じん肺の労災認定について|労災職業病相談マニュアル

じん肺に関する手続きは大変複雑であり、労働基準監督署の職員ですら間違うこともある。その原因は、じん肺の予防対策を目的とした「じん肺管理区分」制度と、労災補償が別々のものでありながら、つながっている部分もあることに起因する。おまけに管理区分申請を受け付けるのは労働局であり、補償は当然労働基準監督署。前置きはこれくらいにしよう。

A.じん肺管理区分制度

じん肺は進行性の不治の病である。そして、やっかいなのは、相当程度肺機能が落ちてしまってから初めて自覚症状が出てくること。つまり、自覚症状のないような軽い状態からチェックしておく必要があるが、逆にそれが可能なわけだ。

具体的には胸部レントゲン写真で、肺の繊維化によるじん肺所見をチェックする。粉じん職場で働く労働者に対して、じん肺健康診断を行うことが雇用主に義務づけられており、それの結果、じん肺所見があれば、会社が労働局にじん肺管理区分申請をすることになる。実質的には労働局のじん肺診査医(神奈川や東京は3 人だが2 人の局が多い)が、管理1、2、3、4の判断をする。管理1はとりあえず大丈夫、管理2は少し所見がある。3になると、かなり悪いので、なるべく粉じん職場を離れた方がよいという段階。4はすでに治療を要するという段階である。管理4になれば、当然労災補償の対象となる。

在職中に管理区分4になる人は、現在はそれほど多くない。退職後に、具合が悪くなってから申請する人が、圧倒的に多い。これを随時申請と言って、申請主体は本人であるが、会社から粉じん作業に確かに従事していましたという証明書が必要になる。いくつかの事業所にまたがることも少なくないが、どこの会社でもいいのではなくて、最後の粉じん作業の事業所に証明してもらうことになる。これがやっかいで、長年ある会社で働いたが、定年前に少しだけ別会社に出向になったとか、トンネル労働者のように、さまざまな現場を渡り歩いた労働者は、最終の事業所がどこなのか、はっきりしないことすらある。よく分からないときは、とにかくはっきりしている会社に証明させて、労働局に申請してしまえばよい。それでも会社が倒産してしまった場合や、どこの会社の証明ももらえない場合は、一緒に働いていた同僚2 人(あくまでも原則)の証明があれば、労働局は受け付ける。

ところで、在職中は、会社がじん肺の健診ができる医療機関に行かせるが、実はじん肺のレントゲン写真をきちんと読影できる、診断できる医師は極めて限られている。じん肺の影を結核や肺ガンと間違えられて、数ヶ月「治療」を受けたというような話はしばしばある。とりわけ石綿肺は不整形陰影という非常にわかりにくい陰影が特徴である。申請には医師の診断書が必要であるにもかかわらず、じん肺管理区分申請の手続き方法を知っている医師は、ほとんどいない。じん肺相談のほとんどが、「間質性肺炎」と言われたとか、医師にじん肺と言われたが、管理区分申請や労災請求の手続き方法がよく分からないというものだ。

B.合併症など

じん肺健康診断では、肺機能検査と合併症の検査も含まれる。じん肺の所見があって、肺機能が低下している場合や、合併症(肺結核、続発性気管支炎、肺ガンなど)に罹患している場合も、労災補償の対象になる。

肺機能検査では%肺活量などが、明確に数字で出るので、もめるはずがないのだが、現在の厚生労働省は、自ら作った「じん肺診査ハンドブック」通りには決定しようとしない。つまり、検査データが微妙な時だけ行うことになっているはずの、動脈血液中の酸素濃度を測定したデータを重視する決定を行う。他の検査は「ごまかし」が可能だが、血液の検査なら嘘がつけないということのようだ。

合併症についても、肺結核や肺ガンは問題が生じることは少ないが、「続発性気管支炎」の判断基準がやっかいだ。簡単に言うと、痰の色と量で判断されるのだが、それは決して医学的な基準ではない。つまり、痰の色が変わったり、量が多いことはもちろん症状の悪化を意味するが、何かそれを境に治療方法が大きく変わるわけではない。痰が出る患者さんに対して、医師は、痰がきれやすくなる薬や時には抗生物質を出したり、酸素を吸ってもらったりするであり、痰の量によって、労災補償がされるとか、されないとか知ったことではない。ひどい場合は、肺機能が低下したり、気管支炎がひどくて労災病院に入院しているような人が、労災補償されていないことがある。労災補償の手続きをしようという意志が働かなければ、治療上必要のない検査などもしないだろう。

厚生労働省は、じん肺患者をなるべく認定したくないと考えているとしか思えない。やはり重要なのは、じん肺のわかる医師と、手続きに長けた活動家だろう。そういう意味では、病院のソーシャルワーカーとの連携は重要な課題である。