日本で暮らす外国人の医療問題

沢田貴志
港町診療所所長
シェア(国際保健協力市民の会)副代表

■港町診療所の看板は6ヵ国語

皆さん、こんばんは。港町診療所の沢田です。お仕事の後、お疲れのところ、今日は集まって頂いてありがとうございました。

私のほうから「日本で暮らす外国人の医療問題」についてお話をさせて頂きます。今日の内容は、最初、日本に来ている外国人の動向と、それから健康状況についてのお話をさせて頂いて、そして、言葉が不自由であることへの支援がどのようになっているのか。それから、在留資格が変わってきているので、どんな動向で、どんな立場の人が働いているのか。それから医療費の問題、そしてこの間、国でも外国人患者受け入れ医療機関の整備等をやってきていますので、そういった事についても少し触れていきたいと思います。

まず、私たちの診療所の看板がちょっと変わってます。英語があって、ハングルがあって、これはスペイン語。これ何語でしょうか? 旅行で行くか、あるいは料理を食べたことがある方いますか? これタイ語です。これがポルトガル語とタガログ語ということで、6ヶ国語で看板が出ています。私たちの診療所は、1990年代から外国人の患者さんが非常に増えたということがあって、こういう状況になりました。私の先代の所長が英語が堪能だったということと、当時、日本に来た外国人が労働災害で、職場でケガをして、NPO等がこちらに患者さんを連れてくるということが続いて、外国人の対応を始めたところ、患者さんがどんどん増えました。

実はこの診療所、外国人の患者さんは今、だいたい2割ぐらいです。一番多いときでも3割台ぐらいで、日本人の患者さんのほうが圧倒的に多いのですが、時々、日本人も診てもらえますか、と聞かれます(笑)。確かに外国の患者さんにかなりの時間を割いているという現実はありますが、日本の患者さんを診ることで経営が成り立って、外国の患者さんも90年代から診療をするようになりました。

私は診療所以外にシェア=国際保健協力市民の会というNPOで、外国人の健康相談とか、結核患者さんへの通訳の派遣に関わっています。また、神奈川県内の医療機関に通訳派遣をしているMICかながわの研修などの担当をさせて頂いています。それと大使館のアドバイザーを、無償なんですけども、やらせて頂いて、あとは大学の講義のお手伝いなどもしています。

■日本に来る外国人が増えている理由

さて皆さん、外国人が増えていますよね。新聞を見ると、外国人がどんどん増えていることが目に付くかと思いますけども、まず訪日外国人が増えていると言われていますが、確かに旅行で日本に来る方がぐーんと増えて、3千万人を超えているという状況があります。

これはどうしてこんなに増えたのでしょうか。日本ブーム?食べ物が美味しい? 何でですかね。実はこの背景には、やはり日本の経済が、決して今、良くない。東アジアの、日本、韓国、台湾という3つの国の、1人あたりの所得をIMF国際機関が出しているのですが、ごらんのように日本は、昔は韓国、台湾の数倍の所得があったんです。ところがこの間、台湾にもう抜かれていて、韓国にもそろそろ抜かれる状況というように、東アジアで日本の経済力というのはかなり地盤沈下をしている。そういう中で、やはり日本の物価が安いとか、あるいは日本政府も産業として観光産業に力を入れざるを得なくなったとか、いろんな理由で外国人の旅行者が増えているということがあるわけですよね。こういう状況が続く限り、旅行者が多いという状況はおそらく今後も続くと思います。

もちろん旅行者が増えているだけじゃなくて、住んでいる人も増えている。1990年代には外国人は120万人ぐらいでしたが、今は250万人を超えていて、倍増していますね。実はこのうち、韓国・朝鮮・中国出身の特別永住者、つまり戦争前から日本に住んでいる方が大半で、新しく来た外国人が40~50万人であったのが、この人口が急増しているんですよね。ですから日本語ができない方の割合が非常に増えてきている。日本語ができない外国人が数倍に増えているという状況があります。また国籍も非常に多様化していて、ベトナムとかネパールとか、新しい国がだいぶ増えてきています。

どうしてこんなことになったかというと、やはりこの国の少子高齢化です。日本の生産年齢、働く世代の人口がどんどん減ってきて,高齢者の割合が増えている中で高齢者を支える、働く世代が足りなくなってきたので外国人の労働力に頼らざるを得ない。これも急に若い人の人口が増えるということはないので、今後、数十年、外国人が日本で働くということが減らない、増えるということは確実であるということが言えます。在住外国人も訪日外国人も今後、どんどん増えていくことが予想される。

■日本は外国人にとって健康を維持しにくい国?

では,その日本にいる外国人の健康という面はどうかと考えてみると、統計はあまりないのですが、唯一、国レベルの統計としてはこの統計があるんですね。2010年の国勢調査を基にした、死因別年齢調整死亡率というのが発表されています。これを見ると、実は日本人に比べて、外国人は25%ぐらい、男女ともに死亡率が高いのです。これは大変なことです。同じ国に住んでいて25%も死亡率が高いなんて普通ありえない。実はこれ、ちょっと種明かしがあって、国勢調査なので、外国人のほうが訪問したときに家にいないとか、答えてもらえていないのが多くて、外国人の人口が実際の人口の2割引ぐらいになっていて、それがこの死亡率に落差がある一番の原因だということが去年、公衆衛生学会の投稿された論文でわかってきました。

