に来られる方、メンタル疾患の方は長時間労働の方が非常に多いです。なんとか国民全体で労働時間を短くできないものかと思いますが、健康との問題では非常に重大な問題になっていると思います。難しいなんとか制度はさておき、患者さんに「あなた、どれぐらい働いていたんですか」と聞くことはできますよね。一定の基準以上の長時間労働は労災保険が適用されるので、労働時間を聞いていただいて、必要であれば組合を通して会社と改善に向けて交渉することが大事だと思います。

人事評価制度PIP(ピップ)

 今すごく多いのは人事評価。学校みたいに評価付をして、その評価で間接的にいじめて辞めさせるケースが多い。外資系企業ではPIP(performance improvement plan パフォーマンス・インプルーブメント・プラン)業績改善計画というものが多い。2012年頃からいろんな会社の人がピップ、ピップと言ってきて、みんな自分の会社の独自制度だと思っていたけれど、アメリカから入ってきたものです。コンサルが新手の退職勧奨のシステムとして入れたのもので、これはやっぱり問題です。何が問題かと言うと、通常の業務だけではなく、性格とかチームワークについて「あや」をつけて、「あなたは改善の必要があります」とやる。すると、普通の業務とは別に宿題が与えられます。その宿題を2ヶ月とか3ヶ月の間にモニタリングと称してチェックして、「改善できなかったときは私は辞めます」とか「改善できなかったら私は降格を受け入れます」ということにサインさせられるのです。ちゃんとやっている会社もゼロではありませんが、僕のところに相談に来るケースは全部問題で、酷いです。僕みたいにべらべらしゃべる人は協調性が無いとか、逆におとなしい人は積極性に欠けるとか、そういう無間地獄みたいな感じです。同じ会社から、積極性に欠けるという人と、協調性が無いという人が来ました。最初からターゲットにしているだけです。これで悩んで病気になってしまう人は多いのです。

配転・出向・転籍の違いとトラブル

 労働条件の切り下げ、給料が下げられる。これもルールがあり、簡単にやってはいけません。賃金は勝手に下げられないものです。それから配転・出向・転籍。区別がつかない人が多いですが、「転籍」は別会社に移ることで、本人が蹴ってもよく、同意しなればできません。
 「配転」は日本では権限が強く、要するに転勤です。これは総合職で入ると受けなきゃいけない。職場が限定されていて「あなたはこの病院です」という契約を結んでいたら動かせないが、たいがい日本では総合職となっていて大型の医療法人でも異動させられます。かつて最高裁判決で、夫婦とも同じ会社で、子ども2人がまだ未成年なのに旦那は北海道方面、奥さんは九州方面に転勤を命じられ、最高裁まで争って無効とされました。平成になってようやく、親の介護があったら配転しないでもいいとなりましたが、未だに配転は強いです。
 「出向」はその中間です。元の会社に籍を残したまま別会社で働く。これは法律で唯一定めがあり、労働契約法で、濫用してはならないとなっています。私は3年間、コピー機のリコー(RICOH)と闘いました。リコーは2011年に1600人をリストラしました。首切りじゃなく退職勧奨。5回位面談をして追い込み、152人が抵抗しました。10%です。うち15人が僕の組合に来ました。どれだけ勇気出す人が少ないかということですが、この15人は出向させられて追い出し部屋に入れられましたが、裁判で無効の判決をとりました。なので、出向だからといって自由にはできない。できる限り本人の同意が必要だし、あまりに本人のキャリアとギャップのあることをやったらアウトです。

