アスベスト:介護保険制度の基礎知識(福神大樹さん ソーシャルワーカー/ 兵庫医科大学病院医療社会福祉部)

知っていると役に立つ! 介護保険制度の基礎知識

 みなさま、暑い中、集まっていただきましてありがとうございます。兵庫県にあります兵庫医科大学病院でソーシャルワーカーをしています福神と申します。よろしくお願いします。
 本日は「アスベスト関連疾患・介護保険等の介護サービスについて学ぶ」をテーマに介護保険制度がどのような制度なのか、申請できる人、申請するタイミング、どのようなサービスがあるのか、そのあたりの基礎的な知識を話したいと思います。
 この講演会の話をいただいた経緯としましては、昨年度に環境再生保全機構が行った石綿健康被害救済制度被認定者に対しての介護等の実態調査がありまして、その調査結果として「アスベスト疾患のほとんどの方が日常生活で身体的な制限があること」が明らかになりましたが、同時に「ほとんどの方が介護保険制度のサービスを利用していないこと」も明らかになりました。つまり、多くの方が身体的な制約が発生しているにも関わらず、介護サービスを使わずに御自身の力か、もしくは御家族のサポートで日常生活を送っているということがこの調査でわかりました。ただ介護サービスというのは御本人へのケアだけではなく、御家族の介護に対しての不安、その負担を軽減するためにも必要なサービスとなっております。今回の話す内容がみなさまにとって介護保険をどのように使うのか、日常生活をより良くするためのツール・手段として活用していただきたいと思います。

本日のはなし

 本日話す内容はこの3つです。「当院とソーシャルワーカーの紹介」、「石綿健康被害救済制度被認定者の介護等の実態調査について」、そして最後に「介護保険制度の基礎的知識」をご説明します。
 まず「当院とソーシャルワーカーの紹介」ですが、私が所属しています兵庫医科大学病院は関西の病院でして、おそらく本日来られているほとんど方があまりご存じでないかなと思っております。そこで当院での「アスベスト患者さんに対しての取り組み」や「ソーシャルワーカーというのがどういう職種なのか」や「どのように皆さんと関わっているのか」などを説明したいと思います。
 まず、兵庫医科大学病院は、兵庫県西宮市にある大学病院、病床数が963床あります。病院がある場所は、クボタショックの中心地である尼崎市と造船所がある神戸市の間に挟まれている地区になります。また、大阪府も隣にありまして、比較的大阪の方からも患者さんが来られています。ただ、やはり阪神淡路大震災の被災地になったということもあり、アスベストの暴露者が多い地区と言われております。そのような地区で当院はアスベストの患者さんの診療・支援を行っています。
 当院の特色としましては、2006年に「中皮腫・アスベストセンター」という、中皮腫専門の診療部門を病院内に立ち上げています。そしてアスベスト患者さん担当のソーシャルワーカーを3名体制で兼任ですが配置しており、各診療科でアスベスト疾患が診断された後はソーシャルワーカーに連絡が入り、ひとりひとりに面談を行っていくという体制を整えています。

ソーシャルワーカーの業務と援助内容と役割

 では、そもそもソーシャルワーカーはどのような業務をしているかと言いますと「社会福祉の立場から患者さんやその御家族の方々の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る業務」を行っております。
 がん患者さんには4つの痛みがあると言われており、1つ目が「身体的な痛み」、2つ目が「精神的な痛み」、3つ目が「霊的、スピリチュアルな痛み」、そして4つ目に「社会的な痛み」と言われております。社会的な痛みというのは、病気で仕事が出来なくなったときのお金の問題や病気になったときにご家族との関係性が悪化したり、交友関係が切れてしまったり、また『仕事ができない』という苦しみも社会的な痛みに含まれております。ソーシャルワーカーは、その社会的な痛みを中心にサポートをさせていただいております。
 具体的にどのような支援、援助を行っているかと言いますと、例えば1つ目の『経済的な問題』では、労災申請、労災補償の手続きのご支援、例えばご本人の職場との連絡や調整を行ったり、労災補償の書類の準備・記入の仕方とかの説明をしたり、労災補償以外にも石綿健康被害救済制度の申請手続き、相談者の中には傷病手当金、生活保護の申請の手続きのお手伝いもさせていただく場合もあります。また「仕事を継続するのか、休職するのか」等、やはりお金が絡んでくることになりますので、そのような相談も受けたりします。
 2つ目の「退院・在宅生活に関する援助」は、在宅で使う医療『訪問診療や訪問看護』、あと介護サービスの導入のお手伝いをさせていただいたり、小さい子どもがいらっしゃる場合は家事や育児の支援体制の調整で行政と連絡をとったりして社会資源を活用する形で地域の各関係機関との橋渡しさせてもらっております。
 3つ目の「心理社会的問題」は、病状や生活、あと治療に対する漠然とした不安や主治医とのコミュニケーションがうまくいかないという相談も受けたりしますので、その場合は主治医と患者さんの間を仲介することもあります。
 つまり、ソーシャルワーカーの役割は、疾患の特有の悩みや社会背景の理解者として、「福祉的な視点で皆さんのこころと暮らしのサポート」をさせていただいております。

