被ばく労働の実態と労災損害賠償裁判②(質疑応答)
質疑① 仲間を連れて15人ぐらいで行ったと聞きましたが、他の方は病気にならなかったと思うんですが、あらかぶさんが病気になったのは偶然なのか、それとも率先して仕事をやったとか何かそういう必然があったのか、どっちなんでしょうか。
【あらかぶ】現場は雑固体もあって3号機もあって、3号機のほうがやっぱり被ばくするんで、そういうときは被ばくするほうを自分が行ってました。人に、お前、被ばくするとこに行け、とかやっぱ言われんでしょ。
【なすび】あらかぶさんの同僚の人たちは、わりと同じぐらいの被ばく量です。あらかぶさんが白血病になって入院した後も、別の原発で働いている同僚もいて、そういう人の場合は、あらかぶさんより被ばく量は多いですね。何かなったよね。
【あらかぶ】脳梗塞。
【なすび】そうか、ちょっと直接関係ないかな。何か被ばくの影響あるじゃないかっていうことがあった気がするけど忘れたな。ただ、一般論として言えば、感受性の高い人、低い人はいるとは思います。ただ、確率的影響ですから、たくさん浴びたからなるっていう話でもないし、少ないから関係ないっていう話でもないので、あまり関係無いかなという気がします。
【川本】補足で言えば、白血病は、数万人に1人の病気です。いろいろデータがあるので、1万人とか10万人とか幅はあります。180㍉シーベルトを一度に浴びれば別ですが、年20㍉シーベルト程度の線量であれば、万に1人とか2人です。2人じゃなくて5人が白血病になったとすればすごく多い、そういうレベルの、医学的な、あるいは科学的な世界の話です。つまり、他の何万人の人は白血病にならないのです。アスベストもそうです。造船所で働いて山ほど吸っても全然何ともない方ももちろんいる。クボタでも、工場で3割の人が具合悪くなってもう大変なことだと言ってますが、逆に言うと、残りの7割の人は同じだけアスベストを吸っているのに病気にならないわけです。だから、数字の話をするとそういうことになります。ただし、あらかぶさんが言われたとおり、数字などあまり考えないで、被ばくせざるを得ない現場ではもちろん、率先して、みなさん頑張って働いていたことは間違いないでしょう。
質疑② お話を聞いていると、東電と九電はむしろ安全な職場だみたいな言い方なんですが、現場に対する安全性について東電と九電はどういう認識でいたと聞いていますか? 作業にあたって、ある程度危険の想定はあったと思うんですが、彼らはそれを想定していたんですかね。裁判になってから、「危険は無かった」と反論しているだけなのか? 向こうの姿勢が気になったんですが。
【なすび】東電は、あらかぶさんの件に限らず、住民避難の件でも一貫して、100㍉シーベルト以下は影響無いと言っています。それで、福島第一で働いた結果としての20㍉シーベルトは影響無いというのが、彼らの一貫した、言ってきたものの延長線上にあるだろうと思います。
労働現場としてどうかという話に関しては、どう考えているかよく知りません。ただ、労働環境がもともと良くないことは言っていた。例えば、汚染水漏れが問題になった時、労働環境が悪くて良い労働者が逃げてしまうから現場のクオリティが落ちて水漏れするんだという言い訳をした。それで割増賃金を1万円から2万円にした時は、実は現場の労働条件改善の一環として上げた。待遇を良くすれば良い労働者が集まって、今みたいな事故は減るという理屈で。実際はそんな簡単な話ではない。現場の工程自体が把握されてなくて、ぐちゃぐちゃの作業をしているのでミスもいっぱいおきる。でも東電はそういう言い方をしてた。そういう言い方の中で、今まで現場の安全よりも工程を優先してたということは認めたんです。そう言わざるを得ない環境に追い込まれたからであるけれども、労働環境が万全でないということは、彼らは認めた、言っていたわけです。