ダントツに多いハラスメントの相談

 それと似たのがハラスメントです。労働局でもダントツで多い相談で、パワハラあり、セクハラあり、マタハラあり。職場における優位性があれば、部下から上司に対するハラスメントも認められます。最近は学校現場のアカデミック・ハラスメント、お客さんからのカスタマー・ハラスメントがあります。カスタマー・ハラスメントは世界的には認められていますが日本では法律が無く、ようやく今度できますが不十分です。ハラスメントの争いは大変で、記録や証拠が無いと勝てないことがある。ただ、組合は、会社に対し、ハラスメント予防や対策の交渉ができるので、1人で抱えるより相談にきて下さい。
 それから休職・復職、育休・産休の問題。広島協同病院事件は有名で、妊娠・出産と関わることで降格させたり、子育ての時間を取ることを理由に降格させてはならないという判例が出ています。でも、この前、高裁で逆転負けしたマタハラ事件があり、今もせめぎ合っている最中です。介護や子育てを理由に賃金やキャリアを下げられるのは当然おかしいので、ぜひ相談して頂きたい。多くの方は悔しいという気持ちから相談に来られます。組合に入って会社と交渉するかは分らないけど、話を聞いてもらうだけでもスッとして気持ちが改善したという場合もあります。相談に来たら絶対に組合に入らなきゃいけないということはありません。

非正規の雇い止め、待遇の不平等

 企業秩序による処分問題も多い。会社は、やってはいけない事でがんじがらめ。これも狙い撃ちされる場合があります。普段は休み時間に会社のパソコンでちょっとネットサーフィンしても問題無いのに、いざターゲットにされた瞬間、「お前見てただろ」とやられる。営業マンの交通費のちょっと水増しとか普段は大目に見られてるけど、いざターゲットになった瞬間やられる。それ自体は悪いことなので黙るしかなくて辞めさせらる。こういうケースはきわどい交渉になります。
 そして辞めるときの相談。若い人ほど、辞めたいのに辞めさせてくれないという相談は多いです。「退職代行」などが今、流行っているが、高い金を払って頼まないほうが良いですよ。それだったら組合に入って交渉して残業代でも取るほうが良い。退職代行は非弁行為、違法行為でまずいです。でも、それぐらい困っている人が多いということです。辞めたいのに、「お前ふざけんな、人が足りないのに辞めていいと思ってるのかコノヤロー」みたいに言われると、もう辞められない。
 非正規の場合は、契約の雇い止めの相談が非常に多い。今は労働者の4割が非正規で、契約社員もいれば、派遣もいれば、アルバイト・パートもいれば、いわゆる雇用でもないフリーランス、請負、自営など多岐にわたります。これについても、一つ一つ法律を後から無理やりくっつけたので非常に対応が難しいです。組合や労働弁護士などプロフェッショナルなところにきちんと相談していただいたほうが良いです。非正規の方のすごく大事な問題は、待遇が同一ではないということです。同じ仕事をしているのに、給料が安い、ボーナスが無い、退職金が無い、OJTが無い。これはすごく屈辱的で、すごく悔しい。病みやすいです。だからしっかりと聞き取ってあげる必要があります。さらに、その非正規は女性が圧倒的に多いのです。

高齢者の労働問題

 あと、高齢の問題です。安倍晋三は70歳まで働けというふうに言ってるが、正社員で働かせるわけではない。フリーランス、自営、ボランティア的なものもオッケーということでますますトラブルが増える。昔は60歳以降で年金がもらえたから定年だったが、今は年金はもらえないのに59歳の時と同じ仕事をしているのに給料が半分とか、酷いところだと3割ぐらいになるというのがざらです。基本給を下げたことが裁判で認められてしまったのはハマキョウレックス裁判。長澤運輸裁判は最高裁まで争いました。59歳の時のトラックドライバーの仕事と定年後の60歳の仕事が同じで、下手すると、人手を取るため若い人は楽なコース、60歳過ぎた方がきついコースを回らされます。事故になりやすい狭い道とか遠い方とか。なのに給料はガーンと下げられた。これは残念ながら、基本給については下げるという社会通念があるという判決になった。一方で手当について、僕が交渉したあるバス会社は、金庫脱着手当というのがあって、バスでお金を入れるあの金庫を外すと手当がつく。金庫を脱着しているのに60歳を過ぎたからその手当が無くなった。これは勝ちました。当たり前ですよね、脱着してるのですから。この様に少しずつ前進しています。なので、基本給についても最高裁で確定しても争うというのが僕らの立場です。これは新しい問題です。高齢でも年金はもらえないし働かなきゃいけない。今までだとおじいちゃん、おばあちゃんと言っていた患者さんも、実は労働者であるという時代に入っています。これは労働問題だというふうに考えていただきたいと思います。