では,日本人と外国人で健康の差があまり無いのかというと、実はそうではなくて、国際的には移民のほうが、移民した先の国の人より健康状態が良いのが普通なんですね。というのは、健康な人しか外国に働きに行きませんので、普通は外国人のほうが健康状態が良いのです。これをヘルシー・マイグラント効果と言います。ところが日本の場合には、あんまり差が無い。1・1倍ぐらいしか差が無い、むしろ外国人のほうが死亡率が高いということで、これはちょっと問題なのです。更に、もっと統計を突き詰めて見ていくと、若い世代では確かに外国人のほうが死亡率が少ないのですが、歳が上がるごとに外国人の死亡率が上がっていくという、どうも日本に長く住んでいると外国人は不健康になっていくということが統計上出てきている。

ということで、やはり日本は外国人にとって健康を維持しにくい国なのではないかと、このデータから類推されます。こういう統計は、やはりいろいろな細かいところを見ていかないと分かりませんので、本当に格差を示しているのか分からないですが、今あるデータではこういうことが言われています。

■患者にとっても病院にとっても通訳は必要

ではどうして外国人の健康状態は悪くなるのか。私たちが診療していての実感ですけれども、典型的なケースはこの方です。日系人なのですが、胸が痛くて救急病院をあちこち行っていた。旦那さんが先に来て、日本語がある程度できるのですが、後から来た妻は日本語があまりできない。それで胸が痛くなって救急病院に行ったのですが、心電図検査して異常が無かった。で、大丈夫って言われて家に帰ってきたのですが、数日後、また胸が痛くなって、苦しくて、もう締め付けられるように痛いので、怖くなってまた救急病院に行った。

で、今度は胸のレントゲン写真を撮って、「異常ないですよ」と言われて帰ってきた。お薬を出されて飲んだ。でも、もっと痛くなってしまった。それでまた病院に駆け込んで、今度はCTを撮って、やはり異常が無いですって言われた。異常が無いとしか言われないのに、だんだん症状が悪くなって、このご夫婦は、自分たちは外国人だから差別されてちゃんと診てもらえてないんだろうと思って、こちらの診療所に、通訳がいるときに来たのですね。

で、30分ぐらいかけて、通訳を交えて、いろいろお話を聞いたのですけども、どうも痛くなるのは夜中。夜中に寝てから痛くなるんです。ひょっとして、何か酸っぱい水、こみ上げてきませんかと言ったら、そうだということで、実はこの方、逆流性食道炎だったのですね。要は胃酸が上がってくるとか、夜中寝てから痛くなるとか、そういうことを細かく聞けば、問診だけで診断がつくんですね。この方はその晩、お薬を出して、ぴたっと痛みが止まりました。

ということで、言葉が通じなくて、コミュニケーションがうまくできなくて、診断がつかずにいる方がたくさんいるのではないかと感じます。この患者さんの例で言うと、通訳がいないことで症状を伝えられなくて不安で、患者さんは困っていたわけですけれども、実は病院にとっても通訳がいないということはとても困ったことで、なかなか診察が円滑に進められなかったりとか、あとは診断がついても説明をわかってもらえなくて治療効果が上がらない。糖尿病の患者さんが、ふんふんと聞いていたけども、実は全然通じてなくて、甘いものをいっぱい食べていたとか、こういう事がよくあります。

更にこの患者さんのように、自分たちは差別されているのじゃないかと誤解を与えてしまっている。実は私たちのところに通訳付きで診察をしていると、他の病院で酷い目にあった、酷いことをされたと言ってくる患者さんがいます。よくよく聞いてみると、決して前の病院の医師は悪意はないと分かるのですけれども、でもやはりきちんと説明が理解できないので恨んでいる。中には病院を訴えてやる、みたいなことを言っていた方もいました。そういう方も、通訳が付いて、しっかり説明を聞いて頂くと納得されます。ですから通訳がいないということは、患者さんだけじゃなくて、病院にとっても非常に困った事態なんだと思います。

■通訳制度は自治体にとっても社会にとっても必要

更に、実は自治体も通訳がいなくて損をしていると思います。なぜかというと、先ほどの患者さんだってCTを撮ったりして、何万円かお金を払っているわけですけれども、本人は3割負担ですが、7割は国民健康保険か健保組合で払っているわけですよね。その分の検査、通訳がいればいらないわけです。そういうことで、通訳がいれば不要な検査をしないで済みますし、それから早く診断がついて、元気になってくれれば、患者さんは働けるので、会社だってしっかり働いてもらって損をしないわけですね。あとは結核ですとか、そういった感染症についても病気が広がらないです。それから元気で働けていれば、収入も安定しますが、病気が診断されずにどんどん具合が悪くなってしまうと、それこそ経済的に困窮して、日本の社会の悪い人たちに引っ張り込まれたりということも起きるわけですから、社会の不安定化につながるかもしれない。ということで、通訳がいるということは、患者さんだけじゃなくて、病院にとっても社会全体にとっても利益なんだと私たちは考えています。

そういうことを理解して通訳制度を作っている地域は、日本では多くないのですが、実は欧米ではこれは常識なのです。欧米では北欧とかオーストラリア、アメリカ、カナダ、そういった国では通訳は義務化されています。なぜかというと通訳が付いたほうが診療が円滑にいって、更に事故も少ないので、言葉の不自由な外国人の患者さんには通訳を付けなければいけないという義務を課している国が少なくありません。例えばアメリカ合衆国は連邦政府の補助金を受けている医療機関は通訳体制を作らなければいけないというように決めていまして、そしてこれは患者さんの負担無しでの通訳ということになります。