その一方で、あらかぶさんの線量は、ある意味では法定線量の中です。つまり、1年間で50㍉、5年で100㍉シーベルトという制限を超えていないので放射線管理上の違法性は無い。そこら辺に依拠して、彼らはふんぞり返っているというか、何も悪いことはしていない、問題ないんだと。
ただ、川本さんが言ったように、東電に責任があろうとなかろうと、実際の仕事で労災になったら補償しなきゃいけないのが原賠法です。だからこそ彼らは、この仕事と白血病は関係無いというところで論を立てている。質問に対して言えば、そんなに万全な現場であるとい主張は、東電はしていません。
質疑③ 九電を被告に加えた理由ですよね。要するに、福島での労働が被ばくの原因で責任を取れということはわかるんですが、九州電力の玄海原発での労働でも被ばくして今回の白血病の一因になっているという、その組立がちょっと理解しづらいと思う。東京電力と九州電力を被告にして裁判をするとき、福島での労働を前面に出すのか、福島と玄海原発ということで前面に出すのか、そこら辺はどうイメージされて裁判をやられているですか。
【なすび】白血病になったのは、被ばく全体を原因としているということであれば、玄海で働いたのを含めて被ばくしているわけですから、東電だけ相手という話にはならない。訴えの構成上、東電と九電を入れざるを得ないというのはあります。ただし、僕らは単に因果関係論だけでなく、いかに収束作業の労働現場が酷いかということをきちんと打ち出したいと思っています。その意味で、運動の中で、福島第一の現場をメインに打ち出すことを考えていますが、実は、玄海の現場もそんなにまともじゃありません。今日は少し話を端折りましたが、これは放射線管理上、違法でしょうというような作業のさせ方をしているところもありましたし、言い出すときりがありません。ご質問の答えとしては、単純に、訴えの主張の構成上、九電も入らざるを得なかったというだけの話です。ただ、広い意味でトータルで運動を進めていこうとするときに、労働現場の問題を焦点化しようとしたら、主には福島第一の現場だけれども、九電も問題があって、機会があればやっぱりちゃんとやりたい。なぜかというと、九電は普通の定期検査でそういうことが行われている。つまり、福島第一の緊急事態のむちゃむちゃな環境の現場だから起こっていることではなくて、原発を巡る労働環境は、日常的にもかなりインチキをやっているということがある。これはいろいろ進める中であらかぶさんからも聞いてわかってきたことなので、最初からそれを考えてやっていたわけではないんですが、そういうことは問題にしてやるという意味で、九電のことはやっぱり必要だろうなと僕は思っています。
【川本】最終的には弁護士の判断ですかね。被ばくされて悪性リンパ腫になった喜友名さんは、ほぼ日本全国の電力会社を回っておられた。非破壊定期検査で各地を回る業者、労働者なんか全部です。加圧水型の原発ですか。いずれにせよ複数の電力会社で働いた。だから私は、裁判をするなら、働いた原発の全社訴えるべきだと言った。つまり、因果関係というのは認めりゃいいんだから、ここの原発でどれだけ被ばくしたとか、あの原発でいくら被ばくしたとか、そういうことじゃなくて、それぞれの電力会社がそれぞれ期間に応じて金を払えばいいじゃないかと思っていました。裁判は実現しませんでしたが。確かに東電も酷いし、九電も酷い。仮に酷くなくても、通常の定検で、しかも福島の事故後で、元請けは三菱重工だし、杜撰なことをやっているのであれば、ぜひそれは入れたほうがいいと思う。確かにどうしても話が拡散するので大変は大変だけど、こちらの力量で頑張るしかないのかなと思います。
【会場から】喜友名さんも本当は裁判をやりたかったんです。支える側に力が無かったと私は今思っています。3・11以前も電力会社は、原発で働いて病気になったり、病気で死亡する人はいないと言い放っていました。そういうことはもう許さないという思いで、あらかぶ裁判はぜひ勝たなきゃと思っています。
質疑④ 鹿島と竹中の差はどうして? 裁判の中でこの2社は出てきますか?