相談窓口の大切さ

 そのような相談窓口の必要性は高いと感じており、アスベスト疾患の患者さんの病気の治療、生活状況というのは、病気の特徴が大きく影響しています。例えば中皮腫などの病気は職業病の一面もありますが、公害病の一面もあると思います。そして治療実績がある病院が少ないこと、治療法の開発が難しいことなど、そのような背景が通院のできる病院が少なかったり、治療法が限られたりというように、治療自体に影響するのと同時に、治療を受けるための経済的な問題、やはり仕事ができなくなってしまって金銭的に困ったり、仕事が出来ない悩みが増えてしまったりして日常生活に支障が出たり、通院のための費用や通院方法をどうしたらいいのか、御家族の方に一緒に来てもらうのか、ひとりで行くのか、そのことに対してもいろいろ悩みが出てくるかと思います。
 そこで表の右側に書いている「相談窓口」の疾患の特徴の理解者、相談しやすい環境があることによって、治療方法がどのようなものがあるのか、どのような手段で治療を継続することができるのかという悩み、経済・心理・社会的な部分などのサポートがあることで治療と生活のバランスがとれると考えております。私も兵庫医科大学病院ではそのような役割として、患者さんやその御家族の支援させていただいております。
 簡単でありましたが、「当院とソーシャルワーカーの紹介」を終わらせていただきます。

介護等の実態調査について

 では、2つ目「石綿健康被害救済制度被認定者の介護等の実態調査について」の説明をさせていただきます。こちらは、環境再生保全機構が平成29年7月中旬から平成29年10月下旬にかけて、石綿健康被害救済制度を利用されている方にアンケートを行った調査です。調査対象が、現在療養中の被認定者1006名、そしてお亡くなりになった被認定者のご家族様100名にしております。
 この回収率は比較的高く、療養中の方であれば78・2%が回答されています。石綿健康被害救済制度を利用している年齢層としましては、40歳以下の方が1・7%で15名。残りの方が40歳以上の方で介護保険制度の対象としている年齢層が比較的多いこともこの調査でわかりました。
 まず始めに、療養中の被認定者の方を対象にしたアンケートで、「認定疾病の障害によりどの程度日常生活が制限されていますか」という質問に対し、一番多いのが、表の上から2番目の項目の「軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働など作業はできる状況」を半数の方が回答しています。
 全体としましては「何も症状が無くて、今まで通り、発症前と同じ状態であるということ」と回答した方は1割、残りの9割は何かしらの制限は受けているということがわかりました。
 次が「療養中の活動時の詳細な状況について」ということで、日常生活の中でもピンポイントで食事や排せつ、入浴などの行為に対してどれぐらいの制限を受けているかという質問に関しては、各動作の制限は比較的少ないことがわかりました。ただ「階段の上り下り」や「屋外歩行」という、表の下の2つの項目は他の動作よりも低い数値、つまり制限が出ているということもわかりました。特に速度や息切れが他の動作よりも多い、つまり制限がかかっているということで屋内の動作よりも外出、病院の通院のときに制限、症状が出やすいということもこのデータで明らかになっております。

