2021年度:神奈川12労働基準監督署&労働局交渉

12労働基準監督署&神奈川労働局交渉
 各署には事前に個別事案を除き全く同じ要求をしているが、署によって資料の量や質はもちろん、回答の説明の仕方にもけっこう違いがある。概ね前年の資料や回答の記録に沿った説明が多いが、それでも長年の経過で良くなった署もあれば、以前はもっとわかりやすかったのだけれど・・・と感じる署もある。いずれにせよ、年に1回(局は、春とあわせて2回)とはいえ、労働組合の皆さんと共に安全衛生などの状況を把握し、労働基準監督官ならびに労災行政担当者と、意見や情報の交換を行う意義は大きい。【川本】

新型コロナ労災と労災件数の増加について

 今年の大きな特徴は、ほぼ全ての監督署で労災職業病の発生件数が増加したことである。日本全体の数字も発表されていて、新型コロナ労災の発生(報告)件数が増えたからだと言われている。横浜西署はおそらくそうかもしれない。ところが、実はそれ以外でも建設業や第三次産業でも労災が増えている。
 これについて、「理由はよくわからない」とうつむく職員もいれば、「建設業ではやはり人手不足や安全や作業確認の時間を短縮したことも理由にあるのではないか」と積極的に分析した署もあった。少なくともコロナの前に行われていた、課題のある業者を集めた「集団指導」や安全大会といった行事も中止になっている。一方で製造業では発生件数が減っている署も少なくない。これについても「休業日数が増えたから」と明言する署もあれば、「なんともいえない」とする署もあった。
 そもそもコロナ労災は本省で一元的に発表すると言う理由?で、署や局独自では集計していない。つまりコロナ労災が増えたから労災件数が増えたのか、必ずしもそうではないのか、やろうと思えば分析できるのに少なくとも対外的にはしていないのだ。
 本省や労働局が言う事以外のことは極力「言うべきではない」と考える職員と、気が付いたことは積極的に分析して、労働者や使用者にも伝えようとする姿勢の差は大きい。後者の職員が増えることが望ましいことは言うまでもない。

新型コロナ労災以外の職業病も増えている

 局が7月に発行した労働衛生行政のあらましによると、職業性疾病の休業4日以上の被災労働者数は1126人と前年より510人増加した。その主な要因は新型コロナウイルス感染症による413人であり、それを除いても97人増加している。腰痛が多いといういつも通りの記述があるものの、それ以上の分析はない。署ごとにきちんと分析すべきである。

ストレスチェック制度の改善を

 センターは、ストレスチェック制度の導入に反対していた。患者探しと排除につながりかねないからだ。そして会社にストレスが高いと知られたくない人はストレスチェックを受けたくないし、受けても「嘘」の答えを書く、面接指導も受けないから意味がない。実際、会社が実施しても受けない人は2~3割に上る。受けても高ストレス者として面談指導を受けた人は全国でも神奈川でも0・4%。250人に1人だ。
 ストレスチェックの職場ごとの集団分析が多くの事業場で行われている。100人以上の規模だと9割を超える。ストレスチェック制度はやはり集団分析を義務化すべきである(現行は努力義務)。そうすれば今受けていない2~3割のうち、会社に自分のことは知られたくないが職場のストレスの大きさを会社に知らしめて改善して欲しい人は受けるようになるはずだ。

精神疾患の労災認定とSAT特別処理班

 労働基準監督署の職員は全員が労働基準監督官ではない。監督官が少ないことはしばしば報道されるが、労災保険給付業務を担う職員数も少な過ぎる。精神疾患の請求件数が増加したにも関わらず職員数は全く増えず、むしろ減らされてきた。一時期は監督官が労災保険給付業務を手伝っていたが、「働き方改革」で監督官の本来業務に引き上げてしまい、労災保険給付の担当職員は膨大な業務量を担うことになった。そこで神奈川労働局では、精神疾患の労災請求を専門的に対応する「SAT特別処理班」を配置して対応している。ところが、請求人の聴取は署で、その他関係者の聴取はSATで行うという分担が行われている。客観的証拠がある場合は良いが、労働時間にせよ、ハラスメントにせよ、客観的証拠が十分ではなく、労使の言い分が大きく異なる場合、同じ人が労使双方の言い分を聞かないのはおかしい。少なくとも請求人と会ったこともない職員が事実認定を行うのはどう考えてもおかしい。 この件については署も局の職員もやり取りを避けるので非常に残念であるが、反論が一切ないことだけは記しておきたい。

特別加入者(建設業が多い)の労災発生数は不明

 労災保険の特別加入制度には建設業の「一人親方」と呼ばれる人の多くが加入している。労災事故が起きた時、被災したのが労働者であれば、使用者が労働基準監督署に労働安全衛生法に基づき死傷病報告書の提出が義務付けられているが、被災者が一人親方であれば、報告する義務はない。例えば複数の人が被災した労災事故が報道された時、「**組社長の**さんと同社従業員の**さんが大けが」、また「**業**さんが大けが」と書かれていることがある。厚生労働省としては、2人の労災事故でもあくまでも労働者は1人、一人親方や社長1人だけなら全くカウントされないのだ。建設の場合、元請企業も労働組合も特別加入を勧めているし、ある監督署では実感として、以前よりも一人親方の特別加入者が多いという監督官もいた。
 建設現場の労災事故で被害者がたまたま社長や一人親方だったから、労災事故の数に入らないというはおかしい。予防対策を進める意味でも問題だ。ところがこれも、労災保険の徴収システムと給付システムがリンクしていないので集計は容易ではないという。

