Dさん過労死裁判 原告・証人尋問
裁判に至る経過
2015年10月10日朝、車両運行管理請負会社セーフティの役員付運転手のDさんは、担当する企業の役員宅の近くで待機中にハンドルに倒れかかっているのを発見され、病院に搬送されたが、心筋梗塞で亡くなられた。当初会社は、労災手続きも含めてきちんと対応すると言っていたが、不安を感じたご遺族がセンターに相談した。
役員は毎日のように夜は会食、休日もゴルフなどに出かけることもあり、Dさんの時間外労働が150時間を超える月もあった。一方で毎日の運行記録を会社に報告しており、その時間分の賃金が支払われていた。記録も存在して、会社が認めていることなどから、センターとしては、当然労災認定されるでしょうとアドバイスした。
ところが会社は、労働基準監督署の調査に対して、役員宅に行く時間は通勤時間のようなものだ、会社で待機している時間は全て労働時間とも言えないなどと主張。それを鵜呑みにしたのか、新宿労働基準監督署は、まさかの不支給決定。改めてセンターがご遺族の代理人となって、審査請求した結果、2017年3月に東京労働局労災保険審査官が原処分を取り消し、ようやく労災認定された。
その後、ご遺族と共に会社と事実関係の確認や職場改善、慰謝料などについて交渉を重ねたが誠意が感じられず、代理人間での交渉も合意に至らなかった。やむなくご遺族は、2018年10月、会社を相手取る民事損害賠償裁判を横浜地方裁判所に提訴した。
いよいよ証人尋問へ
会社は、裁判所でも相変わらず、待機時間は休憩時間である、長時間労働ではないからDさんの基礎疾患が原因であるなどの主張を繰り返してきた。今年に入ってからは裁判所から和解を勧告されて、協議が続いていたが不調に終わり、11月10日に証人調べをすることになった。Dさんは、とても家族を大切にするお人柄だったこともあり、毎日帰宅の予定をお連れ合いにメールで連絡を入れて、普段から仕事のことや自分の健康のことなども、詳細かつ積極的にお話されていた。Dさんが、どれだけ真面目にお仕事をされていたのかを、ぜひ聞いてほしい。多くのみなさんの傍聴をお願いしたい。
労災認定基準の改正とDさんの勤務状況
9月14日、厚生労働省が約20年ぶりに脳・心臓疾患の労災認定基準を改正した。過労死家族の会などは、過労死ラインと言われる時間外労働「1ヶ月前100時間」「2~6ヶ月間平均で月80時間」の見直しを要求してきたのであるが、残念ながら実現しなかった。
一方で改正のポイントとして、「これに近い」時間外労働と一定の「労働時間以外の負荷要因」がある場合には業務と発症との関係が強い、すなわち労災と認めることになった。その負荷要因として追加されたものとして、「休日のない連続勤務」、「勤務間インターバルが短い業務」、「その他事業場外における異動を伴う業務」、「心理的負荷を伴う業務」、「身体的負荷を伴う業務」があげられている。
ちなみにDさんは役員のゴルフなどで休日が少なく、深夜に帰宅して早朝に出勤する勤務間インターバルが短い勤務であった。さらに役員付運転手であるから当然ではあるが、事業場外における移動を伴い、心理的負荷も大きい。会社や当初の監督署の決定がいかに間違っているかが、今回の労災認定基準改正からも明らかだ。こうした勤務実態を把握しながら漫然と賃金を支払っていた会社の責任も明白である。【川本】