■MICかながわへの通訳依頼は年7000件

日本ではそういった形での制度はなかなか作られていなかったのですが、幸い神奈川県では、皆さんご存じのように2002年に、県の国際化が医師会や病院協会と通訳NPOのMICかながわ(https://mickanagawa.web.fc2.com/)の三者で協定を結んでくれて、これで通訳制度が始まったのです。

神奈川の医療通訳制度の流れですが、とにかく通訳として技能がしっかりある人を確保しないと、来てもらっても役に立たないわけで、4日間の研修をして、県が予算を出して4日間研修をして、試験をします。この試験、結構厳しくて、英語の通訳さんは当初は6~7割、試験で落としてました。そうやって合格した人だけを登録して、今、10言語派遣できるようにしています。これも患者さんから連絡を頂いて派遣するのではなくて、病院のソーシャルワーカーから連絡を頂いて派遣をする。

このソーシャルワーカーが入ることの意義は、やはり言葉の面ですとか経済的な面と、ソーシャルワーカーは現場の問題を把握できますよね。医師のほうから、ちょっと通訳があんまり上手じゃなかったということをソーシャルワーカーに伝えたり、あるいは通訳の側から、医師が通訳に無理なお願いをしてしまったとか、そういうときに、ソーシャルワーカーに間に入って頂いて、通訳が下手だったらMICに連絡が来て研修をする。お医者さんが通訳に文書を渡して、これ、あなた適当に訳しておいてよ、みたいなことを依頼しても、それは通訳として正確にできないので、ソーシャルワーカーが医師に説明するというような形で、神奈川は、ただ派遣するのではなくて、ちゃんと病院と通訳派遣のNPOで連携をして、問題があれば改善をしていくというサイクルが出来ている。これが、うまくいった最大の理由だと私は思っています。そんなことがあって、最初は試験的に年間300件ぐらいから始まったものが、どんどん加入する病院が増えて、依頼が増えて、今、年間7000件くらい派遣をしているという状況です。

■神奈川県以外の通訳制度の広がり

この通訳派遣制度は、患者さんの負担を非常に少なくして、1000円以下でやっているわけですけれども、この様な自治体とNPOが連携して通訳を派遣することは、国の事業にはなっていないので、あまり普及していなかったのですが、しかしやはり便利だということで、京都市が始めて、愛知県、北九州市、三重県と、だんだん実施する自治体が増えてきています。

特に三重県は非常に面白いことをやっていて、いくつかの病院で言葉を分担して、うちの病院はポルトガル語、うちの病院はタイ語というように分担して雇って曜日ごとに病院を回ってもらっているようです。かなり通訳の稼働率がよくて、年間3000件ぐらい通訳の活用が進んでいると聞いています。

東京都は電話通訳の制度が1990年代にできたので、派遣の通訳というのは無かったのですが、結核の患者さんに関してのみ、日本語の不自由な外国人の患者さんに通訳をつけるという制度をつくっています。東京は15言語で派遣をしていますが、これが結核病学会で報告されて、大阪が同様の制度を作るというような形で、結核の通訳制度が普及しています。

1990年頃から全国的に外国人の結核の患者さんがどんどん増えていたのですが、通訳が派遣されるようになる頃と同時期に頭打ち傾向が見られました。東京も、この通訳制度を始めた2006年ぐらいからちょっと良い感じになっていた。

外国人の結核の問題は、2000年代になってだいぶ良くなってきたなと私は思っていました。ところが2012年から、ものすごい勢いで外国人の結核患者さんが増えています。これは非常にショックを受けました。あんなに通訳付ければ結核対策はうまくいくのだと言ってたのに、全然うまくいってないじゃないか。この原因、悩みましたが、どういう患者さんが増えているのかを分析してみて理由が分かりました。

■技能実習生の結核患者の増加

実は全国で結核患者さんの3分の2以上を占めていた中国、韓国、フィリピン、この上位3ケ国については増えてないのです。どこが増えているかというと、ベトナム、ネパール、インドネシア、ミャンマー、ここが大きく増えたのです。これはどうして増えたかというと、この人たちの人口が増えた。

なぜ、この人たちの人口が増えたかというと、2012年ぐらいから、これらの国出身の労働者が増えたのです。外国人労働者の厚生労働省の統計に、実態を反映するために、ビザが無くて日本に住んでいる人の人数を加えてみました。1990年代は外国人労働者の中で40%ぐらいがビザが無い人たちでした。これは非常に深刻な状態で、この人たちは健康保険に入れないので、多数、深刻な病状で病院に担ぎ込まれて医師もソーシャルワーカーも大変な苦労をする時代が90年代でした。ところがその在留資格の無い方をたくさん雇っているのはまずいという国の政策で、この人たちを減らして、代わりに日系人の労働者を増やし、あるいは技能実習生や日本語学校生を入れるようになりました。そして、ビザが無い人の数はどんどん減って、40%だったのが、今は4%を切るぐらいになって、ビザが無くて働いている人には、今、出会うことが少なくなりました。

特にこの2000年代というのは、外国人の労働者の多くは、身分に基づく在留資格、これは日系人とか、日本人と結婚して安定したビザを持って働いている人はここに入りますけれども、それから専門技術を持っている人、高度技能専門職の人、この人たちが大半を占めるようになったのです。この時は結核も減りました。病院で患者さんが医療費が払えないとか、重症になっていて困るということも2000年代後半になって、だいぶ減ったという実感がありました。

