「いじめ・ハラスメントほっとライン」から見えてきたもの

6月1~2日、全国安全センター(メンタルヘルス・ハラスメント対策局)が「いじめ・ハラスメントほっとライン」を実施した。大企業から中小企業まで、製造、建設、運輸、病院、福祉施設などなど、様々な職場から、中間管理職からパート、アルバイト、そして家族や知人などからも計118件の相談が寄せられた。内容はいずれも深刻で、一件の相談に30分~1時間近くかかることも。プライバシー等のこともあるので具体的な報告は差し控えざるを得ないが、今後の取り組みの方向や課題を提起するという趣旨でまとめる。【川本】

大企業にもまん延するハラスメント

ありとあらゆる職場から相談が寄せられた。大企業だから、自治体だから、教育現場なのに、という思い込みは「幻想」である。ご本人も含め、「一部上場の大企業なのに」という言い方をされる人が少なくない。確かに親族経営の横暴な社長や個人開業医などによるハラスメントの相談も目立つが、わかりやすい分、解決も容易だったりする。
むしろ大企業で「雇用の安定した」管理職が加害者で、新入社員やパートやアルバイトにしわ寄せがくる事例が多く、解決も困難である。また、正社員から非正規労働者へのハラスメントも多い一方、ベテランの非正規労働者から新入社員へのハラスメント、部下から中間管理職へのハラスメント、あるいは同僚に対するハラスメントも少なくない。そういう意味で、上司をはじめとする優越的立場からの「パワー」ハラスメント相談にのみ対応することを大企業にのみ義務付けた今回の法改正と施行の実効性を問わねばならない。

会社にも労働組合にも大きな不信感

残念ながら、多くのハラスメント被害者が退職を余儀なくされていることは事実である。更に残念なことに、「労働組合に相談したがダメだった」あるいは相談もせずに「御用労組だから無駄」という人も多い。丁寧に聞くと、職場にいる役員に少し話しただけで、然るべき人にきちんと相談していないことも少なくない。労働組合の仕組みや活動が組合員一人一人にまで理解されていないことが一因であろう。何よりもハラスメント問題をきちんと解決した実績をもっと労働組合が宣伝すべきである。
実はハラスメントの定義などはどうでもよくて、誰もが気持ちよく働ける職場を作ることはまさに労働組合の大きな課題である。労働組合のない職場からの相談も多い。今回協力してもらった札幌地域労組や連合福岡ユニオン、名古屋ふれあいユニオンに限らず、もっと多くの労働組合との連携が必要であることは言うまでもない。

医療・福祉職場には公的介入が重要

医療・福祉関係職場の相談が目立った。19年度の精神疾患の労災補償状況の発表でも、請求件数2060件中「医療、福祉」が426件と、次の製造業352件をはるかに上回る。絶対数が多いとはいえ精神疾患で労災請求する5人に1人が医療福祉関係者である。医療福祉職場では上意下達の傾向が強く、利用者に迷惑をかけまいとしたり、逆に利用者からの暴力を含むハラスメントも問題になっている。
毎年の労働基準監督署交渉でも話題になるが、労働法を知らない、労務管理がいいかげんな事業場が多い。一方で、収入の多くを補助金や公的保険からの支払いが占めており、国や自治体の指導に従わざるを得ず、法令順守意識は決して低くはない。公的介入があれば、状況はかなり改善するはずである。

来年は全国津々浦々でホットラインと対応を

職場のハラスメントを解決するためには労働組合に加入して交渉を進めるしかないケースが多い。ところが、遠方からの相談だと、その力を十分発揮できない。やはり相談者の地元の労働組合や労働問題に詳しい弁護士との連携が必要である。来年のホットラインでは、さらに多くの人たちの協力を得る必要がある。