介護保険の認定を受けているか

 次が「療養中の被認定者の方が、介護保険の認定を受けているか」という質問に関しては、約8割近くの方が介護保険制度の認定を受けていないと答えております。つまり、9割の方が日常生活で身体的な制限があるにも関わらず、8割の方が介護保険制度のサービスを受けていないことがデータでわかりました。つまり、ほとんどの人がご自身の力、ご家族のサポートで生活を維持している状況ということが明らかになっています。
 介護保険を受けていない理由として大半の方が「必要でないから」と答えています。ただ、日常業務の実践を踏まえて考えると介護保険制度のサービスはまだ一般的には知られていないと感じています。そのため、今回の講演では介護保険制度がどのようなサービスがあるのか、どのように使うべきなのか、そのあたりを皆さんに知っていただきたいと思っております。
 介護保険制度の「ここ1ヶ月間に利用したすべてのサービス」という質問に関しては、「その他の住宅改修や福祉用具のベッドの貸与、レンタル」を多くの方に利用されていることがわかりました。つまり訪問系、人が出入りするようなサービスよりも、福祉用具を整備することによって、ご本人の生活を維持させることができることが療養中の方の調査結果で明らかになりました。
 それに対して、亡くなった方を対象にした調査では、まず「療養が始まってからお亡くなりになられるまでの間、被認定者の方が認定疾病の障害によりどの程度身辺の日常生活活動が制限されましたか」ということに関しては、多くの方がベッド上での生活をされていたということがわかりました。
 「最も制限された時からお亡くなりになられるまでの期間」は、約1ヶ月から6ヶ月未満という期間に制限がかかっており、平均が3・9ヶ月になっております。
 よく日常業務にて相談で来られている方は、呼吸苦、倦怠感、だるさから、日常的に動くことは難しいが、トイレに行く等のピンポイントでどこかに行くときは動けると言われる方が結構多いので、そのあたりの身体的症状が介護保険制度の利用になかなか繋がらない理由のように思います。
亡くなった方の介護保険認定の比率

 次に「被認定者の方は、介護保険の認定を受けていましたか」という質問に対しては、約6割の方が「受けていた」というふうに答えていますが、調査結果ではほとんどの方がベッド上で過ごされているにも関わらず、4割の方が「受けていなかった」ということが、この結果でわかりました。
 亡くなった方の介護保険認定の比率ですが、多くの方が要支援1~2、要介護1~2が該当しています。あとで詳しく説明しますが、介護保険制度というのは御本人にどのぐらいの介助量が必要かによって等級が決まります。要支援1~2は比較的自立した方が認定されやすい等級で、要介護1~5は介護保険制度のサービスを使って生活を維持させるという方が認定されやすい等級になります。つまり介助量が多い方が要介護5で低い方は要支援1となっております。そのため、この調査結果からは介護保険認定を受けたとしても低めの等級しか出ていないことが明らかになりました。
 介護保険制度を受けていなかった方の理由を聞くと「必要がないから」というのが全体の38・9%を占めていますが、「利用できると知らなかったから」という方が22・2%、「その他の申請中であった、認定前に入院した」と回答したのが33%。つまり、利用をできると思っていなかったか、もしくは利用しようとしたが認定が間に合わなかったという方が大半を占めているということが、このデータでわかりました。

療養中に利用した利用した介護保険サービス

 被認定者の方の「療養中に利用した利用したすべての介護保険制度によるサービス」の一番多いのは「訪問系のサービス」、ヘルパーや訪問看護とかになります。そして「その他」の住宅改修、福祉用具の貸与・購入等で37・9%の方が利用されている状況になります。
 これらのことから「診断から病状進行期」までは階段昇降や屋外歩行以外の日常生活に大きく不便は現れていない状況ですが、「終末期、平均3・9ヶ月の段階」では常時介護が必要な状態になる方が多いことがわかりました。
 そのため、診断から病状の進行期に関しては「日常生活での介護サービスの必要性は比較的低い状況で介護認定されても等級は低い」ということで、介護保険制度を申請する必要性を感じていない方も多く、介護に関して準備や心づもりができていない方がこの段階で多い原因に繋がっていると思います。
 そして終末期には「介護サービスの必要性が急激に高くなること」と「介護認定が間に合わないこともある」ということがわかり、多くの方が介護保険制度が利用できていない状況に繋がっていると思います。

