県営団地でアスベスト健康被害が発生

県営団地で、アスベスト健康被害が発生-居室、台所、浴室、便所の天井に吹き付け石綿

2016年4月、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会「神奈川支部」主催で、外科医の岡部和倫さん(山口宇部医療センター)を招き、胸膜中皮腫についての講演会を行った。横須賀共済病院の医師から紹介され、その講演会にKさん(女性)も参加した。Kさんは、1歳から22歳までに住んでいた県営団地の居室、台所、浴室、便所の天井にあった吹き付け石綿が原因で胸膜中皮腫を発症し、現在も療養中である。【鈴木江郎】

■突然の発症

Kさん(63年12月生)は、64年12月に新築の神奈川県営千丸台団地(横浜市保土ヶ谷区)に移り住んだ。後に弟が生まれ家族4人で暮らしたが、結婚を機に86年4月に横浜市内の他所に引っ越した。2人の子どもも授かり幸せな生活を営んでいた。
そんな平和な生活が、15年9月、胸膜中皮腫という診断を受けて一変した。当初通院していた横浜市民病院から横須賀共済病院を紹介され、胸膜切除剥皮術を受け(同術は「胸膜肺全摘術」と比較すると、肺そのものを温存するので術後の呼吸機能や生活の質は優れている)、化学療法を経て、現在も療養中である。

■患者と家族の会に入会

Kさんの胸膜中皮腫はアスベストばく露が原因だが、仕事によるものではないので労災保険は適用されず、石綿健康被害救済制度の適用を受けた(16年4月)。しかし給付水準は十分ではない。体調がすぐれない時にはタクシーで通院せざるを得ず、費用負担が生活に重く圧し掛かっていた。
そんな折、岡部医師の講演会に参加したKさんは、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(神奈川支部)に入会。「患者と家族の会」としても、Kさんの問題に取り組む事になった。

■団地の吹付石綿が原因

千丸台団地の間取りは居室(6畳、4畳半、3畳)、台所、浴室、便所。情報公開された「神奈川県有施設アスベスト管理台帳」によれば、その全部屋、台所、浴室、便所の天井に吹き付けアスベストがあった。3畳部屋を子供部屋としてKさんと弟が使っていたが、2段ベッドに登り、天井にある吹付石綿を指で押して指跡が付くのを楽しんでいたという。また、上階の部屋で子どもが走り回ると振動し、掃除の際には天井を箒で掃いていたという記憶があり、それによっても石綿が室内に飛散していたと考えられる。
千丸台団地は64年の新築時から天井に石綿の吹付施工をしていた(但し1棟~14棟の300戸超)。団地の所有・管理者である神奈川県によれば、この石綿吹付施工は、官庁営繕工事における技術基準の一つである庁舎仕上げ標準に従ったもの。神奈川県は88年の環境庁、厚生省の通知(「公共住宅の吹付けアスベストに係る当面の対策について」88年11月24日他)を受け、89年1月~3月に千丸台団地の石綿除去工事または石綿封じ込め工事を行った。K宅の石綿封じ込め工事は、Kさんが引っ越した後に行われた。つまりKさんは、生後間もない64年12月から86年4月の引越しまで(21年5ヶ月間)アスベストにばく露していたことになる。

■白石綿と青石綿

Kさんの母親は現在も同所で暮らしている。そこでK宅を訪れ、現在は封じ込めている吹付石綿を採取して専門の分析機関で検査したところ、石綿(クロシドライト、クリソタイル)含有あり、推定含有率50%以上(2種合わせて)という結果だった(分析者/東京労働安全衛生センター外山尚紀)。Kさんやご家族も天井の吹付は青っぽかったと記憶しており、K宅の天井にはクリソタイル(白石綿)だけでなくクロシドライト(青石綿)も含有した吹付石綿であったことが判明した。クロシドライト(青石綿)は石綿類の中で最も発がん性が高く、クリソタイル(白石綿)の500倍と言われている。国も04年の石綿全面禁止の前、95年に青石綿を禁止している(規制対象重量1%超含有)。また、吹付石綿は飛散性が高いことから危険度が高く、75年には吹付石綿を原則禁止にしている(規制対象重量5%超含有)。
■他の県営団地でも

神奈川県が情報開示した資料によれば、千丸台団地以外にも、吹付石綿が使用されていた神奈川県営団地は複数存在する。この他、神奈川県内に限ってみても、横浜市、川崎市等、他の自治体が管理している公共住宅があるし、民間の住宅を含めれば膨大な数の住居で吹付石綿が使用されており、日常的に暮らしている住宅でアスベストにばく露した住民は数知れない。国土交通省の「公共賃貸住宅における吹付けアスベスト調査」によれば、全国で277団地761棟の建物でアスベストの使用が確認されている。
■神奈川県への要求

千丸台団地においては、300戸を超える住宅に吹き付け石綿が存在していた事が神奈川県の情報開示によっても確認されている。Kさんの母親のように新築時から現在まで住んでいる人は少数で、多くは入れ替わり入居しているし、子供のいる世帯も多い。大雑把に考えても、千丸台団地だけで1000人以上の住民が長年にわたりアスベストにばく露した事は疑いようがない。Kさんも、他の団地住民のアスベスト疾患の発症を心配されている。中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会「神奈川支部」では、神奈川県に対して対策を要求した。
しかしながら神奈川県は、「神奈川県に責任は無いと考えているので、いずれも実施しない。現在の入居者に対しては注意喚起及び説明に努める」と、責任逃れの甚だ不十分な回答に終始している。

■住宅の吹付石綿による健康被害の発生は神奈川県だけではない

Kさんも、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会としても、この回答では到底納得できない。また、住宅の吹き付け石綿による健康被害の発生は神奈川県だけではなく、他の自治体でも存在していることが分かってきた。今後もこの問題に粘り強く取り組んでいく。ご協力をお願いしたい。