ところがこの間、外国人労働者の中で急激に増えているのが、技能実習生です。資格外活動の労働者というのは、留学生がアルバイトをしている場合などを指します。この方たちが急増しています。技能実習生は本来は研修を受ける人で、労働者ではありませんが、実態としては労働をしている。日本語学校生は勉強しながら、学費を稼ぐためにアルバイトで週28時間まで働いていますが、労働者としての保護があまりできていない人たち。それから家族の帯同も許されない。そういう方たちが増える中で、つまりあまり労働条件が良くない方たちが増える中で、結核も呼応して増えてきたと思います。

■労働者としての立場が守られない外国人が増えると病気が増える

私たちは、立場が弱い方が増えると結核は増えると感じています。技能実習生の結核というのは非常に大きな課題があります。結核の治療は患者さんを見つけたら最後まで治すというのが原則です。途中で引っ越したり、国に帰ったりすると、そこで治療が中断してしまって治らない。薬剤耐性結核という、薬が効かない結核になってしまうリスクも高い。ということで、見つけたら治すのが原則なのですけども、技能実習生の結核の患者さんを保健師が訪問してみたら、もう国に帰ることになっていて、日本での治療を途中で止めてしまうというような話が多数出てきました。保健師たちから、技能実習生の結核患者さんが国に帰るので、国に帰って治療がちゃんとできるんでしょうかとか、どこの病院に紹介したらいいんでしょうかという相談が、2010年ぐらいからかなり増えてきました。

中には結核の疑いというだけで、あなたは結核なんだからこのまま技能実習できないでしょと言われてパスポート取り上げられ、飛行機の切符を手配されて、でも国に帰ったら借金が数十万円あるので私とても帰れませんと言って逃げてきたケースもあります。技能実習生も2010年から労働者として法的な立場が認められたので、職場が傷病休暇を与えて、治ったら復職させるという対応をするのが原則なのに、そういう労働法規が守られずに退職に追い込まれて国に帰されちゃうというケースが、少なくないと感じています。国に帰るとどうなるかというと、借金が残っていて自分の国で大きな借金を返せないから、また外国で働くためにもう1回借金をして、今度はサウジアラビアに行くとかになります。場合によると、立場を変えて日本にまた来るかもしれないです。その時には治療が中断されてしまっている可能性があるので、日本で薬剤耐性結核で見つかるという可能性がある。ですから、この技能実習生を途中で国に帰してしまうというやり方は非常に問題だと思います。

そうやって途中で国に帰される人が出ると、周りの技能実習生も、結核だと国に帰されちゃうんだ」、「ちょっと咳が出てきたけど、結核だと思われると困るから薬飲んで我慢していようか」といった具合に、市販の薬で我慢してもっと重くなってしまって、集団感染になるということも起こり得ると思います。。

そのような形で、働く人としての立場が守られない外国人労働者が増えると、病気が増えると私は思っています。

■日本語学校に入って働く外国人

今、留学生30万人計画といって30万人に近づいているわけですけども、どこが増えているかというと、この日本語学校生と、それから専門学校生が増えています。この2つ、試験が無くて入れます。従来、留学生というと、大学とか大学院に試験を受けて入って、要はある程度それぞれの国のエリートたちが来ていたわけですが、今この試験が無い日本語学校や専門学校で学ぶ人が増えている。この人たちはほとんどが夜にアルバイトをしています。日本語学校に在籍しながら、コンビニとか飲食店とか、そういったところで働いている。実質的に労働者なんだけれども、年間80万円等の授業料を納めながら限られた時間で働く労働者が出てきてしまった。こういう病院に行くことが不自由で、経済的にも厳しい労働者が日本語学校生という形で今、増えている。このことも考えておく必要があると思います。

外国人の医療の問題は、国が違って文化が違うことへの配慮も大事ですけれども、その人たちがどういう生活、どういう社会条件で働いているのかも考えていかなければいけない。
日系人が労働者の中心であったときに、やはり文化的な配慮とか言葉の支援が大事だったわけですが、今、増えている技能実習生や日本語学校生たちというのは、東南アジアとか南アジアの新興国です。そういった国の人たちが来て、経済的にも厳しくしながら働いている。これは1990年代の超過滞在者に近い状況が生まれてきていると思います。そういう外国人の方たちが現実の問題として働いているということを、私たちは考えながら相談にのっていく必要があります。

■特定技能という新しい在留資格が作られた

外国人の在留資格は色々ありますが、基本的には3つにわけて考えるといいと思います。これは厚労省のデータですが、活動に基づくビザ、つまり働いたり勉強することによってビザが出ているグループと、それから身分・地位に基づく在留資格、これは永住者とか、日系人とか、日本人の配偶者、定住者、そういった人たちですね。この人たちは、要は仕事が無くなっても在留資格は残るので、病状が深刻になって働けない場合には、場合によっては生活保護の対象になる人。一方で働いたり勉強によって在留資格を得ている人たちは、仕事ができなくなったら困窮してしまう人となります。あと、就労がそもそも認められない人もいます。この3つに分けて考える。

こういう中で、今、新しい在留資格が作られようとしている。特定技能という在留資格です。この在留資格がいったいどういうものになっていくのか。

外国人の働いている人がいたとき、身分による在留資格をもった永住者とか定住者とか日系人のような人たちは安定性が高い資格を持っています。その次に比較的安定していたのは、「技術・人文知識国際業務」という人たち。この人たちは専門職としての技能を持っているので学歴が必要ですが、専門職として家族の帯同も許されるし、仕事がある限り在留は無制限にできます。長くいれば永住資格を取れる人たちで、2000年代はこの人たちを増やすのが国の方針だったので外国人がだんだん定住して社会の中で根を張っていける。そうすると、我々医療機関としても支援がしやすくなるな、と思っていました。