介護保険制度の基礎知識

 本日の講演会で介護保険制度の学んでいただきたいポイントで、まず、その①「介護保険制度というものがどういうものかを知ること」、その②「どのように使ったらいいのかを理解すること」、その③、これが一番重要だと思いますが、「介護保険制度を申請するタイミングを考えること」を説明させていただきます。
 3つ目の介護保険制度の基礎知識を説明します。まず介護保険制度の対象者が「40歳以上で被保険者」になっております。
 そして介護が日常生活で必要になったときに、介護サービスを1割から3割の支払いで利用できるということが介護保険制度の概要になっております。比較的、御高齢の方向けのサービスというように思われがちですが、40歳以上の方から対象にしていることが、この介護保険制度のあまり知られていない内容になっております。
 そして対象者が、まず、第一号被保険者という65歳以上で「原因を問わずに介護や日常生活の支援が必要になった方」となっております。そして第二号被保険者という「40歳から64歳以下で加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する病気、いわゆる特定疾病と言われていますが、その特定疾病により介護や日常生活の支援が必要になった方」となっております。
 この特定疾病とは、国が決めた16の病気です。その中に「がん末期」が含まれております。そのため、中皮腫も「がん」に含まれておりますので、末期症状の方に関しては40歳からの対象になっています。
 がん末期とは、まず「医学的に予後が約半年、6ヶ月以下」と診断されていた方です。予後が6ヶ月でも抗がん剤や放射線治療をしている場合でも、いわゆる治癒が困難な状態なものを「がん末期」になっております。
 そのため介護保険制度を申請するときには、「がん末期」と診断するのは主治医になりますので、介護保険制度の申請を考えている方は主治医にまず相談していただくことになります。

訪問介護、ホームヘルプサービスと訪問リハビリテーション

 続きまして、介護保険のサービスについてご説明させていただきます。
 まず1つ目のサービスは訪問介護、ホームヘルプサービスとも言われております。このサービスは横浜市で無償配布している「ハートページ」という介護保険の冊子(以下同じ)に詳細が書かれております。このサービスの概要として、「ホームヘルパーが居宅を訪問して、身体介護や生活援助を行うサービス」になっております。身体介護とは「食事の介助、入浴の介助、排せつ行為などの動作をサポートする支援」のことで、生活援助とは「食事の調理や衣類の洗濯、掃除などの家事などをサポートする支援」のことになります。
 訪問介護は「病院への通院等の乗降介助」が含まれていますが、これはクリニックとか診療時間が短いところで利用される方が多く、中皮腫やその他のアスベスト疾患に関しては大学病院に通院されている方が多いと思いますので、待ち時間が多いところや抗がん剤をされている方の待ち時間には融通が利きにくいサービスの為に、実際に乗降介助を利用されている方は若干少ない印象があります。
 ただ訪問介護は本人のケアだけではなく、介護を普段されている御家族の方の相談者、御本人の他者との関わり、栄養がある食事を摂るなどの役割があるために利用されている方が多い状況になっております。
 続きまして、訪問リハビリテーションですが、これは冊子に詳細が書かれております。このサービスは「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士というリハビリテーションの専門スタッフが居宅に訪問してリハビリテーションを行うサービス」になっております。具体的に言うと自宅内での動作訓練。例えば「トイレ移動や階段昇降等の動作」や「自分の身体をどのように使ったら負担が少ないのかという相談」や「福祉用具貸与等の車椅子や介護用ベッドをどのようなものを使ったほうがいいのか等の助言」もしてくれるので、日常生活においては活用しやすいサービスになっております。
 この訪問リハビリテーションは医療保険も適用するサービスになっておりまして、介護サービスは救済制度が使えないサービスが多いですが、この訪問リハビリテーションは石綿健康被害救済制度が使えるサービスになっております。そのため自己負担は0円になっております。

