職場のパワーハラスメント防止対策 法制化は先送りに

 ちょうど1年前、政府の「働き方改革実行計画」を受け、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」ことになった。ところが、1年かけて議論した結果、報告書は別記の通りで非常に残念なものになった。最後のまとめの部分を解説しよう。いろいろ書かれてあるが結論は以下の通りである。

 職場におけるパワーハラスメントが減少していない現状と、本検討会において職場のパワーハラスメント防止対策を前に進めるべきということで意見が一致したことを踏まえて、今後は、労働政策審議会において、本検討会で議論された対応案や、現場で労使が対応すべき職場のパワーハラスメントの内容や取り組む事項を明確化するためのものの具体的内容について、議論、検討が進められ、厚生労働省において所要の措置が講じられることが適当である。

 検討会では、労働組合や有識者は法制化すべきだという意見を述べ、経営側の委員は何ら具体的な反論ができないまま、とにかく法制化には反対というばかりであった。労働政策審議会でも同様のことが考えられる。これではわざわざ検討会を設けた意味はないのではないか。しかも次のように続く。

 ただし、検討を進めるためには、懸念として示されている上記 i 及びⅱに示す論点について、厚生労働省において、関係者の協力の下で具体例の収集、分析を鋭意行うことが求められる。

 ⅰおよびⅱというのは、以下のような論点である。

 労使で対応すべき職場のパワーハラスメントの内容について、現場における浸透が十分ではなく混乱を生じかねない等の意見が示され、少なくとも以下のⅰ及びⅱのような論点については、共通認識を持つ必要があるという意見が示された。
ⅰ 業種、業態、職務、当該事案に至る経緯や状況などによって「業務の適正な範囲」や「平均的な労働者」の感じ方が異なることが考えられることから、どのような場合が「業務の適正な範囲」に該当するのか、また「平均的な労働者」の感じ方とはどのようなものか。
ⅱ 中小企業は、大企業に比べて、配置転換や業務体制の見直しにより対応することが難しく、適切な対応のためにノウハウや専門知識が必要と考えられることから、中小企業でも可能な職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた対応や更なる支援のあり方はどのようになるか。

定義づけのための事例収集、分析など不可能 法制化絶対阻止の経営者と闘おう!

 経営側委員の主張は、何がパワハラなのかは定義づけできない限り法制化は絶対に反対。そして、定義づけるためには、「業務の適正な範囲」→我慢すべき限界点や、「平均的な労働者」→我慢の平均値を決めろというのだ。検討会では、パワハラの定義づけは、あくまでも各職場などで目的に応じてなされるべきだ、それを包括する法制化をという意見が、労働組合側委員はもとより、研究者の皆さん方も含めて大勢を占め、経営側委員はそれへの具体的な反論が全くできなかったのに、結論ではそうした議論は全く無視されている。なぜか報告書では「事例の収集が必要」などとされているが、いくら事例を集めても上記の限界点や平均値がわかるはずがない。パワハラを受けた人の多くが何もしないと答えているのにどうやって収集するのか。学校のいじめが社会問題になってから40年かそれ以上になる。文部科学省や現場の教員らがどんなに努力しても、何がいじめかを上記のような形では定義づけることはできなかった。いじめられた側がいじめだと感じればそれはいじめなのだ。少なくとも厚生労働省に、このような論点について具体例の収集、分析を行うことができるとは思えない。

 「働き方改革」がいかに名ばかりでいい加減か、パワーハラスメント問題でも明らかになった。私たちは現場で闘うことでしかパワハラ問題は解決できないことを認識している。そして、国がパワーハラスメント対策を法制化する状況を作るのも、そうした闘いの積み重ねであることを改めて確認しよう。(川本)