振動障害の労災認定について|労災職業病相談マニュアル
A.山林労働者だけではない
振動障害は「白ろう病」と呼ばれ、山林労働者がチェンソーを使う中で発症したこと、より正確に言うと、その労働組合がきちんとした取り組みを行う中で労災認定を勝ち取ったことで有名である。現在も、北海道や四国、九州などの山間部に多くの患者さんがいるが、それはそのまま労働組合や医療機関がきちんと取り組んだことを意味する。山林労働は確かに厳しいが、上記の地域の労働条件だけが特に劣悪だったわけではない。
実は、都市部の建設業、鋳造など製造業でも労災認定されている。現在は新規認定患者の6 割が建設業従事者である。振動障害の認定基準からして、「さく岩機、鋲打ち機、チェンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害又は運動器障害」である。それには振動工具として各種ハンマーやカッター、研削盤などが列挙され、それらと類似の振動を与えると認められる工具がすべて該当する。これらを概ね一年以上使用していた場合、あるいはそれより短くても休憩時間が少ない場合なども認められる。まずは、きちんと仕事の内容と振動工具の作業歴を確認することが重要である。
B.医学的判断について
レイノー(白ろう)現象が振動障害に最も特徴的な症状で、それがあれば文句なしに認定される。もちろん医師の確認が必要だが、特別な検査は必要ない。レイノー現象がない場合の「末梢循環障害、末梢神経障害、運動器障害」の把握については、認定基準で検査方法及びその評価が定められている。これには検査機械が必要で、それを持っている医療機関で検査してもらうしかない。現在、厚生労働省では、さらに高価な機械が必要な検査方法導入して、それを振動障害の診断基準にするような動きがあるので注意が必要だ。
実際のところ、振動障害という病気そのものがあまり知られていない。末梢神経障害などは原因不明がほとんどであると、一般の医学書には書いてある。指先が真っ白になるような、かなりひどいレイノー現象があっても、医師にかかることすらない労働者も多いと思われる。私が相談を受けた鋳造職場の労働者や土木労働者は相当ひどい症状だったが、仕方がないと考えて医師にはかかっていなかった。職場の健康診断も行なわれていなかった。辛くて医療機関に行ったが、レントゲン写真を撮られ、骨などに大して異常はないと言われておしまいだったと言う労働者もいた。無理して働いて重症化すれば何年も治療を要することをもっと広く知ってもらわなければならない。振動工具を使うという意味ではかなり特定できるし、自覚もできるのだから、啓発活動で予防対策も十分可能である。