訪問看護と通所介護、デイサービス

 続きまして訪問看護を説明します。この訪問看護も石綿健康被害救済制度が適用するサービスで「看護師が居宅を訪問して、病状のチェック・点滴・入浴介助などの診療の補助を行うサービス」になっております。病状の管理や病院への受診の判断に関しても助言やサポートをしてくれます。また御本人が入院した時には、日頃の様子、御本人の思いやケアの情報を病院に提供してくれる看護サマリーを作ってくれるので、病院との連携には比較的重要なサービスになっております。これも冊子に記載しております。
 続きまして通所介護、デイサービスとも言われているサービスです。これも冊子に記載しておりまして、「通所介護施設で食事、入浴などの日常生活上の支援や生活の動作向上のための支援を日帰りで行うサービス」になります。最近ではリハビリテーションに特化したフィットネスクラブみたいなデイサービスや1日ではなく半日型、午前中もしくは午後だけの短時間のサービスや入浴だけのデイサービスも増えてきております。
 続きまして、通所リハビリテーション、デイケアとも言われているサービスです。これも冊子に記載しております。こちらのサービスも石綿健康被害救済制度の適用するサービスになっており、「介護老人保健施設や医療機関などで食事、入浴などの日常生活上の支援や生活行為の向上のためのリハビリを日帰りで行うサービス」となっております。基本的にデイケアでは、医師や看護師もいるので、病状のチェックがしてもらえて、リハビリテーションの専門スタッフもいるので、退院後のリハビリテーションでも活用しやすいサービスになっております。

福祉用具貸与と特定福祉用具販売

 続きまして、福祉用具貸与というサービスになります。これも冊子に記載しており、「日常生活の自立を助けるための福祉用具を貸与、レンタルできるというサービス」となっています。介護用ベッド、車椅子、歩行器、玄関などのスロープなどの貸し出しを介護保険制度で安く利用できるサービスになります。ただ、一部製品の介護用ベッドや車椅子などの商品に関しては原則、要介護2以上の利用者が対象になるため、要支援1、2と要介護1の方は基本的に借りられない状況になります。
 続きまして、特定福祉用具販売というサービスですが、福祉用具の購入費の支給となっております。これも冊子に記載しておりまして、入浴や排せつなどに使用する福祉用具の購入費を1年につき10万円を上限に支給するとなっております。先程の福祉用具貸与、レンタル商品と何が違うかと言いますと、シャワーチェアなどの水回りのもの、ポータブルトイレなどの排泄行為で利用するものなど、使い回しすることで形が変形しやすかったり、不衛生になりやすかったりするものは購入の費用が支給されるとなっております。

入所サービス

 最後になりますが、介護サービスには入所サービスもあります。入所施設は「介護老人保健施設(老健)」「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」「介護療養型医療施設(介護療養院)」があります。一番上の介護老人保健施設という施設と一番下の介護療養型医療施設という施設に関しては石綿健康被害救済制度が適用するサービスになっております。
 これらのサービスを実際に使うためにはどのような手続きが必要かと言いますと、まず市役所、区役所に御本人、御家族の方が申請に行く必要があります。その次に訪問調査と言う御本人の身体の状態を役所の職員が確認する調査や主治医意見書、医学的にどのような病状なのか、どのような介護サービスが必要なのかを医師が作成する書類を病院が役所に郵送します。そのデータをもとに判定会議が行われて、介護保険制度の等級が認定されるという経緯になっております。
 申請から認定までに要する期間は1ヶ月ぐらいと言われていますが、ここ近年、介護保険制度を申請する人が増えているので、認定までに実際は1~2ヶ月ぐらいの時間を要しているので、介護保険制度のサービスを利用する場合は早めに申請することをオススメします。
 厚生労働省は末期がんの方の審査、認定を優先的に行うことを通知として出しているものの、実際には申請のタイミングによっては通常とあまり変わらないスピードで認定が出ることや御本人の居住地とは違う県外の病院に入院していた場合の認定調査の遅れ等の手続きが難航することも出てきております。