そんな中で、この間、増えたのが技能実習生です。国際貢献として実習してもらって技能を持ち帰ってもらうという建前ですが、実は労働者として単純労働している人がほとんどですけれども、この技能実習の人たちは、当初3年ですよね。3年とか5年というように、在留期間も限られていて、家族の帯同も許されない、そして学歴もいらないという経済的にあまり裕福でない方たちを連れてきて、短期間働いてもらって、また帰ってもらう。労働条件としてはあまり良くない。

■技能実習生の失踪問題

こういう労働者が増える中で、結核が増え、病気が増えるのではと懸念していました。特に先ほどお話ししたように、技能実習生に関しては、職場が労働法違反をしていることが非常に多く、病気になったら帰りなさいと言われる。それで帰るに帰れない人はどうするかというと、失踪するわけです。失踪して、ビザが無くなって、街で見つかる。地方都市で技能実習していたけれども、首になっちゃって、国に帰れと強要されたので逃げ出して、学校に通っている同郷の人を頼ってアパートに転がり込み、都会で見つかるということが、この技能実習生の間で出てきた。中には妊娠して失踪してしまった人がいます。妊娠しても技能実習生は労働者だから、本当は出産休暇を与えて、そして国にいったん帰って、子どもを親に預けて、またその仕事に戻れるようにしてあげるべきですよね。だって借金70万とか100万とかしてるのだから、そうしてあげないと困窮してしまいます。実際そうやって失踪して、都会でアパートに転がり込んで、出産間近になって保健師に相談に来るという事例が、この間、少なからず出てきています。労働者として、あるいは人間として尊重されない人が増えると、病気とかトラブルが増えると考えます。

技能実習生についてはそういう問題があって、国会でも指摘されたのですが、問題の解決方法が明確に示されないまま特定技能という新しい在留資格が作られました。この1号というのは、家族の帯同が許されなくて、在留期間も5年と、かなり技能実習に似ています。ただ、転職が許されるところが違います。技能実習生は労働条件が悪いとそのまま失踪してしまうことになりやすかったのですが、特定技能1号は労働条件が悪かったら転職が可能かもしれません。ただその転職をサポートするシステムがちゃんとできているかどうかという問題はあります。技能実習生も、不適切な労働形態だったら、管理団体とか入管でそれを糺すということになっていますが、実際にそれがあまりできていなかった。この特定技能1号に対して、果たしてちゃんとそれができるのかというのが今後の大きな課題です。

また、特定技能2号という、もっと長くいられて、家族帯同ができて、延長もできるビザも新設されいました。だけどこれ、当面は技能実習から移行するので、このビザをもらうまで10年かかります。そんなに長いこと家族無しで不安定な立場でやりたいという人がいったいどのくらいいるのでしょうか。

■外国人のコミュニティも一緒に育てていく

国際的には今、東アジアは、経済が伸びてきていますので、台湾とか韓国とか、外国人労働者をどんどん雇用しています。ベトナムでは技能実習生として海外に渡る候補者の中で、韓国の人気が高くて、韓国に行けない人が日本に来るというような話が出ています。実は国際的には労働者の取り合いになっています。その取り合いになっている中で、あまり待遇が良くない制度だと、結局、人が集まらず、来てからのトラブルが増えるということが起きてしまうかもしれません。

この特定技能に関しては、1号はかなり職種が限定されていますが、今までの技能実習と何が違うかというと、技能実習生は農業とか漁業とか、本当に人手が無いところの産業が多かったですね。それに対して、もうちょっと規模が大きい産業になってきていて、特に2号までいけるのは、造船とか自動車、航空、宿泊というように、かなり大手の産業になっています。こういう産業でも人手が足りないから、外国人を雇用するという状況が生まれてきているのだと思います。

技能実習生など、不安定な立場の労働者が増えて、もし今度、特定技能も不安定な労働者を生む運用になってしまうと、経済的な問題で困っている外国人が増えてしまうのではないか。病気をして、借金があって、国に帰れなくて、健康保険が無くて病院に駆け込むという人が増えないか。そういう社会的な支援が不足した状況で困る人が増えないか懸念しています。

特に今、技能実習生や日本語学校生が増える中で外国人のコミュニティが変わってきています。私たちは90年代からいろいろな外国人のコミュニティと関わってきました。ブラジル人やペルー人は教会等でコミュニティを作って助け合えるようになってきた。フィリピン人も日本にかなり定住、定着して問題を自分たちで解決できるようになってきた。あるいはこの人たちの中でボランティアがずいぶん育ってきました。ところが今、増えている技能実習生の出身地はベトナムとかミャンマーとかインドネシア。この人たちでボランティアできる生活の余裕がある人はまだまだ少ないのです。外国人労働者を増やすのであれば外国人のコミュニティも一緒に育てていかないと、その人たちが自分たちで問題を解決する力が育たないのです。

欧米諸国は外国人労働者が増える中で、移民として、移民の定住支援をやっています。ドイツは最近、移住労働者に対して、言葉の支援を法律で義務化しています。言葉がちゃんとできて、その人たちがドイツ社会に定着して、ステイタスが下のほうに行かないようにするという支援を一緒にやっている。ですから日本も外国人労働者を増やすのだったら、移民としての定住支援をしていくことが不可欠だと私は思います。それをしないと、困窮して大変な状況になってから病院に来る人が増えてしまうのではないでしょうか。

