神奈川県内12労働基準監督署と交渉

 今年も恒例の全労働基準監督署交渉を7月27日~8月6日にかけて行った。新型コロナウイルス感染拡大防止ということで、出席者の確認や消毒など、署側もこちら側も気を遣いながらではあったが、いつも通り、実り多い議論をすることができた。【川本】

ストレスチェック

 50人以上の労働者がいるという対象事業場数があいまいで正確な実施率は出せないが、年ごとに少しずつ増加しており、推測で9割近いようだ。
 その他の事も数字はあがっているが、その活用実態等は報告義務がないので把握していない。例えば、高ストレス者の面接指導を受ける割合が、なぜか100~299人の規模の事業場で大きい。理由は不明。数字しかわからないとはいえ、実施したが受けた人が1割という例もあったので、理由を尋ねるようにしているという監督署もあった。

SAT特別処理班

 精神疾患の労災申請については、横浜北、横浜南、厚木各署は全て特別処理班で調査。他署は、本人聴取と就業規則など文書取り寄せまでを署で行い、関係者聴取から復命書づくりまで特別処理班で。
 上記3署の精神疾患の決定件数58件で業務上が17件なので29・3%に上る一方で、他署は決定件数75件で業務上が12件なので、業務上率は16%。業務上率が1割以上低いというのはどう考えても不自然だ。
 局全体では決定件数133件で業務上29件で業務上率は21・8%にとどまり、5年前の36・2%から年々減少。全国平均32・1%を大きく下回る。労働時間やパワーハラスメントについての本人の訴えが、会社等の関係者聞き取りで覆っている、会社側主張に偏った事実認定になっている疑念が拭い去れない。

新型コロナ関連

 本省や局の指導に沿って対応している。労災補償についてはアスベスト認定事業場のように公開すべきだ。個人が特定されるというが、実はクラスタ―が発生した事業場や大企業の事例の多くがすでに報道されており、濃厚接触が疑われる人や知人・家族等で特定できる人は労災認定以前に認識しているはず。むしろそれが労災だと言う事をきちんと認識してもらった方が予防対策の面からもよい。

藤沢署

 提供された統計資料がカラーでグラフや図表を作成していて非常にわかりやすかった。
 いすゞ自動車の藤沢工場で新型コロナウイルス感染症の発症者が3人出たと会社が発表したが、監督署も担当者から事情を聞いたという。監督で事業場に行ったところ在宅勤務で担当者がいないこともあった。
 労災補償では、精神疾患17件の決定のうち、業務上認定はわずか2件(11・7%)と低すぎる。SATの弊害か。
 昨年は労働相談が増えたが、申告事案は減った。人手不足だったからか。

横浜北署

 労災事故が増えている。建設業や製造業も含めて東京オリンピック関連と思われる。4日未満の休業災害では派遣業が多い。管内に派遣会社が多く、派遣先の製造業などで労災事故が増加したため。
 労災補償では、精神疾患27件の決定のうち業務上認定は6件(22・2%)。
 一般の労働相談も非常に多い。交渉当日も順番を待つ人たちがいた。

横浜南署

 労災事故が増えている。小売業も大規模の所でも多い。各店舗の店長などを対象にした、まとまった研修などができないので苦慮している。
 精神疾患の決定件数は17件で、業務上認定は6件(35・2%)。
 労働相談も大きく増加。コロナ関連の相談も一気に増えた。解雇・雇い止めより手続き関係の相談が多かった。今からも増える可能性がある。

川崎北署

 精神疾患11件の決定のうち業務上認定は1件(9%)と、低すぎる。上肢障害は19件請求があり、多い。うち決定された17件全て業務上。
 4日以上の休業の死傷病報告書では「手指前腕の障害及び頸肩腕症候群」はたった2件。10件以上が療養ないし3日以下の休業というのも考えにくい。会社が労災と認めようとしない例が多いと思われる。

鶴見署

 担当者は数年ごとに代わるが、いつもカラーのグラフのわかりやすい資料を頂く。内容も経年的変化や鋭い分析が含まれていて非常に勉強になる。
 小売業、飲食店、社会福祉施設での事故がなかなか減らない。特に小売業の多店舗展開の場合は店長に権限が少なく、いわゆるエリアマネージャーや本社対応をお願いせざるを得ないこともある。
 精神疾患の6件の決定件数のうち業務上認定は2件(33・3%)。

横浜西署

 労災事故が一昨年の487件から昨年は679件と大幅に増加。とくに建設業が69件から97件に、保健衛生業が97件から138件と大きく増えている。50~60代の労働者の事故が多いようだが、業種や職種と年齢のクロス集計はしていないという。いわゆる自主点検活動は資料としては存在するが、まとめたり公表などはしていない。
 労災課長が体調不良で欠席(やむを得ない、無理しない方がいい)。精神疾患の9件の決定のうち業務上認定は2件(22・2%)。
 労働組合を紹介しない一方で、社会保険労務士と労働保険事務組合(労働組合が運営していることもある)だけを監督署が名前や連絡先を掲げているのは納得できないと改めて要請。厚労省の所管だという説明だが、広い意味では労働組合も医療機関も厚生労働省の所管である。納得できない。

