障害年金認定医開示裁判 一審棄却され控訴へ 安部敬太(社会保険労務士)

障害年金認定医開示裁判 一審棄却され控訴へ
安部敬太 (社会保険労務士)

 私は社会保険労務士として障害年金請求代理を専門にしている。埼玉県では、発達障害という傷病名では、就労が全く不能でも障害基礎年金2級の支給を認めないという認定がなされたため、認定医は誰か、その氏名と専門性だけでも確認する必要があると、2013年10月、年金機構埼玉事務センターに障害基礎年金の認定医名簿の開示請求をした。年金機構は、「個人の特定に結び付く情報に当たり、障害年金請求者やその他の者から、有形無形の働きかけが行われ、的確な障害認定に支障を及ぼすおそれがある」として全面不開示とした。情報公開・個人情報保護審査会の諮問を経て、県名と担当疾患欄は開示されたが、氏名、勤務先(所属)は非開示のままであった。昨年9月、この決定取消を求め提訴した。

 障害年金の認定医は、障害年金が受給できるかを決定付ける障害等級について認定する。認定医の経験、知見、専門性は十分か、認定医の間でそれらに相違はないかという問題がある。2014年に報道された障害基礎年金認定の地域格差も、今年5月に表面化した認定の中央集約に伴う大量の支給停止問題も、認定医が違うことによる認定医間の認定差といえる。

■裁判の争点1 公務員性(5条1号ハ)

⑴ 年金機構の主張
 認定医は、機構が行う業務の受託者であり、非常勤の機構職員ではなく、労災法に基づく労災認定にかかわる地方労災医員が非常勤の国家公務員であることとは異なる。

⑵ 原告の主張
 認定医は障害者の所得保障による生存権に直結する重要な業務を担っており、労災認定医同様に重要な行政処分に関わっている。国の組織が年金機構という民間に変わったのは消えた年金記録問題を受け、業務の公正化、透明化を目的としていたにもかかわらず、民営化により認定医を労災認定医と同様に非常勤職員とすることなく、委託契約という形をとり、そのことで透明性が後退するのであれば、民営化の目的に反している。

■裁判の争点2 業務に支障(5条4号柱書)

⑴ 年金機構の主張
・誹謗中傷の事例/認定医の氏名を知った某医師が自身のブログに認定医の審査を「横暴」だとしてその氏名を明記して当該認定医の診療等について情報提供を呼びかけたという誹謗中傷があった。

・認定医からの契約解除申出等の事例/年金機構において、①名簿が開示されるならば認定医を辞退することを検討したいとの認定医の意見、②障害者手帳の認定に携わった認定医から「障害者手帳が認められるまで毎日電話がかかって大変だった」との話があった。認定医氏名開示により、認定医個人に対し、認定結果に係る判断理由を強く問いただす等の不当な働きかけが行われる可能性が高くなり、認定医の公正中立な業務の遂行に支障が生じ、不当な働きかけを憂慮した認定医の辞退等により認定医の確保に支障が生じる。

⑵ 原告の主張
・機構のいう事例等/障害年金診断書を作成してきた精神科医師が、ある時期から、これまで障害基礎年金2級を受給してきた患者に同様の更新診断書を作成したにもかかわらず、支給が打ち切られる事例が急増し、72例中23例(32%)が2級非該当となった。これが認定医が交代したためとわかり、事実を基に認定医の判断に疑義があると指摘したのであって、誹謗中傷ではない。このように認定医の交代により理由もなく支給が打ち切りがなされることこそが認定医による認定がいかに統一化されておらず、不公正かを示している。また、本件不開示までは、社会保険庁時代や年金機構になってからも、認定医名簿は開示されていた。開示により業務に具体的な支障は生じていない。

・年金請求者からの問い合わせ等/医師として責任を持って判断しているのであれば批判に耐えうるはず。診断書の内容に変更がないにも関わらず、支給が打ち切られる事態に陥る障害者からすれば、その説明を求めたいと考えることは当然である。

■東京地裁判決(18年8月23日)

 「対象文書に記録されている情報が法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に当たるか否かは、これを公にすることにより、厚生労働大臣が適切に障害等級を認定することができることを目的として…障害認定医から意見を聴取するなどの業務の適切な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあり、そのおそれの程度が法的保護に値する程度の蓋然性のあるものであるか否かにより判断すべき」としたうえで、「障害等級の認定においては医師の意見が重要な資料となることに照らせば、障害等級認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や住所が開示された場合、上記情報を知った障害基礎年金に係る裁定請求者等が、当該認定医に対し、自らの裁定請求につき有利な意見を出すよう働きかけることにより、適正な障害等級の認定や障害認定医の業務に支障が生じることは十分に考えられる。

そして障害者手帳の交付の申請をした者が、認定医に対し、申請が認められるまで連日継続して架電した事案も存在する。また、被告と障害認定医の契約において,障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならないと定められているところ、障害認定医の中にはその名簿を開示することに反対の意見を述べ、仮に名簿を開示するのであれば認定医を辞することを検討するとの意見を述べる者もいることに照らせば、障害認定医の氏名や住所が開示された場合、障害認定医に就任することを応諾する者が減少することで,障害認定業務の継続的な業務遂行に支障が生じることも十分に考えられる。」として、「障害等級認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や住所を開示することは、障害認定業務に上記支障を及ぼすおそれがあり、その支障の程度は名目的なものではなく、業務の継続的な業務遂行に支障が生じひいては制度破綻に至り得るおそれが否定できない実質的なものというべきであり、そのおそれの程度も法的な保護に値する程度の蓋然性を有するものというべきである」から「障害認定医の特定につながる情報である本件部分に記録されている情報は,法人等情報公開法5条4号柱書きの不開示情報に該当する。」として、不開示決定取消請求を棄却した。

■東京高裁へ控訴

 8月31日、東京高裁へ控訴した。理由は以下のとおりである。

 判決は、認定医は障害年金の重要な決定に深く関与しているのだから当事者等の働きかけはありえ、そのことで業務に支障をきたす蓋然性があるから不開示は妥当というものである。これでは、「国民主権に基づき、情報を公開し、独立行政法人の諸活動を国民に説明する責務を全うする」という法の目的に反し、行政等の主権者たる国民に対する説明責任を完全に否定しているに等しい。

 障害年金は、障害者の所得保障として、その生存権を保障する上で重要な制度であり、認定医はその認定にあたって実質的に大きな権限を有している。事務職員は、認定医の認定に異論を唱えることはほぼない。にもかからず、認定医には要件審査も養成システムも存在しない。その認定医氏名が不開示となれば、その専門性やその能力、医学的知見が一定の水準にあるか否か、すべての傷病を対象とする障害年金の認定にあたって傷病それぞれについて専門医が選任されているのかも検証できず、認定医は独善的で、無責任な認定をする可能性すらある。そもそも情報公開法の目的は、そのような行政等の不公正を防ぎ、国民の権利保障に関わる行政の決定プロセスを透明化することにある。よって、5条4号柱書は極めて制限的に解されるべきである。しかし一審判決は、5条1号ハの公務員性すら検討せず、5条4号柱書の該当性のみにより棄却した。しかも、障害者手帳の認定において毎日のように架電があったとか、氏名が公表されれば辞任するという医師がいるとかという非常に些末で、具体的な支障ともいえない事実を根拠に、業務の支障があることの蓋然性を認め、「適正な業務に支障を及ぼす」か否かについて、業務の支障と公正性および透明性との比較衡量さえ行わなかった。このような一審判決を到底受け入れることはできない。