誰も責任を取らない原発労災-あらかぶさんの白血病

保険会社「原発労災は対象外。保険金は支払えない」
東京電力「原発と因果関係はない。賠償はしない」

福島第1原発などの被ばく労働が原因で白血病になったあらかぶさんが、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)に基づいて、東京電力に損害賠償を求めている裁判は、双方の書面のやりとりが続いている。裁判当日は、若干の議論もあるものの、ほとんど日程を決めるだけで終わってしまうこともあり、必ず集会を開いて弁護士さんからの解説に加えて、簡単な学習会を毎回開催してきた。

2019年9月24日の口頭弁論の後も、議員会館で労災上乗せ保険に関する学習会を開催し、私が解説したのでそれを紹介する。【川本】

原発労災は対象外だった保険

実はあらかぶさんが勤めていた会社では、福島第1原発に労働者を連れて行くにあたって、労災保険や健康保険だけではカバーできない部分に対応するべく、民間の保険に加入していた。まだ余震も続いており、何があるかわからなかったからだ。「何があっても大丈夫」と聞いており、実際あらかぶさんが白血病で労災申請した時には、保険会社の担当者が「あらかぶさん、安心して治療に専念してください。お金持ちになれますよ」と冗談を言うぐらいだったという。

ところが、実際に労災認定された後、保険会社の担当者は、原発の労災はダメだと約款にあるので払えないと謝ってきた。今、裁判で東京電力は、あらかぶさんの白血病は原発の被ばく労働とは関係ないと主張している。会社は原発と関係ないとして、保険会社は原発だからと、どちらも支払いを拒んでいるのは納得できない。あらかぶさんは「一体何のための保険だったのか」と憤る。

労災上乗せ保険

現在、あらかぶさんの会社が加入していた保険の約款を確認中だが、少なくとも一般的な労災の上乗せ保険には加入していた可能性が高い。例えば、死亡災害の場合、何千万円、年齢によっては一億円を超える損害賠償を請求される可能性がある。そこであらかじめ会社は補償規定を作っておいて、保険会社はその金額に応じた保険料を設定してくれる。

ところが、保険金支払いの対象にならない場合がある。解説パンフレットなどでは、地震や津波、通勤、職業性疾病、戦争・内乱、故意又は重大な過失などがあげられている。もちろん地震、通勤災害、職業性疾病については、オプションとして特約を付ければ対象になるので、それに応じた保険料を払ってもらえればOK。ただし、因果関係が必ずしもはっきりしない一方であまりにも数が多くて、保険金支払いが大きくなるからであろうか、アスベスト疾患については逆に「不担保特約」=保険金は支払わないという特約がセットされるという。

あらかぶさんの白血病は、被ばく労働による職業性疾病である。これも他の職業病とは扱いが異なる。ある解説では、「核燃料物質もしくはこれによって汚染されたものの放射性、爆発性その他有害な特性の作用によって被った身体の障害」が支払いの対象にならないとされている。これは若干表現が異なるとはいえ、原賠法で定めている原子力損害に他ならない。原賠法の特徴として、責任の集中というものがあり、簡単に言えば雇用主ではなくて、電力会社だけが賠償することになっている。会社が賠償する可能性がないのだからその分の保険料をもらえないのは当然である。

誰もどこも責任を取らない原発労災

あからぶさんの白血病については、厚生労働省が被ばくとの因果関係を認めて労災認定した。原子力災害なのだから、労災上乗せ補償については、電力会社が賠償するべきである。もしも原子力災害ではないとすれば、会社の労災上乗せ保険で、職業病特約条項があれば、保険会社は支払うべきである。