元保健所職員による新型コロナウイルス感染症 奮闘記 その1
社労士/行政書士/ファイナンシャル・プランナー事務所
JFパートナーズ 代表 森田 洋郎
はじめまして。この度、横浜市戸塚区で事務所を開設しました。JFパートナーズは一人ひとりのお悩みに寄り添って、専門士業として丁寧かつ依頼者目線第一でサービスを行います。また、難しいことを分かり易く説明し、納得の上で解決に向かっていくプロセスを大切にしています。
私は横須賀市の保健所に30年間勤務し、最後の2年間は新型コロナウイルス感染症の対応で、市民の皆さまからのご相談に対応してまいりました。不安な時間を一人で悩まずに、どうぞ一歩を踏み出しましょう。
このコラムを書いているのは22年7月25日ですが、新型コロナウイルス感染症の第7波の勢いは増す一方で、先週の状況は全国で20万人を超え最高値を毎日更新しています。ところが今朝のニュースでは、3年ぶりに行動制限がない夏休みがスタートしたことで、観光地では大勢の賑わいを見せている様子が流れていました。保健所職員の率直な感想は、若い方が遊びに行ってちょっと熱が出たからと言って、何でもかんでも保健所に相談するのは如何なものか、と感じているでしょう。保健所の電話が鳴りやまなくなり、なかなか繋がらない、休日夜間診療所には発熱者の行列が出来ていて何時間も待たされるという現象はある程度予想出来る事です。保健所や医療機関の現場は、政府方針の帰結を現在直接的に被ってしまっていて、具合の悪い患者さんが不安になってしまうのも無理のないことです。
この度、神奈川労災職業病センターから、保健所の奮闘記を書いてみないかとお話をいただき、私が経験した保健所での出来事を記すことによって将来何らかのヒントになればと思い、コラムという形に残そうと思います。愚痴りたいことも一杯ありますが、単なる愚痴で終わらないように、書き始めたいと思います。
はじめに
このコラムをスタートするにあたり、簡単な自己紹介をしておきます。私は横須賀市保健所を22年3月末で退職しました。定年1年前の退職でしたが、コロナ対応で疲れ切ってしまった、という事ではなく、タイミングとして退職が少し早かっただけです。ですが、約2年間のコロナ対応での残業時間は、市役所生活38年の中で飛びぬけて一番多いものでした。その反動でしょうか、今は退職して次の仕事に向けた準備と称し、かなりのんびりした生活を送っています。
保健所での主な業務は、病院や診療所、薬局の許認可をする担当でした。所謂「医療監視員」「薬事監視員」というお堅い仕事です。保健所もいろいろな仕事があり、結核などに代表する感染症業務、難病患者さんの事務手続き、心の病を患う方への相談等、直接人に対する仕事を対人サービス、病院とか飲食店、床屋さん等、事業者に対して保健衛生上の監督をする仕事を対物サービスと呼びます。私は対物サービスでしたので、事業者は私に対して指導内容に異議は申されることはあっても、最終的には保健所として医療法なりの法解釈を説明すれば、あまり時間をかけず指導に沿って動いていただけます。そのかわり法解釈論をかなり勉強しなければならないということになりますが、典型的なお役所仕事と言えると思います。
ところが、対人サービスの場合は、法の定めがあってもその方の生活というものがあって、そんなことは出来ないという話になります。出来ないなら仕方がない、とそのままにしておくと、その方の身体は状態が悪くなってしまうことが多いのです。そこで時間があれば相談の中で、ではこういうやり方はどうですか?という話しになるのですが、その対象人数が多いと相談を聞くだけで時間がかかり、次から次へと相談に追われるという業務になってしまいます。どうしても高齢化や社会状況から、人口は減っているものの、保健所にご相談される方は増加傾向となります。一方、対物の事業者は横ばいからややマイナスです。
このように、対人と対物サービスは趣がかなり異なる業務という事になります。当時横須賀市の保健所で、感染症の相談を直接受ける担当(保健師等)は、4名程度しかおりませんでした。様々な資格を持つ医療職が保健所には配置されてはいますが、コロナウイルス感染症の専門家はそんなにも少ないという事です。そのような中で、新型コロナウイルス感染症の対応が始まりました。
新型コロナウイルス感染症の保健所業務
新型コロナウイルス感染症は国際的な問題としてスタートしたので、発生が1件もない時からかなりの緊張感が保健所には漂っていました。当初は、船関係の感染者が市内病院に入院したことから始まり、次に海外旅行者から一般市民の1例目が発見されました。1例目の方が受診した診療所や薬局への対応で、診療所の医師は濃厚接触者となるので診療所は10日間閉鎖しなければならないのではないかという議論が保健所内で行われ、慣れない者どおしが試行錯誤していた印象が強く残っています。
保健所の業務は大きく分けて、以下のとおりに分類できます。
まず、コロナが流行しているので市民の皆さんに気を付けましょうというところとして、①不安な市民に対し電話での相談に応じ、必要な方にPCR検査をしてもらうという相談部門(横須賀市帰国者接触者相談センター)。
次に、陽性となったので、②その方がどの様な経路で感染したのか、そして感染を広げないために、濃厚接触者等にPCR検査を実施していただくようご案内。そして本人について、入院か施設への入所か、自宅療養で大丈夫かという処遇決定等、積極的疫学調査をする疫学調査部門。
本人の処遇により、③入院勧告書(入院する人全員)、就業制限通知書(陽性者全員)、もう自由になりましたという就業制限解除通知書(陽性者全員)の、書類送付事務としての勧告部門。送付書類はケースによって、ご本人から保険金請求や労災給付等の手続きのための、療養証明書の発行、本人の取得によって入院費用の負担額が変わるため、入院者には世帯所得調査関係書類等多岐に渡ります。
そして、県や国に対し陽性患者数等を報告したり、県や国からのメールでの通知や指示を確認したり、横須賀市のホームページにコロナの情報をアップデートしたり、そして医療機関から報告が上がってくる陽性患者情報を確認し、調査等に流していくという裏方作業があります。
このように、新型コロナウイルス感染症であっても、感染症法の第2類相当という決まりの中で、ひとり一人の陽性患者に行う対応は一定の決まりがあり、それに沿わないとなりません。しかも前段に申し上げた通り、本人の処遇等を決めるのは、家族構成や年齢、基礎疾患等様々な要因をトータルして決定すべきであり、各患者さんへのオーダーメードな対人サービスが一番求められる場面なのです。しかし現実は余りにも数が多すぎて、という実態は否めません。
私はほぼ全ての部門を経験してきましたので、次回以降は部門ごとにご紹介いたします。(つづく)