センターを支える人々:田島陽子(関西労働者安全センター)

私の所属する関西労働者安全センターは、大阪において、神奈川労災職業病センターと同じく職場の労働安全衛生問題に取り組む団体です。活動内容については説明するまでもないと思います。そこで労働組合でも相談に苦労しているだろうハラスメント対策について少し書いてみます。
私が過去に対応した顧客などからのハラスメントを受けた労働者の事例を紹介します。

事例その1:私立保育園の保育士

ある私立保育園で、園児の保護者が些細なことで担任保育士にクレームをつけ始めました。その保護者男性は文句を怒鳴り、園児のカバンを床にたたきつけ、ドアを蹴りつけ担任保育士の退職を迫りました。謝罪して園長が対応したり、行政の保育課に相談して保育課担当者同席で話し合いも持ちましたが、保護者の態度は変わらず、園児の担任2人が次々とメンタル不調となり休業してしまいました。その保護者は、「園をやめてほしかったら引っ越し代を出せ」とまで言い始めました。

その後、その保護者が園に電話で園児に危害を加えると捉えられるような発言をしたため、園は以前より相談していた警察の助言により被害届を出し、保護者は「脅迫」容疑で警察に逮捕されました。警察が動いたことで保護者は退園し、この件は収束しました。

保育士さんたちの労災相談が当センターにありました。このトラブルで休んだことで他の保護者から、無責任に休んで、とか不当な評価を受けたりして、業務が原因の病気であると公に認められたいと望みました。園長も全面的に協力し、積極的に資料をそろえて労働基準監督書へ提出した結果、2人とも労災認定を受けることができました。回復後には職場復帰することもできました。

事例その2:営業の訪問先の住人とのトラブル

営業で訪問した先の住人とのトラブルで精神疾患を発症し、休業を余儀なくされたという相談がありました。

指定された地域の自宅や店舗に飛び込み営業し、契約を取るのがその男性の仕事でした。あるアパートを訪問したとき、対応に出た住民男性は最初から不機嫌でした。しかし、契約を受け入れて料金を払ったのですが、会話するうちに以前に訪問した同じ会社の営業と説明が違うなどと言ってますます機嫌が悪くなり契約書へのサインを拒否。それでは領収書が切れず、返金しようとしましたが、住民は突然激高して財布を床にたたきつけ、壁を手で殴ってへこませました。後ずさる男性を追って住民は玄関扉にも手を叩きつけました。男性が走って建物1階へ逃げると、住民も追って来ましたが、そこで家の人に呼ばれて戻っていきました。

男性は、会社に連絡し、警察に通報したいと言いましたが会社に止められ、預かった金銭の返却、その後の対応を会社に任せました。その夜から涙がでたり眠れないという症状が出て、翌日約束していた顧客の訪問だけこなした後、もう働けなくなりました。会社は、住民を訪問したようですが、留守だったためにポストにお金を入れて帰ってきたとの報告があり、この無責任な対応も負担になりました。

男性は病院で「うつ病」の診断を受け、仕事が原因であり会社に責任があると考えました。当センターに相談があり、労災請求を検討したのですが、会社との契約は請負でした。請負契約にもかかわらず、会社からは営業地域を指定され、月のノルマを課され、毎週のように進捗状況を報告させられ、細かい営業指示が日々ファックスで送られてくるので、実質は労働者だと考えていました。

しかし、労災保険請求は労働者ではないということで不支給となり、結局、会社に対し損害賠償請求裁判を起こし、金銭で和解しました。男性がきついノルマを課されても達成してしまうほど優秀で、何度も表彰されたことがあったため、会社がそれを考慮して雇用労働者ではないけれど、少ない金額ながら支払うことになりました。

事例その3:事務組合の職員の女性

ある業界の労災加入手続などを行う事務組合の職員の女性が、クレームを受けました。
社長の妻が仕事中にケガをして労災請求したいということでしたが、社長自身特別加入者で、その家族は労災加入もしておらず、制度上、労災保険は支給されないと組合が妻に説明しました。社長は納得がいかず電話をしてきて、労災手続の担当だった職員の女性が対応しました。すると社長は、「恐怖心を植え付けて、労災に加入させようとした」「笑いながらしゃべったな」と言いだし、1時間文句を言って「(ケガをした)足を見せつけてやる。おまえを攻撃しに行くんや」「ええようにせえよ」と電話をきりました。

3日後、その社長と妻が組合事務所を訪問しました。組合には先日の電話の内容を伝えていたにもかかわらず、女性に対応させ、上司は女性の後ろに着席して控えていました。社長は話し始めてしばらくして突然怒鳴り始め、机を叩きながら、甘やかされた人間だとか共産党員だなどの誹謗中傷を行い、昔非行に走った甥を説得しようとして殺しに来られた話をして怖がらせたりしました。その間上司は一度話に入ろうとしてできなかった後は止めることもせず、黙って、女性をかばうこともありませんでした。それが2時間続き、社長は気が済んだのか妻の労災特別加入手続をして帰りました。

その後、女性はメンタル不調で休業。数日後、上司に「職場復帰するならみんなに謝ること、今週中に復職か退職か決めろ」などと言われ状態が悪化。当センターに相談があり労災請求しましたが、上司や同僚の協力が得られず、社長の言動が短時間かつ些細なことであり、上司が一緒に対応したということで心理的負荷が過小評価され、労災認定されませんでした。

今年、事業主に職場のハラスメント防止対策を義務付ける法改正が成立しました。しかし、顧客などからのハラスメントは対象外で、指針で対応を促す程度ということになりました。それでも、きちんとクレーム対応のマニュアルなどを定めて職場で周知していれば、3つ目の事例などは防げたのではないでしょうか。

センターには労災が起こって相談がくることが多いのですが、やはり事故は起こさないことが重要です。過去事例を振り返ってみても、今後の防止対策の推進に力を入れ、周知・啓発にますます頑張りたいと思う今日この頃です。