解雇と退職勧奨

 正社員の人は解雇の相談が多いです。ハラスメントは非正規・正規両方とも多い。さきほどの人事評価の相談もすごく多いです。このことを頭に入れて下さい。大事なところですが、退職勧奨は、やってもいいのです。どういう理由でも、会社が「会社が苦しいのであなた辞めてくれませんか?」「成績悪いのであなた辞めてくれませんか?」というのは違法ではありません、合法です。多くのサラリーマン、労働者は、「あなた辞めてくれませんか?」と言われて首になったと思う人が多いのですが、解雇と退職勧奨は全く違います。会社が退職勧奨するのは自由ですが、労働者が断ればいいだけなのです。「いや、私は辞めません」以上終了です。辞めませんと言ったのになおも「あなた辞めてくれませんか」としつこく言ったら、2回3回言ったら「退職強要」になります。これは違法です。だから最初のファーストコンタクトで断るということが大事なのです。これは組合に来ようが来まいが、組合だって会社の中にズカズカ入れませんから、ご本人がちゃんと断らないとダメです。あと、口頭だと訳わからないから書面で下さいということです。大事な話だから書面で下さいと。書面だったら解雇の場合は何月何日であなたは解雇と書かなきゃいけない。ところが「辞めて下さい」の場合ははっきりしないですよね。書面を出させれば、それが退職勧奨なのか、あるいは解雇なのか、はたまた全然違うのか、試しに言ってみたとかブラフだとかいうのが分かります。書面でもらって、わかる人に見せる。我々のところに持ってきてもらえれば、組合から書面を出します。お断りします、という書面を出せます。

若い人に多いブラック企業の問題

 若い人はブラック企業のパターンが多いです。ブラック企業とは、労働基準法を破って平気で人を潰すような会社です。抜き打ち検査をしたら、5000事業所のうち4000事業所が違法だった。組合があるのが20%弱なのでちょうど8割ですね。もちろん組合が機能していない会社もあると思いますが、あんまり動いていない組合でもあったほうがマシです。それ以外の会社はほとんど無法状態です。さっき言ったように解雇は争ったらほぼ勝ちますが、中小企業はガンガン解雇しています。「お前、明日から来なくていいよ」と平気でやっています。最近は、人材紹介会社やキャリアデザイン会社がグルになって辞めさせる酷いやり方があります。「あなたの隠された才能を見抜きます」といって知能テストみたいなのをいっぱいさせて、「結論が出ました。あなたはこの会社を辞めたほうがいいです」と。キャリアデザイン会社や人材紹介会社がやるとパワハラにならない、なりにくい。雇っている人じゃないから。上司じゃないから。そういう狡さもある。でも、僕らはこれは形を変えたパワハラだと主張しようと思っています。
 それから、皆さんの病院のドクターがそうじゃないことを祈っていますが、産業医がグルな場合もあります。会社のお医者さんが、「君、休んだほうがいいよ。もう辞めたほうがいいよ」と。本当に産業医からそういうふうに言われたケースがあります。

最近の働き方改革

 最後に、働き方改革という問題です。いま私は福生病院という福生市にある公立病院と交渉をしています。ある課長さんが事務長から罵声を浴びせられるなどのパワハラを受け、メンタル疾患になってしまったケースです。この病院には労働組合が無く、今まで有給休暇を10日とか消化していたのに、最近法律が変わったので5日しか取れませんと言って、看護師の有休を減らしたという、信じられないことをしている病院です。法律を正確に理解しないで、むしろ逆に悪用して不利益変更するということがあります。労働契約法という法律があって、労働条件は基本的に労働者の同意で変更するとなっています。例外で業務命令を発することができるとなっているので、納得できない場合はご相談いただきたいと思います。
 労働問題は非常に多様で様々ありますが、ざっと走ってお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。

質疑応答

質問:ユニオンに相談料金はかかるのですか?

