建設アスベスト訴訟で新たな集団訴訟が始まる
各地のセンターや患者団体の会員17名が原告
21年10月15日に横浜地方裁判所に建設アスベスト訴訟を集団提訴した。これは最高裁判所に国と石綿製品の建材メーカーの責任を認めさせた先行の全国の建設アスベスト集団訴訟(21年5月17日判決)に習い、アスベスト被害者の補償救済を更に広げていくための裁判である。原告17名(被災者15名)による集団訴訟であり、私たち神奈川労災職業病センターや中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会や中皮腫サポートキャラバン隊などの患者団体が支援し、14名の弁護士による東日本アスベスト被害救済弁護団(団長・野村和造弁護士)が訴訟代理人としてこの裁判を進めて行く。【鈴木】
国と建材メーカーの責任を認めた最高裁判決
建設作業によりアスベストばく露し健康被害を受けた建設従事者やその遺族が国と建材メーカーの責任を問う裁判が始まったのは2008年5月の首都圏建設アスベスト訴訟と同年6月の建設アスベスト神奈川訴訟である。それに続く形で大阪訴訟、京都訴訟、北海道訴訟、九州訴訟、東北訴訟など全国各地で同様の裁判が地方裁判所、高等裁判所で繰り広げられ、国や建材メーカーの責任を認める判決が積み重ねられてきた。そしてついに最初の提訴から13年後の2021年5月17日に、最高裁判所が国と建材メーカーの責任を認める判決を出すに至った。
最高裁判決では、建設の屋内作業者については1975(昭和50)年10月1日から2004(平成16)年9月30日までの間、事業主に対し、石綿粉じん防護として防塵マスクの着用を義務付けなかった事、石綿含有建材への警告表示を義務付けなかった事を違法とし、国の責任を認めた。石綿吹付け作業については国の責任の始期を1972(昭和47)年10月1日とした大阪高裁の判決も確定した。
また、最高裁判決では、建材メーカーの責任について、石綿が健康被害をもたらすという警告を石綿製品に表示すべきだったが、その義務を怠ったとしてその責任を認めた。さらに建材メーカーらによる共同不法行為責任を認めたことの意義も非常に大きい。建設従事者は長期にわたり、いくつもの現場で様々なメーカーの多種多様な石綿含有建材を使用してきたが、どの石綿建材が自分の健康被害をもたらしたかを特定することは著しく困難である。そこで当時、石綿建材販売の一定の市場シェアがあれば、その建材が現場で使用された可能性が相当程度あるとして、シェアに基づく共同不法行為責任を認めたのである。
更に、最高裁判決では、高等裁判所で意見が割れていた、労働者と認められない一人親方等に対する国の責任も認めた。一人親方等も建設現場で石綿粉じん作業に従事していたことは労働者と同じであり、労働者への保護規制は一人親方等へも間接的に及ぶのであるから、労働者同様に一人親方等の石綿被害の責任を認めたのである。
一方で、建設作業のうち屋根工事や外壁工事などの屋外作業による石綿被害については国の責任を認めない判決となった。屋外作業に従事する者に石綿被害が生じることを認識することができたとは言えない、という予見可能性を否定した。この屋外作業者の問題は今後に引き継がれ、なんとか打開しなければならない。
建設アスベスト給付金制度の創設
最高裁判決を受け、議員立法により建設アスベスト給付金制度が創設されることになった。この制度の対象者は、①1972(昭和47)年10月1日~1975(昭和50)年9月30日に石綿吹付け作業に係る建設業務または1975(昭和50)年10月1日~2004(平成16)年9月30日に一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務に従事し、②⑴中皮腫、⑵肺がん、⑶著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、⑷石綿肺(じん肺管理区分2~4)、⑸良性石綿胸水の石綿関連疾患にかかった、③労働者や一人親方・中小事業主(家族従事者等含む)。
