請負労働者に関連する労働安全衛生法令・指針について

はじめに
このところ請負労働者に関連する法令・指針、それに関連する論説をまとめて読む機会がありました。派遣労働者には、一九八六年に施行された、いわゆる「労働者派遣法」(「労働者の派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件等の整備等に関する法律」)があるのに、請負には、独立した請負労働法制が欠落していることを知りました。請負は戦前からの歴史を背負った雇用形態であり、戦後の労働基準法や労働安全衛生法(安衛法)でも、それを前提とした関連の規定があることはあります(例えば労働基準法八七条、安衛法一五条など)。ここでは表題のサブタイトルを強く意識しつつ、請負労働者の安全衛生の現状と今後の取り組みのありようにについて考えてみます。

もう一つ、こんな小文を書こうと考えた私の意図にも触れておきます。日本のような一応成熟した法治国家にあって、事業主に対して安全衛生の問題を喚起させ、その改善に取組ませる契機となるのは、安全衛生法規が守られていないとする労働者側の抗議・告発です。事業主の第一の関心事は、なんといっても利潤を上げる点であり、まだまだ安全衛生の順位は二の次でしょう。さらに今日の急速な技術革新のもとでの安全衛生は、しばしば法規が技術に追いつけません。従って、法規を遵守しているだけで「よし」とはされません。こうした状況の克服は、おそらく労使双方が、ともに現行の法規を自家薬籠中のものとしていることが前提になるに違いないからです。天明佳臣(センター所長・医師)

法規について
安衛法では、事業の一部を請負人に請け負わせている場合に、最も先次の注文者を「元方事業者」とし、その依頼を請けている事業者やその後次の全ての請負人に「関係請負人」という用語があてがわれています。請負労働者は、いうまでもなく関係請負人の指示に従って元方事業者の現場などで働いている労働者です。

建設業や造船業の現場には、実に多種多様な請負人が入り、請負労働者たちは、しばしば重層的請負関係の下で作業をしています。これは昔も今も変わりません。造船業などでは、最近の方が、正社員よりも請負労働者の割合が増えているようです。安衛法では、こうした実態をふまえて、建設業や造船業を「特定事業」として、これを行う事業者を「特定元方事業者」としています。周知のことと思いますが、建設業の特定元方事業者は、雇用関係や作業上の指揮命令関係がない下請け労働者の労災保険料を支払っています。これは一九三一年制定の労働者災害扶助法によって、安全衛生責任と表裏一体の労災補償責任も元方事業者に課せられており、そのまま戦後の労働基準法八七条に引き継がれたからです。

請負と派遣とはどこが違うのでしょうか。元方事業者や派遣先会社といった、別の事業主の現場で働くと言う点では同じです。違うのは、派遣は別の事業主から作業上の指揮命令を受けるのに対して、請負では、関係請負人が指揮命令して、業務の完了に責任を負う点です。法律上の理屈ではそうなのですが、実際には派遣なのか請負なのかわからない労働者が、たくさん働いています。

派遣法の規制緩和にともなって、同一の労働者が同一の仕事を続けているのに、ある時期には請負だったり、派遣だったり、また請負になったりすることがあったそうです。産業医として職場巡視していても、同じフロアで働いている労働者のどの人が正社員で、どの人が請負や派遣労働者なのか、協力会社や子会社の労働者など、まるで区別がつきません。いわゆる「混在作業」で、とりわけ二〇〇四年から製造業派遣が解禁されてからの現場では、急速に増えてきました。実は正社員も、自分たち以外の労働者をひとまとめに「社外工」と認識しているだけで、どのような雇用関係を結んでいるのかを正確に把握していないのが実態のようです。その他にも「契約社員」などと呼ばれる、直接雇用の有期契約労働者もいます。

どのように名称を変えていても、要するに事業主による経営の合理化、人件費コストの削減のためです。よほど特殊な技能を持つ請負労働者を除き、正社員との賃金格差は歴然としています。製造業派遣の禁止を含めて、議論が始まっていますが、どうなるのか推移に注目しなくてはなりません。

厚生労働省の提示する混在作業に伴う労働災害対策
二〇〇六年四月の改正労働安全衛生法は、混在作業によって生じる労働災害を防止する措置として、製造業(造船業を除く)の元方事業者にも、作業間の連絡調整、合図の統一などが義務づけられました。同年八月には、「製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」が公表されています。

この指針はおそらく二〇〇四年二月に厚労省が公表した「大規模製造業における安全衛生に係る自主点検結果」を踏まえてものことと考えられます。それによると、元方事業者労働者と関係請負人労働者の労働災害率(年千人率)は、五・〇九と一一・三二であり、後者が二倍以上高くなっています。その原因について、作業間の連絡調整や工事発注時の危険情報伝達が十分になされていない場合に、労働災害率が高いことを明らかにしているからです。むろん関係請負人や請負労働者の増加や、業種や作業の種類の増加も背景にあるでしょう。

すでにはっきりと規定されている元方事業者の請負労働者に対する安全衛生に関する義務の概要は次の通りです。

関係請負人とその労働者に対し、法律の遵守に関する指導、指示の義務(安衛法第二九条)

「特定元方事業者」はその労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、必要な措置を講じること(安衛法第三〇条)

「特定元方事業者」のうち、その労働者数が常時五〇人(ずい道等の建設、橋梁の建設及び圧気工法による作業については三〇人)以上となるときは、混在作業による労働災害防止のために統括安全衛生責任者を専任し、必要な事項を統括管理させなければならない(安衛法第一五条)