【なすび】原賠法に基づく裁判なので、相手は電力会社になるので、直接は出てこないです。ただ、僕らは準備書面で、各現場がいかに酷いかということはちょろちょろ入れています。その中で結果的に差が出ますが、裁判の進行上は鹿島も竹中も関係無いので、直接はかかってこない。ただ、僕らは裁判闘争だけではない形でやりたいと思っています。実はあらかぶさんは、全国一般全国協のユニオン北九州の組合員で組合ベースで取り組むところも一生懸命やってもらっています。そういう面では、竹中や鹿島、また玄海原発の三菱や第二原発の清水を相手に現場の安全管理の問題とかを出していこうと思っています。
【川本】今、ユニオン北九州が頑張って団交要求しました。今後は労働委員会に申し立てるとか、社前で抗議行動をするとか、いろいろ相談しながらやっていければと思います。ただ、北九州なので、いろいろ地域や労働組合の事情もあるようです。
【なすび】やっぱり大衆運動的な側面を作らないと裁判も勝てないと思います。今はそこが一番弱いので、皆さんのお知恵をいただきながら運動を拡げていきたい。実は、あらかぶさんにあちこち行って話してもらっているのも、そういう流れを作りたいという意図があります。ぜひそれぞれの地域で周りに広めていただければありがたいです。直接行動的なことも含めて、これから大衆集会的なものを計画したいと思っています。
質疑⑤ 安全区画だから保護具はいらないと言われても、第二原発の仮建屋の外側の作業で、元請や東電の社員はどんな格好だったか憶えてますか?
【あらかぶ】普通の作業着ですけど保護具無し。ゼネコンはゼネコンの服で保護具無し。サージカルマスクって風邪のときにするようなマスクあるでしょ。あれ1枚で。
【質問者】それは作業員の方も一緒に配布された?
【あらかぶ】そうですね。タイベック着たい人は着てもいいって感じだったです。タイベック着たほうが作業着が汚れないから、自分らもちょっと暑苦しいけど着とこうかみたいな。
【質問者】通常、向こうが安全だと言った場合には、向こうと一般作業員は同じ保護具で作業するのが原則であったと?
【あらかぶ】第二原発ではですね、はい。
【質問者】彼らは、作業員に説明している以上に危険性を感じていたかというと?
【あらかぶ】感じてないんじゃないですかね。
【質問者】じゃ、作業員と同じ情報でやっていたと。
【あらかぶ】そうです、はい。
【なすび】監督のAPDがあったのはどっちなの?
【あらかぶ】第二ですよ。水密化。
【なすび】水密化といったら1、2、3号機? バッジつけないでやってたとこでしょ。その話をしたほうがいいんじゃない? 一番最初に放射線管理区域外だと言って、一人一人がバッジをつけなかったところで、監督だけはAPDをつけてた。
【あらかぶ】もしものときのために。
【なすび】監督のAPDが鳴ると、現場を離れて消して、戻ってきてるんです。それを何回もやってるんだよね。そういう状況だったので当然、ゼロってことはあり得ないのですが、放射線管理区域外だからと言って、本人は全然測ってなかった。だから、労働者と監督が全く同じではなかったと思うんです。ただ、監督の被ばく記録があるのかどうかもよくわからない。
【あらかぶ】APDを持つ義務が無かったので、監督がとりあえず何かの時のためということで持っとったみたいです。自分らと話よったらピーピーピーって鳴りよったけえ、携帯が鳴りよるでって言ったら、いやいやとか言って。線量計持ってないです?って言ったら、隠すんですよ。こっそり陰に隠れて自分でこう見よったですね。何回も原発入ってわかってる人が、あんた見してって言ったら、いやいやこれは誤作動しとるけ、みたいな感じで。それを裁判で言ったら、東電は、そういう事実はこの世に存在せんて言うてました。
質疑⑥ 安全教育は、現場の監督がやっていたんですか?
【あらかぶ】いえ。東京電力の下請の、東京エネックスかなにかそういうちゃんとした講師が。東京電力の子会社かな。で、原発のPRみたいな話を聞かされた。
【質問者】もし、ちゃんと危険性とか説明されてたら、今の結果は変わっていたに違いないと思います。そういういい加減な安全教育に対し、今になって怒りとかは無いですか?
【あらかぶ】怒りとかは無いです。今は、講習もAD教育も内容は濃くなったみたいです。自分と一緒に働きよった人が、またAD教育受けたら、テキストの内容も資料も放射線についての教育みたいなのになっとったらしいです。自分らが受けたときは震災前のテキストでした。
質疑⑦ 遮蔽ベストって、鉛とかタングステンとかの材料で、鎧のイメージですか?
