労働者性について|労災職業病相談マニュアル

労災保険は、ほとんど全ての労働者が適用になる。ところが昨今、いろいろな職種で「請負」契約がはびこっている。労働者であるか否かは、使用従属性があるかどうか、労働の対価としての賃金を受け取っているかどうかによる。

例えば建築職人の場合、形式だけみると「請負」だから自分の判断で働けるはずだ、賃金ではなく、建築工事は一坪いくらのように報酬が決まっている、何時間かけようが同じ、そもそも工務店の代表者じゃないか。特別加入していないとダメだとされかねない。あるいは有限会社の小さな工場などで労働者と同じように賃金をもらって働いているのに、工場長だからとか、親戚関係だからとかいうことで、取締役役員になっている場合もある。シルバー人材センターの会員やバイク宅急便も、形式は請負となっているので労災が適用されないと説明される。

全てに共通したことだが、あくまでも実態がどうかによる。ダメな場合もあるが、労災が適用されるケースもある。これが労働者性の問題である。

A.「請負」の実質上労働者

数的にも多く、運動的にも取り組まれてきたのが大工などの手間請けが労働者であるか否かという問題。旧労働省の労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討部会(なんと長ったらしい)が96 年8 月に報告をまとめ、実質上これが労働者性に関する認定基準の役割を果たしている。そこでは、仕事依頼を断れるか、業務の内容や方法の指揮命令があるか、時間や場所の拘束はどの程度か、要員代替が認められているかが重要なポイントだ。補足的に、機械や器具の負担、報酬の額、専属の程度なども考慮される。

いずれにせよ、実質的に本来の請負業者としての裁量がないことを立証できるかがカギだ。他の「請負」労働者の場合も、基本的にはこの報告を元に実態に則して決定される。ただ、実態を詳細に追求すればするほど、請負業者であろうが、労働者であろうが、自己裁量が極めて限られていることに改めて気付かされるのであるが・・・。

B.役員でも労働者

中小企業では、役員を全て親族で固めることも少なくない。ベテランの労働者の下で修行する社長の甥っ子(実は役員)なんてケースはよくある。形式だけだから、数が足りないからということで、頼まれて役員になる労働者も、時にはあるようだ。代表取締役以外の役員について、形式的には役員会や定款で業務執行権があるとなっていれば、労働者ではないとされる。請負のように、実態に則してと言っても、そもそも社長や専務も「労働者と同じように」働いていることも多いので、なかなか厳しい壁のようだ。

しかし、実際経営上の判断は全て社長が独断で決めている小さな会社で、金策もしていたようなある役員について、労働者として過労死が認められたこともある。ポイントは、法人設立時の関与や役員就任の経緯、決定権限や実質的な経営関与の度合い、報酬の額と内容などで判断されるようだ。