職場のパワーハラスメント防止にむけた法制化を!

 職場のパワーハラスメント対策を話し合う厚生労働省の検討会が17年5月から開かれ、18年3月には報告書をまとめることになっている。あまり報道されていないが、労働側委員は、何らかの法制化を実現すべきと強く主張している一方、使用者側は、ガイドラインにとどめるべきという意見。仮に検討会で法制化の方向がまとまったとしても、実際に法改正や防止法制定までには時間がかかる。

 そこで、全国安全センターメンタルヘルスハラスメント対策局は、18年1月に「申し入れ意見書」(12頁参照)を作成し、よこはまシティユニオンの組合員が自らまとめた「職場のパワハラ等防止対策における労災被災者の体験談」を検討会の委員の皆さんに送付した。ある委員からは、「確かに受け取りました。今後もご活躍を」というお返事のメールを頂いた。

 3月2日には国会内で「職場のハラスメント防止の法制化を!」院内集会が開催され、100人を超える参加があった。全国安全センター古谷事務局長は、5~6月に国際労働機関(ILO)総会で職場の暴力やハラスメントの根絶が討議されることを報告。よこはまシティユニオンの組合員や、名古屋ふれあいユニオンの鶴丸組合員もパワハラ被害の当事者として発言した。法制化に向けて、今後さらなる取り組みが必要だ。【川本】

▼ パワハラ労災被害者の体験談
よこはまシティユニオン組合員A

 近年、パワハラによる過労死や精神疾患が大きな社会問題となっている。対策として厚生労働省により様々なガイドラインが定められているが、日本企業や社会では十分理解されていない。そこで、パワハラ防止の法制化が検討されるようになった。私は労災認定された三菱電機労災事件の当事者としてパワハラの具体例を証言する。一刻も早い法制化と、パワハラに苦しむ当事者同士が協力し声を上げることでパワハラ問題の解決を図りたい。

1、はじめに

 近年日本では職場におけるパワハラは増加の一途をたどり、大きな社会問題となっている[1](12頁の「参考文献等」参照・以下同)。こうした状況を改善するため、厚生労働省は様々な対策を講じることで企業への提言を行ってきた。12年3月には職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議の結果を取りまとめ、「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」[2]として、企業に対しパワハラの根絶を呼びかけた。ところが、こうした「提言」だけでは、良識ある会社は取り組むが、そうでない会社は取り組まない、あるいは取り組む姿勢をアピールするものの実際は杜撰で悪意ある労務管理のもとにパワハラの存在自体否定され問題解決に至らないのが現状である。

 同様なハラスメントとしてセクシャルハラスメントが取り上げられるが、こちらは99年における男女雇用機会均等法改正でセクハラ防止対策をとることが事業主の配慮義務となり、07年の改正では措置義務へと強化された。法改正により更なる世の中の女性たちが団結し、声を上げることで隠蔽されてきたセクハラ問題が顕在化してきた[3]、[4]。セクハラ解決に声を上げた人々に続き、パワハラに苦しむ人達も団結し声を上げていくことで初めて解決される。

 そこで、今あるパワハラ防止の提言からさらに進み、法制化の実現が急務である。事業主にパワハラ防止の配慮義務があることを明確化、またはパワハラの予防措置・事後措置の義務付ける[5]ことにより、企業と労働者の認識を改める。

 今回、私が受けたパワハラとそれに対する三菱電機の対応について詳細を記述する。実際に起きたパワハラ被害の一例として予防対策を立てることに役立てて頂きたい。そして、労働者の健康と人権を守るために一刻も早い法制化を訴える。

2、労災事例と分析

 企業が予防対策に取り組む上で、実際に生じた厚生労働省の精神疾患の労災認定事案は大いに参考となる。パワハラ被害の実例として三菱電機で起きた労災事件について被害の体験談を説明する。 この事件は16年11月に長時間労働を理由とする精神疾患で労災認定され、三菱電機は書類送検された[6]、[7]。精神疾患に陥った理由としては、長時間労働と上司からのパワハラが背景にあった。長時間労働とパワハラは同時に起きやすい[8]。具体的な長時間労働とパワハラの内容、それらに対する三菱電機の対応を記す。