【あらかぶ】鎧で、剣道の防具みたいな違和感があって動きがロボットみたいになります。下まで長いのもあって、それを着たら動きが悪くなって、溶接具持って溶接とか出来んです。
質疑⑧ ご自身の病気の再発とか、そういう心配はずっと日常的にお持ちになっていると理解したほうがよろしいですか?
【あらかぶ】セカンドオピニオンで虎の門病院に行って、臍帯血の第一人者の谷口先生に話を受けて、だいぶ自信が付いてきたっちゅうか予後良好みたいで。なったらなったときかな、運命やけしょうがないと思ってます。うつ病になったのは、痛み止めを投与されよった頃におかしくなったと思う。死の恐怖もあったと思うのですが、精神のバランスが崩れたっちゅうか。その薬が原因かもしれないと思って、1回止めてもらったんです。止めたら、ばたくるように痛いよって先生に言われたけど、もう気味が悪いけえ止めて下さいっちゅうて。止めたら、半日ぐらい経ったら急にぐわーってほんと腹が絞れるぐらい痛くなって。先生がニヤって笑って、ほら、しよったほうがいいでしょ、とか言われたけえ、ああその通りやなって。
質疑⑨ 半面マスクは、どういうものですか? 全面マスクよりも内部被ばくする可能性があるんですか? トータルの中で、内部被ばくの被ばく量は微々たるものなのですか?。
【なすび】半面マスクは一応フィルターはついていますが、目が出て多少隙間があるので入ってきやすいから、放射性物質がいっぱいあるところでは全面マスク。そこまでやる必要が無ければ半面ですが、基本的にはあまり良くないです。危険性があるときは全面にすべきだと思います。あらかぶさんの数字で言うと、実効線量は、内部被ばくと外部被ばくを合わせた数字ですけど、内部被ばくは結果としてゼロかな?
【あらかぶ】ゼロですね。
【なすび】ゼロというのは、3ヶ月に1度ホールボディ検査をして、実効性として2㍉シーベルト未満の場合はカットされるんです、東電の場合。だから2㍉以下だったら、×とかMとか書かれて事実上ゼロ扱いなんです。
【質問者】マイクロじゃなくて?
【なすび】マイクロじゃなく、2㍉です。だから実際は2㍉に届かない内部被ばくはあるけど、事実上ゼロとカウントされて、結果として、あらかぶさんの19・97㍉シーベルトの中には内部被ばくの数字はゼロです。僕らは、20よりもっと被ばくしているだろうと言ってる。ひとつには内部被ばくもしてるはずだという話で、今のホールボディの測り方の問題も含めて、議論しています。実際ゼロなんてことは無いと思っています。
質疑⑩ フランスの被ばくについての考え方で、政府と労働者との間でどういう違いがあるか、わかっていたら教えて下さい。
【なすび】去年の秋、フランスで反核世界社会フォーラムがあり、日本から何人かで行き、あわせて調査してきました。高井基金の助成をいただいて昨年度から国際比較調査を始め、その一環として、フランスと日本の制度の比較調査をしました。
大きな違いのひとつは、被ばく線量の法的な上限です。日本は1年間に50㍉シーベルト、5年間で100㍉シーベルトですが、フランスは直近12ヶ月で20㍉を超えないという扱いです。日本でも雇用会社は1年間に20ぐらいを基準にしているんで、そんなに違いは無いと思うかもしれません。ただ、日本の場合、1年の始めを法的に会社が決めて良いことになっていて、ほとんどの会社が4月始まりにしています。なので、3月から4月にかけて短期間に集中的に被ばくしても、全部で100を超えなければ法的には可能です。フランスでは、短期間に被ばくさせないために12ヶ月で20という制限をしてます。
