港湾荷役労働に15年従事したMさん非災害性腰痛で労災認定
Mさんの「変形性腰椎症および変形性頸椎症」が約15年間にわたる重量物運搬等の業務に起因するとして、労災業務上決定(非災害性腰痛)されたので、報告する。
Mさんは、1975年前後から港湾荷役作業に従事し、1袋50㎏~100㎏に及ぶ荷物をほぼ人力で取り扱い、頸部や腰部に過重な負担がかかり続けた結果、骨が変形するほどの腰痛を発症した。Mさんは現在も港町診療所で療養を続けている。【鈴木江郎】
マイナス25度の冷凍倉庫での作業
Mさんはまず、冷凍倉庫内で荷物をパレットに積んでフォークリフトで移動させる業務に従事した。主に30㎏前後の木箱(長さ約1m)を両手で持ち上げ、パレットに積み込む。倉庫内はマイナス25度。時に250㎏のドラム缶を転がして運び、パレットに積み上げる業務もあり、腰部に過度の負担がかかった。
次に、普通倉庫業務に異動になり、はしけ作業(つれぎ作業)、沿岸作業(ホッパー作業、台貫作業、ベルトコンベア作業)、倉庫作業(梁付作業)、コンテナ内のバン出し作業などに従事した。
普通倉庫での作業
ホッパー作業とは、穀物や魚粉などのバラ物を麻袋に詰め、ホッパー口から手鉤で持ち上げてベルトコンベアに移す作業である。1袋50㎏~100㎏の麻袋を毎日1000袋前後さばいた。この作業は休むことなく続くので労働密度が高く、腰部、上腕、手に過度の負担がかかった。特に麻袋をベルトコンベアに移す時、腰を激しくひねるので腰部に過度の負担がかかった。
はしけ作業や倉庫の中での作業も腰部に過度の負担がかかった。つれぎロープで括って釣り上げるために、船内の積み荷(50㎏~100㎏)を手鉤で持ち上げ、つれぎに移す作業。沿岸では、船から降ろした荷を手鉤で持ち上げ、ベルトコンベアに移す作業。そしてベルトコンベアで運ばれてきた荷を倉庫内に積み上げて行く梁付作業等も行った。倉庫内では、麻袋を肩に担いで積み上げる作業もあった。
労働密度が高く、腰部・頸部・肩に過度の負担がかかる重筋肉労働
Mさんが扱った積み荷の種類とおおよその重量は、トウモロコシ100㎏、小麦93㎏、ゴマ75㎏、麻の実75㎏、大豆60㎏、米60㎏~30㎏、そばの実50㎏、ココア豆50㎏、飼料50㎏など。これを手鉤で持ち上げたり、抱きかかえたり肩に担いだりして運んだ。労働密度も高く、腰部、頸部、肩に過度の負担がかかる重筋肉労働であった。中でも倉庫内での梁付作業は、荷崩れしないように荷を積み上げて行くため精神的にも緊張を強いられ、特に頸部や腰部、肩に負担がかかった。
毎日、午前8時から午後5時まで、船内のはしけ・ホッパー・台貫・倉庫作業とそれぞれ4~5人のチームで分担しながら作業した。一隻の積み荷は約300トンあるので、1袋50㎏~100㎏として、1人あたり1日60トン(=600~1200袋)の積み荷を運んでいたことになる。
90年代以降はコンテナ化が進み、Mさんの業務もコンテナ内のバン出し作業が多くなったが、これも麻袋を手鉤で持ち上げパレットに積み上げる作業であり、腰部、上腕に過度の負担がかかった。
事業主の中外倉庫運輸㈱は無責任な対応を改めよ
以上の通り、Mさんは約15年間にわたって1袋50㎏~100㎏の荷をほぼ人力で取扱い、頸部・腰部に過重な負担がかかり続けた結果、骨に変形が現れるほどの変形性腰椎症および変形性頸椎症を発症したのである。
労災請求において、当時の過酷な労働実態をどうやって担当者にきちんと伝えるかが重要であった。100㎏前後の荷物を人力で担ぎ、持ち運ぶ作業の過酷さは簡単には想像できない。本人の申立書はできるだけ当時の作業内容を具体的に詳しく記し、本人聴取も丁寧に行ってもらった。その甲斐もあり、無事に業務上決定された。
なお、当時の事業主である中外倉庫運輸株式会社は、労災事業主証明に関して、「在籍証明はするが、作業内容と疾病の因果関係までは証明できない」という無責任な態度を一貫して取ってきた。中外倉庫運輸の従業員で、港湾荷役労働が原因による「非災害性腰痛」で労災認定を受けたのはMさんだけではない。少なくない人数の方がすでに「非災害性腰痛」で労災認定を受けている。会社の利益のために多くの労働者を酷使しておきながら、いざとなったら責任逃れする態度は不誠実極まりない。改めるべきである。