3、事件の経緯

⑴ 入社当時
 私は13年4月に三菱電機株式会社に入社した。同7月に神奈川県にある情報総合研究所、光・マイクロ波回路技術部(現光技術部)、レーザ・光制御グループに配属され、研究・開発職員として働いていた。現場では長時間残業や休日出勤が常態化しており、さらに過重労働を強要するため上司によるパワハラが頻繁に行われる職場であった。

⑵ 疾病
 同年12月頃から残業が増え始め、月80時間は当たり前となった。特に14年2月の残業は160時間を超えた。同時に、上司からパワハラを受けるようになった。14年3月に会社が実施するメンタルヘルス診断を受けたところ、心療内科を受診するよう勧められ、同4月より通院。薬を飲みつつ月80時間の過労死ラインで働いた。同4月に、上司からのパワハラがさらにエスカレートし、それに伴い病状も悪化し、同7月に休職した。

⑶ 会社からの解雇
 休職当時(14年7月)、人事より「休職期間は17年6月まで」と説明されたが、16年2月に急遽、「社内規則を読み間違えていた。実際は16年6月までが休職期間。それまでに復職できない場合は解雇する」と連絡された。しかし、うつ病が完治していない事に加えて、職場に過重労働とパワハラの改善がないため復職は不可能であった。

 そこで、ユニオンショップ協定で加入していた三菱電機労働組合東部研究所支部の執行委員長に対し、会社と交渉するよう求めた。しかし、委員長からは会社との交渉を拒否された。その後、私は三菱電機労働組合を脱退し、よこはまシティユニオンを通じて行動している[9]。

 三菱電機に対しては、「会社が提示する期間までの復帰は無理。労災認定されれば解雇はできないはず」と伝えたが、「会社に長時間居たことは認めるが、『業務』ではなく『自己啓発』のために会社に残っていたので、問題はない。過重労働ではないし、パワハラも存在しなかった。労災ではなく私病による休職だ」として、労災申請結果を待たず解雇された。

⑷ 労災認定と現在
 解雇後、16年11月に労働基準監督署より、「休日労働や2週間以上の連続勤務によって1月当たり100時間を超える長時間労働を行ったことが原因で適応障害を発症した」と労災認定された[6]。また、残業時間を過少申告させたことで三菱電機は書類送検された[7]。その後、同年12月に三菱電機は解雇を撤回したが、謝罪はなく、現在も団体交渉を続けている。

4、パワハラの具体例

 上司からのパワハラについて具体的に説明する。

⑴長時間にわたる叱責
 普段から仕事内容や心構えについて怒鳴り声での叱責を受け続けていた。

・上司は毎日大声で怒鳴り散らし、叱責は1~2時間に及ぶことも。場所は社内ではグループミーティング中の会議室や通常勤務中の居室、作業中の実験室で、社外では出張移動中の歩道や電車内で大勢の人前で叱責を受けた。また、狭い会議室に連れ込まれて1対1で何時間も叱責を一方的に受ける事もあった。酷い時は1週間毎日、執拗に個室で叱責を受けた。

・時には、ペンを資料に叩きつける等の行為で恐怖感を煽られた。

・全てのグループ員が同様に人前で叱責を受け、自分のことではなくても戦々恐々としていた。他のグループ員も同様に閉じ込められ1対1で叱責を受けていたらしく会議室は「説教部屋」と揶揄された。さらに、自身のグループだけでなく部署全体で常態的にパワハラによる怒号が飛び交い、非常に不快な職場だった。

・叱責は深夜まで続くことも。一例として、A4一枚の資料作成の際、修正のためよくわからない理由で何度も突き返された。「いつまでやるつもりだ!」と怒鳴られ続け、深夜3時を回ったことも。帰宅の際は「上司を夜遅くまで働かせたんだから必ずこの恩は返せよ!」と心身共に酷く疲労している所に追い打ちをかけるように叱責を受けた。