相模原署

 社会福祉施設での労災事故が38件から74件と大幅に増加。事業場数や労働者数が大きく増えたわけではない。高齢や経験の浅い人が多く、熟練が形成されないことも要因の一つ。建設業でフルハーネス型安全帯が義務化されたことで転落・墜落災害は減った。それでも事故が起きるのは使わないケースで、安全教育や意識の問題もある。現場の声としては、もちろんそれは大切だが、納期に基づく事実上のノルマ(何時~何時までどこまでやるか)が課せられているので急いでやらざるを得ないことがある。
 精神疾患は7件の決定のうち業務上認定2件(28・5%)。建設業の腰痛労災の請求も報告も少な過ぎるのではないかという質問に対して、特別加入者の請求はよくあるとのこと。

厚木署

 労災が増加しており、しかも死亡災害が6件。屋根上の修繕作業中に屋根を踏み抜き墜落して亡くなる死亡災害が3年連続発生。発注・請負側双方に注意を促すチラシを作って対策を呼びかける。
 労災補償では、個別事案として回答を控えたが、医師と患者の信頼関係を壊す言動を労災担当者が行うことに厳重に抗議した。センターが医師意見書の内容をなぜ知っているのか、それを疑問視するような的外れな質問を受けたので、医師からの強い要請だと答える。むしろ労災担当者が被災者に対して医師意見書の内容を明かすことの方が問題ではないかと反論。
 精神疾患では、14件の決定のうち業務上認定は5件(35・7%)と、他署と比べて高い。

横須賀署

 労災が増加。とくに食料品製造、建設業で増加。昨年は減少したが今年に入ってから社会福祉事業での転倒災害が増加している。パートや外国人労働者も多いので安全教育などが重要だ。ただ、コロナの影響で、集団指導も実施困難。横須賀市のホームページへの掲載なども依頼している。
 ユニオンヨコスカから要望。労働者代表選出をめぐる労使トラブルが多い。交渉にも毎年参加した造船労働者が85歳でアスベスト労災で申請中。企業も御用労働組合も、長年何もしてこなかった。労基署は初心に帰って監督指導してもらいたい。

川崎南署

 死亡災害ゼロは史上初。ただし労災発生件数は増えた。相談による申告監督件数が減り、改正労基法等の周知を図ったこともあり、定期監督による違反率は38%と低いという説明。順法意識が高い事業場に改正法の周知を図るのもよいが、労基法を守っていないところにもしっかり改正労基法の周知も図ってもらいたい。
 例年のことだが、石綿解体除去工事の届け件数が他署と比べ非常に多い。とくに届け漏れが多いと考えられる建築物解体等作業届が193件であり、吹付け石綿の除去工事の計画届39件の数倍。隣の横浜南署では計画届は40件だが、解体作業届は93件。大企業が細かい工事ごとにきちんと届けを出しているという説明だったが、それも含めて積極的に情報発信することを要請。
 精神障害の決定件数は10件で、全て業務外。これはあまりにもおかしい。全国の署ごとの統計は発表されていないが、例えば、宮崎局や鹿児島局は10件の決定のうち業務上は2件。和歌山局は10件中3件が業務上だ。

小田原署

 昨年は労災が増加、死亡災害も1件。今年に入ってからも昨年と同様の発生件数で、しかも死亡災害が2件発生。食料品製造業が比率的に多く、やはり転倒災害が多い。旅館業でも転倒災害が目立つ。
 コロナ関連で言うと、いきなり監督に行って、反発を招いたこともあったという。仕事が激減している時に、法違反をチェックする監督官が来たら腹も立つのかもしれないが、仕方のないことだ。

平塚署

 安全課からの説明が非常に丁寧で資料も用意されていた(少し長かったけれど仕方がない)。昨年の労災発生件数は70件(13・1%)と大幅に減少。一昨年が急増したこともあるとはいえ、署長や安全衛生課長が文書を出したり、製造業では異例の取り組みである合同パトロールを実施するなどの対策を講じた。
 コンビニエンスストアで清掃作業中に洗剤を使って中毒症状をおこしたという療養補償請求が見受けられたので現場に調査に行った例もあるという。労働安全衛生法66条8の3で労働時間把握を適正に行っていないということでの是正勧告が目立つ。建設業、商業、保健衛生業など。労働時間把握などの対策がないままテレワークが広がる職場では、法違反申告運動が効果的ではないかと感じた。
 いじめ・いやがらせの相談が相変わらず多いが、上司からの場合は個別労使紛争解決制度などを紹介できるが、同僚間のことは対応が難しい。社会福祉施設での利用者からの「暴行」も目立つ。