12労働基準監督署との交渉報告

 今年も7月9日から20日にかけて神奈川県内の12の労働基準監督署との交渉が行われた。行政の斉一性ということで、基本的に同じ要求に対しては同じような回答になることが多いが、具体的な話になればなるほど、監督署によって、もっと言えば回答を用意する人によって、対応が異なることがある。とりわけ提供資料の差は大きく、当然説明内容の密度も異なり、興味深い。地域の課題や対策が共有できる場になっていることは間違いない。今月は、署の回答や議論をしたことを簡単に報告する。ぜひ来年も多くの皆さんの参加を呼びかけたい。【川本】

■平塚署

 今年のトップバーターは平塚署。数年前に新しい庁舎となり、今年は立派な会議室が用意された。
 「平塚署管内の労働災害発生状況」というカラー印刷のパワーポイント資料に沿って、説明が進む。同じ統計でも非常にわかりやすく見やすい。社会福祉施設における就労状況及び労働災害のまとめということで、①女性・高齢労働者が多い、②従事労働者が年々増加しており、比例して労災も増加している、③高齢労働者の災害が多い、④転倒や腰痛等が多い。一方で、署の労働相談件数を資料提供することになぜか躊躇し、局に確認するなどの対応もあった(後日資料提供された)。ストレスチェックの集計も署ではやっていないという回答であった。署に報告義務があるのだから、当然やろうと思えばできることで(実際、この後、他署は全て集計して説明もあった)、こうした署の姿勢には疑問を感じる。

■横須賀署

 業種でみると社会福祉施設の労災が60名と最も多く、15名増加も一番多かった。60件中20件が腰痛災害で、積極的に指導をしていきたいとのこと。他署と比べ精神疾患の労災請求件数も多く、18年度に入ってからも増えている。
 交渉当日は地域の労組や被災者団体からの参加が多く、さまざまな意見が出された。社会福祉施設では腰痛が多いが、労災請求せず退職を余儀なくされる人も多い。労災請求や労働相談があれば他の人や職場もあわせてチェックしてもらいたい。受動喫煙対策は、被災者が労災請求もするのできちんと調査してもらいたい。じん肺やアスベスト疾患の傷病補償年金移行を積極的に行ってほしい。

■鶴見署

 例年、独自のチラシなどを提供して説明。ちなみに「とても痛い腰痛を防ごう!」というチラシでは、業務上疾病が増えていること、腰痛の占める割合が6割を超えることをグラフで解説。休業4日未満の休業災害についても、口頭で述べる監督署も少なくない中で、資料提供するとともに、疾病については分析して円グラフで解説。腰痛と熱中症がほとんどを占める。なお、脳・心臓疾患、精神疾患の請求が増加傾向にある。

■藤沢署

 ここの署も例年、独自のチラシや円グラフ等でわかりやすい資料提供がある。多くの監督署では、そこまでやっていない、あまり変わらないと述べる人もいたが、同じ数字でも、例えば休業4日以上の労災発生状況と4日未満を業種別、型別で比べてみても、その違いが一目瞭然である。
 労働基準法等の申告件数も多く、多忙を極めている。社会福祉施設や医療機関では腰痛が当たり前とされていることがあるようだが、きちんと労災請求してくださいと、自治体が企画した会合で話をした。

■横浜西署

 建設業の労働災害による死傷者が増加しており、神奈川県内の監督署で最も多く発生している。マンションの修繕工事なども多く、建設会社の数も多いからとのこと。交通事故労災も多い。労使協定を締結せず残業をさせたということで書類送検した事例が紹介されたが、それに限らず、不払い残業の相談が非常に多いという。ある事業場の監督時に、労使協定であまりに長時間残業が可能になっていたので、労働者代表とされる人に尋ねてみたところ、あまり内容を理解していなかった事例もあった。

■相模原署

 労災事故は昨年よりは減少したが、昨年が非常に多かったためであり、5年単位でみるとやはり増加傾向である。従来からの製造業が減少する一方で、道路が整備されたこともあり、送業が増加した。人口が増加したこともあり、社会福祉施設の事業所数が増えている。
 なお、石綿工事の届け出件数については、局のデータを出して口頭だけだったので、例えば横浜北署のように、きちんとデータを提供するように求めた。
 労働相談件数は増えている。65%が労働者からで、使用者や社労士などからが35%を占める。労働者のうち正規か非正規かなど確認しないので、不明が6割だが、把握したうち正規が22%、非正規が18%である。割増賃金の違反が多い。最低賃金法違反はたしかに商業が多いが、年々資料を増刷して啓発に努めている。

■小田原署

 旅館業の多いことが特長でもあり、そこでの労災事故や労働基準法違反の申告も多く、対策が重要課題である。過重労働関連の相談も多く、拘束されているようで休憩かどうかあいまいな「中抜け」的な時間帯も多い。そこで、自治体(箱根町)、旅館組合と共催で講習会を開催して、集団指導を実施した。署だけで企画した時の倍ぐらいの参加があった。ちなみに人の出入りも多く、当該事業場に入ってから一年未満の人の災害が多い。

