センターを支える人々:市川力政さん(湘南なぎさユニオン)


 なぜ、こんなにも人を追い詰めることが出来るのか。優位な立ち位置を盾に、部下に平気で精神的圧力をかけて従わせる。こんなパワーハラスメントが横行する社会になっていることに、やるせない気持ちになります。この数年、湘南なぎさユニオンにもハラスメント相談が多く寄せられ、翻弄させられています。

 今年4月に入った相談事例を紹介します。相談者Kさんは58歳、会社は、主に鉄やステンレスの熱処理を担う会社です。
 これまでも塗装一筋で働いてきたKさんは今年で入社9年目。部品塗装の職場で働いていました。これまで3人体制の職場でしたが、今年3月下旬に突然、社長がリーダーを引き抜き、2人体制にさせられました。これをカバーするため必死に働いたKさんは疲れ切って腰痛で1日休みました。そして翌日、出勤すると社長室に呼び出され、いきなり「やる気はあるのか、どうして休んだ!」と怒鳴られました。Kさんが「人がいなくて一生懸命やったら腰が痛くなった」と言うと「そんなにハードではないはずだ!」と叫ぶ社長に怒りの目を向けると、「なんだその目は!」と追い込まれ、罵倒のやり取りとなりました。

 その後、気持ちを落ち着かせようとトイレに行こうとしたところ社長と役職2名が前に立ちはだかり、羽交い絞めにされ、椅子に戻されました。Kさんが「帰ります」と言って床に置いたウエストバックを持ち上げようとした際、社長の脚に引っ掛かり、社長は「あー痛い!」と大声で叫んでKさんを押し留め、「今持っているものをチェックしたい」と、着ている服を1枚づつ脱がせ点検を始めました。Kさんは、そこまでやるかと驚きましたが、「脱げというなら脱いでやる!」と開き直ったと言います。

 実は、社長は以前、他従業員への恫喝等のパワハラで訴訟になった事があり、この時の被害者が社長とのやり取りを録音していたことで事実を立証でき、賠償を勝ち取ったという経過があります。このことからKさんは、社長とのやり取りを携帯電話に録音していましたが、社長もKさんが録音していないか警戒し、このような行動に出たものと思われます。

 ついにKさんは下着1枚にさせられ、携帯電話も取り出され、その場で録音も消去されました。Kさんが、「こんなやり方では、やっていけないですよ」と訴えたところ、「なら、この会社を辞めてもらうしかない!」「辞表をこの場で書け」と強引に書かされました。Kさんが、「腰が痛いから休んだだけだ」「働けと言うなら働くよ」と言うと、社長は職場に戻るよう指示し、「辞表は預かって置く」と言われました。

 このような屈辱的な社長の対応に精神的に追い詰められたKさんの怒りは収まらず、夜も眠れない状態が続く中でユニオンに相談に来られたのでした。これまで何度も同様の事件を引き起こしている社長ですが、どういう心情からこのような行動に出るのか全く理解しがたいです。

 その後、メンタルクリニックで「適応障害」と診断されたKさんは、診断書を会社に送付し休業に入りました。すると、会社からすぐに、「退職届受理通知」が届きました。Kさんは現在、損害賠償裁判の取り組みに入っています。これまで文句ひとつ言わず黙々と働いてきたKさんは、「こんな社長のやり方は絶対に許せない!」と、頑張って闘っています。