新型コロナワクチン接種:審査請求で原処分を取り消し、公務遂行性を認める‼
公立病院の事務職員の方が新型コロナワクチンを接種した後にご逝去された。ご家族が予防接種健康被害救済制度の手続きをしたところ、ワクチン接種との因果関係は否定できないとして認定を受けた。一方で、公務災害請求をしたところ、「公務遂行性がない」として不支給決定されてしまった。
被災職員が所属していた病院は新型コロナ患者の受け入れ病院であり、そのような社会的責任のある病院の職員として感染拡大防止のためにワクチン接種したにもかかわらず、「公務遂行性がない」とされてしまったことに、ご家族は憤りを感じ審査請求を決意。私と森田社会保険労務士が代理人となり審査請求を進めてきたが、このたび支部審査会は「公務遂行性あり」として原処分を取り消す決定を行った。一方で「公務起因性」については、原処分において県支部は調査しておらず、県支部が改めて調査することになった。【鈴木江郎】
認定基準を逸脱した「公務遂行性なし」
この事案は、いくつかの問題点が重なっている。まず、認定基準を逸脱している事が挙げられる。「公務上の認定基準について」(平成15年9月24日付地基補第153号)では、「健康管理上の必要により任命権者が執った措置(予防注射及び予防接種を含む)により発生した疾病」は公務に起因することの明らかな疾病だと位置付けている。そして、本事案の任命権者は「被災職員は、医師や看護師といった医療従事者と職場を同じくし、業務を通じた感染リスクは低くない。
また、病院という性質上、クラスターの発生は何としても回避する必要があり、業務上の必要性からほとんどの職員がワクチンを接種している。よって、被災職員のワクチン接種には、公務遂行性が認められ、それに起因する本災害は公務上のものと考える」と意見している。つまり、本事案は「健康管理上の必要により任命権者が執った措置」であることは争いがないので、当然ながら公務上認定されるべきなのだが、そういう判断はされなかった。
当初は県支部も公務遂行性が認められると考えていた
県支部は、右記の任命権者の意見も踏まえながら、被災職員の公務遂行性は認められると考えていた。しかし、ここで基金本部が立ち塞がる。基金本部は、「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種で医療従事者等に健康被害を生じた場合の取扱いについて」という事務連絡を出し、「医療従事者等に係るワクチン接種は、職員の公務遂行のために必要な行為として、公務遂行性を認めることとします」としたのだが、本事案については、事務職員である被災職員は「新型コロナウイルス感染症患者(疑い患者も含む)と頻繁に接する状況ではなかった」とし、上記事務連絡の「医療従事者等」には該当しないと判断。
そして、医療従事者等に該当しない職員については、「医療従事者等以外の職員に係る新型コロナワクチン接種の公務遂行性について」(令和4年3月7日付け基金補償課長事務連絡)に従って検討したが、条件の一つ「当該職種(病院職員)は警察・消防等の公務独自のものであること」ではないから医療従事者等以外の職員としても「公務遂行性」を認めなかった。
「新型コロナウイルス感染症患者(疑い患者も含む)と頻繁に接する状況ではなかった」というのがそもそも誤っている。さらに問題なのが、医療従事者等に該当しない職員について示した以下の事務連絡の内容である。
それによると、①自治体等において、当該職種について、その業務目的に照らし、優先的に接種すべき必要性が認められ、実際のスケジュールにおいても優先接種の対象である高齢者等の接種と並行して行われるなどの優先的な接種が行われていること。②当該職種は、新型コロナウイルスの感染危険性の高い職種であると認められること。③当該職種は、警察・消防等の公務独自のものであること。④任命権者または所属がワクチン接種に係る命令・指示等を行い、ワクチン接種の場所と日時を割り当てるなどしていること。⑤業務上の強い必要性から、対象職員のほとんどが接種することが想定され、又は実際に接種していること。この5つの要件をすべて満たした場合に公務遂行性について認めるとしている。
そして、本事案は、被災職員は病院職員であり、民間にも病院はあるので、要件③の「警察・消防等の公務独自のもの」ではないので、公務遂行性は認めないというのが基金本部からの意見を受けた県支部の決定であった。
支部審査会は公務遂行性を認める決定
しかし、被災職員が所属していた病院は新型コロナ患者の受け入れ病院であり、そのような社会的責任のある病院の職員として、感染拡大防止のためにワクチン接種したにもかかわらず、「公務遂行性がない」とされてしまったことに、ご家族は憤りを感じ、審査請求を決意。私たちは、被災職員の病院の新型コロナウイルス対策会議の議事録や病院と自治体が取り交わした契約書などを公文書開示請求で入手し、ワクチン接種の必要性、他の民間病院との違いについて主張・立証した。口頭意見陳述においても、こちらの主張に審査会委員や参与が強い関心を示した。
結果、県支部審査会は、事務連絡「③警察・消防等の公務独自」とは「民間では代替不可能な公的な機能を有すること」と整理した上で、被災職員が所属していた病院はこれに該当し、他の要件も該当するので「公務遂行性を認める」という決定を行った。
労災保険制度との格差が生じている
ただし、冒頭にも記した通り「公務起因性」については、原処分において県支部は調査しておらず、県支部が改めて調査することになったので、公務上外の決定は先延ばしになった。本事案では被災職員は既に「予防接種健康被害救済制度」で因果関係について認定されているので、基金県支部および基金本部は徒に議論を長引かせることなく、速やかに「公務起因性」についても認めるべきである。
なお、本事案では支部審査会が、被災職員の病院は「③警察・消防等の公務独自と言える」として認めたから良かったが、そもそもこの事務連絡が大問題である。
労災保険の医療従事者等に該当しない労働者のワクチン接種の業務遂行性については、シンプルに「事業主からの業務命令によるものか否か」によって判断される。労災保険の考え方には業種や職種は関係がない。一方で基金の基準では「警察・消防」という職種を絞り込んでしまっている。これは明らかに両制度間で均衡が図られず、地方公務員に制度上の不利益が生じると言える。基金本部は速やかにこの事務連絡を修正するべきである。