⑵ 罵倒や脅迫
 叱責の内容には罵倒や脅迫が含まれることが多くあった。

・上司の思惑通りの回答をしないと激高して内容を修正するよう強いられた。「できない。分からない。」と答えると、「できませんじゃない!やりますと言え!」と脅された。同様にグループ員が「やります。」と答えなかったために2時間無言のまま「説教部屋」に監禁されることもあった。

・本人の能力を揶揄し、人格を酷く傷つけられた。
具体的には、「中学生でも解ける問題だぞ」「そんなんでよく博士号が取れたな」等と叱責された。

・指導の範囲から大きく逸脱した罵倒を受けた。上司の指示に従って失敗した際、「言われたことしかできないのか! じゃあ、お前は、俺が死ねといったら死ぬのか!」と怒鳴られた。

・雇用や将来、社会的地位を奪うと脅迫された。グループ員に対して冗談交じりで「お前クビ!」と言い放ち、場を不快にさせた。指導の際、脅迫の材料に使用し「お前の研究者生命を奪うのは簡単だぞ!」と叱責された。また、同じグループで精神疾患により退職した人が部長から「明日退職届を持って来い!」と脅迫されたと聞いて、組織や上司に逆らうと雇用や将来を奪われると恐怖した。実際にその後、三菱電機から一度解雇されている。

⑶長時間労働の強制
 グループ員全てが上司から長時間労働を強いられ、心身を酷く害した。以下にその手口を記す。

・労務管理方法
 三菱電機は、セキュリティチェックのため入退場をICカードによって行い、誰が・何時・何処にいたのかを管理していた。ところが、労働時間の把握は自己申告制を採用している。具体的には、社内ネットワーク上でICカードにより記録された前日の出社・退社時間を確認し、自分自身で勤務時間を入力するシステム。

・恫喝
 配属当時から度を過ぎた長時間労働が常態化していた。殆どのグループ員が午後10時30分退社が基本で、深夜残業になることもよくあった。休日出勤も珍しくなかった。そのため職場では過労とパワハラによる精神疾患が蔓延しており、自身もそうなるのではないかと戦々恐々としていた。

 さらに、上司から長時間労働を強要されていた。前述のように脅迫を交えて約束させた後、「約束を守るために徹夜してでも死ぬ気でやれ」等と言われた。土日を休んだ先輩が次週のグループミーティングで、グループ員皆の前で、上司より、「ブラックもクソも関係あるか! 研究者なんだから自分を高めるために土日もやれ!」と恐喝された。

 深夜だろうと土日だろうと仕事の電話をかけられていた。先輩が日曜に電話に出なかった時、「あいつ電話にでやがらん!」と苛立っているのを見せつけられた。月曜に先輩が呼び出され、「仕事の電話なんだから土日だろうと出ろ」とグループ員の前で注意を受けた。自分も平日の帰宅中、午後11時30分頃に上司から電話がかかってきて「今どこにいるんだ? あの仕事はどうなっているんだ?」と聞かれて困惑した。

・過少申告の強要
 基本的に残業は月40時間未満に済ませるよう指導されていたが、とても終わる仕事量ではなく、前述の通り自身も月80時間の残業が当然となった。しかし、上司から残業の申請を月40時間未満に過少申告するよう強要された。同じグループの先輩に残業時間の申請はどうしているかと聞いたところ、「毎日実態より少なく申請して月の合計が40時間を超えないようにしている」と答えられた。また、他の先輩が70時間以上の残業時間を申請したところ上司に叱責を受け、わざわざ周囲のグループ員に聞こえるように「70時間以上残業をつけるな」と言われていた。

 さらに、上司からミーティングの際、「怪しまれるので40時間丁度では申請するな。ある月は39時間、別の月は38時間にするなど工夫しろ」と、グループ員全員に通達された。後に、メールでも同じ内容の指導を受けた。他のグループでも「先輩は君より働いているのに40時間以上も申請していない」「勉強期間なんだから残業申請するのはおかしい」等と言われて過少申告を強要されていた。