対象となれば、①石綿肺管理2でじん肺合併症のない場合550万円、②石綿肺管理2でじん肺合併症のある場合700万円、③石綿肺管理3でじん肺合併症のない場合800万円、④石綿肺管理3でじん肺合併症のある場合950万円、⑤中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水の場合1150万円、⑥①及び③で死亡した場合1200万円、⑦②、④及び⑤で死亡した場合1300万円が給付される。支給開始は2021年6月16日から1年以内と定められたが、実質的には2022年度以降から給付申請事務が始まると想定される。
一方で最高裁判決で責任が確定したにも関わらず、建材メーカーはこの給付金制度に参加することをかたくなに拒み続けている。したがって建材メーカーについては引き続き裁判闘争をしながら責任を認めさせ、建材メーカーをこの給付金制度に参加させていく取り組みが重要である。
新たな建設アスベスト集団訴訟
さて、この度私たちが新たに提訴した建設アスベスト訴訟について説明する。まず、原告17名(被災者15名)は、ほとんどが建設組合に加入していない。最高裁判決を受けた先行の建設アスベスト訴訟は全国建設労働組合総連合(全建総連)傘下の建設組合が中心となって進めてきた訴訟なので、建設組合に加入していないと現実的には裁判への参加が困難となっていた。そこで2020年度から建設組合に未加入の建設従事者のための受け皿として集団訴訟を準備してきたのである。
原告のうち本人5名、遺族12名(被災者10名)。疾病別では、中皮腫8名、肺がん5名、石綿肺1名、びまん性胸膜肥厚1名。職種別では、大工、現場監督が各3名、電工、左官、とび解体、配管工、タイル工、ブロック工、空調設備工、家電取付等、劇団員が各1名。原告の居住地は東日本全域に及び、北海道、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県などから参加している。
弁護団は、東日本アスベスト被害救済弁護団と銘打ち、総勢14名の体制で裁判に臨む。弁護団長には住友アスベスト裁判などアスベスト裁判を草分け的に闘ってきた野村弁護士が就かれ、他に神奈川総合法律事務所の福田、嶋﨑、石渡、山岡、青柳弁護士、井上啓法律事務所の井上弁護士、横浜法律事務所の佐藤、辛、有野弁護士、東京の旬報法律事務所の蟹江、早田、鈴木、沼田弁護士が参加し、ベテラン、中堅、若手と揃ったとても頼もしい弁護団が構成された。
支援団体として、神奈川労災職業病センター、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会、中皮腫サポートキャラバン隊、全国労働安全衛生センター、関西労働者安全センター、神奈川建設ユニオン、アスベストユニオンなどがこの集団訴訟を支えていく。
被告建材メーカーと劇団員の提訴
裁判の内容は基本的には最高裁判決を踏まえて検討してきたが、前述のとおり国は新しい給付金制度を創設するので、その給付金制度が確実に給付されるとは言えない原告2名は引き続き国を被告とした。そして原告すべてが建材メーカーを被告として訴えた。訴えた建材メーカーは15社で、AGC㈱、㈱エーアンドエーマテリアル、㈱クボタ、神島化学工業㈱、新日鉄住金化学㈱、大建工業㈱、太平洋セメント㈱、ナイガイ㈱、ニチアス㈱、ニチハ㈱、日東紡績㈱、日本インシュレーション㈱、㈱バルカー、㈱ノザワ、㈱エム・エム・ケイ。原告の職種と被告建材メーカーとの対照表は上表の通り。今回被告とした建材メーカー以外にも石綿により利益を得てきた企業はたくさんあるので、裁判において企業責任を追及しながら、企業の給付金制度への参加を迫っていきたい。
また、私たちの裁判の意義の一つに、劇団員遺族の原告が国と建材メーカーを訴えていることがある。劇団員と言っても、公演準備のため学校の体育館や市民会館の天井裏で、照明機材の取り付けのため天井パネルに穴を開けたり、鉄骨に照明機材を取り付けるなど行っており、これらの作業で電工同様に石綿ばく露していたのである。この原告のように職種としては建設関係ではなくても、従事した作業が建設業務である場合についても国や建材メーカーの責任を認めさせ、建設業以外でも多く広がるアスベスト被害の補償の間口を広げる取り組みにつなげて行きたい。
裁判の第1回弁論期日は22年1月21日(金)10時半~と決まった。建材メーカーの抵抗は根強いと思われる。多くの方の支援を得ながら裁判に勝利し、アスベスト被害補償の取り組みを進めていきたいと考えるので、傍聴参加などご協力をよろしくお願い致します。