頸肩腕障害で労災治療中のKさんの雇用問題をめぐって

■会社は団交拒否、県労委あっせんも不調。会社は、労災患者の雇い止め解雇を画策

コンピューター入力作業などが原因で2013年春頃に頸肩腕障害になったKさんは、同年10月に労災認定され、その後も働きながら治療していた。しかし、会社は十分な配慮を怠り、かえってKさんの業務量は増加し、14年5月から休業を余儀なくされた。
3ヶ月契約を繰り返し更新してきたKさんに対し、会社は、7月からは1ヶ月毎の契約に変更。しかも、7月末に雇い止めにするという条項への合意を求めてきた。Kさんが適確にこれを拒否すると、会社は産業医との面談を指示。そして7月に行われた面談当日に、またもや8月末での雇い止めを通知してきた。また、労災認定されているにもかかわらず、会社は、労災かどうか「判断できない」として労災請求の事業主証明を拒否した。
この経過の中で、当初センターのアドバイスに基づいて個人で対応してきたKさんは限界を感じ、よこはまシティユニオンに加入。その時点では、休業補償が支給されるかは未定であったが、Kさんの理路整然とした抗議に分が悪いと感じたのか、組合加入通知をする前に会社は雇い止め解雇を撤回し、雇い止め条項なしで1ヶ月毎の契約更新をすることになった。13年11月には休業補償についても労災認定された。

■会社は、指定医面談に固執し回答を拒否

Kさんは、その後も労災保険請求と雇用の契約更新を毎月繰り返し、治療に専念していた。ところが15年1月に会社が、Kさんの健康状態を把握するためという理由で、会社の指定する医師に受診することを求めてきた。Kさんは以前、産業医との面談当日に雇い止め通知された経過もあるので、会社の指定医に受診する気にはなれない。また、主治医の斎藤医師(十条通り医院)は、これまで多数の頸肩腕障害患者の治療経験がある。会社がKさんの健康状態等について知りたいのなら、本人が同意すればいくらでも説明する考え方の持ち主である。実際にいくつもの会社が本人と共に診察に来て説明を受けたことがある。仮に治療内容に疑問があるとか、これからの見込みなど、聞きたいことがあれば主治医に確認をとればよい。そのことは再三会社に伝えている。ところがなぜか会社は、主治医には情報提供を求めるだけで、指定医との面談に固執。Kさんは、改めてよこはまシティユニオンと相談し、組合加入を通知して話し合いでの解決を目指すことにした。
15年4月、団体交渉が開催された。ユニオンは、会社に対して、労災と認めること、損害賠償すること、健康状態の把握は本人やユニオンとの合意に基づいて行うことなどを求めた。会社は、弁護士を同席させ交渉に応じたものの、主治医に情報提供を求めている段階では労災かどうか判断できない、回答できないという姿勢に終始。その後、主治医からは回答書が会社に送られたが、やはり会社からは何ら連絡がなかった。

■会社は、労働委員会のあっせん案も拒否

その後、ユニオンは、何度も会社の担当部長と電話や文書でやりとりしたが、物事が進まない。詳細は略すが、とにかく会社は指定医との面談に固執し続けた。まさにその点について団交しようと持ちかけてもはぐらかされ、こちらの質問や主張にかみ合う回答がなかなか得られず、やっとかみ合ったと思ったら、必ず「検討します」でおしまい。1ヶ月経ってまた話が振り出しに戻る文書が送られてくることを繰り返した。また通常、弁護士が団交に同席する場合、弁護士が対応窓口になるが、なぜかこの会社は担当部長が常に対応に出てきた。結局、半年以上もそうしたやりとりが続き、15年末にユニオンは、神奈川県労働委員会にあっせんを申し立てた。
日程調整にも時間がかかったが、16年3月24日にようやくあっせんが行われた。実に3時間以上にわたるあっせんの末、労働委員会から、会社が主治医に質問状を送る、回答を得た上でも面談が必要である場合にはその理由をユニオンに団交で説明をするという、極めて常識的な協定案が提示された。ユニオンは「合意しても構わない」と回答したが、会社は「持ち帰り検討する」とのこと。担当部長だけではなく人事部長(実は昇格前に団交にも出席している)、弁護士2名(なぜか団交出席者と異なる)が出席しているのに、この程度のことも合意できないのかと疑問を感じたが、とにかく検討を待つことになった。
ところが結局、会社は労働委員会のあっせん案を拒否し、あくまでも指定医との面談に固執。あっせんは不調に終わった。不当労働行為救済申立ても含めて、ユニオンは今後の方針を検討中である。【川本】