国鉄・JR退職者のアスベスト問題

学習会開催に至る経過
この間、センターは、国労神奈川とも協力をして大船工場退職者などに対し石綿健康管理手帳取得のための取り組みをすすめている。大船退職者会の協力のもと手帳取得者は20名を超えたが、国鉄とJRにまたがって働いた退職者に対しての事業主証明がJRから出されないなど困難も多かった。この取り組みを通して、3月には国労本部の学習会(東西ブロック別で)に呼ばれた。また、大井工場でも退職者の手帳申請の取り組みをしていることから、国労東日本工作協議会(工場関係の協議会)と工場関係者のアスベスト問題については議論できる状況になってきた。そのような経過を踏まえ、長野工場(現在はJR長野総合車両センター)がある国労長野地方本部から講演を依頼されたのだ。
会場の国鉄長野会館はJR長野駅から徒歩10分ほどで、国鉄退職者会の事務所もある複合施設である。今回の勉強会は、組合員だけでなく退職者にも参加を呼びかけ、長野で初めて現職・退職者「一致」の学習会となった。

活発な意見交換
学習会は、主催の国鉄会館理事長・役員あいさつで始まり、退職者組合会長あいさつの後に、まず、センターの池田が講演を行った。
今までの国鉄・JR退職者における石綿健康管理手帳の取り組みと問題点を指摘した。健康管理手帳を取得することにより、アスベスト作業に従事していたことの証明になり、日頃の健康管理に役立てられる。肺がんの労災、業務災害(旧国鉄のみの曝露の場合は国鉄清算事業団に申請する)が認められやすくなる。また、いつどこでアスベストが使われていたか情報の共有化を退職してからも仲間とのつながりを持つことが重要であること、組合としても、同僚や使用実態を押さえておくことが重要であること、現職と退職者一体の取り組みが必要であるということを話した。
続いて国労本部小池業務部長が講演。アスベスト問題の取り組みと貨物会社の現状、運動の課題について話した。国鉄清算事業団との交渉窓口は国労本部にあるので、センターからも課題要請などをお願いしている。これまでの交渉経過なども含めてアスベスト被害の実態を公表させてきたことなどを通して本部としてやるべきことなどが話された。JR現職者にも死亡したり病気休職が発生しているので、今後も健康管理手帳制度の活用、JRと鉄道運輸機構(旧国鉄・国鉄清算事業団)の責任問題、交渉強化と退職者との連携強化も継続していくとのことであった。
次に、東日本工作協議会の小野議長からアスベスト対策について話があった。小野議長と筆者とは、07年に横浜で開催された国際アスベスト会議の時、国際アスベスト禁止事務局(イギリス)のローリーカザンアレンさんを囲んで国労との交流を図った時からの付き合いである。工場内でアスベストがたくさん使われているが、ようやく工作協議会でもアスベスト問題に携わることができ、その取り組みについての報告であった。国労東日本本部の地方業務部長、職協(職能別協議会)代表者会議などでアスベスト問題をとりあげるよう要請してきていること、本社経営協議会安全分科(JR東日本本社と国労の意見交換会で、国労からは国労東日本本部代表、職協代表などで構成している。安全分科は安全問題を中心にしている)では、健康管理手帳の申請に伴う事業主証明について、本社の考えと支社への指導について問いただしているという報告があった。
その後の意見交流会では活発な意見が出た。「退職時に健康管理手帳の取得ができる体制を」という国労・JRに対する要求がでた。組合員からは、自分の父が旧国鉄・JR・関連企業に勤めていたが、石綿肺で業務災害認定されるまで時間がかかった、国労組合員でなかったら申請してなかったという経験談も紹介された。また、車両所(旧長野工場)から現職者の被害が出たことや、485系電車(特急電車)改造工事の際にアスベストが見つかり、会社に安全対策を取らせたなどの報告も受けた。手帳を自力で取得した退職者からは、片道2時間半かけて指定医療機関に通う辛さを訴えられ、移動手段(交通費請求)についても議論した。
現職も退職者も共に参加した勉強会は、様々な実態を知り交流できた点で非常に意義があったことが確認された。学習会後の懇親会でもいろいろな意見交換がされていた。

今後の取り組み
長野での学習会を受け、現在、国労長野車両所支部(旧長野工場)の退職者の掘り起こしが進み、手帳申請を準備している。 長野車両所は現在、JR長野総合車両センターとなっているが、車両基地と車両工場が一体で、JR東日本管内の車両の廃車解体(協力会社が運営)部門もブレーキ作成等の鋳物工場もある(JR車両工場で鋳物職場が現存するのはこことJR北海道のみ)。10年ほど前、41歳の原職の国労役員が悪性胸膜中皮腫と診断され、2000年に労災認定された。亡くなって2年経つが、厚労省の石綿認定事業場公表リストをみると、それ以降の長野総合車両センターでの労災認定件数が続いていないことも心配である。
8月下旬、申請候補者の聞き取りを2日間かけて行ったが、大船工場とは違う車両の改造作業だったり、組織編成の違いから職場名が違っていたりと、職種や作業内容を把握するだけでも困難な作業である。しかし、国労長野総合車両所支部、長野地方本部の協力のもと、なんとか集団申請にこぎつけそうである。
現在、国労長野地方本部ではアスベスト対策委員会が設置された。今後のアスベスト対策の取り組みに期待し、協力していきたい。