■治療開始が遅れてしまったタイ人の方

実際、90年代の在留資格が無い人々の状況は本当に酷かったです。2000年代も前半は在留資格の無い方が多くて、病院に行ってもお金が払えないので、ビザが無くて保険がない外国人を診たくない病院が、うちは言葉がわからないから他へ行ったほうがいいですよと言ったり、窓口で何度もパスポートとかビザとか出してと要求して、ビザの無い外国人は怖くなってそこに行かず、転々としているうちに重症化して、最後にかかった病院で大変な未払になってしまうということがしばしば起きていました。中には亡くなってしまうような人もいました。

そんな中で、タイ人の、ビザが無くなった患者さんが脳膿瘍、つまりエイズで脳の中に膿ができる状態で病院に行って診断はされたが、お金がたくさんかかりますよという話を聞いたら、雇い主が病院から連れて帰ってしまって、ちょうど年末年始だったので1週間家に置いておいて、大使館に助けを求めたときにはもう麻痺が出ていて意識が落ちてきて。そこから受け入れ病院を見つけて治療して、飛行機に乗れるまで元気にはなったのですが、やはり治療開始が遅すぎました。帰国してから亡くなってしまいました。

帰国後に支援をしていた患者会が、ご本人から日本でどういう状況だったのか聞いて、日本のように医療が発達した国で、お金の問題で治療が遅れてこんなになっちゃうのはちょっとおかしいと、日本政府に対して改善の要望書を出しました。当時タイでは、2002年ぐらいから、エイズの治療は人権であるという立場で、政府が無料でエイズ患者に治療をする状況になっていたのです。そういう状況なのに、日本でタイ人がお金のことで躓いて医療が受けられなかったということは、ある意味、タイ側ではショックだったと思います。

■外国人支援は患者のためだけではなく社会全体にとって利益がある

しかし、日本の厚労省の対応も素早かったです。要望を受けてすぐ、「このたび、エイズの拠点病院に行った外国人の患者さんが診療を忌避されたと批判を受けた。そういったことが起きないように外国人でもちゃんとサポートして下さい」という趣旨の通知を各エイズ拠点病院に出しました。こんなこともあって、2000年代後半、外国人でもちゃんと診ましょうと、エイズの拠点病院ではかなり実行されていきました。

私も厚生労働省の研究事業のお手伝いをする中で、外国人でもちゃんとエイズ患者さんが治療を受けられるように、早めに病院に行って、ソーシャルワーカーがしっかり通訳を付けてケースワークをして、日本で治療できる人は日本で治療する。帰国しないといけない人は帰国先の医療機関を確保して、そこの担当看護師まで把握して、患者さんにそこに行ってもらって治療を受ける、という研修をしました。大使館のサポートとか、拠点病院に通訳をどうやって入れるかとか、医療制度についての学習をして、出身国の医療制度がどうなっているか、などについても研修しました。

こうやってしっかりサポートすると何が起きたかというと、患者さんが日本で当座の医療を受けてから帰国して治療を受ける流れができた。この方、神奈川の拠点病院で2週間、肺炎の治療をした後、飛行機でタイに帰って、タイの公立病院でエイズの治療をし、元気になって手紙を書いてくれました。「私は神奈川以外の県に住んでいたとき、治療も受けられず、すごく苦しんだけども、大使館のサポートもあって、神奈川県内の病院でちゃんと治療してもらって、タイに帰って薬を本格的に飲み始めて、元気になって、今、仕事しています。だから皆さん、エイズに感染したかな、と思ったら、早めに検査しましょう。早めに見つかれば助かるんですよ」ということを書いてくれたのですね。こういうことを書いてくれると、当然、それを読んで早めに病院に来る人が増えるので、タイ人のエイズが、ごらんのように2005年ぐらいを境に減ってきました。もちろんこれはこうした対策だけで減ったわけではなくて、タイ人の人身取引で連れてこられる人が減ったとか、タイ側での医療が良くなったこととか、いろんな要因があるのですけれども、エイズ対策に関しては、2000年代、サポートをしっかりやるということを徹底する中で、外国人のエイズの患者さんも3分2ぐらいに減りました。

やはり支援ということは、患者さんのためだけではなくて、社会全体にとって利益があるんだと思っています。

■神奈川県の未払医療費補填事業

神奈川県は全国のモデルになる地域だと思っています。なぜかというと、通訳制度があって、未払医療費補填事業があります。これによって、外国人の急病人が医療費が支払いきれなかった場合に、患者さん自身が払う責務があって、1年間は病院が請求をするわけですが、その請求をしても払えなかった場合に、100万円を限度に、神奈川県が一部を補填をする制度があります。2000年前後というのは、この制度によって、だいたい年間2千万円ぐらい補填をしていた程、重症の病人が多かったのですが、それがこの間、だんだん減ってきて、過去4年間の平均額が19万円です。100分の1に減っているんですよ。これは先ほどからお話しているように、ビザが無い外国人の人口が減ったこととか、いろいろな要因があるわけですが、この未払が100分の1に減ったというのは、やはりこの通訳のサポートが付いたことが大きい。通訳がいるので患者が早めに受診するとか、診断も早めにつくのではないか。特に神奈川県はソーシャルワーカーが間に入っているので、ソーシャルワーカーを通じて、分割払いの相談をしていると思います。それ以前は、通訳無しに、いきなり100万円払って下さいって言われたら、もう逃げてしまうわけです。通訳がいれば、治ってから月々3万円で3年分割でどうですか、みたいなことが相談できるわけで、そういう通訳の支援、そしてソーシャルワーカーの支援があって、これだけ未払が減っていると考えています。

