地方公務員災害補償基金の「怠慢」を許さない!

 茨城県稲敷地方広域市町村圏事務組合龍ヶ崎消防署の消防士だった故・宮本竜徳さん(当時25歳)の公務災害認定を求める訴訟は、今年5月16日にいったん結審したものの、基金本部が医学的主張をすると言い出したため、進行協議を経て10月3日に口頭弁論が再び開かれることになった。地方公務員災害補償基金が今頃になって医学的な立証を行うという。なぜ、こんなに時間がかかるのか。これまでの経過を振り返る。【川本】

 宮本竜徳さんが職場内で体力錬成中に「致死性不整脈」で亡くなったのは2017年11月16日のことである。ご遺族が公務災害申請したところ、2018年8月28日付で公務外決定となった。10ヶ月弱の調査期間である。救急搬送された病院の医師は、意見書で「原因不明」「病理解剖所見からも明らかな原疾患を認めません」「発症前行動、すなわち運動や訓練が関連していたどうかは可能性は強いと推測されますが、不明です」としている。一方で基金本部の専門医は、「業務が過重であったとは考えられない」「心電図で指摘をされており・・・通常人に比して心臓疾患が発症しやすい状態にあったと推測できるため、そのような個体側要因が本件訓練の際に自然経過的に発現したものである」と述べている。基金本部の専門医の意見を根拠として公務外になったことは明らかである。

 ご遺族から相談を受けたセンターは、2018年11月22日、神奈川総合法律事務所の小宮弁護士と共に代理人となって、支部審査会に審査請求を行った。センター所長(当時)の天明医師が、公務上であるという趣旨の医学的意見書を作成。体力錬成がいかにハードであるかを立証するために同僚の方々のご協力を得て再現ビデオも撮影した。竜徳さんが心電図の所見を理由に受診した医師も、「訓練による心臓への負荷によって本件致死性不整脈が引き起こされた可能性が高いと考えられる」との意見書を書いてくださった。2019年末に膨大な意見書と証拠を提出。ところが、支部審査会の口頭意見陳述がなかなか行われない。2020年11月20日、ようやく口頭意見陳述が行われた。口頭意見陳述の際、委員から「体力錬成内容は当局が決めるのですか」との質問に基金支部が「そうです」と答えた。他に質問もなく、公務上決定の確信を強めた。

 ところがその後、支部審査会から何の連絡もないので代理人が進捗状況を問い合わせると、2021年7月以降は「医師の意見は取得できたが、審理中」という回答のみ。2022年10月28日付でようやく審理終結の通知がきたが、「結論は後日、裁決書により通知」等とあるのみで通知の予定時期も明らかにされなかった。他事例では2~3ヶ月で通知されるが、1月が過ぎ、2月が過ぎても来ない。そして2023年3月29日付で審査請求棄却、まさかの公務外決定である。

 裁決書を見て驚かされた。すでに上記の通り2021年7月には支部審査会が独自に意見を紹介した医師が「基礎研究及び臨床研究のエビデンスから、今回の致死性不整脈による死亡は、被災職員の『本人の素因』よりも5年にわたる『訓練』(環境因子)の要因が十分大きいと言える」と、明確に公務起因性を認めているのだ。それ以降は一切の医学的調査等は行っていない。1年8ヶ月かけて何ら医学的根拠を示さず、なぜ公務外なのか。

 実は、2021年9月に脳心臓疾患の公務災害の新しい認定基準が出された。支部審査会は、訓練のような勤務時間の長さ以外の負荷については勤務時間がある程度長くないと過重な業務とは認めない、同僚で体調不良を訴えたものはいないという理由で公務外としている。医学的なことよりも、本部の出した認定基準に当てはめて、こじつけたとしか思えない。基金本部審査会も同様に2024年5月31日付で「医学的経験則に照らしつつ慎重に検討を行った」という常套句で公務外としたのである。

 以上の通り、基金本部は2018年時点で竜徳さんの全ての医学的資料は保持していた。そして支部審査会の2021年7月の医師意見書を遅くとも、決定した2023年3月段階で入手している。基金本部の専門医以外は全ての医師が公務上ないしその可能性が高いとしている。裁判もいったん結審した後になって、これから医学的意見書を出すのは怠慢以外の何ものでもない。当然、医師に謝礼金も支払うのであろう。基金は、無駄な時間や費用をかけることなく、ただちに宮本さんを公務上災害として認定すべきである。