労災認定も、対象疾病と、その仕事を始めてから何年という期間は決まっていますが、放射線による職業病のリスト表があって、その表に入っていれば、被ばく量にほぼ関係無く職業病として認定されます。白血病も入っていますが、核施設で働いたことがはっきりしていて白血病になれば、被ばく量に関係無く職業病に認定される。日本みたいに線量の基準を決めるのは閾値ではないかと。要するに、低線量被ばくで確率的影響でなるんであれば、線量でそういう基準を決めるのはおかしい、とフランスで言われました。日本の場合、法律の文章では出てませんが、厚労省は東電と一緒で、100㍉以下では顕著な影響を確認できないと言っている。つまり、疫学的には他要因と埋もれて被ばくの影響ははっきり見えないと言っている。実際、100㍉以下だと労災として認めない扱いをしています。
また、フランスでも損害賠償裁判は起こりますが、向こうでいうところの原賠法との比較はまだ詰めてないんですが、聞いた話では、一度職業病と認定されたら、その認定自体を争う裁判にはならない。つまり、一度認定されたら、そこは争いの対象にならない。むしろ、雇用業者の過失がどの程度あるのかということでプラスアルファの賠償について争われる。あらかぶさんの場合は、その認定自体、因果関係自体が争いになっている。フランスではそんなこと絶対無いという違いがあります。
あと、僕の主観的な印象ですが、フランスの場合、労働安全関係の中で産業医の役割が結構大きい。労働者の被ばく量にアクセスできるのは雇用業者じゃなくて産業医です。産業医が定期的に労働者の被ばく量の検査結果を見ながら、作業の中身について雇用主に助言をする。好意的に解釈すれば、常にその労働者の経緯を産業医が見守っている構造になっています。日本の場合、定期健診は、血液検査して数字が出て「異常なし」みたいなのがポンと出てくる。ただ雇用に必要な書類の一つして貼り付けられている感じで、労働者の体の様子を見守るという感じではない。そこら辺が根本的に違うのかなと思います。
質疑⑪ あらかぶさんが原発で働いたのは涼しい期間に集中しているみたいですが、一般的に、夏は避けて涼しい時に応じる人のほうが圧倒的に多いのですか? 現地での労働はものすごく大変だと聞いてますが。
【あらかぶ】たまたまその時期でした。
【なすび】早朝に仕事やって、昼にはもう終わりというのもあります。あらかぶさんの実際の仕事の1日の流れを。
【あらかぶ】いわきの久ノ浜に宿舎があって、そこからバスで30分もかからんでJビレッジに行きます。朝6時頃です。そこで装備とか全部取って、バスに乗って1時間もかからんで、大熊町の原発まで行く。それからタイベックとか全部装備して出る。線量が高い時は1日2回10分ずつとか。線量が無い場所とかは1時間半を2回とか。それでもだいたい昼過ぎには帰る感じで、仕事的にも技術的にも全然何も悩むこと無い、誰でもできるみたいな。ただ、何か事故が起きたりしたらすぐ現場が止まるんです。例えば鉄筋でちょっとすりむいたとか。自分的には、現場が止まったら人に迷惑かかるので隠しとるっちゅうか。中には、ちょっと転んだだけで転んだ転んだとか言って、みんな現場が止まったりとか。止まっても給料は出よったです。宿舎待機とかなってちょっと間が開くと、それなら自分ら1回九州に帰るぞと言うと、帰ったらもう絶対来んと向こうは思って、同じ単価で、郡山とか勿来の製紙会社とか鉄関係の仕事とか取ってきたりとかはしよったです。
【なすび】囲い込んでおくために?
【あらかぶ】そうです。福島の近辺とか茨城の火力に行ったり。人が必要なかったらそちらに行かせるみたいな感じです。
質疑⑫ 原発は被ばく労働無しに動かせないし、廃炉するにしても事故処理も被ばく労働がついて回る。現政権は、原発を止めようなんて思ってないし、外国に売れるものなら売ろうぐらいのことでやってます。すぐに被ばく労働は無くならないとしても、原発は廃止と決めた状態でやるのと、原発は止める気は無いとしてずっと続けるのと、ずいぶん違うと思います。あらかぶさんはどう思われますか?