■川崎北署

 保健衛生業、とりわけ社会福祉施設の労災が大幅に増加。運輸業や商業も多い状態が続いており重点的な対策が必要だ。「社会福祉施設における労働災害について」と題した独自のチラシの提供があった。
 上肢障害の例について、ウェスで拭く作業や居酒屋でトングを使って焼く作業の紹介があった。通達の認定要件として、過重な業務に就労したことが求められており、もちろん労働時間なども10%以上業務量の増加などの基準が示されているが、そもそも恒常的に長時間労働を余儀なくされていたが、医学的な意見を尊重して業務上になったという説明であった。
 なお、通達を解説する事務連絡では、過重な業務の判断に当たっての通常業務とは「所定労働時間における所定の業務」であることを指摘しておいた。実は個別で要請したHさんが、要請後まもなく業務外、不支給決定を受けた。彼女は入社後半年余りなので、同僚よりも業務量は少なかったようだ。しかしながら、そもそも全体の業務量の多いことも考えられる。現在審査請求中である。

■横浜北署

 第12次 労働災害防止推進計画(13~17年の5年間)の結果は「惨敗」と説明。目標値はもちろん減らすようになっているのだが、結果として5年前とほとんど変わっていない。陸上貨物運送業、社会福祉施設は増えているし、小売業も高止まり状態。石綿工事としては、石綿塗材の撤去工事が多くなっている。
 労災補償では脳・心臓疾患や精神障害の請求が相変わらず多い。石綿関連疾患も案外多い。職員が減ったこともあり調査が長期化することがある。

■川崎南署

 安全について他署は独自のものまで用意してくださるが、ここはこちらの要求した石綿工事件数、4日未満の休業災害件数、ストレスチェックの届出件数などの資料も口頭回答のみ。多ければよいというものではないが、「労働者死傷病報告受理状況」と「第12次労働災害防止推進計画の進捗について」の2枚のみ(しかも片面印刷)ではあまりにもさびしい。
 労働相談では、今年度になって有給休暇に関するものが目立つ。いじめ嫌がらせも多い。

■横浜南署

 転倒災害について詳しく説明があった。「第12次労働災害防止横浜南推進計画とりまとめ」(全10頁)でとりあげられている。5年間で747件発生しており、全体の2割を占める。2週続けて記録的な降雪のあった14年が190件と、突出していることから天候も発生状況に大きな影響を与えることがうかがえる。経験年数が1年未満である者が被災した割合が2割、60歳以上の労働者が占める割合が5割を超える。
 労災補償では精神障害の請求件数が増えている。

■厚木署

 神奈川労働局管内で最も災害が多い。特に、県央道が開通して以降、陸上貨物取扱業での災害が増加。資料が十分ではなかったので、きちんとした準備をお願いしたところ、とにかく忙しくて申し訳ないとのことであった。社会福祉施設の労災も増えているが、人手不足、安全教育が十分ではないのが要因。一方で、予防対策に熱心に取り組む事業場と、そうではない事業場の格差も大きい。
 上肢障害の労災請求、認定件数が多いのだが、派遣業者が多く、自動車製造業その他いろいろな作業が原因となっている。

【いくつかの署で議論となったこと】

■ストレスチェック

 「15年12月以降に実施されたストレスチェックの報告件数と対象事業場における割合」について資料提供を求めた。要求の趣旨は、実施と報告が義務付けられた50人以上の事業場のうち、実施・報告した事業場はどの位かということだが、趣旨が伝わりにくかったようで、いくつかの署でしか適確な回答が得られなかった。
 ちなみに横浜北の回答は別記のとおり。つまり、施行から2年半経った現在に至るまで全く報告がないのが221事業場、さらに年1回実施が義務付けられているにも関わらず、17年にやはり届けがない(もう実施しなくなった?)事業場が190事業所、あわせて411事業場で未実施の可能性が高いということだ。50人以上の事業場の数は必ずしも正確ではないとはいえ、約4分の1にのぼる事業場ができたばかりの法律に従っていないことになる。川崎南は7割ちょっと、横浜南は76%であったので、大体どこの監督署も同様だと思われる。

■一人親方労災

 監督署は、労働者死傷病報告書に基づいて統計を取り監督指導するので一人親方の労災については全く把握していない。死亡災害は警察と消防署に情報提供をお願いしているので把握できている。
 ちなみに全国統計をみると、この5年間(13~17年)で建設業の労働者の死亡災害は367人から323人に減った。一方で一人親方については26人から51人と倍増。さらに事業主、役員、家族従事者を加えると17年は103人に上る。本来労働者としてカウントされるべきものが、一人親方労災で処理されている(労働者性のある人の分、現場そのものを変えるなど)例も多数あると思われる。そして、死亡災害以外は全く把握されていないが、一人親方の労災=建設現場の労災が増加していることは間違いないだろう。

■労災相談について

 これまで、署に寄せられる労働相談件数を尋ね、労働基準法等違反申告件数とその内訳、署で申告処理することのない「民事上の個別労働紛争」の相談件数とその内訳を確認して議論してきた。しかし、改めて考えると、申告処理も紛争処理もされない労働相談が圧倒的に多い。17年度の神奈川労働局全体の総合労働相談件数は5万4704件(すぐに労災関係部署に回すような労災相談は入っていない)。うち民事上の個別労働紛争相談件数は1万3132件。いじめ嫌がらせが多いのもあくまでも個別労働紛争相談の内訳に過ぎない。同じ17年(年度ではない)の労働基準法等違反申告受理件数は1618件。合わせても1万5000件弱なので、本来どのような労働問題(相談および問い合わせ)が多いのかは、むしろ残り4万件の相談も含めて分析すべきであろう。
 ちなみに相模原署の17年の相談件数は3719件。主な内訳としては、賃金不払が455件、年次有給休暇が441件、解雇の予告が245件、いじめ・嫌がらせが406件である。同年の労働基準法違反申告受理件数は145件である。