横浜地裁が「公務上」と判断!男子バスケ部を指導中に負傷した女性高校教師Aさん

 10月5日、男子バスケットボール部の実践指導中に「左膝前十字靭帯断裂」と「左膝内側半月板損傷」のけがをした県立高校の女性教員が、地方公務員災害補償基金神奈川県支部(以下「基金」という)の公務外決定の取り消しを求めていた訴訟で、横浜地方裁判所が処分取り消し、公務上の判決を言い渡した。不当にも基金は控訴したため長い闘いはさらに続くこととなったが、これまでの経過と判決の概要を解説する。【川本】

基金のひどい公務外理由

 6年前の2016年6月、県立高校の体育教員Aさんは、男子バスケットボール部の顧問としてディフェンダーとして参加する形で指導を行った。その時に膝を痛め、「左膝前十字靭帯断裂」「左膝内側半月板損傷」の大けがを負った。実は14年8月に前任校でハードルの実技研修中に膝を痛めて医師にかかり、「左膝外側側副靭帯損傷」と診断されたことがあり、それもあわせて公務災害申請した。

 17年3月、基金は14年の災害については公務上だが診察当日で治ゆ、16年の災害については公務外と認定した。Aさんは高等学校教職員組合に相談し、組合を通じてセンターにも相談があった。基金の杜撰な調査と決定の相談は全国各地から多数寄せられている。センターとしては訴訟も視野に入れつつ弁護士と一緒に取り組むことになった。

 基金支部の公務外理由は大きく分けて2つ。①Aさんは元々膝を痛めていた。②16年災害時の動作は、日常動作と同じ程度のもの。

 Aさんは、小学校から高校時代までバスケットボールをしていたが、大きなけがをしたことはなく、社会人になってからも膝を痛めたことはなかった。14年の事故以降、和式トイレでしゃがんだ時に膝崩れを起こすようになったが、特に日常生活に問題はなく、体育教員として働いてきた。

 日常生活で前十字靭帯断裂や半月板損傷を引き起こすことなどおおよそ考えられず、スポーツでの接触、ジャンプや停止、急な方向転換等が原因となることは広く知られている。当時30代半ばの女性のAさんが男子高校生の練習相手になって無理な動作によって発症したことは明らか。主治医自ら代理人となり、基金支部審査会、基金本部審査会では医学的証拠等も提出した。ところが、基金は、前十字靭帯断裂等が14年災害の前に発症していた、部活の練習指導が日常生活の動作と変わらないという理由で公務外と決定し続けた。

明快な裁判所の判断

 裁判所は基金の主張を明確に否定し、Aさんや主治医の主張を採用した。
 まず、前十字靭帯断裂は「スポーツにおける非接触型の損傷が多く、バレーボール、バスケットボール、サッカーなどの競技においてジャンプの着地時や急な停止、方向転換などで受傷するものである」とした。Aさんの16年災害は、「急激な体重移動や方向転換を伴うものであって」「典型的な受傷態様である」と判断。

 そして、膝前十字靭帯断裂はひどい痛みで歩けなくなるほどのものであり、気付かないで発症することはあり得ない。Aさんが自覚する範囲でそのようなケガをしたのは、14年災害と16年災害だけ。14年災害についても「左膝前十字靭帯損傷の典型的な受傷態様」であるとした。「14年災害の際に左前十字靭帯損傷を発症しており、これによって左膝内側半月板損傷が生じて、そのもとで本件災害(=16年災害)によってこれらが増悪して本件疾病を発症した可能性も十分考えられるというべきである」と判断した。

長時間労働だけが「部活問題」ではない

 Aさんは、バスケットボールで大きなけがをしたことがなかったが、元々学生時代に部活動でけがをすることは、決して珍しいことではない。それを契機に、指導者や教員を目指す人も多い。そういう人が、実技指導中にけがをしても労災として認められないというのは、どう考えても理不尽である。基金はただちに控訴を取り下げて、Aさんの公務災害を速やかに認めるべきである。