横浜市水道局職員の石綿曝露の公務災害について

横浜市水道局職員の石綿曝露の公務災害について

芹沢錦一(全水道横浜水道労働組合)

Mさんの訃報

2010年4月7日、Mさんの訃報が届いた。進行肺癌を患い大変苦しそうにしていたので、その苦しみからは解放されたのかと思う一方、「横浜市や水道事業発展のため一生懸命働き、石綿に曝露してこの病気に罹患したことが認められないことが悔しい」とよく話していた姿が浮かんだ。
05年のクボタショックはアスベスト被害の大きさを世に知らしめた出来事であった。Мさんは、その2年前の定期健康診断の胸部X線撮影で「所見あり」とされ、人間ドックの肺機能検査で肺活量減少という結果が出ていた。また、呼吸が浅くなったり、胸の痛み、急な登り坂や階段で息苦しいなどの自覚症状も出ていた。石綿セメント管を取り扱う業務を行っていたこともあり、05年12月8日に横浜労災病院を受診した結果、「石綿肺、管理区分2程度」と診断された。

「公務外」の決定

同僚や労組役員に相談し、06年2月14日、Мさんは、石綿セメント管作業により石綿肺に罹患したとして基金地方公務員災害補償横浜市支部長(以下、支部長)に公務災害認定請求手続きを行った。それから1年3ヶ月後の07年5月14日付で、支部長からМさんにとって思いもよらない結果が届けられた。「公務外」である。Мさんは「なんで?仕事で石綿曝露したのに」と思い、07年7月18日に基金地方公務員災害補償横浜市支部審査会(以下、支部審査会)に審査請求書を提出。地方公務員災害補償法に基づく手続きは煩雑であり、労組は相談を受け支援することになった。支部審査会から09年2月16日付で「公務外」という結果が届いた。その主な理由として、「石綿セメント管の本管破裂修理時などの機会に随時従事したのみであり、職務による高濃度の石綿暴露があったとは認められない。医学的には請求人の肺内から職業性の石綿暴露があったと推定できるほどの石綿小体が検出される等、職務による石綿暴露を明確に裏付けるような医学的知見は得られていない」としている。
その後、地方公務員災害補償基金(以下、基金本部)に、09年3月20日に再審査請求を提出した。

肺がんの発症

次第にМさんの病状は悪化し、09年4月2日、息苦しさのため救急車で神奈川県立循環器呼吸器病センターに運ばれ入院。その際の診断は「進行肺癌、肺腺症Ⅳ期」。Мさんや家族にとって辛い現実が突き付けられた。私もお見舞いのたびに辛そうにしている姿を目の当たりにしたが、それでもМさんは持ち前の心遣いで「忙しいのにすみません」と話す姿は忘れられない。
私は、Мさんと相談の上、基金本部へ「石綿肺の申請をして再審査をしているが、請求人が進行肺癌に罹患したので、石綿肺の請求を取り下げ、進行肺癌で出し直したい」と相談した。基金本部からは「一旦受理して審査中の案件なのでそのまま進めてください。」と助言をもらった。私は、「石綿肺の判断が進行肺癌の判断に悪影響を与えると困る」として話し合いを持ったが、「新たな病名でも申請できますから」と言われた。今思うと、「公務外」の判断がされていたのではないかと勘繰りたくもなる。10年3月29日、基金本部から再審査請求の結果が届いた。「処分庁が請求人に対して行った公務外認定処分は妥当であり、これを取り消すべき理由はない」であった。

石綿セメント管の切断加工による石綿ばく露

Мさんは、67年10月に横浜市水道局施設部第一配水課工事係に配属され、76年5月まで機構改革で名称変更はあったものの同一の所属で勤務。本管破裂修理時に直営にて石綿セメント管をノコギリによる直接切断及び配管作業を行う。また、業者修理時は監督業務に従事、これらの作業は常時石綿粉塵を直接浴びていた。その後、エンジンカッターが導入されると、使用時に多量に粉塵が舞い、石綿粉塵で周辺が真っ白になった。
その後、営業部中営業所工事係に配属され、76年6月から93年6月まで勤務した。業務内容は、給水工事、修繕工事、撤去工事など。直営穿孔工事で数回石綿セメント管の穿孔作業や切断作業に伴って、直接ないし間接的に石綿ばく露した。
その後、93年7月から98年9月までは営業部船舶給水営業所で勤務。98年10月から09年3月までは営業部中営業所工事係で以前同様の業務に当たった。09年4月からは給水部保全課に異動し、10年3月末日で定年退職を迎えた。

またしても公務外に

10年7月12日に、Мさんのご遺族は、進行肺癌として新たな公務災害の請求を行った。しかしまたしても支部長は17年5月23日付で「公務外の災害」と通知した。その理由は、「石綿曝露作業への従事期間が10年に満たないことに加え、胸膜プラークが明らかには認められず、石綿小体の検査が行われておらず、石綿肺と確定診断できない、また、びまん性胸膜肥厚の所見もないことから公務災害の認定基準のいずれにも該当しない」ということである。遺族は、基金の判断に納得できずにいる。石綿肺の認定請求時に石綿ばく露作業の従事期間が営業部中営業所工事係においてもあったこと等が閑視され、医学的知見についても基金の医師による判断を持って主治医などの判断を退けている。

労組としてしっかり取り組みを進める

現在、遺族と労組は、支部審査会へ審査請求を行っている。当時の作業環境や作業状況の聞き取りを再度行い、営業部中営業所工事係の当時の同僚からの現認書2通を取得した。また、基金の判断内容を知るため開示請求も行った。医学的判断についても新たな診断書を取得し、他の医師による意見書も準備している。
神奈川労災職業病センターには、当初の公務災害認定請求時よりお力添えを頂いている。適切な助言や法律の変化など事細かく指導を頂き、感謝している。なにより石綿被害による遺族の悲しみが少しでも減らせるよう、労組としてしっかり取り組みを進めていきたい。