鈴木:労働組合は、弁護士と違って、まったく法律の立て付けが違うので相談料とかは取ってはいけません。非弁行為つまり法律相談に関わることで事業をすることは禁じられていますので、相談料とかはありません。書面作成とか交渉料とかも取ってはいけません。取っていいのは組合費と加入金で、これで運営する助け合いの組織です。逆にもし、相談料を取ってユニオンを名乗っているところがあったら直ちに私にご連絡をいただければ撲滅しに行きます。本当にあるのですよ、相談料や交渉料をとっていたような変なところがありました。あったとしたら、それはまがい物であると考えて下さい。

質問:出張相談で病院に来て頂けるのでしょうか?

鈴木:相談は基本、来所して頂くのがほとんどだとは思います。でも、時々、ホットラインをやることがあります。例えば派遣切りがあったときなど、非正規の人に集中相談で、忘れもしない派遣村。覚えていらっしゃる方もあるでしょうが、あれは私どもが本部で、湯浅誠くんとかみんなでやりました。あの時は出張型で、病院ではないけれど日比谷公園を占領して、そこに医療関係の方も来ていただいて、炊き出しもして、健康相談や労働相談などもやったりしました。今言ったように、連携が深まれば、入院しているところとかに許可をいただければ、相談に、出張に行くというのも良いかもしれませんね。まだそういう例はないのですが、今後の課題として良いかもしれません。

質問:実際に解雇された後に相談しても大丈夫なのでしょうか?

鈴木:時効の問題で言うと、いま民法の改定があって3年や5年に延びるのですが、残業代だと2年の時効があります。極端な話、会社はもう辞めていて、辞めてから1年11ヶ月経った。それで組合に相談に来て、2年前の1ヶ月分の請求をすることは可能です。
 解雇の場合、解雇されてから来る人は割といます。相談が早いにこしたことはないです。早いほうが阻止できる。解雇された後に来ても、もちろんできます、大丈夫です。組合を通して解雇の有効・無効の白黒をつけるとすると、裁判も必要になってきます。そのときは、日本労働弁護団という労働組合や労働者しか弁護しない弁護士の全国ネットワークがあり、弁護士さんと重ねてやることも多いです。ただし、弁護士費用はご本人が払わないといけない。組合加入とは別に弁護士と契約しなければいけないのでお金がかかる。なのでできるだけ早く来ていただいたほうが良いですが、解雇されてからも相談は可能です。
 労働組合の団体交渉については、かなり後になっても交渉には応じないといけないです。パワハラは確か3年かと思います。実際、悔しいといって13年前のことを切々と訴えられたこともありました。さすがに交渉できないことはあるのですが、ただ時効を過ぎても私は結構、申し込みます。その人の思いを晴らすために。でも安請け合いはダメです。解決します、なんていうことは決して約束はできません。
 弁護士と違うユニオンの良さは、同じ被害に遭った人がいっぱいいるので、同じ被害者で月1回交流というか、お互いどういう酷い目に遭っているかを話して、同じサラリーマンの立場で相談しあう。場合によっては転職のアドバイスをもらったりとか。だいたい日本のサラリーマン、労働者はずーっと職場にいて、後は家に帰って寝るだけとか、さらに家事があって大変というので他の職場の人と出会えない。ユニオンに来ると、そういう人と出会えるので友達ができる。遊びにいったりとかの企画もやるので、後からでもウエルカムです。