【あらかぶ】仕事に行く前は、原発はこの世の中にあっていいんやないかとも思っとったし、自分がこういう病気になってから、いろんな人と出会って、原発が無いほうがいいかと。原爆を落とされてアメリカにへらへらしとる日本もちょっと歯がゆいなっちゅうか、なめられとるっちゅうか。やっぱ放射能は無い方がいいと思うけど、自分は逆に病気になってからでも、原発が止まって電気料金が上がるとかニュースであった時は、今から思ったら恥ずかしい話やけど、正直に言ったら、いらんこと騒ぐから電気代上がるんやと初めは思っとたんです。まだ何の知識もなくて。けど、いろんな人に出会って、いろんな知識を得たら、原発は何かあった時に大勢の人の命を奪うやないですか。そんなものはもうこの世の中に絶対無いほうがいい。核にしても。今はバリバリの反原発ですよ。
【なすび】廃棄物の管理も含めて、原子力に手を出したら被ばく労働はなかなか終わらない現実がある中、少しでも被ばく労働を減らすんであれば、1日も早く原発を止めるべきです。今回の事故の時、福島第一の4号機は定検でシュラウド交換をやっていた。シュラウドは97年頃に問題になったんですが、原子炉の圧力容器の真ん中に円筒状の核燃料があって、その周りに円筒状にそれを囲う鉄板がある。それは、制御のために必要なものをくっつける構造体でもあり、中の水の流れをコントロールするものでもあって非常に重要です。だけど炉心の核燃料のすぐ周りにあるのでものすごく放射化していて、割れるんです。割れると致命的なので、交換して使います。その交換して取り出したものはむちゃくちゃ放射化していて危険で、しかも中に人間が入ってやるすごい危ない作業です。つまり、原子炉を使い続けるほど労働者の被ばくは増えるんです。だからより新しいうちに原発は止めて廃炉作業したほうが労働者被ばくはずっと少ない。被ばく労働の観点から言えば、原発は1日も早く止めるべきで、どうせこれからも続くんだから一緒じゃないかといったら、それは全然違うと思います。
質疑⑬ 私は会社でシェラウドを作っていました。交換するために労働者が派遣され、被ばくされた現状も見ています。残念ながら、みな口をつぐんでいますが、白血病で亡くなる人はこれからどんどん出てくる。実は圧力容器とかあらゆるところが応力腐食割れでひびだらけで、その度に現場や下請労働者は被ばくしてきた。そういう人たちをどう守っていくのか、それを完全に管理していくのか、どう労働者の被ばくを少なくして核を無くしていくのかということは非常に重要な問題です。次世代に任すこと自体も問題です。今も隠れた被ばく労働者はたくさんいて一番苦しんでいるわけで、闇から闇へ葬られてはならないと思うし、その一端を私自身も関わってきたので非常に重要だなと思っています。
【川本】では、まとめの挨拶を、よこはまシティユニオンの日和田委員長からお願いいたします。
【日和田】暑い中お疲れ様でした。遠くから来ていただいたあらかぶさん有難うございました。廃炉の問題でいうと、もんじゅは大変難しい廃炉作業で、全然うまくいってない。六ヶ所村の核燃再処理施設も動かさないわけにいかないので動かすと、事故が起こる。軽微な故障とか検査に手が回らない事を理由に止めればいいという考え方もあるそうです。実にけしからん話で、一旦動かしたら、それを解体するにも大変な被ばく労働が発生するわけで、そこで働く人のことを何ら考えていない。もんじゅも、解体やナトリウムを抜く方法は考えられてないし、未だに抜く方法が見つからない。これから考えるという無責任な体制です。最終的に核廃棄物をどこに捨てるかという問題もあります。無責任な後始末のために現場の労働者が被ばくのリスクを負わなきゃならない。こんな不条理なことはありません。
今日印象に残ったのは、あらかぶさんが最後のほうで、そんなに原発が問題と思ってなかったけど、いろいろ話を聞いて真実を知る中で今はバリバリの反原発ですと言われたことです。真実が伝わっていないことが大きな問題だと思います。真実を多くの人に知ってもらうためにどれだけ僕らが努力できるのかということが、今後の課題だと思います。よこはまシティユニオンは毎月11日にビラ撒きをやっています。空しいぐらいビラの取りが悪かったり、なんで反原発なんだと突っかかられたりもしますが、声を掛けてくれる人もいます。通り過がり人たちにどれだけわかりやすく、どれだけ繰り返して真実を知らせるかという意味でこれからも努力を重ねていきたいと思います。
今日はじっくりと話を聞けて、大変に有意義な会だったと思います。これで閉めたいと思います。本当にお疲れさまでした。