製造業において拡大している関係請負人の業種や作業種類を示すと、

イ、製造ラインの一部やその周辺作業(製品組み立て、加工・梱包、設備運転)

ロ、製造設備の新・改造や構内建屋の建設などの建設作業(構内に常駐または滞在しているケースもある)

ハ、運搬業(資材、製品の運搬)

ニ、購買や警備業者(警備、食堂、売店)

これらの部門での安全衛生対策を推進するための具体的な内容として、「指針」はこれまで建築業と造船業という特定元方事業者に課してきた安全衛生項目を、ほぼ製造業全体にも適用しようとする内容と考えてよいものです。その細則から、とくに留意すべきとされている事項をあげてみます。

作業間の連絡調整:随時元方事業者と関係請負人および、関係請負人間における連絡調整

元方事業者と関係請負人との協議会設置:混在作業における労働災害防止のためには、元方事業者と関係請負人との間で必要な情報を共有し、共通認識を持つこと。そのために設置する協議会は現場に実態に応じたものとする。

リスクアセスメントの実施結果に基づく改善:改正安衛法では、事業者の努力義務とされているが、混合作業の行われている現場においても、改善のための重要なツールであること。例えば元方事業者の所有する機械などを関係請負人などに使用させている場合、その管理権限は元方事業者にあるが、関係請負人が実施したリスクアセスメントによって改善の必要性が見つかった場合には、元方事業者は関係請負人に必要な権限を与えるか、関係請負人との協議をして自ら改善すること。

危険性及び有害性などの情報提供:元方事業者が化学設備の分解または設備内部への請負労働者を立ち入らせる場合に、作業開始前になすべきいくつかの必要な措置。

元方事業者の関係請負人への安全衛生上の指導・開示の義務

こうした措置を製造現場で元方事業者と関係請負人が実施しているでしょうか。現実には残念ながら労働災害が請負労働者に発生してはじめて、その管理のずさんさがわかるケースが多いのではないかというのが、偽らざる実感です。なお、請負労働者をはじめとする非正規職員についての、安全衛生について、法や指針の類を絵に描いた餅にしないためには、本工の労働組合、コミュニティユニオンや労災職業病センターなどによる教育活動、サポートが不可欠です。

請負労働者の労災の元方事業者の安全配慮義務について
元方事業者の請負労働者への安全配慮義務については、以前から最高裁でも判例が出ています。

建設業の請負労働者の作業について、「場所や設備、器具などの提供や直接指揮監督を受け、外形的に元方事業者の一部門のような密接な関係があり、両者が共同して安全管理に当たり、安全確保のために元方事業者の協力や指揮監督が不可欠で、実質上元方事業者との間に、使用者と被用者の関係と同視できるような経済的、社会的関係がある場合には、労働契約上の安全配慮義務と同じ内容の義務を負う」(鹿島建設損害賠償事件/一九八〇年一二月一八日最高裁一小)。

造船業の構内下請け企業の社外工について、「請負労働者が労務の提供をするにあたっては、いわゆる社外工として、元方事業者の管理する設備、工具などを用い、事実上その指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容もいわゆる本工とほとんど同じであったという事実関係の下においては、請負事業労働者との間に特別な社会的接触にはいったものとして、元方事業者は、信義上、請負労働者に対して安全配慮義務を負う」(三菱重工業損害賠償事件/一九九一年四月一一日最高裁一小)

なんか持って回ったような文言ですが、建設や造船に限らず、派遣や請負など形式を問わず、実質上指揮命令権がある元請けの責任を認める判決などは多数出ています。

「偽装請負」について
これは法律用語ではありません。要するに「違法な」派遣を合法的におこなうために、形式上請負契約を装ったものです。作業上の指揮命令は完全に元方事業者が行っているにも関わらず、賃金だけは請負業者が支払うことになります。雇用責任も請負業者が負うことになるので、元方事業者は、簡単に合理化できることになります。労働者は非常に弱い立場を強いられます。

労働安全衛生の視点から言えば、偽装請負労働者についても、元方事業者が大きな責任を負うことになるはずです。ところが、実際に労災事故が発生すると、その補償手続きは請負業者が行うことになりますし、労災そのものが元方事業者に迷惑になるということで、労災隠しにつながることもあります。

おわりに
どうすれば労災職業病などが発生しない働きやすい職場をつくることができるのでしょうか。世界の潮流は、作業条件や環境の改善から快適化、そのための大きな課題としての職場ストレスの把握と軽減にシフトしています。すなわち一次予防です。もちろん二次予防(疾病の早期発見と対応)と三次予防(疾病の増悪防止と職場復帰)も、まだまだ手を抜くことのできない課題ですが、同時並行の取り組みが必要でしょう。しかし、一次予防を常に強く意識した活動は、二次、三次予防にも影響を与えると私は確信しています。

その際に、正社員ではない請負労働者なども含めた活動を重視しなければなりません。関係請負人への指導・監督を徹底する取り組みを含めて、元方事業者の安全衛生責任をしっかりと取らせる方向に踏み込んでいかなければならないと考えます。ともかく、冒頭述べた通り、それぞれの労働現場において、これは法規的に問題があるのではないかと思われる事案にぶつかった時には、労災職業病センターに声をかけてください。それを契機に新たな法規制の萌芽となることもあり得るでしょう。