介護保険制度の申請の流れ

 各項目の詳細を説明させていただきます。まず、介護保険制度の申請の流れとしては、まず、ご本人かご家族の方が役所等の窓口に申請手続きを行っていただきます。そこで必要なものは、65歳以上の方は介護保険被保険者証が御自宅に役所から届いているかと思いますので、それを持参する必要があります。そして次に申請書が役所の窓口に置いていますので、主治医の名前・受診している医療機関・所在地・連絡先を書類に記載していただきます。40~64歳以下の方は、介護保険被保険者証が無いので、医療保険証を持参して申請を行います。
 続きまして、認定調査が行われます。先ほどお伝えした市区町村の職員が自宅、入院中であれば病院まで来て行う訪問調査があります。訪問調査とは、全国共通の調査事項の聞き取りが行われて、1日に介護が必要な時間を割り出すという調査方法になっております。あと主治医意見書が必要で主治医に心身の状況の意見書を作成していただく必要があります。申請する際には基本的に市区町村から医師が所属している医療機関まで意見書が郵送されることが多いので、特に御本人、御家族の方に意見書を医師まで持参していただく必要は少ないです。ただ一部の市区町村では、意見書を御本人や御家族の方に主治医へ直接渡してもらう所があると聞いたこともあります。
 そして審査・判定が行われます。認定調査の結果をもとに、まずコンピュータ判定が行われます。その結果と特記事項、主治医意見書をもとに介護認定審査会が行われます。そこでご本人にどのくらいの介助量が必要で、どのくらいの介護サービスが必要かを協議して等級が認定されることになります。認定の結果は通知として自宅に介護保険被保険者証が郵送されます。

介護保険の等級、要介護認定

 介護保険の等級、要介護認定とは最初の段階にも説明させていただいたように要支援1~2と要介護1~5と7段階に分かれております。等級は介護の必要性、御本人に必要な介助量を参考にしており、要支援1~2は「介護の必要性は現状ではあまり無いが、将来的に介護サービスの必要性が高くなる恐れがあると判断された方」で、要介護1~5は「実際に介護サービスを利用して、生活維持をしないといけないと判断された方」になります。
 この等級で何が変わるかと言いますと、1ヶ月利用できる介護サービスの量と内容が変わってきます。表に記載しています「利用限度額」ですが、これは介護保険制度の適用する金額を書いています。具体的に説明すると冊子37ページに書いています「ホームヘルプサービス」、自己負担の目安と書いている表があります。例えば「身体介護中心」の利用20分未満が184円。これは御本人の1割負担の金額を表しております。実際、介護保険制度の実費はこの10倍、1840円になります。この10割負担の金額で利用限度額に定められた金額以内であれば1割で利用できることになります。利用限度額を超えてサービスを利用する場合には、超えた分は実費になります。例えば医療保険であれば、利用限度額は無いと思いますが、介護保険制度は使う量が等級によって制限されることになっております。そのため、御本人に合った等級が認定されたら、その利用限度額を上限にサービスが利用できるシステムになっております。
 介護保険被保険者証に何が書いてあるかと言いますと、介護保険制度被保険者証は三つ折り、このような形をしております。真ん中の上のほうに要介護区分、要介護1、2…等の等級が記載されており、右には居宅支援事業所、ケアマネージャーが所属している事業所が記載されます。
 実際に介護認定を受けたからといって、すぐにサービスが利用できるわけではなくて、ケアプランの作成が必要になっております。ケアプランとは御本人に必要なサービスをケアマネージャー、御本人、御家族の方等が相談して「○曜日のこの時間帯にこのようなサービスを入れる」という、いわゆる計画書を作ることになっております。このケアプランが作成出来た後で、はじめて介護サービスが利用開始できることになっています。

地域包括支援センター

 あともうひとつ、情報提供として「地域包括支援センター」という行政の窓口が地域にはあります。ここは地域の高齢者の総合窓口として、各地区に配置されています。「介護予防ケアマネジメント」要支援1、2の対象者のケアプランを作成したり、「総合相談・支援」介護だけではなくて、障がい者サービス等の相談を行ったり、「権利擁護や虐待の早期発見・防止」「地域のケアマネージャーへの研修などの支援」も地域包括支援センターが行っております。
 比較的ご高齢者の方を対象にしており40歳から64歳以下の方に関しては相談しにくいかもしれませんが、そのような窓口が地域には存在しています。
 介護保険制度の特性としては、「社会活動の動作は評価されにくい」というのが問題点としてあります。先程説明した訪問調査は日常生活における動作が認定基準に反映されることが多いですが、病院への通院や外出の際の動作に関しては、あくまで参考程度にしか反映されない部分もあり、実際に日常生活の介護面で問題が出にくい「診断~病状進行期まで」の方の介護保険制度が下りにくいというのがその状況で現れております。