神奈川12労働基準監督署との交渉

川崎北
 以前は製造業が多かったが、小売業や社会福祉施設などが増加した地域である。労災も小売業、医療業、社会福祉施設が増加業種であり、「コロナ禍における影響を受けた業種での増加が目立っている」とまとめている。
 また、転倒災害の防止について、「問題意識」の課題が大きいとのこと。それは労働者に責任を転嫁するという趣旨ではなくて、いわゆる「特殊詐欺」と同じで、自分は「絶対大丈夫だ」「転倒などしない」と考えている人が被災するということらしい。川崎南署と連名のチラシを参照。

藤沢
 労災発生件数が577件から709件と大幅に増加。「病原体による疾病」は42件なので、その分だけではない。建設業ではコミュニケーション不足、社会福祉事業では人手不足も要因と思われる。コロナ労災については情報収集しているが、保健所も教えてくれないので、本人請求や使用者からの報告を待つしかない。

横浜西
 社会福祉施設が多いこともあり、679件から784件と労災発生件数が大幅に増えた。業務上疾病の発生状況を見れば、その原因がほぼコロナ労災であることは一目瞭然。「病原体による疾病」による休業件数が、19(平成31)年はゼロで、20(令和2)年は111件。
 じん肺法8条違反、じん肺健診を実施しないということで書類送検した例がある。非常に珍しいが、そういう悪質な会社もあるのだ。 横浜西署に限らないが、配布資料のグラフがカラーで非常に見やすくてありがたい。

相模原
 労災発生件数が598件から635件と大幅に増加。商業は今年になってから、保健衛生業は昨年からであるが、大幅に増えている。コロナだけではないと思うが、それも一つの原因ではないかと分析。

小田原
 昨年の労災発生件数は減ったが、死亡災害が3件(建設業2、製造業1)発生。さらに今年は労災発生件数が大幅に増加、死亡災害もすでに4件(建設業3、製造業1)発生している。大規模工事が増えていることも一因。
 余談だが、小田原署が駅そばの大きなビルに移転! 見晴らしのよい屋上には無料の足湯もあるが、交渉で対応した職員はその存在すら知らず、行ったこともないという。余裕がなさすぎるのでは?

横浜南
 他署と異なり、785件から719件と労災発生件数が減っている。社会福祉施設の絶対数が多くないことも一因かもしれないとのこと。一方で上肢障害の業務上支給件数が22件(業務外は1件)と多い。職種、作業内容はさまざまである。

鶴見
 伝統的にカラーの詳細な資料が配布され、非常にわかりやすい。表紙と目次だけ紹介する。やはり労災発生件数が212件から301件と激増し、10年以上前の水準に。局内ワーストの増加率だ。コロナ禍での増加について、同僚間のコミュニケーション不足が一つの要因ではないか、と分析。

厚木
 全体では労災発生件数は増えたが、製造業が減った。休業が多かったことが一因と思われる(食品製造業は微増)。
 腰痛で労災請求中の労働者が現場の状況を伝えた。部品を運搬し梱包する作業で、その重量が増えた。非災害性腰痛は医学的なことに調査が偏りがちだが、現場の実態が重要だ。

横須賀
 社会福祉施設での労災発生件数の増加が目立つ。対策のためチラシを配布したり横須賀市にホームページで掲載してもらうよう依頼している。労働相談が増加しており、対策のポイントについてチラシを作成し、法違反の有無に関わらず集団指導などで周知している。【10~11頁参照】

平塚
 労災発生件数は減少したが、今年になって増加しているので指導を強化したい。特に転倒災害や熱中症が増加。腰痛については、実は死ぬほど痛い、長期化する、再発も多いということから軽い問題ではないことを強調している。熱中症対策については、朝ご飯をしっかり食べることが重要だ。商業(小売業)における労働災害のチラシ参照。

川崎南
 労働相談件数も、申告(=法違反)件数も増えた。内容としては、年次有給休暇の相談が多かった。

横浜北
 労災発生件数が約100件増加した。とくに社会福祉施設では107件から172件と急増。コロナ労災も大きな要因ではないかと質問したが、明確な回答はなかった。
 働き方改革を進めるには、法違反に対する指導も重要だが、労働条件改善に向けた支援も必要になっているとのこと。

労働局
 コロナ労災について、きちんと集計して発表することを強く求めた。署で災害発生件数に基づく分析ができなくなっている。
 建設アスベスト訴訟の最高裁判決と、それに基づく給付制度がきちんと機能するようにしてもらいたい。とりわけ鶴見に本社のあるエーアンドエーマテリアルに拠出金を出すよう働きかけてもらいたい。ニチアスもそうだが被災者に対する姿勢そのものに問題がある。
 パンフレットや資料で元号と西暦を併記してもらいたい。市民にわかりやすくという視点が欠如しているのではないか。