三菱電機と三菱スペース・ソフトウェアはBさんの過労うつ病の責任を取れ!
労災認定に至る経過
Bさんは、宇宙関連の仕事がしたいという夢を実現すべく1998年に三菱スペース・ソフトウェア(以下、三菱SSという)に転職し、システムエンジニアとして働いていた。ところが2005年11月に三菱重工への出張業務で、月150時間を超える時間外労働を余儀なくされたことなどが原因で体調を崩し、翌2006年6月に「うつ病」と診断された。しばらく休んで同年12月に職場復帰したが、元の仕事を行うことはできず、2012年に総務課に配置転換された。そして2014年6月に再び休業を余儀なくされ、2016年4月末に休職期間満了で事実上の解雇となった。
Bさんが障害年金の受給手続きをしたところ、会社の産業医が主治医あての診断書に「過労が原因である」と書いていたことを知り、労災請求したところ、労働基準監督署は、Bさんのうつ病は上記の長時間労働が原因であると認めたが、遅くとも2010年夏頃には寛解しているとして不支給決定をした。到底納得できないBさんは弁護士に相談し、審査請求をするとともに、よこはまシティユニオンに加入。事実関係をきちんと知りたいと考えた。
監督署は、2010年の主治医のカルテに「『sleep good』や『仕事もOK』などの記載」があり寛解と判断したという。一方で主治医は、監督署からの意見書依頼に対して、(2010年当時)「副作用のため薬物変更。その後も好・不調の波があり、薬物療法を継続していたが、寛解と思われる状態には達していない」とはっきり答えている。Bさんにしてみれば、薬を飲んで睡眠を確保しなんとか働いている状態を、あっさり「寛解」と決めつけられては、治ろうとしている自分の努力を否定されたようなものだ。
2019年2月、残念ながら審査請求も棄却され、神奈川労働局労災保険審査官もBさんを救済しなかった。そして2020年3月、ついに労働保険審査会が不支給処分を取り消した。監督署の判断には医学的裏付けが認められず、症状の出現・安定状況を具体的に把握・認定することなく決定していると批判している。Bさんが治癒していたか否か等について精査した上で改めて処分すべきであるとしている。つまり、監督署の調査があまりにもずさんなのでやり直せということだ。
発症責任・雇用責任はどこに?「無給嘱託契約」って何?
ところでBさんの仕事は防衛関連機器システムの開発・設計・解析等のシステムエンジニアリング業務だったが、三菱SSに入社以来、2006年12月末までは、三菱電機鎌倉製作所と「無給嘱託契約」を結ばされていた。賃金を支払うのは三菱SSだが、日常の業務指示は三菱電機の社員から受けており、勤務時間や作業内容の報告も、両社にあげていた。これは偽装請負ないし違法派遣の疑いがある。
ちなみに上記の三菱重工での出張業務は、Bさん以外は全て三菱電機の社員。長時間労働の責任は、三菱SSよりむしろ三菱電機にあるのではないかと考えられる。
そこでユニオンは2017年6月に三菱SSと三菱電機の両社に団体交渉を要求。三菱電機は、当事者ではないとして団体交渉を拒否。また、「無給嘱託契約」については、「当社構内で機微な情報を扱う際に、機密保持の観点から情報を管理するためにこれらの者を『無給嘱託』と呼称したものであり、当社と無給嘱託との間において労働関係があるわけではありません」と回答。三菱SSも全く同様の回答をしているが、その契約書が存在するにもかかわらず資料提供すら拒んでいる。
Bさんは2020年2月に三菱SSに地位確認と損害賠償を、三菱電機に損害賠償を求める裁判を横浜地裁に提訴した。
三菱SSは労災を否定・ 三菱電機は団交を拒否
三菱SSは、団体交渉に応じたものの、Bさんのうつ病を労災と認めようとしていない。それどころか、団交では、発症前からBさんの仕事が「雑でいい加減だった」「やりたくないという感じが如実」などと誹謗中傷を繰り返した。「雑でいい加減」な労働者を、たった一人で、機微な情報を扱う他社の現場に行かせるであろうか。しかもその内容は防衛機密に関わる。ちなみに、報道された防衛省に対する過大請求にもBさんは関与させられていた。事実と異なる計上を指示するメールは読後破棄するように指示されたとのこと。そして、Bさんは当時の事実関係について、三菱SSではなく、三菱電機から事情聴取されたのである。
そこまで三菱電機の業務に携わっていたBさんのどこがいい加減だったのか、三菱SSに団交で具体的に尋ねても、肝心のことになると「覚えていない」「わからない」とはぐらかしてばかり。やはり三菱電機でなければ、Bさんの当時の仕事の内容は把握できていないのではないかと思われる。
上記の労働保険審査会の決定後、2020年4月、改めてユニオンが三菱SSに団体交渉を要求した。三菱SSは、コロナウィルス感染拡大にともなう緊急事態宣言が解除された後に検討して回答するとしている。また、三菱電機は、相変わらず団交を拒否し続けている。【川本】