2024労働基準監督署&神奈川労働局交渉
今年も7月17日から29日にかけて、神奈川の全12労働基準監督署と、8月8日には神奈川労働局との交渉を行った。普遍的な課題と、署や局で印象に残ったやりとりを報告する。【川本】
目次
職場の感染症対策は安全衛生の重要課題
労災死傷者数は、4日以上の休業災害について会社が提出を義務付けられている「労働者死傷病報告書」に基づいて語られる。2年前の交渉では、新型コロナウイルス感染症が非常に多いため、それを含めた数字では業種ごとの傾向などがわからなくなるからと、業種別の数を示すように求めたが、署も局も内訳の回答を断固拒否。既に何百件も報告があるはずなのに「特定される恐れがある」という意味不明の理由。ところが昨年はあまりに新型コロナウイルス感染症の労災報告件数が多くて適切な説明ができなくなり、新型コロナウイルス感染症を除いた統計資料で説明された。そして今年も同じような説明になった。
しかしながら、減ったとはいえ新型コロナウイルス感染症の労災は多い。例えば、鶴見署では業務上疾病の6割以上を占める。負傷による腰痛の2倍半、4日以上の休業は少ないとはいえ熱中症の数十倍。「例外的」な位置付けにするには数が多過ぎ、再び増加することも十分あり得る。そしてグラフにある通り、新型コロナウイルス感染症以外の「病原体にさらされる業務による疾病」もあるのだ。新型コロナウイルス感染症の5類移行などとは何ら関係なく、職場の感染症について、実態の把握と対策は職場の安全衛生の重要な課題である。
解説動画の作成を!
安全衛生、労災補償、その他労働基準について、解説動画を作るよう要求したところ、有効性は認識しており、検討していきたいと、全署が回答した。コロナ禍で、民間では、オンラインによる啓発資料などが盛んに作られ(販売され)たが、行政では、集まってもらうという従来の形での集団指導ができなかったこともある。あとは実践である。神奈川県内でテレビや映画で有名になった「聖地」が至る所にある。そうしたものを活用して、一人でも多くの労働者や事業主に直接働きかけをしてもらいたい。
手前味噌だが、センターでは審査請求や公務災害補償の解説動画をホームページにアップしてから、そうした相談が全国各地から多数寄せられる。作成は大変だが、動画を見て連絡してくる方も多く、説明時間も相当短縮できている。労基署も同様ではなかろうか。
各署でのやり取りから
【横浜北】 鶴見川上流が管轄地域という理由で、鶴見署のキャラクター「つる美ちゃん」が横浜北署でも活用されている。正確には、横浜北署労働基準法周知キャラクター兼鶴見署安全衛生推進キャラクター。労働時間について、厚生労働省の考え方をわかりやすく説明している。
精神障害の労災請求も多く、22年度の45件から23年度は54件に。労働基準法違反の申告件数も23年は327件受理し、局全体の2割を占める。今年もさらに上回るペースで相談が増加している。
【横浜南】 腰痛が減少する一方で転倒災害が増加。好事例を紹介するなど防止策を講じている。労働相談や申告が増加し、倒産がらみの賃金未払いなども目立つ。
監督をしていても外国人労働者が増えていると感じる。各署にポケトーク(AI通訳機)が配布されているとのこと。初めて知ったので、もっと宣伝してほしいと要請。
【横須賀】 労災が増加傾向にある。従来は製造や建設業が多かったが、社会福祉、小売業の割合が高くなっている。ストレスチェック制度を職場で有効活用するよう監督署も指導して欲しいと要請。
【鶴見】 例年通り「グラフで見る労働災害の現状」という冊子などを使って解説。安全衛生推進キャラクターつる美ちゃんが挿絵に使われたチェックリストもある。円グラフにすると、一昨年より減少したとはいえ、業務上疾病における新型コロナウイルス感染症の割合が大きいことがわかる。
20代に4日未満の休業災害が多いのも、中高年になると転倒災害は4日未満では済まないということであろう。そういう意味でも4日で区切って分析する意味は全くない。転倒災害防止のチェックリストもわかりやすい。
【厚木】 労働災害発生件数が3年連続で1000件を超える。陸上貨物運送業が多い。労働相談、申告件数も増加。スペイン語通訳者が配置されており、他署より対応可能。ポケトークもそうだが、そうした情報を当事者に宣伝して欲しいと要請。
