教諭Aさんのメンタル公務災害訴訟横浜地裁が不当判決!闘いは控訴審へ

 11月8日、横浜地方裁判所は、教諭Aさんの公務災害を求める訴訟において請求を棄却、公務外とした。Aさんはこれを不服として東京高等裁判所に控訴した。これまでの経過と判決の不当性を解説する。【川本】

解離性運動障碍の公務上を求める裁判

 神奈川県立の養護学校の教諭であるAさん(30代女性)は、17年5月、教室で自閉症の男子生徒の指導を行っていた時、急に情緒不安定となった生徒から、顔を平手打ちされたり、壁に頭を打ち付けられたり、左前腕にかみつかれるなど暴行を受けた。被災翌日に腕の腫れがひどくなったため医療機関を受診。その後、通院加療したが左上肢に力が入らなくなり、別の病院にかかったところ、「左上肢人咬傷後左上肢麻痺」と診断された。
 17年3月29日付で地方公務員災害補償基金神奈川県支部は「左前腕咬傷」について公務上としたものの1ヶ月程度で治癒、残存する「左上肢人咬傷後左上肢麻痺」は公務外と決定した。
 当時、管理職から退職強要され、同僚と共に高等学校教職員組合に相談、公務災害申請について組合として全面的に支援することになった。
 17年5月には、「解離性運動障碍」と確定診断した医師の「受傷と障碍との関連が濃厚」とする診断書を提出した。しかし18年7月、地方公務員災害補償基金神奈川県支部審査会は、審査請求棄却という不当な裁決を通知。Aさんは地方公務員災害補償基金本部審査会に再審査請求したが、19年10月に棄却された。20年4月、Aさんは、横浜地方裁判所に公務災害認定処分取り消し請求訴訟を提訴した。

基金や裁判所が公務外とした理由

 21年9月、基金は、黒木宣夫医師の意見書を提出した。黒木氏は、労災保険の精神障害の労災認定基準を見直す専門検討会の座長も務める「有名な」医師である。ちなみに23年7月に専門検討会が出した報告書をもとに、厚生労働省は同年9月に認定基準を改正した。これを受けて基金は、現在改正作業を進めているとのことである。
 黒木氏は、Aさんが解離性運動障碍であることは主治医の意見に賛同するとした。ところが、上記の事故は、公務災害の認定基準で言うような「強度の精神的又は肉体的負荷を受けた」とは言えず、Aさんは元々ストレスに弱く、職場復帰が近づくと症状が悪化したのは疾病利得であると決めつけ、「公務起因性はない」とした。そもそも黒木氏は、診療録や基金の書類しか見ていないので、事故当時の具体的な様子や、Aさんのその後の勤務状況や退職強要などの事実を十分把握していない。
 一方、横浜地裁の判決は、必死で当時の状況を再現したAさん本人の主張のほとんどを採用せず、それを補足する当時現場にいた証人の主張も無視し、12年3月に出された精神障害の公務災害認定基準をそのまま形式的に当てはめている。
 まず、暴行について、「平手が複数回原告の顔に当たり、更に左腕を1回咬まれた」だけで、「暴行を受けていたのは長くとも2、3分程度であった」と決めつける。そして、それは認定基準の「生死にかかわる、極度の苦痛を伴う又は永久労働不能となる後遺障害を残すような業務上のけが」ではない。「第三者による暴行・・・の発生により、概ね2ヶ月以上の入院を要する、又は地方公務員災害補償制度の障害補償年金に該当する若しくは原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような業務上の病気やけがをした」や「職場でひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行を執拗に受けた」にも当たらないと評価。暴行が「強度の精神的・肉体的負荷を与える出来事であるとはいえない」とした。

控訴審での主張

 Aさんも支援者も勝訴を確信している。あまりに杜撰な事実認定と評価の誤りを正すために、東京高等裁判所に控訴した。
 23年9月に改正された民間労働者の精神障害の労災認定基準では、「顧客等から治療を要する程度の暴行等を受けた」場合、その心理的負荷は「強」と評価される。また、「退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、長時間にわたり又は威圧的な方法等により、執拗に退職を求められた」場合も、その心理的負荷は「強」とされる。ちなみに、後者については、地裁判決では一切考慮されていない。
 Aさんの公務災害認定を勝ち取ることは、公務災害の認定基準改正につながるとともに、職場の改善にもつながる。多くの皆さんのご注目とご支援よろしくお願いします。