 他にも、午後10時30分以降の深夜残業は記録に残ることから、「深夜に仕事せず、朝早く会社に来て仕事をするなど工夫しろ」と言われた。さらに、持ち帰り仕事は時間が記録されないことから、「持って帰ってやれ」と言われた。自分はノルマの一つである特許作成に関する資料において、「メールで送った論文は読んでないのか?」と言われたが、時間的余裕がなかったため「読んでいない」と答えると、「社外秘じゃないから家に持って帰って読め」と恫喝された。

 以上のように、社員は社内システムの穴を故意に突くような真似を強要されていた。

・杜撰な勤怠書類管理
 月に一度グループ全員分の自己申告による労働時間が印刷されグループで回覧されていた。間違いがないかグループ員一人ひとりが署名し、最終的にはグループの長である上司が取りまとめ確認をしていた。もちろん過少申告だらけであることを上司は知っているにも関わらず、書類は問題なく処理されていた。

 さらに、夜10時半以降の残業は深夜残業届と呼ばれる書類が必要であった。これは深夜残業が必要な理由を記入しグループの長である上司とさらに上の部長の印鑑を貰わなければならない。その後ゲートの警備員に書類を渡すことで退社できるしくみだった。深夜残業を許可制にすることで、労働者の心身を守る取り組みであったが、安全装置として機能することはなく、上司達は無条件で印鑑を押していた。最終的には、あまりにも深夜残業が常態化していたので最初から部長印が押された深夜残業届が配られる事もあった。その後から適当な残業理由を記入して警備員に渡していた。

 また、団体交渉でも確認されたが、労務管理を担う人事・総務部門は、労働時間管理については、完全に現場任せであり、上記の違法労働を把握しようとすらせず、事実上黙認状態であった。そのため、長時間労働のチェックが全く機能せず、職場全体において違法労働が蔓延する原因となった。

⑷ 規則違反の強要
 他の企業から物品を購入する際、決済に間に合わないためにダミー品や空箱を購入先に送らせて、後からサンプル品等と嘘の理由をつけて完成した物品を送らせていた。その際、購入先へ空納入の指示や、三菱電機における納品チェックの偽装等、規則違反の片棒をかつぐよう強要された。過去に空納入に失敗した先輩の前で、自分は上司から「こいつ(先輩)は2度も俺のクビを飛ばそうとしたからな」と脅された。

⑸ 権利の侵害
 有給休暇の取得において権利の侵害があった。いとこの結婚式に出席するため有給休暇を取る旨を1ヶ月程前から上司に伝えていた。1週間前に申請の検印を上司に貰いに行ったら、「この期末で忙しい時期によく有給休暇を取れるな。ノルマ達成していないのにどうするんだよ」と恫喝された。

 また、他の先輩が有給休暇を取得する際、
上司「有給の理由は?」
先輩「私用です。」
上司「だから理由は?」
先輩「私用です。」
と、パワハラを交えた問答を繰り返していた。そのため部内は酷い有給取得率であった。

5、使用者側の対応

 団体交渉を通じて明らかになった三菱電機の誠意なき対応について記す。

⑴反省なき上司と会社
 社内のメンタルヘルス診断において通院を勧められ、同時に、上司には仕事量を削減するように言われた。また、グループの先輩からも上司に対し「彼(自分)の様子がおかしい」と警告を受けていた。ところがその後も過重労働が続き、さらにパワハラもエスカレートしたために症状が悪化してしまった。この件に対し抗議したが、上司は「指導を受けて仕事は簡単なものにした。配慮してやった」と回答した。三菱電機もこの意見に賛同し、「実際仕事量は減っているでしょう?」と挑発してきた。確かに残業時間は160時間から80時間に減ったが、過労死ラインで働いており、それを上司も認識していた。その上、隠れ残業も強要されていた。休職して1週間後、グループの先輩と会ったが、グループミーティングにおいて「休職者が出たが、俺はこのやり方を変えない」と上司が宣言したと聞いた。労災認定においても書類送検されても、上司と会社は意見を取り下げず、全く反省が見られない。

