故Tさんの肺がん労災不支給訴訟 ・最高裁でも敗訴

この訴訟は、国労の現役組合員であった故Tさんの肺がんが労災か否かで争われたもので、遺族が原告となり、国を相手に2016年2月24日に横浜地裁に提訴。国労神奈川地区本部、じん肺・アスベスト被災者救済基金等が全面的に支援してきました。2018年1月30日に横浜地裁で原告敗訴、原告が東京高裁に控訴するも2018年11月12日、再び原告敗訴。最高裁に上告するも敗訴の不当判決となりました。
【安元/じん肺・アスベスト被災者救済基金事務局】

1 提訴に至る経過と裁判の意義

故Tさんは、旧国鉄・JRでレジン制輪子(車輌ブレーキ)を削る作業と、川崎発電所(旧国鉄・JRの火力発電所)でボイラー運転手として働き、約12年間石綿粉じんにばく露しました。2011年8月、JR東京総合病院を受診、検査の結果、肺がんと診断され、その後闘病しましたが翌12年12月14日、54歳で死亡しました。

死後剖検し、石綿小体が乾燥肺1gあたり1065本出てきたので川崎南労働基準監督署へ労災申請するも、現行の認定基準(平成24年石綿肺がん認定基準)により5000本に満たないので労災は不支給になりました。以前、石綿肺がんの労災認定基準は10年の石綿ばく露+石綿小体(本数の規定はなし)となっていましたが、厚労省は石綿小体が5000本に満たない場合は労災を不支給とする認定基準に改悪しました。

Tさんは、この改悪された認定基準によって業務外とされたのです。Tさんの訴訟は、個別救済にとどまらず、改悪された認定基準を改めさせることもめざして闘われました。

2 横浜地裁で敗訴判決

16年2月24日、Tさんのご遺族が労災の不支給処分の取消を求めて提訴。第1回口頭弁論が4月14日、その後8回の弁論が行われ、改悪された石綿肺がんの認定基準は不適切であること、Tさんの石綿ばく露は10年以上あり、肺がんの発症リスクを2倍以上に高める累積石綿ばく露があったこと等を主張しました。そして17年10月26日に結審、翌18年1月30日に判決。よもやの原告敗訴の不当判決でした。

横浜地裁は、現在の認定基準を適切であるとし、そして、石綿ばく露作業に10年以上従事しても肺がんの発症リスクは2倍以上にならないと、原告の主張を否定しました。現行の認定基準は、石綿肺がんの患者を切捨てるものです。これを適切であるとした判決は、まさに不当判決です。原告側は、東京高裁へ控訴の手続きをとりました。

3 控訴審へ

一審は古川弁護士1人で裁判を担当しましたが、控訴審では2人加わり、弁護団3人体制で行いました。また、弁護団会議には横須賀中央診療所の名取医師等も加わり意見交換しながら控訴理由書や準備書面を作成し、裁判所に提出しました。

支援運動では、国労神奈川地区本部とじん肺基金で、控訴審をどのように闘うかを話し合い、東京高裁に「控訴審で十分な審理をつくし公正な判決を下す」ことを要請することにし、団体署名を1661筆集め裁判所に提出しました。

東京高裁で第1回口頭弁論が18年6月20日、第2回目が9月26日に行われ、結審となり、判決日は11月21日となりました。

原告側は、第1・2・3準備書面と名取医師意見書を提出。原告側の控訴審での主張は、改悪された石綿肺がんの認定基準(平成24年認定基準)は国際的な基準であるヘルシンキ基準に反するものであること、そして、Tさんの場合、ヘルシンキ基準でいうアスベストの中等度のばく露に相当し、かつ10年以上のばく露があり、肺がん発症の相対リスク2倍以上と認められるので、これを司法が採用し救済すべきであるとしています。

4 控訴審でも敗訴、上告審へ

控訴審での最大の争点は「24年認定基準」が正当かどうかであり、判決は、「24年認定基準が従来の認定基準を不適切に変更したということはできない」とし、これを正当としました。国際的な基準であるヘルシンキ基準は「国際的に受け入れられているものであるとしても、我が国における実情と離れてそのまま採用することが必ずしも相当であるということはできない」として原告側の主張を否定し、東京高裁は18年11月21日、原告敗訴の判決を下しました。

石綿による肺がん患者は中皮腫患者の少なくとも2倍以上といわれています。10年前の労災認定数は1年間で中皮腫も肺がんも約500件だったのが、その後も中皮腫は500件台で推移しているのに、肺がんの認定数は減り続け最近は400件を下回っています。本来、厚労省は肺癌の認定数を1000件以上になるように認定基準を緩和すべきなのに逆に厳しくしたのです。そして、不適切なことをしている行政を正すのが裁判所の役割なのに、それに追随したのが横浜地裁、東京高裁で、まさに不当判決です。

高裁判決終了後、報告集会が開催され、弁護団から判決についての報告がありました。古川弁護士は、亡くなったTさんから、とことん闘ってほしいと言われたと発言、それを受け、集会の中で原告のT時子さんは「上告して闘いたい」と決意表明がありました。

5 最高裁でも敗訴

12月に原告は上告の手続きを行い、上告理由書が19年2月5日付で最高裁に提出され、原判決(地裁判決)の不当性を述べ、24年認定基準は公正ではなく法の下の平等をいう憲法第14条に違反すると主張しています。

私たちは勝利判決を勝ち取るため、「T訴訟の処分を取り消すことを求める要請書」を作成し、5月16日、最高裁への要請行動を行いました。要請団は原告のTさんをはじめとして国労神奈川地区本部、じん肺基金等10数名、西門の近くの部屋に案内され、約30分間、担当書記官が対応してくれました。

6月6日、最高裁より、「本件上告を棄却する」との判決が出されました。理由は、最高裁判所に上告することが許されるものは憲法違反等の場合に限られ、本件はこれに該当しない、というものです。地裁、高裁判決の中身は問われることなく、いわば門前払いの判決です。

残念ながら、これで敗訴が確定しましたが、私たちは石綿肺がんの認定基準の改正めざして、今後も運動を続けていきたいと思います。