申請のタイミングが難しい

 つまり「申請のタイミングが難しい」ということが、この状況からわかります。まず、「認定が遅くて間に合わない」とは終末期での申請は急速な病状悪化があるために、介護サービスが必要な時に受けられない、必要な段階で認定が出にくいという状況があります。だからといって、「早く申請しても認定されない」と書いているように終末期以前の段階で申請しても認定されることがなかったり、低めの等級しか出ないということもあるので、なかなかうまく活用されにくいということがアスベスト疾患、特に中皮腫の方は多いかと思います。
 そこで知っていただきたい知識としては、「暫定ケアプラン」と「軽度者に対する福祉用具貸与の例外給付」があります。
 まず暫定サービスとは、「基本的に介護保険制度とは認定されてからサービスを利用する方が多いですが、これは認定が出るまでの間、要支援または要介護の等級を見込んだ上でサービスを利用する。つまり申請した段階で「これぐらいの等級が出るかな」と予測してサービスを組み立てて導入することになります。このサービスでは介護保険制度の認定の結果が出る前にサービスが利用できる、つまり自宅で過ごすにも活用しやすい状況ができます。
 そして「軽度者に対する福祉用具の貸与の例外給付」は、基本的に介護保険制度の要支援1、2と要介護1の方は福祉用具の介護用ベッドや車椅子等のレンタルできないですが、末期がんの場合は、要支援、要介護1の方でも例外的に福祉用具のレンタルが認められる特例があるので活用することが療養生活では有効と思われます。
 つまりアスベスト疾患、特に中皮腫の方に関しては、介護保険制度を申請するタイミングが難しい状況ですが、介護が必要になる段階、ベッド上で過ごす時間や倦怠感が増加した段階で介護保険制度を早めに申請する。低い等級でも「暫定ケアプラン」や「福祉用具のレンタル」、あと介護保険制度とは別で訪問看護等のサービスを利用するなど、病状が悪化する前に早めにサービスを導入して、ご家族の方、ご本人の自宅での生活の体制を整え介護負担を軽減させる方法が良いかと思います。

がん患者の支援体制の拡充とソーシャルワーカーの活用

 このスライドの内容は国の事業ではなく、各自治体の事業にはなります。がん患者への支援体制の拡充ということで、まず1つ目は「がん末期在宅介護支援事業」があります。介護保険制度は申請してから認定調査を行う前に亡くなってしまうと、介護保険制度が使えない(介護給付の対象にならない)条件があります。ただこの事業は介護保険制度の認定調査前に死亡して介護給付の対象とならなかった在宅のサービスの費用の負担の一部を助成するものです。この事業はすべての自治体で行っているわけではなく、兵庫県の神戸市等でしか行っていないという状況になります。そのため、他の自治体はまだ十分にできていない状況もありますので、そのような事業の拡充はやっぱり求められていると感じます。
 そして2つ目は「若年者の在宅ターミナルケア支援事業」があります。これは介護保険制度の対象外である20歳以上から40歳未満のがん末期の方の在宅サービスの費用負担の一部を助成するものです。このサービスは兵庫県神戸市や一部の市町村、神奈川県横浜市、名古屋市でも行っているので、「末期がんの在宅介護支援事業」よりも多いですが、まだこれもそこまで広がっていないので、各自治体への事業の拡充は求められていると感じます。

ソーシャルワーカーの活用

 そして先程説明した介護保険制度は1回では覚えれなかったり、制度自体が複雑なので、ぜひソーシャルワーカーを活用していただきたいというのが私の思いとしてあります。
 スライドに表示している病院は日本医療社会福祉協会と神奈川県医療ソーシャルワーカー協会の会員に入っている病院です。黒字で書かれているのが会員ですが、黒字になっていない残りの5つの病院もホームページではソーシャルワーカーが所属していることになっていますので、ほぼすべての病院にソーシャルワーカーが配置されています。そのため、相談窓口の拡充ということで、ソーシャルワーカーにはアスベスト疾患の問題に関しては周知していきたいと思っていますが、受診される患者さんやご家族の方からソーシャルワーカーを積極的に活用していくことで、相談窓口の拡充に広がるきっかけになると考えておりますので、ぜひよろしくお願い致します。
 以上をもちまして話を終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。