⑵人事の杜撰な調査
 団体交渉を通じて、長時間労働を含むパワハラがあったはずだと調査を求めた。すると、三菱電機は、被害者側から詳細を聞くことなく一方的にパワハラ調査を始めた。その結果、「パワハラは存在しない。熱心な指導だ」と回答してきた。当然納得いかないので調査の詳細を求めると、「プライバシーに関わることなので」と、開示を拒否された。

 長時間労働に関しては、入退場記録を元に、明らかに過重労働が行われていることを指摘したが、「労働時間ではない。自己啓発時間だ」として、現在も開き直っている。

⑶一方的な解雇
 解雇の経緯については前述の通り。もちろん団体交渉において抗議した。

・人事が社内規則を読み間違えたことで休職期間が1年も短くなり、すぐには復職できない事を伝えた。また、社内規則を間違えた理由について三菱電機は、「分からない。基本的には起こり得ない事が今回起きた」「しかし規則は規則なので解雇する」と回答した。

・社内規則には特例として、休職期間を18ヶ月延長できる制度があった。特例行使の具体事例は示されておらず、今回の件でも十分使用できた。さらに、数ヶ月もすれば労災認定の結果が出るので、それまでこの制度を使って解雇を保留するよう要求した。しかし、三菱電機は、「解雇の保留はない。意見は変わらない」として、解雇してきた。

⑷不当労働行為
・私は三菱電機労働組合を脱退し、よこはまシティユニオンに加入し、三菱電機に団体交渉を申し込んだ。ところが、三菱電機は、三菱電機労働組合とのユニオンショップ条項を理由に、解雇の期限直前まで団体交渉を引き伸ばしてきた。さらに、三菱電機労働組合は、私に「脱退すればユニオンショップ条項により解雇される」と脅迫まがいの手紙を送ってきた(復帰できない以上、解雇されるのだが)。そこで、三菱電機に対し団体交渉の引き伸ばしについて抗議し、さらには解雇理由に関係するユニオンショップ条項を開示するよう求めた。

 三菱電機は、「当社は三菱電機労働組合とユニオンショップ条項と唯一交渉団体条項を定めているからAの組合資格を確認していた。また、団体交渉受け入れについて三菱電機労働組合の意見を確認した」と引き伸ばしの理由を述べた。さらに、「三菱電機労働組合からの許可が得られない」との理由でユニオンショップ条項の開示を拒否した。

・団体交渉で解雇の保留を求めたが、三菱電機は退職願を含めた「在籍期間満了に関わる件」等の書類を直接私にに送りつけてきた。団体交渉中に労働組合を飛ばして組合員へ復職意思の有無の確認、退職願の送付、解雇の予告を行う事は団体交渉拒否、支配介入に当たる不当労働行為であり、ユニオンを通じて抗議した。三菱電機は「手続きを連絡しただけである。不当労働行為に当たらない」として開き直った。

⑸ 謝罪なき対応
・長時間労働とパワハラ、杜撰な労務管理など劣悪な労働環境に晒され寛解困難な疾病に陥ったことに対し謝罪を求めて団体交渉を重ねた。ようやく「業務により体調を崩されたことについては『当所』として申し訳なく思う」と回答したが、本社のコメントはない。さらに、長時間労働やパワハラを頑として認めず、『自己啓発』により勝手に病気になったという姿勢を未だに変えていない。

・解雇について謝罪を求めた。人事の落ち度により混乱をもたらした事、解雇せずに救う手段が社内規則にあるにも関わらず切り捨てた事で、私のうつ病はさらに重篤化した。一連の暴挙に対し謝罪を求めた。三菱電機は、解雇自体は撤回したものの「社内規則に従ったまで。解雇したことについては何も問題はない」と開き直っている。