【相模原】 製造業や建設業で労災が減少する中、社会福祉施設で大幅増。 精神障害の労災認定が決定19件中、業務上が9件。神奈川局全体で2割ちょっと。理由は不明。
【川崎南】 労働災害が増加。化学コンビナートで爆発事故を伴う火災が発生し、下請企業の労働者が負傷。川崎北署、川崎市経済労働局と合同で安全啓発パトロールを実施。外国語による注意喚起の掲示物などを活用していた。水商売関係も多いので「夜間臨検」監督も実施している。
【平塚】 脳心臓疾患や精神障害の労災請求が増えている。以前より会社も比較的協力的であることも一因か。ハラスメント相談も多い。
【藤沢】 業種別労働災害発生状況の表で新型コロナウイルス感染症を赤字で記載。22年は全体で673件だが、23年度は144件に減少。保健衛生業の616件が140件になった。
精神障害で認定された労働者が所属するユニオンから、被災者の希望ということで監督署へお礼が言われた。もともと労災申請で相談に来たわけではなく、病気を理由に退職する予定だった。つまり、労災請求そのものをあきらめている労働者も少なくない。
上肢障害の労災請求が34件、決定は37件と相変わらず多いが、支給が19件しかないのが気になる。
【横浜西】 病院、社会福祉施設など保健衛生業の労災が増加。そもそも絶対数が多く、大規模病院が19事業場あり、介護施設も横浜市の3分の1が集中する。申告件数も2年前の倍以上、倒産による賃金の立替払いも増加。
【川崎北】 カラーのグラフは見やすくわかりやすい。労働災害が「平成21年(2009年と記してほしいところ)以降、増加傾向が続いており、平成21年と比較すると52%増加している」。局全体は同時期に約29%増加だが、それを上回っている。以前は製造業が多い地域だったが、今は社会福祉施設の割合が高いことがわかる。なお、精神障害の労災認定が、業務上2件に対して業務外16件と、全体と比較してもあまりに低い。
【小田原】 一昨年ゼロだった死亡災害が、昨年は6件発生。管轄外の地域での事故も3件あるとはいえ、「古典的な」労働災害である。賃金未払いなどの申告も増えている。
神奈川労働局でのやり取りから
今年の労働局への要求は、労基署に対するものと重複しないようにした。4日未満の休業災害の扱い、審査請求、精神障害(特別班)、労働相談(個別労使紛争)などである。局側が回答に1時間半近く要し、あまりやりとりする時間がなかったが、特に議論になった事を中心に報告する。
業務上疾病は、補償で発生状況を把握し、周知すべき
冊子「グラフで見る神奈川県下における労働災害と健康の現状」の表「業務上疾病による死亡災害」(上のグラフ参照)によると、5年間に脳・心臓疾患で7人、精神障害で2人が死亡している。この数字は、事業主が遅滞なく(約3週間)報告を義務づけられている死傷病報告書に基づいている。従って、精神障害や脳・心臓疾患については、発症後すぐ監督署に届けられることはまずない。その証拠に、神奈川局で脳・心臓疾患で死亡したとして労災認定された人は、令和5年度6件、4年度5件、3年度5件、2年度5件、元年度7件で計28件と、4倍の開きがある。精神障害は、自殺については未遂も含んだ数しか公表されてないが、同様か、もっと大きな開きがあると思われる。
局の担当者は、「そういうものだから仕方がない」「誤りではない」と開き直るが、あまりに官僚的答弁であり、誤解を招く。なお、同じ冊子の次ページにある、脳心臓疾患と精神障害の労災補償に基づくグラフや説明には死亡者数は書かれてない。
審査官も交渉に出席を
審査請求に関する要請。ところが、審査官は誰も参加せず、労災補償担当者が文書を読みあげるのみであった。他部署の担当者は出席している。審査官は逃げないで出席してもらいたい。
精神障害の労災調査をする「特別処理班」は請求人の聴取に立ち会え
「特別処理班」の最大の問題は、請求人本人の聴取をしないことである。個別労使紛争でも、いじめ・嫌がらせの相談が多いが、本人の話を全く聞かないで対応することは絶対にあり得ない。ただちに改善することを強く要望した。