以上を振り返って考えると、外国人の健康状態というのは、やはり格差があると私は思っています。それをどうやって解決していくかは、やはり医療機関だけでできることではないので、行政と通訳派遣団体とか、いろいろなNPO等と連携をしつつ、更に外国人のコミュニティの中から優秀な人材に参加してもらって新しい流れを作ることが大事だと思っています。

■日本の多文化共生政策

外国人の医療を改善する方策のまとめです。まず、通訳体制を作る。そしてソーシャルワーカーに相談ができるようにする。更に神奈川や東京でやっているように緊急医療のときの未払医療費補填事業をつくり、とにかく病院が診療を忌避しないで早め早めに診れるようなバックアップをする。そして日本で全部解決できなければ、ここまでは日本で、後は出身国側でやってもらうというような連携をとっていく。それから医療機関だけでなくて、法律関係の支援の人たちとか、あるいは大使館とか、いろいろな人材とネットワークを結んでおく。そして外国人社会に対して、とにかく早めに病院にかかったほうが自分たちで何とかできることが多いんだよと伝えて、早期の受診を促していくことが大事だと思っています。

このまとめは私が2000年ぐらいまでによく話していたことです。この間ちょっと気になるのは、やはり2000年代半ばぐらいまでは進められていた、多文化共生プラン。これは欧米では移民政策と言っていますが、日本ではぼかして多文化共生政策という言い方をします。この多文化共生政策は2000年代に日系人や、専門技術のある外国人たちを増やす政策の中で進められていったのです。神奈川県でやっているような、患者負担が少ない医療通訳を地域で推進するということも、この政策の中に入っていたのです。医療とか福祉とか、そういった分野でも言葉の支援をしていくことは、総務省が方針として出していました。ところが2008年以降、この多文化共生政策が足踏みする状態になってしまいました。その直接のきっかけはリーマンショックです。リーマンショックの後、人減らしで外国人には帰ってもらおうと、ブラジル人にかなり帰ってもらいましたよね。そんな中で、外国人を日本に定住させないで、働くだけ働いて、仕事が終わったら帰ってもらう外国人を増やそうという政策に2010年代から変化してしまった。その結果、技能実習生や日本語学校生を増やしています。

これは日本独自のやり方ではなくて、韓国も2000年代前半はそういう政策をしていたのです。とにかく働くときだけ来てもらって後は帰しちゃうという、そういう政策は欧米でも初期の時にはやられていました。しかし韓国が外国人労働者に対する支援を手厚くしようと変わってきた。ドイツとかヨーロッパも定住支援をするようになった。それは、やはり定住支援をしたほうが地域の中の問題が減るので、移民政策、日本では多文化共生政策ですけども、そういう政策が推進される状況になってきたのだと私は解釈しています。

■外国人の患者さんへの支援は住んでいる人前提に考えて頂きたい

しかし残念ながら、リーマンショック以降、外国人への政策が、どちらかというと労働力だけ来てもらって、働けなくなったら帰ってもらうという政策に変わってしまったために、外国人への医療の支援がなかなか進まなくなってしまった。私は神奈川でやっているような通訳支援が全国に普及すれば、もうちょっと健康状態が改善するし、そこで医療ボランティアが増えると、そのボランティアたちが医療だけではなくて教育現場に行ってくれるとか、いろいろなところで活躍してくれると期待しています。特に教育に入ることは大事で、なぜかというと教育に言葉のサポートが入ると、次の世代の外国人の子どもたちが日本人と同じように教育を受けて、中には大学へ行ったり弁護士になったりソーシャルワーカーになったり医師になったりという人材が出てくるのです。そうすると外国人の社会が豊かな社会として定着していくのですけども、ここが日本の場合、まだその流れができていないことが課題です。

リーマンショックの後、確かに外国人で言葉が不自由な方、定住ビザを持っている方が生活保護になったとか、あるいは子どもが学校に行けなくなったことは認めざるを得ない。それによって外国人が社会の負担になるから入れないほうがいいという考えが政策に影響力を与えてしまったのだと思います。けれども、私は社会の中で活躍できなかった理由は言葉の支援が不十分だったからだと思います。日本語が読めないので、肉体労働の仕事がないならコンビニのアルバイトに移るということができないのです。だから今のドイツがやっているように、言葉の教育をしっかり国が提供して、一度来た人は日本の社会で日本人と同じように働けるようにして、その子どもの世代も育てていくことをやったほうがいいと思います。しかし残念ながら今、日本はそういう方向に進んでいません。

外国人の医療についても、国は外国人患者の受け入れ医療機関の整備事業ということをここ数年やっているのですが、その事業も去年から訪日外国人、つまり旅行者のための整備に重点が移っているようです。特に旅行者だけじゃなくて、医療ツーリズムの患者さんに対しての支援を手厚くしようとしているのではないか。そういうことで、医療機関で外国人からお金を儲けようというようなことも出てきてしまっている。確かに旅行者や医療ツーリズムの患者さんに関しては、お金は持っているので払えるのですけども、そういう人たちのための通訳制度にしてしまうと、今、実際に日本に住んでいて病院に来る外国人の患者さんは高すぎて払えないのです。私は外国人の患者さんへの支援、特に言葉の支援は、住んでいる人前提に考えて頂きたいと思っています。