⑹ 賃金未払い
 労災認定後、未払い残業代を請求した。三菱電機は解決金の一部として、請求金相当額を支払う意向を示している。しかし、労基署が『自己啓発』ではなく明らかな業務時間と認めたにも関わらず、「賃金未払は存在しない」と今も言い張っている。
 また、常態化しているパワハラと長時間労働について対策を求めたが、「他に同じようなことはない」と、最初から結論ありきで、調査すらせず拒否された。電通は、労災認定後に同様のケースがないか調査し、未払いだった賃金を一部支払っている[10]。対して三菱電機は自社の労働者達に何一つ反省を示していない。

6、所感

 これまでの長時間労働を含めたパワハラ及び三菱電機の誠意なき対応を体感してきたが、日本において、パワハラ問題は非常に根深いものだと感じた。

 若い社員は「研究者だから」「高度な技能を要求されるから」「そういう業界だから」「後の利益になるから」「自分を高めるためだから。勉強だから」「やりがいがあるから」等と言われ、愚痴りつつも上に従っている。管理職は、部下を使い潰すことで使用者に媚を売る。また、本来労働者の権利を守るはずの労働組合が御用組合と成り下がり、末端の労働者を切り捨てることで使用者に協力している。使用者は恣意的に労務管理を杜撰にすることで労働者の権利を侵害し利益を挙げている。国を代表すべき大企業でパワハラが横行し放置されている。

 このように、パワハラのノウハウが複雑に構築され、狡猾に運用されている。その結果、労働者のほとんどが孤立し、沈黙してパワハラに耐え続けているのが現状だ。そこで、パワハラで苦しむ労働者自らが団結し声を上げるため、法制化が必要である。

 今回我々の目指す法案は、権力者の思いつきや気まぐれにより与えられるものではない。数多くの労働者が自らの力で勝ち取る権利、その証である。今まさにパワハラに苦しむ人々に対して決して、一人ではないことを伝えるために、そして立ち上がる勇気を分かち合うために、是非とも法制化を成し遂げていただきたい。

【参考文献等】
[1] 村山晃一、牧内昇平、“「心の病」で労災認定、過去最多 パワハラ原因が増加”、朝日新聞DIGITAL、https://www.asahi.com/articles/ASK710CW6K6ZUBQU017.html、2017年7月

[2] 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議、“職場のパワーハラスメントの予防解決に向けた提言”、厚生労働省HP、http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025370-att/2r9852000002538h.pdf、2012年3月

[3] 辻本洋子、“表に出たセクハラ被害”、読売新聞、2018年1月4日朝刊

[4] 厚生労働省、“事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針”、厚生労働省HP、http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000133451.pdf、2016年8月

[5] 村上晃一、“パワハラ防止へ4例 法制化 労使に隔たり”、朝日新聞、2017年12月1日朝刊

[6] 早川健人、“三菱電機 31歳男性の労災認定 違法残業で適応障害に”、毎日新聞HP、http://mainichi.jp/articles/20161126/k00/00m/040/034000c、2016年11月25日

[7] 渡辺一樹、“三菱電機・違法残業で書類送検 元社員が語った「残業隠し」の実態”、 BuzzFeed NEWS 、https://www.buzzfeed.com/jp/kazukiwatanabe/mitsubishi-denki-shoruisouken?utm_term=.sye6N9NqJ#.ng02pYp5q、2017年1月11日

[8] 川人博、“働き方改革」の隠れた争点を考える 過労死事件の多くで長時間労働とパワハラは同時に起きている”、情報産業労働組合連合会HP、http://ictj-report.joho.or.jp/1704/sp03.html、2017年4月18日

[9] 牧内昇平、千葉卓朗、贄川俊、“(働き方改革を問う:8) 労組はだれのために 「働き手の味方」のはずが”、朝日新聞Digital、http://www.asahi.com/articles/DA3S13015015.html、2017年7月2日

[10] “電通 残業代23億円支給へ 2年間分未払い分 社員申告”、読売新聞朝刊、2017年11月28日