石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査 アスベスト患者と家族の会が横浜市に申し入れ
石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査
アスベスト患者と家族の会が横浜市に申し入れ
17年9月11日、横浜市に対して「石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査」(以下「試行調査」)について「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会・神奈川支部」として申し入れを行ったので簡単に報告する。横浜市からは担当課である保健事業課長の石井氏、担当係長の斉藤氏(保健師)、保健担当の小酒井氏、担当保健師の佐藤氏の4人、当方は支部世話人の向笠、会員の斉藤和子(団地アスベスト被災者)、事務局の鈴木の3人が参加。場所は横浜市役所内で行った。【鈴木江郎】
「試行調査」とは
「試行調査」は、05年のクボタショックを契機とし、アスベストの環境ばく露による健康被害の実態調査を行い、石綿検診実施に向けての全国調査である。前身の「健康リスク調査」を踏まえ、15年から実施されている(所轄は環境省)。調査対象者は、胸部CT検査を含め石綿検診を無料で受診することが出来る。
また、当初より石綿工場周辺住民の石綿被害対策を中心とした調査であり、調査対象地域は、埼玉県(さいたま市中央区及び大宮区)、神奈川県(横浜市鶴見区)、岐阜県(羽島市)、大阪府(大阪市、堺市、岸和田市、貝塚市、八尾市、泉佐野市、河内長野市、和泉市、東大阪市、泉南市、阪南市、熊取町、田尻町及び岬町)、兵庫県(尼崎市、西宮市、芦屋市、加古川市)、奈良県、福岡県(北九州市門司区)、佐賀県(鳥栖市)の8府県の一部の自治体にとどまっている(なお、環境省は調査対象地域を追加することができる)。
限られた対象地域
神奈川県では、朝日石綿工業や日本アスベストなど石綿工場のほとんどは横浜市鶴見区内に集中しており、この「試行調査」の対象地域も横浜市鶴見区に限られている。昨年度の横浜市鶴見区「試行調査」で、胸部CT受診者35人のうち14人(40%)が何らかの石綿関連所見があった。また全国8府県全体でも胸部CT受診者1482人のうち563人(38%)が何らかの石綿関連所見があり、石綿工場周辺住民の石綿健康被害のリスクの高さがはっきりと示された。
一方で、先日のアスベスト被害が出た神奈川県営千丸台団地は横浜市保土ヶ谷区内にあり、「試行調査」の対象外である。私たちは神奈川県に対して団地住民の石綿検診を求めているが、団地住民はこの「試行調査」でも対象から除かれているのである。しかしながら団地でのアスベスト被害に限らず、石綿工場周辺以外でも住民に石綿被害が多く出ており(都道府県別石綿健康被害救済制度認定件数)、「試行調査」の対象地域を今後どう広げていくかが課題となっている。
対象地域の拡大を
「試行調査」の対象地域の拡大については環境省も強く意識しており、「石綿ばく露者の健康管理に関する検討会」(17年8月17日)において、対象地域の拡大方策として、「肺がん検診等の既存検診を活用した実施方法(既存検診の胸部X線検査に加え、石綿ばく露の聴取、問診、喀痰細胞診、胸部CT検査、石綿ばく露者の健康管理に特化した保健指導を組み合わせて実施)を新たに設定」する素案を打ち出した。
これを踏まえて、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会「神奈川支部」は、横浜市に対して、対象地域を鶴見区に限定せず、市内全域とする事を申し入れた。斉藤さんの団地だけでなく、横浜市は鶴見区以外でも全域で石綿被害が続出している(石綿健康被害救済制度の被認定者の最長居住地・神奈川県)。
また斉藤さんは、自分の体験を通じた早期発見の大切さについて、健康診断で異常がみつかり、早期の手術、治療へつながった事を説明し、石綿検診の重要さを訴えた。
「原則、鶴見区」に
私たちの申し入れに対し、横浜市も問題意識は共有している事が見て取れた。「試行調査」は今年度から「原則、鶴見区」という位置づけにして、実際に鶴見区以外の住民から石綿検診の申込があり、受診を認めたとの事。また、鶴見区以外の区役所にも「試行調査」についての制度説明を行ったとの事であった。私たちは次年度以降は横浜市全域を対象とするよう重ねて申し入れた。
同様の申し入れを神奈川県に対しても行ったが、県は、「保健所を設置している市を除く県内市町村に対して実施希望を照会しておりますが、新たに参加を希望する市町村はありません。従って、現状では試行調査を新たに実施する地域があるとの認識はありませんが、国の動きとも連携しながら対応していきます」と、相変わらず当事者意識が欠如した回答であった。神奈川県に対しても引き続き要求していく。あわせて、これは神奈川県だけの問題ではなく、全国規模の課題である。中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会全体としても、より良い制度化に向けて提言をしていきたい。