被ばく労働問題への取り組み 全国安全衛生センター省庁交渉


 4月2日、福島第一原発における被ばく労働などの労働安全衛生問題についての省庁交渉に参加した。福島第一原発事故後に全国安全センターが呼び掛け、市民団体とも共同で取り組んできたもので今回が25回目。事前に要求に対する文書回答を受け、交渉を行った。
 昨年10月に起きた増設ALPS配管洗浄作業による被ばく事故、今年2月に起きた第2セシウム吸着装置からの汚染水漏出事故など、新たな課題が次々に出てきている。 ここでは労災補償問題に絞って報告する。【川本】

低線量被ばくと固形がんの因果関係について

 厚生労働省は、100㍉シーベルト以上でないと固形がんとの因果関係がないという立場で労災補償を行っている。しかし、23年8月に国際がん研究機関などによる疫学調査(INWORKS)等で、「放射線被ばくの健康被害は100㍉シーベルト以下でも閾値なしで被ばく線量に比例して生じる」ことが明らかになった。そこで我々は労災認定基準の見直しを求めたが、厚労省は文書回答では拒否。見直しのための検討会の開催を求めたが、それも拒否。交渉で、そもそも検討が必要か否か専門家に尋ねたか問い質したところ、それすらしていないことが明らかになった。実際には個別の請求が増えており、「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」が毎月のように開催されている。次回の検討会は未定とのこと。まずは検討することを委員に働きかけるよう求めた。

電離放射線被ばくを受ける業務に従事した年数=被ばく労働就労日数の和

 白血病の労災認定基準で業務上となる被ばく線量は、5㍉シーベルトに「電離放射線被ばくを受ける業務に従事した年数」を乗じて算出される値以上とされている。つまり、年間5㍉シーベルト以上被ばくすれば業務上ということ。従って、3年間被ばく労働に従事した人が計10㍉シーベルトしか被ばくしていなければ、年間3・3㍉シーベルトだから業務外かと勘違いしやすいが、そうではない。例えば、1年間のうち実際に被ばく労働に従事したのが4ヶ月なら、3年間では12ヶ月、つまり1年で10㍉シーベルト被ばくした計算になり、業務上となる可能性が高い。
 このことがあまり理解されていないので確認したところ、「日数等も考慮の上」専門検討会で個別判断するという文書回答だった。そこで交渉では、口頭で上記の考え方を示して確認したところ、「それで間違いないです」との回答を得た。

報道されていない被ばく労災認定事例は多数ある

 交渉に先立ち情報収集したところ、福島第一原発で働いた労働者が白血病で2名、肺がんで1名、労災認定されたことがわかった(3月27日発表)。
 原発の保守管理業務等に従事した50代男性は約1ヶ月間、放射線業務に従事し計約7・3㍉シーベルト被ばくした。事故後の被ばく線量は約7・2㍉シーベルト。わずか1ヶ月の被ばく労働で白血病になったのである。
 98年4月~23年3月のうち約5年間、放射線業務に従事した40代男性も白血病で労災認定された。事故前は原発の運転操作業務等に従事、事故後は設備等の運転操作等の業務に従事していた。総被ばく線量は約26・2㍉シーベルトで、事故後の22年3月までの被ばく線量は約19㍉シーベルト。事故前の13年間は7・2㍉シーベルトで、事故さえなければこんなに被ばくすることはなかったはずだ。
 60代で肺がんになった原発設備の製造、修理等に従事した労働者も労災認定された。85年4月~21年6月のうち約21年間、放射線業務に従事し、約104・8㍉シーベルト被ばくした。事故後は原子炉建屋に空気を送り込むコンプレッサー等への燃料補充等の業務に従事し、被ばく線量は約97・1㍉シーベルト。事故前はほぼ被ばくしない業務であり、事故がなければ考えられない被ばく線量だ。
 アスベスト被災者もそうだが、肺がんはたばこが原因と片付けられることが多い。労災認定事例についてもっと積極的に報道されるべきだ。