アスベスト被害による「肺がん」もっと多いはず
中皮腫の原因が石綿であることを否定する人はほとんどいない(本田技研工業は裁判で、「そうではない」という珍奇な?説を支持しているが)。しかし、「肺がん」については様々な有害物質が原因とされており、特にタバコは大きな原因の一つである。それで、肺がんが、職場でばく露した石綿が原因であるとして労災認定されるには、いくつかの条件がある。先日もそういう相談があったが、喫煙歴があるというだけで労災が認められないわけではない。民事的には、その分を削るという石綿肺や胸膜プラークといった医学的所見があって、概ね一〇年以上のばく露歴があれば労災認定される。
ところが、この医学的所見というのがくせ者。まず、石綿肺やプラークの有無や程度については医師の意見が異なることも少なくない。そして、労災認定基準では、ばく露歴などがはっきりしない場合でも、肺の中の石綿線維や石綿小体がたくさんあれば業務上とするという表現なのに、姑息にも厚生労働省は、ばく露歴がはっきりしていても、肺に石綿線維や石綿小体がたくさんなければ認めないという趣旨の事務連絡を出した。
実は、白石綿(クリソタイル)の場合、石綿線維や石綿小体を作りにくく、ばく露状況を反映しない。だから、明らかに石綿ばく露しているにもかかわらず、石綿線維や石綿小体が少ないことを理由に、次々と業務外となる。その結果、通常、中皮腫の二倍あるといわれる石綿肺がんの労災認定数は、逆に半分に過ぎない。そもそも医師が、タバコが原因と決めつける傾向があり、労災請求自体が少ない(実は神奈川は石綿肺がんの認定件数がけっこう多い。先日、平塚監督署と交渉した時に聞いたのだが、石綿被害に理解のある医師のアドバイスで労災請求に至った人が多いそうだ)。神戸や千葉では、労働基準監督署の業務外決定の取り消しを求める行政訴訟を闘っている被災者がいる。
石綿被害の裁判の代理人として活躍する古川武志弁護士は、次のように語る。「労災認定された人の企業に対する損害賠償請求は、いわば補償水準の山を高くする取り組み、石綿肺がんの労災認定を求める行政訴訟は、いわば山のすそ野を広げる取り組みです。両方の運動が必要でしょう。」全く同感である。アスベストユニオンの場合は、企業の責任追及が主な闘いになるが、石綿肺がんの問題も決して忘れてはならない課題だと考えている。
アスベストユニオン書記長/川本浩之