建設業の職種ごとの石綿被害の実態(過去5年間の神奈川労働局の労災支給決定件数)

厚労省の石綿労災認定等事業場一覧表は不十分

 厚生労働省は毎年「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」を公表し、事業所名や事業所所在地に加え、「石綿ばく露作業状況」についても明記し、社会に対して石綿被害の注意喚起を促している。しかし、特に建設業に関して大きな問題がある。それは建設業の「石綿ばく露作業状況」の記載内容を見ると、ほとんど全ての事例が『建築現場の作業(建築現場における事務職を含めた全職種)』というあまりにも漠然とした大雑把な記載にとどまっている事である。建設業は多種多様な職種があり、職種ごとに作業内容が異なっているので、現状の発表方法では職種ごとの石綿被害状況の中身がまったく見えてこない。
 そこで当センターは、神奈川労働局および県下12労働基準監督署との交渉において、石綿による労災認定件数の職種別・疾病別の内訳を明らかにせよと要求してきた。職種別の内訳が分かれば、建設従事者の中でもどんな職種に石綿の被害が出ているか見えてくるし、同じ職種どうし、石綿被害がより身近になってくるので被害予防や健康管理などの注意喚起に繋がるからである。

神奈川局における職種別石綿労災認定件数

 さてそこでセンターの要求に応じて神奈川労働局は、職種別および疾病別の一覧表を作り交渉の場で提示するようになった。神奈川労働局によるまとめ方は①職種別支給決定件数、②疾病別・業種別の支給決定件数である。しかし①・②いずれも業種としては「建設業」「製造業」「運輸業」の3業種に限られていて、疾病別・業種別の疾病については肺がんと中皮腫の2つしか集計していない。
 では、神奈川労働局が集計した①・②それぞれの内容について見ていく。これはセンターが要求を始めた2015年度から直近の2019年度の5年間分の累計の労災支給決定件数(労災認定)の数字である。
 まずは、①建設業の職種別では「大工」が20件(5年間の建設業の労災認定145件のうち13・8%)で一番多い。続いて多い順に「電気工」19件(同13・1%)、「配管・設備工」18件(同12・4%)、「保温・断熱工」16件(同11%)、「解体工」15件(同10・3%)、「現場監督」13件(同9%)、「左官」11件(同7・6%)、「内装工」6件(同4・1%)、「耐火被覆吹付け」3件(同2・1%)、その他24件(同16・6%)。
 「大工」「電気工」「配管・設備工」「保温・断熱工」「解体工」「現場監督」「左官」など、5年間の累計認定件数が10件を超えた職種は、当センターにも相談が度々入る石綿ばく露が多い職種である(石綿ばく露作業の具体的な内容については「石綿ばく露歴把握のための手引」を参照。
 一方で「内装工(6件)」はあまり相談のない職種であり、どんな作業で石綿ばく露したのか確認していきたい。また、「その他(24件)」の職種の内訳と具体的な石綿ばく露作業についても、「その他」でまとめるのではなく、それぞれの職種を具体的に明らかにさせていきたい。例えば、「タイル工」がモルタル作りの際に石綿を混ぜる作業があるのだが、事業主は「タイル工」で労災認定は聞いた事がないといって事業主証明を拒否したケースがあった。これなどは典型例であるが、労災認定された具体的な職種をひとつひとつ明らかにすることが、同職種の職人に対する注意喚起につながっていく。

製造業の職種別の労災認定件数

 次に、①製造業の内訳では「船舶製造・修理」が5年間累計66件(製造業の労災認定147件のうち44・9%)と圧倒的に多い。次に、「製造・組立工」25件(同17%)、「金属加工・溶接工」18件(同12・2%)、「石綿含有製品製造工」17件(同11・6%)、「その他」21件(同14・3%)となっている。
 「船舶製造・修理」66件は造船所の多い神奈川県というだけでなく、私たちが造船労働者の石綿被害の掘り起しを進めてきた結果の表れでもあろう。一方で「石綿含有製品製造工」17件は案外少なく、神奈川県内にも石綿製造大手の「日本アスベスト(現ニチアス)」や「朝日石綿工業(現エーアンドエーマテリアル)」やその関連工場が多数存在していたことを考えると、まだまだ被害が埋もれていると考えられる。また製造業では工場建屋の天井や壁の石綿吹付けによるばく露もあり、「その他」21件の石綿ばく露作業の具体的な内容についても確認していきたい。
 ①運輸業については、全て「作業員」で5年間の累計が8件となっている。これは石綿(原綿ないし麻袋)の運搬作業を行う運転手や港湾荷役作業員だと考えられる。

疾病別・業種別の労災認定件数

 続いて、②疾病別・業種別の支給決定件数をみていく。建設業での5年間累計支給決定件数のうち肺がんは70件、中皮腫は73件。同様に製造業は肺がん66件、中皮腫83件、運輸業は肺がん3件、中皮腫5件、その他の事業は肺がん17件、中皮腫16件、全業種の合計は肺がん156件、中皮腫177件であった。
 石綿による肺がんの発症者は中皮腫の少なくとも2倍以上と言われているので、肺がんの石綿被害が相当数埋もれていることが分かる(全国的にも同様)。それでも神奈川県の建設業の肺がんの認定件数は中皮腫と同程度であり、これは特徴的と言えるだろう。建設組合の働きかけによるものなのか、石綿ばく露と喫煙は相乗効果で発がん率が高まるので、肺がん患者に喫煙歴があったとしても、しっかり労災認定に結びついていると言える。

建設業の職種別石綿被害実態を明らかにしたい

 以上が神奈川局の過去5年間の石綿労災の支給決定件数の内訳である。
 冒頭に書いたように特に建設業の職種別の石綿ばく露作業状況を明らかにしていくことは非常に重要である。本来であれば厚生労働省が「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」を作成する際の石綿ばく露作業の分類『建築現場の作業(建築現場における事務職を含めた全職種)』を改めて、職種別の分類項目を追加すれば良いのだが、私たちの度重なる要求にも関わらず一向に改善しない。
 次善策として、皆さまの都道府県の労働局にも職種別の統計を取るように働きかけて頂き、それを集約することで、建設業の職種ごとの石綿被害の実態を明らかにしていければと考える。【鈴木】