■健康についても格差を無くすということを国際社会は求めている

日本はなかなかそういう形になっていないのですが、国際社会はSustainable Development Goals、持続可能な開発目標ということで社会の格差解消にすごく力を入れるようになってきました。国連機関が、すべての人に健康と福祉を提供しましょう、差別を無くしましょう、不平等を無くしましょうということに力を入れています。なぜかというと、差別が無い、格差が無い社会はトラブルが減って、優秀な人材が、ちゃんと社会の中で活躍できるので、このほうが効率的に社会が成長するという理論のもとに、国連はこれを推奨しています。ですから、国際社会は、格差を減らして、更に非人間的な労働をやめることに力を注ぐようになっています。そこで企業にも、あなたの企業の関わるところで非人間的な労働が無いよう監視しなさいと言っています。あるいは欧米の銀行は、非人間的な労働をしている企業にはお金を貸さないということまで始まっている。

もし、日本の中で非人間的な労働、契約違反の労働があると、そこからモノを買っている企業は将来、欧米で売れなくなる可能性があります。技能実習生の待遇が日本で非常に悪くて、不適切な解雇がされていると国際社会に報道されています。韓国でも同じ問題が昔はあったのですけど、今、それを無くそうという方向に動いています。そうすると、ロンドンのデパートで、日本製品と韓国製品が並んでいて、日本は技能実習生の不適切な労働があるという報道がされると、日本の製品が売れなくて韓国の製品が売れることになりませんか。ですから国際社会の流れを考えると、やはり日本の中で、外国人も含めて格差とか非人間的な労働が無いようにしていかなければいけない。

そして健康についても格差を無くすことを国際社会は求めています。日本政府もUniversal Health Coverageつまり全ての人に医療を届けることを支援すると公約しているので、これは何としても実現していかなければいけないと思います。

この話はすごく遠い世界の出来事のようにも見えます。でも、この4月以降、遠いことではなくなると私は考えています。なぜかというと、介護分野で大勢の技能実習生が入ってきます。今、ある県の知事がベトナムに行って、技能実習生は待遇を良くするから、ベトナムから私の県に来て下さいとやっています。テレビで知事が出て報道されていました。というように、おそらく我々の医療・介護・福祉の分野にも外国人の技能実習生が来ます。その時に、技能実習生の管理団体が、「あなたは病気だから、結核だから解雇、国に帰りなさい」ってやっていたら、我々の目の前で不適切な雇用が行われてしまうのです。もちろん結核で排菌していたら介護現場で働いてもらっては困るのですけども、しかるべく措置をとって休んで、治ってから復職するという形を作っていかなければいけない。日本人と同等な扱いをしないといけない。そうしないと技能実習生は結核を隠すようになって、排菌してから見つかることになってしまう。

それと、技能実習生や日本語学校生が生活が困窮してお金が払えない、健康保険が無い状態で外来に駆け込むことが出てくると思います。実は東京で、国際診療部を置く病院が増えています。外国人を受け入れる部署を作って、そこで旅行者とか、あるいはツーリズムの患者さんに対して言葉のサポートを手厚くしてやっていくということが出ています。そんな中で、医療機関の中で、本人確認のために、パスポート、ビザを必ず見せて下さいと求める、中には病院のホームページで在留資格が確認できない患者さんは受付ができません、と書く病院が出てきてしまいました。ビザがなくなり健康保険が無くなるというのは、本人が意図しなくても、病気して生活困窮して、失職や学費の滞納でビザが無くなってしまうわけです。その人たちも人間ですから、いったん我々は受け止めて、元気になる手助けをしなければならない。そのうえで日本での生活を維持できないかとか、無理だから国の病院に橋渡しをしてあげようとか、やっていくべきです。それを入り口で排除して受付けないという病院が増えてしまうと、結局、悪くなって、みなさんの病院に担ぎ込まれるということが起きてしまう。そういうことが無いように診ていかないといけないわけです。とにかく早めに受け入れて、しっかりとした治療が日本でできるのか、母国に帰ったほうがいいのか、そこを見極めてやっていく必要があります。

■働く人が日本の社会で共生していけるような環境を作っていく

少子化と、それから日本の経済力が相対的に地盤沈下していることで、外国人の人口は増えます。特に働く人は増えるので、働く人が日本の社会で共生していけるような環境を作っていく。そして外国人のコミュニティが自分たちで問題を解決できるように育てていく必要がある。残念ながら日本はそういう政策をとっていないので、我々、医療の場で、困窮した外国人に出会うことが増えるんじゃないかと思います。

ただ出会ったときに、我々が、少なくとも医療の場ではサポートして解決策に繋げていく。そしてボランティアを育成して、豊かな外国人社会を作っていく一端を担う。そこから他の現場に対して、「外国人もサポートすれば、こんなに頑張ってくれるんだよ」、というメッセージを伝えていきましょう。そうすることで最終的に日本の政策も変わって、共生社会が作れていけるのではないかと思います。

国際社会は多文化共生、差別の無い、格差の無い社会を作る方向に向かっています。それをやらないと、もう製品を買ってもらえない社会に向かっています。我々医療の現場でも、患者さんに誠実に対応することが、ひいては日本の社会の経済も助けるんだと思っています。ぜひこれから情報交換しながら、取り組んでいけたらと思っています。ありがとうございました。