質問:非正規職員の仕事について

鈴木:大事なテーマですね。労働組合の立場としては同一労働同一賃金、均等待遇を目指していくので、できる限り正規職員、正社員への採用に門戸を開くことが目標になるし、職場の中でも、意欲があって、力もあって、さらに生活上そうしたい人が正規職員になれるような仕組みを皆で要求していきます。実際に、広島電鉄では、運転士の人材不足で契約社員や非正規の人を増やしていったのですが、いろいろ問題になって、経営陣と組合とで侃々諤々議論して、ついに非正規をゼロにしました。正社員の給料・賃金カーブを相当抑えて、つまり労働組合側もかなり腹を痛めて、経営側も経営者や投資のお金をかなり我慢して、痛みを分け合い、その代わり、非正規の人は全員、正社員にしたのです。それで意欲をあげた。企業主導でも、イケア、みずほ銀行もそうしました。ちゃんとやれているケースがあるんです。だからすごい理想論ですが、できる限り派遣、非正規の人を正社員化する方向、正社員にする道筋や基準を作るようにするのが大事だと思います。派遣は代替措置。例えば妊娠・出産の休暇という限られた時期の中で、必ず終わる時期とか明確に募集の時にはっきりと限定をして、その役割というのをしっかりお互いに理解できるように書面で契約をする。

質問:病気で休職して、治った後に会社に戻るときになかなか復職できないという問題があります。

鈴木:これはいくつか判例が増えてきていて、相談も増えています。まずどれぐらい休めるのかは、会社の就業規則によって裁量が任されています。なので、必ず就業規則をチェックするように。わからなければ、わかる組合に持ってきていただきたいです。というのは、休職期間をどれぐらい設けなきゃいけないとはどこにも無いのです。大企業だと3年ぐらい休めたり、勤続期間が長いと結構長く休めたり、逆に小さい会社だと3ヶ月とか6ヶ月で自然退職、事実上の解雇になってしまう事も多いです。でも、就業規則なんて見ていないサラリーマンのほうが多い。だから気づかないうちに籍を失っていたとかあり得るのですが、これはまずい。ちゃんと就業規則を見せたのかという争い方はできるかもしれないけれど、結構不利になってしまう。
 それはなぜかというと2番目の話で、労働者が調子が悪くなった後、復職できるということの立証義務は労働者にあるのです。これは、良い悪いは別にして、今の日本の法律では労働者側が、自分は復帰できますということを、自分の信頼する主治医の診断書を添えて客観的に立証しなればならない。逆に言うと、復職に向かってのスケジュールを無理なく作って、ちゃんと主治医の判断を求めなくてはいけない。その上でトラブルになるのは、会社がその人に戻って欲しくないということで、さっき言った、産業医がダメと言うケースです。これはよく紛争になります。労働組合は主治医の判断に基づいて交渉します。厚生労働省の指針では、主治医と産業医の調整をして下さい、すりあわせをして下さいとしているので、そこでの争いになります。裁判においては、判断はケースバイケースになります。主治医の判断が採用される場合もあるし、産業医の判断が採用される場合もあります。
 3点目は、産業医も診断して復職可能とするが、会社が拒否する場合。これは結構あります。医者は良いと言っているが、ポストが無いよとか、あなたが来るともめるからとか、ちょっと心配だなという場合。これはかなり医学的に両方が立証していれば、ほぼ戻さなきゃいけない。だから交渉でしっかりとやって戻させるということになります。
 4点目は、完治ではなく寛解で、仕事上の配慮が必要だという場合。組合側も無理に戻させては大変と悩むことも多く、会社も悩んでいる。ご本人も辛い。復職後にどういう配慮をするかということは大事なテーマです。これは非常に大事で、主治医や産業医の診断書に、例えば労働時間について残業は無いようにとか、あるいは、加害があれば加害者を適切に異動させるなりの処分をする、あるいは、どっちもどっちの場合はお互いの机の位置とか配属の配慮が必要です。
 最近、僕が担当したケースではサントリーです。ここは立派な社内組合があるのにすごく体育会系な会社で、若い優秀な新婚の男性が上司の強烈な指導でメンタル疾患になってしまった。そして復職時に、その上司の横に座らせた。他の従業員に意見を聞いても、サントリー精神についていけないやつはダメなんだみたいな旧態依然とした会社です。僕は厳しく糾弾して、記者会見などもして、相当な賠償をさせましたが、やっぱりその配慮をしっかりやるということですね。この4つあたりがポイントだと思います。