消防士(高度救助隊員)の宮本さん、公務災害認定を勝ち取る!基金の公務外処分取り消し、東京地裁判決が確定

 2月17日、消防士の故・宮本竜徳さんが訓練中に倒れて致死性不整脈で死亡したことについて、東京地裁は、地方公務員災害補償基金が公務外とした処分を取り消し、公務上と認める判決を言い渡した。基金が控訴を断念したために判決が確定。ご遺族のコメント、代理人弁護士の小宮玲子さんに判決の意義をまとめてもらった。
 経過は別表の通り。公務災害認定請求から8年余。当たり前の結論を得るために要した、ご遺族の労力や時間を考えると、基金の責任は重大である。当センターは、基金本部に対し、支部審査会が依頼した医師が公務上とする意見を述べたにも関わらず、なぜ公務外となったのかを問い正すとともに、脳・心臓疾患の認定基準の改正を求めていく予定である。

公務災害認定の意義と今後の課題:弁護士 小宮玲子(神奈川総合法律事務所)

 東京地裁民事36部に係属した宮本さんの公務外認定処分取消請求の訴訟は、開始早々、本件では何が争点となっているのかの確認の上、約半年後には結審となりました。被告である基金は、新たな協力医に心電図等の医療記録を見てもらった上で意見書を提出したいと主張して約4ヶ月に弁論再開となりましたが、提訴から約14ヶ月後に判決言渡しとなった本件の審理期間は正味1年足らずでした。
 本判決は、竜徳さんが生前約4年半の間にかけて繰り返し従事してきた訓練はアスリート並みの負荷を伴うものであり、心負荷の増大により致死性不整脈が誘発される危険性が高い状況となっていたことを端的に摘示し、公務上と判断しましたが、このような認定は、公務災害認定手続上でも既に明らかになっていた事実関係(特段の争いなし)と手続中に基金側が取得していた専門医による医学的意見に基づくもので、公務上との結論は、証拠上、疑いの余地はありませんでした。
 それなのになぜ基金は、7年という長期間にわたる公務災害手続の中で、頑なに公務外との決定を繰り返してきたのでしょうか。基金は、「認定基準に依拠した」公務外決定の正当性を主張し続けており、被災者が仮に過重といいうる業務に従事していても、それが同人にとって「日常的に行っていた通常の業務」であれば公務の過重負荷を受けたことによる発症とはいえないというものでした。これは、日常的に心身に負荷を与える過重な業務に従事している被災者の公務災害は認めないと開き直っているようなもので、全く不合理かつ理不尽な理屈です。
 しかしこのような基金独自の見解に基づく主張は、司法判断の場では通用しません。本件でも裁判所は、基金の認定基準には拘束されないことに加え、認定基準の前提となった専門検討会報告書及び認定基準の趣旨をもふまえた上で、公務それ自体の過重性、そして発症に及ぼした危険性を真正面から評価し、公務上との判断をしました。本判決はごく「当たり前」の結論を出したといえますが、このような法的合理性に基づく公正な判断を、迅速かつ明晰に下した司法としての役割の意義はとても大きいです。
 反面、基金は、本件でも、そして他の多くの案件でも、司法判断の場では通用しない認定基準とその独自解釈、運用を盾に、不合理かつ不当な公務外決定を繰り返しているため、現行の公務災害手続きでは、時間をかけて行った事実関係の調査とそれに関しての専門的な医学的知見を得ることが、結果的に全くの無意味と帰する手続きと成り下がってしまっています。現状、公務災害補償は「迅速かつ公正な実施」(地方公務員災害補償法第1条)からは程遠い実態にあります。公務災害手続における認定過程に抜本的な改定が必要です。
 今日もまた全国各地の消防職員の方々が市民の皆さんの安全、生命・健康を守るため、消防、救急、災害救助の現場に出場し、奔走しています。彼ら自身が安心して働いていくことができるためにも、彼らに対する補償も守られなければなりません。
 竜徳さんとご遺族の頑張りと本件勝訴判決は、全国の消防現場の仲間たちの励みとなります。ありがとうございました。

勝利判決を受けて:宮本 洋治

 消防士の息子が体力錬成中に倒れ死亡して7年3ヶ月が経過した東京地裁での判決の日。公務外認定の処分取消の判決文を裁判長が読み上げた瞬間、心の中では「やったー」という気持ちでいっぱいでした。

 この日が迎えられたのも「相手が基金(国)という事でハードルが高い」とどこにも相手にされなかった私達を、神奈川労災職業病センターの川本さん、鈴木さんとの出会いで、神奈川総合法律事務所の小宮弁護士を紹介して頂いたお陰で今日まで挫げす基金と対峙して来ることが出来ました。声を上げる勇気を頂いた事に感謝しております。

 後日、稲敷広域消防本部へ判決の報告とこれまでのご協力のお礼に行って来ました。もし基金が控訴するような事があれば、支援して頂いている神奈川労災職業病センター、神奈川過労死等を考える家族の会、横浜市消防職員協議会の皆様方が署名活動を計画して下さっているので、稲敷消防の皆様にも同様に署名へのご協力をお願いし、また判決が確定した場合でも基金に対しては要請行動等を通して支援者と共に「不合理な認定基準の改善」を働きかけて行くので見守って下さいと伝えて参りました。消防長は「これからも変わらず協力を惜しまない」と言われ心強く思いました。

 最後に、公務外認定の処分取消の判決を支援して頂いた皆さんと共に素直に喜びたいと思います。神奈川総合法律事務所の小宮弁護士、野村弁護士、青柳弁護士を始め、神奈川労災職業病センターの川本さん、鈴木さん、神奈川過労死等を考える家族の会、横浜市消防職員協議会の多くの皆様方のご支援、ご協力の賜物と感謝しております。ありがとうございました。
判決の確定を受けて

 25年2月17日の判決から2週間後に勝訴が確定しました。出来る事はやり尽くしましたが、最悪のシナリオも想定し、気持ちを切らさずに過ごしていました。基金が控訴断念し、確定したことに正直、ホッとしています。
 基金が控訴しない理由は「本件事情を総合的に判断した」との事でした。総合的な判断をもっと早くにして頂けていたならと思います。
 これからは、基金の取り組み方、「認定基準改定」等を皆様と協力して見守っていきたいと思います。