腰痛労災裁判(控訴審)逆転勝訴判決を受けて

腰痛労災裁判(控訴審)逆転勝訴判決を受けて
腰痛裁判元原告・JAL解雇争議団

飛行機の緊急脱出訓練中の事故で腰痛を発症し、労災認定期間について裁判で争っておりましたKと申します。昨年末には、公正な判決を裁判所に要請するハガキに多大なご支援をいただきありがとうございました。おかげさまで東京高裁で逆転勝訴することができました。これも皆様のご支援の賜物です。本当にありがとうございました。
東京高裁は最初の法廷が開かれただけで結審したにも関わらず、判決の中身は完勝でした。良い意味で予想を大きく裏切られましたので、判決を聞いた際、私と弁護士を含め法廷に居合わせた全員が反応できず、一瞬の間があき、その後は大きなどよめきが起こるような顛末でした。
私は、今回の裁判と同じ労災(腰痛)で既に1度裁判に勝っています。しかし敗訴した大田労基署の対応があまりに酷く、2回目の裁判をする羽目となり、今回はその判決でした。判決では「症状固定の判断」と「就労可能の判断」についてかなり踏み込んだ内容で、労災行政への影響も大きいというご意見をいただいています。素人の私から見ても「コピー1枚とれれば就労可能」というような結論ありきの労基署による労災打ち切り決定を真っ向から批判しているものに感じられます。この判決内容は参考になる点もあると思いますので短くまとめてご紹介いたします。

■症状固定について

判決は、症状固定の判断について私の主張をすべて採用し、大田労基署の形式的な労災打ち切り決定や、ずさんで矛盾のある主張などを全て否定。そしてリハビリ状況や症状の推移など、患者の個別的事情を検討する必要性が書かれています。そこで今回の裁判の争点である「07年7月20日で症状固定」という大田労基署の決定が出た経緯から説明します。
1回目の裁判前に労働保険審査会が私の腰痛を労災と認めていましたので、1回目の裁判は「腰痛が労災かどうか」の争いではなく、「労災認定された腰痛の期間」を争うものでした。しかし敗訴した大田労基署は、「敗訴後に国が労災と認定したのは腰痛ではない」と言い出しました。そして「裁判後に労災と認めたのはヘルニアなどの椎間板の器質的損傷であり、腰痛ではない。それゆえ2回目の手術で移植した骨が癒合しさえすれば治癒(症状固定)である」と説明し、2回目の手術から半年後の07年7月20日で労災を打ち切りました。当時私はまだ腰痛やしびれ等が残り、仕事ができる状況ではなく、この労災打ち切り日よりも前からペインクリニックで治療を受けていました。その後約1年半かけて事務仕事ができるまでに回復しましたが、このペインクリニックでの治療は労災とは認められませんでした。
この労災打ち切りの結果、2回目の裁判となりました。この症状固定の判断には「労災認定した傷病(症状)のすり替え」と「治癒の認定基準に反する症状固定の決定」という2つの大きな問題があります。
大田労基署が労災認定した傷病(症状)をすり替えたため、1回目の裁判前に労災認定された期間は「腰痛が労災」であり、1回目の裁判後に労災認定された期間は「椎間板の器質的損傷が労災」となってしまいました。つまり同じ労災であるにも関わらず、ある日を境に、「腰痛」が「椎間板の損傷」という別の傷病になってしまいました。そして椎間板とは関係無い、移植した骨の癒合をもって治癒(症状固定)としました。あくまでも推測ですが、裁判に負けた厚労省が無理やりに労災打ち切りを決定し、後からあれこれと理由をつけたと考えらます。そして労災を打ち切るために、2回目の手術の執刀医が「移植した骨の癒合をもって自分の治療は終了」とした意見を悪用したと考えられます。大田労基署は、この意見を唯一の症状固定の根拠としていました。しかし今回の判決は、骨の癒合をもって「自分の治療は終了」という判断は、症状固定とされた07年7月20日の何ヶ月も前からカルテに記載され、事前に決まっていたことであり、術後6ヶ月の骨癒合をもって一律に適用することは患者の個別的事情を検討したのかどうか疑わしく、この意見を症状固定の判断の根拠とすることはできないと、大田労基署の決定をはっきりと否定しています。

■治癒の判断について

労災の治癒とは、「完治するか、症状が固定し治療の効果が認められなくなった状態」です。ペインクリニックの治療と、2回目の手術をした病院で指導されたリハビリの運動を続け、約1年半をかけて私は事務仕事ができるまでに回復しました。同じペインクリニックで私と同じ治療で労災を認められていた人が沢山いたにも関わらず、大田労基署は、「ペインクリニックでの治療は椎間板への原因療法ではない。腰痛の対症療法にすぎないため治療効果はない」と主張していました。そして2回目の裁判中に国が不利な状況になると、「腰痛の改善は認めるが、傷とか神経は自然に回復するものである。ペインクリニックでの治療がなくても同じように回復したはずだから労災で必要とされる治療とは認められない。腰痛の対症療法にすぎないため治療効果はない」と主張を変えました。
今回の判決はこのような国の主張をことごとく否定し、傷とか神経が自然に回復するというのは単なる一般論であり、私の症状に適用するには無理があり、個別の症状について何ら検討していないと切り捨てています。さらに、私の受けてきた治療の有効性が国の提出した証拠に書かれていることを指摘し認めました。そして、それらの治療の総合的効果と、私が毎日続けてきたリハビリの効果が相まって症状が回復してきたと認めています。

■就労の判断について

大田労基署は、「ペインクリニックに毎日のように通院し治療を受けられるのだから就労可能だった」、「リハビリの運動ができるのだから就労可能だった」と主張し、東京地裁も追認していました。しかし今回の判決はこれらの主張を切り捨て、特にリハビリについては、「骨や筋肉系の故障をして戦線離脱し選手生命すら脅かされているプロスポーツ選手が再起をかけ、通常人であればとても実行できないような苦しいリハビリテーションメニューに挑戦するのと同種のことを実行していたもの」と、私の努力を高く評価してくれています。
そして「療養のため労働することができないかどうか」の判断については、「労働者が使用者(雇用主)との労働契約に基づいてどのような労働を行い得るかということも考慮に入れるべきであり、使用者(雇用主)のもとで従前従事していた労働の内容や態様、使用者(雇用主)と締結していた労働契約の内容や使用者(雇用主)がその企業の実情において提供可能な他の業務の種類なども考慮に入れて判断すべきことになる」と指摘し、私の場合は航空機の操縦業務と地上業務(一般事務職)であり、私の症状を考慮すれば、地上業務に従事できるかどうかをもって就労可能かを判断すべきとまで判示しています。

■今後の交渉に期待

今回私の主張は認められましたが、この労災事故が原因で私はJALで整理解雇の対象者とされました。今は弁護士と組合の双方を通してJALに交渉を申し入れ、会社も応じる旨を確約しています。しかし、私の場合は単純に労災による解雇規制の期間に当てはまらず、職業の特殊性もあり話が少し複雑です。これから本格的に始まる交渉経過を踏まえて、今後の方向性についてなど後日お伝えできればと思っております。まだまだ幾つも山を越えねばなりませんので、どうか今後もご支援をよろしくお願いいたします。